17 / 20
第二章 カツ丼とアイドル
EP 7
しおりを挟む
太郎からの呼び出しと最後通告
深夜のシェアハウス。
私はベッドの上で、戦利品を並べてニヤニヤしていた。
「1、2、3……10枚。素晴らしい眺めですわ」
黄金色に輝くチケット。『カツ丼無料引換券』。
これさえあれば、向こう10日間は食いっぱぐれることはない。パンの耳生活からの脱却。これは人類にとって小さな一歩だが、リーザ・フォン・シーランにとっては偉大な飛躍だ。
「ふふ……昨日のSWATの活躍、すごかったですわね。私も『情報屋』としての才能が開花したかもしれませんわ」
少し調子に乗っていた。
カツ丼さえあれば幸せ。そんな小市民的な思考に染まりかけていた。
だから、忘れていたのだ。
私がこの国に来た本来の目的と、さらに巨大な支払いの義務を。
ブブブブブブッ……!!
枕元の魔導スマホが、不吉な重低音で震え出した。
画面を見た瞬間、私の背筋が凍りついた。
着信:太郎国王(鬼畜P)
「……ひぃっ」
嫌な予感しかしない。
深夜の呼び出し。それはロクなことではない。
私は恐る恐る通話ボタンを押した。
「は、はい……リーザです……」
『ようリーザ。起きてるか? 今すぐ事務所に来い』
「えっ、今からですか? もう深夜の2時ですわよ?」
『クリエイターに昼も夜もねえんだよ。……大事な話だ。遅刻したら給料(歩合制)から天引きな』
プツッ。
通話が切れた。
給料天引き。その言葉に、私はパジャマからジャージへと音速で着替えた。
◇
午前2時30分。
王城の近くにあるプレハブ小屋――『太郎芸能プロダクション(仮)』。
深夜だというのに、窓からは煌々と明かりが漏れている。
「失礼します……」
私がドアを開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
机の上に積み上げられたエナジードリンクの空き缶。
散乱する譜面。
そして、充血した目でパソコンに向かうジャージ姿の国王、太郎。
「……来たか」
太郎陛下は椅子を回転させて私の方を向いた。
いつもの「へらへらした笑顔」がない。
真剣な、プロデューサーの顔だ。
「座れ。……単刀直入に言うぞ」
私はゴクリと喉を鳴らしてパイプ椅子に座った。
「リーザ。お前、このまま『パンの耳アイドル』で終わるつもりか?」
「へ……?」
「カツ丼券を貰って喜んでる場合じゃねえぞ。……今のままじゃ、お前はただの『可哀想な地元のマスコット』だ。トップアイドルにはなれねえ」
図星だった。
カツ丼で満足していた自分。小銭を稼いで安堵していた自分。
太郎陛下は、私の甘えを完全に見透かしていた。
「だ、だからと言って……どうすればいいんですの? 五円玉を鼻に詰める以外に、何か方法が?」
「ある。……これを見ろ」
太郎陛下は、一枚のCD-Rと、歌詞カードを私に突きつけた。
「新曲だ。タイトルは……『LOVE&MONEY』」
「ラブ・アンド……マネー?」
愛と金。
なんて即物的なタイトルなのだろう。
私は恐る恐る歌詞カードに目を落とした。
♪愛! アイ! ラ~ブラブ! マネー! マネ! ローン!
♪ダイヤが欲しい、土地も欲しい
♪綺麗なドレスもガラスの靴も、維持費がかかるのよ
「なっ……!?」
私は絶句した。
ひどい。あまりにもひどい。
アイドルの曲なのに、夢も希望もない。あるのは剥き出しの欲望と、資本主義の現実だけ。
「へ、陛下! これは何ですか!? こんな強欲な歌、私が歌うんですか!?」
「そうだ。今の『お前』だから歌える歌だ」
太郎陛下は立ち上がり、私の目の前に立った。
その目には、冷徹な光が宿っていた。
「いいかリーザ。これが**最後通告(ラストチャンス)**だ」
「えっ……」
「今週末、SWAT倉庫前で特設ライブをやる。そこでこの曲を歌い、観客を熱狂させろ。……もし失敗したら、あるいは『歌えません』なんて言ったら」
太郎陛下は、静かに宣告した。
「契約解除だ。そして、お前を故郷のシーラン国へ強制送還する」
「――ッ!!??」
強制送還。
その四文字が、私の心臓を握り潰した。
帰る? 海へ?
ダメだ。それだけは絶対にダメだ。
私は母様(女王リヴァイアサン)に、『地上で大成功して、イケメンの王子様と結婚して、世界を征服しましたわ!』と大嘘の手紙を送ってしまったばかりなのだ。
今帰ったら?
『あらリーザ、世界征服はどうしたの? ……え、無一文で追い返された? ププッ!』
母様の嘲笑。姉妹たちの冷ややかな目。
一族の恥晒しとして、一生海溝の底でプランクトンを数える生活……!
「い、嫌ですわぁぁぁッ!! 帰りたくない! 死んでも帰りたくありませんわぁッ!!」
私は半泣きで叫んだ。
太郎陛下はニヤリと笑った。
「だったら歌え。プライドなんて捨てろ。見栄も外聞もかなぐり捨てて、お前の『金が欲しい』『成功したい』という欲望を、マイクに叩きつけろ!」
ドンッ!
机を叩く音が響く。
「化けろ、リーザ。……お前の中に眠る『怪物(モンスター)』を呼び覚ませ」
私は震える手で、歌詞カードを握りしめた。
『LOVE&MONEY』。
このふざけた歌が、私の運命を握る最後の鍵。
「……やりますわ」
私は顔を上げた。
「やってやりますわよ! 歌えばいいんでしょう、金くれソングを!!」
退路は断たれた。
もう、パンの耳をかじって泣いているだけの姫はいない。
ここにあるのは、崖っぷちに立たされた一匹の獣だけだ。
深夜のシェアハウス。
私はベッドの上で、戦利品を並べてニヤニヤしていた。
「1、2、3……10枚。素晴らしい眺めですわ」
黄金色に輝くチケット。『カツ丼無料引換券』。
これさえあれば、向こう10日間は食いっぱぐれることはない。パンの耳生活からの脱却。これは人類にとって小さな一歩だが、リーザ・フォン・シーランにとっては偉大な飛躍だ。
「ふふ……昨日のSWATの活躍、すごかったですわね。私も『情報屋』としての才能が開花したかもしれませんわ」
少し調子に乗っていた。
カツ丼さえあれば幸せ。そんな小市民的な思考に染まりかけていた。
だから、忘れていたのだ。
私がこの国に来た本来の目的と、さらに巨大な支払いの義務を。
ブブブブブブッ……!!
枕元の魔導スマホが、不吉な重低音で震え出した。
画面を見た瞬間、私の背筋が凍りついた。
着信:太郎国王(鬼畜P)
「……ひぃっ」
嫌な予感しかしない。
深夜の呼び出し。それはロクなことではない。
私は恐る恐る通話ボタンを押した。
「は、はい……リーザです……」
『ようリーザ。起きてるか? 今すぐ事務所に来い』
「えっ、今からですか? もう深夜の2時ですわよ?」
『クリエイターに昼も夜もねえんだよ。……大事な話だ。遅刻したら給料(歩合制)から天引きな』
プツッ。
通話が切れた。
給料天引き。その言葉に、私はパジャマからジャージへと音速で着替えた。
◇
午前2時30分。
王城の近くにあるプレハブ小屋――『太郎芸能プロダクション(仮)』。
深夜だというのに、窓からは煌々と明かりが漏れている。
「失礼します……」
私がドアを開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
机の上に積み上げられたエナジードリンクの空き缶。
散乱する譜面。
そして、充血した目でパソコンに向かうジャージ姿の国王、太郎。
「……来たか」
太郎陛下は椅子を回転させて私の方を向いた。
いつもの「へらへらした笑顔」がない。
真剣な、プロデューサーの顔だ。
「座れ。……単刀直入に言うぞ」
私はゴクリと喉を鳴らしてパイプ椅子に座った。
「リーザ。お前、このまま『パンの耳アイドル』で終わるつもりか?」
「へ……?」
「カツ丼券を貰って喜んでる場合じゃねえぞ。……今のままじゃ、お前はただの『可哀想な地元のマスコット』だ。トップアイドルにはなれねえ」
図星だった。
カツ丼で満足していた自分。小銭を稼いで安堵していた自分。
太郎陛下は、私の甘えを完全に見透かしていた。
「だ、だからと言って……どうすればいいんですの? 五円玉を鼻に詰める以外に、何か方法が?」
「ある。……これを見ろ」
太郎陛下は、一枚のCD-Rと、歌詞カードを私に突きつけた。
「新曲だ。タイトルは……『LOVE&MONEY』」
「ラブ・アンド……マネー?」
愛と金。
なんて即物的なタイトルなのだろう。
私は恐る恐る歌詞カードに目を落とした。
♪愛! アイ! ラ~ブラブ! マネー! マネ! ローン!
♪ダイヤが欲しい、土地も欲しい
♪綺麗なドレスもガラスの靴も、維持費がかかるのよ
「なっ……!?」
私は絶句した。
ひどい。あまりにもひどい。
アイドルの曲なのに、夢も希望もない。あるのは剥き出しの欲望と、資本主義の現実だけ。
「へ、陛下! これは何ですか!? こんな強欲な歌、私が歌うんですか!?」
「そうだ。今の『お前』だから歌える歌だ」
太郎陛下は立ち上がり、私の目の前に立った。
その目には、冷徹な光が宿っていた。
「いいかリーザ。これが**最後通告(ラストチャンス)**だ」
「えっ……」
「今週末、SWAT倉庫前で特設ライブをやる。そこでこの曲を歌い、観客を熱狂させろ。……もし失敗したら、あるいは『歌えません』なんて言ったら」
太郎陛下は、静かに宣告した。
「契約解除だ。そして、お前を故郷のシーラン国へ強制送還する」
「――ッ!!??」
強制送還。
その四文字が、私の心臓を握り潰した。
帰る? 海へ?
ダメだ。それだけは絶対にダメだ。
私は母様(女王リヴァイアサン)に、『地上で大成功して、イケメンの王子様と結婚して、世界を征服しましたわ!』と大嘘の手紙を送ってしまったばかりなのだ。
今帰ったら?
『あらリーザ、世界征服はどうしたの? ……え、無一文で追い返された? ププッ!』
母様の嘲笑。姉妹たちの冷ややかな目。
一族の恥晒しとして、一生海溝の底でプランクトンを数える生活……!
「い、嫌ですわぁぁぁッ!! 帰りたくない! 死んでも帰りたくありませんわぁッ!!」
私は半泣きで叫んだ。
太郎陛下はニヤリと笑った。
「だったら歌え。プライドなんて捨てろ。見栄も外聞もかなぐり捨てて、お前の『金が欲しい』『成功したい』という欲望を、マイクに叩きつけろ!」
ドンッ!
机を叩く音が響く。
「化けろ、リーザ。……お前の中に眠る『怪物(モンスター)』を呼び覚ませ」
私は震える手で、歌詞カードを握りしめた。
『LOVE&MONEY』。
このふざけた歌が、私の運命を握る最後の鍵。
「……やりますわ」
私は顔を上げた。
「やってやりますわよ! 歌えばいいんでしょう、金くれソングを!!」
退路は断たれた。
もう、パンの耳をかじって泣いているだけの姫はいない。
ここにあるのは、崖っぷちに立たされた一匹の獣だけだ。
0
あなたにおすすめの小説
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる