19 / 117
第二章 1歳児の勇者
EP 1
しおりを挟む
幼児編、開幕。
深夜2時。シンフォニア家の子供部屋。
リアン(1歳)は、ベビーベッドの中で聞き耳を立てていた。
廊下の向こうからは、父アークスの重低音のイビキ。隣の部屋からは母マーサの寝息。
そして、最大の懸念事項であるオニヒメの気配も、今は深く静まっている。
(……よし。全員、夢の中だ)
リアンはカッと目を見開いた。
昼間は「ママ~、マンマ~!」と無邪気な幼児を演じ、オニヒメの完璧なガードに阻まれているが、この深夜帯だけが元三つ星シェフの「仕込み」の時間だ。
(センチネル、起動)
意識の一部を、ベッドの足元に転がる胡桃割り人形へと飛ばす。
カシャン、とセンチネルが立ち上がった。
(さぁ、調理開始(クッキング・スタート)だ)
センチネルはクローゼットの奥から、誕生日に父から貰った『マグナギア・プロトタイプ素体』の木箱を引きずり出した。
さらに、ネット通販で購入しておいた「地球の素材」――ミニ四駆のパーツ、釣り糸、セラミックナイフ、そして各種オイル――を並べる。
(俺は、正面からの戦いはしない。騎士道? 知ったことか)
センチネルの手が、素体の関節を分解していく。
リアンの脳内には、明確な設計図(レシピ)があった。
(最後に勝ち抜けば良い。そのための「味付け」だ)
ドワーフ製の頑丈すぎる金属パーツを削り、代わりにカーボン素材(釣り竿の補修材)を組み込む。
関節には、ネット通販で買った「高性能グリス」をたっぷりと塗布。
魔力伝導率よりも、物理的な「滑り」と「静音性」を最優先する。
(重い鎧はいらない。必要なのは、誰よりも速く、誰よりも卑怯に立ち回るための軽さだ)
作業は一時間ほど続いた。
センチネル(リアン)の職人技により、無骨な量産型人形は、漆黒の塗装(カーボンシート)を施された、異形の機体へと生まれ変わっていた。
背中には、凶悪なアイテムを詰め込んだバックパック。
腰には黒いショートソード。
そして手には、滑車を組み合わせた複合弓。
リアン(本体)は、ベッドの柵越しにその機体を見下ろした。
(……完成だ。美しい。まるで黒トリュフのような存在感だ)
リアンは心の中で、新たな相棒に名を授けた。
(お前の名は『弓丸(ゆみまる)』だ)
和風な響き。忍びのような佇まい。
リアンは、センチネルから意識を引き上げ、今度は『弓丸』へとダイブした。
ドクンッ。
視界が切り替わる。
センチネルの「木」の感覚とは違う。金属とカーボン、そしてオイルの滑らかな感覚。
指先一つ動かすだけで、驚くほどスムーズに反応する。
(素晴らしいレスポンスだ……! これならいける!)
リアン(弓丸)は、性能テストを開始した。
ターゲットは、ここ(床)から遥か頭上にある、自分の本体が寝ているベビーベッドの柵。
(フック、射出)
背中のバックパックから、釣り針を加工した『鉤爪付きロープ』を取り出す。
ヒュンッ! と投げ上げると、鉤爪がベッドの柵にガッチリと食い込んだ。
リアンはロープを巻き取りながら、壁を走るように駆け上がった。
(速い……! センチネルの三倍は出ている!)
一瞬でベッドの縁に到達。
そのままの勢いで、リアンは空中に身を躍らせた。
(行け!)
滞空時間コンマ数秒。
リアンは背中の複合弓を構え、矢(まち針)をつがえた。
眼下にあるクッションの模様、その一点を見据える。
ビュッ!!
放たれた矢は、吸い込まれるようにクッションの中心へ突き刺さった。
音もなく着地する弓丸。
衝撃吸収用のサスペンション(バネ)が機能し、着地音すら響かない。
(よし……! 完璧だ)
リアンは弓丸の拳を握りしめた。
火力はない。防御力もない。
だが、この機動性とギミックがあれば、格上のマグナギアだろうと一方的に蹂躙できる。
(最高の愛機(メインディッシュ)の出来上がりだ)
深夜の子供部屋。
1歳の赤ん坊は、最強のアサシン・ドールを手に入れた。
ルナハンの街が、この「黒い悪魔」に震え上がる日は近い。
深夜2時。シンフォニア家の子供部屋。
リアン(1歳)は、ベビーベッドの中で聞き耳を立てていた。
廊下の向こうからは、父アークスの重低音のイビキ。隣の部屋からは母マーサの寝息。
そして、最大の懸念事項であるオニヒメの気配も、今は深く静まっている。
(……よし。全員、夢の中だ)
リアンはカッと目を見開いた。
昼間は「ママ~、マンマ~!」と無邪気な幼児を演じ、オニヒメの完璧なガードに阻まれているが、この深夜帯だけが元三つ星シェフの「仕込み」の時間だ。
(センチネル、起動)
意識の一部を、ベッドの足元に転がる胡桃割り人形へと飛ばす。
カシャン、とセンチネルが立ち上がった。
(さぁ、調理開始(クッキング・スタート)だ)
センチネルはクローゼットの奥から、誕生日に父から貰った『マグナギア・プロトタイプ素体』の木箱を引きずり出した。
さらに、ネット通販で購入しておいた「地球の素材」――ミニ四駆のパーツ、釣り糸、セラミックナイフ、そして各種オイル――を並べる。
(俺は、正面からの戦いはしない。騎士道? 知ったことか)
センチネルの手が、素体の関節を分解していく。
リアンの脳内には、明確な設計図(レシピ)があった。
(最後に勝ち抜けば良い。そのための「味付け」だ)
ドワーフ製の頑丈すぎる金属パーツを削り、代わりにカーボン素材(釣り竿の補修材)を組み込む。
関節には、ネット通販で買った「高性能グリス」をたっぷりと塗布。
魔力伝導率よりも、物理的な「滑り」と「静音性」を最優先する。
(重い鎧はいらない。必要なのは、誰よりも速く、誰よりも卑怯に立ち回るための軽さだ)
作業は一時間ほど続いた。
センチネル(リアン)の職人技により、無骨な量産型人形は、漆黒の塗装(カーボンシート)を施された、異形の機体へと生まれ変わっていた。
背中には、凶悪なアイテムを詰め込んだバックパック。
腰には黒いショートソード。
そして手には、滑車を組み合わせた複合弓。
リアン(本体)は、ベッドの柵越しにその機体を見下ろした。
(……完成だ。美しい。まるで黒トリュフのような存在感だ)
リアンは心の中で、新たな相棒に名を授けた。
(お前の名は『弓丸(ゆみまる)』だ)
和風な響き。忍びのような佇まい。
リアンは、センチネルから意識を引き上げ、今度は『弓丸』へとダイブした。
ドクンッ。
視界が切り替わる。
センチネルの「木」の感覚とは違う。金属とカーボン、そしてオイルの滑らかな感覚。
指先一つ動かすだけで、驚くほどスムーズに反応する。
(素晴らしいレスポンスだ……! これならいける!)
リアン(弓丸)は、性能テストを開始した。
ターゲットは、ここ(床)から遥か頭上にある、自分の本体が寝ているベビーベッドの柵。
(フック、射出)
背中のバックパックから、釣り針を加工した『鉤爪付きロープ』を取り出す。
ヒュンッ! と投げ上げると、鉤爪がベッドの柵にガッチリと食い込んだ。
リアンはロープを巻き取りながら、壁を走るように駆け上がった。
(速い……! センチネルの三倍は出ている!)
一瞬でベッドの縁に到達。
そのままの勢いで、リアンは空中に身を躍らせた。
(行け!)
滞空時間コンマ数秒。
リアンは背中の複合弓を構え、矢(まち針)をつがえた。
眼下にあるクッションの模様、その一点を見据える。
ビュッ!!
放たれた矢は、吸い込まれるようにクッションの中心へ突き刺さった。
音もなく着地する弓丸。
衝撃吸収用のサスペンション(バネ)が機能し、着地音すら響かない。
(よし……! 完璧だ)
リアンは弓丸の拳を握りしめた。
火力はない。防御力もない。
だが、この機動性とギミックがあれば、格上のマグナギアだろうと一方的に蹂躙できる。
(最高の愛機(メインディッシュ)の出来上がりだ)
深夜の子供部屋。
1歳の赤ん坊は、最強のアサシン・ドールを手に入れた。
ルナハンの街が、この「黒い悪魔」に震え上がる日は近い。
19
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』
チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。
そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた!
畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる