祖国を離れて三千里の歌姫リーザは太郎国で最強ルームメイト達と楽しくパンの耳を齧る貧乏生活をしています!

月神世一

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第二章 カツ丼とアイドル

EP 6

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T-SWAT始動! 爆炎と音速
​ 第4区、旧タロウ製鉄所跡地。
 錆びついた鉄骨が墓標のように突き出し、割れた窓ガラスが月光を反射している。
 その闇に紛れるように、黒塗りの軽トラックが音もなく停車した。
​「……ここだな」
​ 運転席の鮫島隊長が、コーヒーキャンディを噛み砕きながら呟く。
 私は荷台から顔を出し、震える指で3階の一室を指差した。
​「え、ええ。北側の角部屋。……あそこから、唐揚げ弁当の匂いがしますわ」
「鼻が利くな。よし」
​ 鮫島隊長はインカムに指を添え、短く命じた。
​「作戦開始(ショータイム)だ。……派手にやるぞ」
​ ◇
​ 3階の一室。
 指名手配犯の爆弾魔ボマーは、コンビニ弁当の最後の唐揚げを口に運ぼうとしていた。
​「へへへ……この国はチョロいぜ。誰も俺の居場所なんてわからねぇ」
​ 彼は知らなかった。
 この国の植物すべてが、エルフの令嬢の密告者であることを。
 そして、建物の外に、空腹に飢えた獣たちが待ち構えていることを。
​ ドォォォォォンッ!!!!!
​ 唐突に、部屋の壁が爆発した。
 いや、爆発ではない。
 外から何かが――巨大な斧を持った赤い怪物が、壁ごと突っ込んできたのだ。
​「な、なんだぁぁッ!?」
​ ボマーが悲鳴を上げ、腰を抜かす。
 土煙の中から現れたのは、灼熱の蒸気を全身から噴き出す竜人、イグニスだ。
​「ドアから入るのは面倒でな……。悪いが、ここを通らせてもらうぜ!」
​ 『イグニス・ブレイク(壁抜きver)』。
 SWATにおける「ブリーチャー(突入担当)」の仕事は、鍵を開けることではない。道を作ることだ。
 イグニスはニヤリと笑い、巨大な斧を肩に担いだ。
​「ひ、ひぃぃッ! 化け物ぉぉッ!」
​ ボマーはパニックになり、懐から魔導杖を取り出した。
 爆破魔法で迎撃しようとする。
 だが、その指先が杖に触れるよりも早く――。
​ ヒュンッ!
​ 一陣の風が吹いた。
 ボマーが瞬きをした次の瞬間、彼の手にあるはずの杖が消えていた。
​「え?」
「確保ーっ!」
​ 背後から明るい声がした。
 振り向くと、兎耳の少女――キャルルが、奪い取った杖をクルクルと回しながら立っていた。
 音速の機動。
 壁が壊れた粉塵が床に落ちる前に、彼女はすでに室内の制圧を完了していたのだ。
​「く、くそぉぉぉッ! なんだお前らはぁぁッ!」
​ 武器を失ったボマーは、半狂乱になって窓枠へと走った。
 ここから飛び降りて逃げる気だ。
​「逃がすかよ」
​ 闇夜に、冷徹な声が響いた。
 乾いた発砲音。
 パンッ!
​「ぎゃあぁぁぁッ!?」
​ ボマーの足元で火花が散り、彼は無様に転倒した。
 地上で愛銃『Korth』を構えていた鮫島隊長が、硝煙を吹き飛ばしながら銃口を下ろす。
​「公務執行妨害だ。……おとなしくカツ丼(臭い飯)でも食ってろ」
​ ◇
​ わずか1分。
 それが、T-SWATの初陣の全てだった。
​ 私は軽トラの荷台の影に隠れて、その光景を呆然と見ていた。
​「す、すごいですわ……」
​ 圧倒的な暴力。そして洗練された連携。
 イグニスさんの火力、キャルルさんの速度、鮫島隊長の制圧力。
 個々では問題児だった彼らが、チームとして噛み合った瞬間、これほどの化学反応を起こすなんて。
​(これが……公務員の力……!)
​ 私はガタガタと震えた。
 同時に、少しだけ誇らしかった。
 あの怪物たちと、私は同じ屋根の下で暮らしているのだ。
 そして、この作戦のきっかけを作ったのは、他でもない私なのだ。
​ ◇
​ 数分後。
 ぐるぐる巻きに拘束されたボマーが、護送車(という名のリアカー)に乗せられていく。
 現場検証を終えた鮫島隊長が、私の方へと歩いてきた。
​「……終わったぞ、情報屋」
​ 彼はポケットから、約束のブツを取り出した。
 『カツ丼無料券 10枚綴り』。
​「ほらよ。報酬だ」
「あ、ありがとうございます……!」
​ 私は両手でそれを受け取った。
 紙切れだ。でも、今の私には金塊よりも重い。
 鮫島隊長は、サングラス越しに少しだけ目を細めた。
​「悪くないネタだった。……また何か掴んだら連絡しろ。次は現金(金貨)で払ってやるかもしれん」
「えっ、本当ですの!?」
「検討はしてやる」
​ 鮫島隊長は背を向け、手をひらりと振った。
​「撤収だ。帰って報告書を書くぞ。……キャルル、イグニス、乗れ」
「はーい!」
「へへっ、腹減ったなぁ!」
​ 黒い軽トラが、再び闇へと消えていく。
 私は一人、廃ビルの前に残された。
 手にはカツ丼券。
 夜風は冷たいけれど、懐は温かい。
​「ふふ……やりましたわ」
​ 私はチケットを握りしめ、夜空を見上げた。
 これでしばらくは飢えずに済む。
 そして、私は「情報屋」という新たなシノギ(副業)の可能性を手に入れた。
​ でも。
 心のどこかで、小さな棘が刺さったままだった。
 彼らは「チーム」だった。私は「部外者」だった。
 その距離感は、カツ丼券では埋まらない。
​(私も……私の戦場で、輝かなければ……)
​ そんな予感が的中するかのように。
 翌日、私の魔導スマホが再び震えた。
 画面には、恐怖の文字が表示されている。
​ 着信:太郎国王(鬼畜P)
​「……ひぃっ」
​ 束の間の勝利の余韻は、一瞬で吹き飛んだ。
 本当の試練は、ここからが本番だったのだ。
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