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第四章 3歳児の勇者
EP 2
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公園の一角は、異様な緊張感に包まれていた。
さっきまで豆鉄砲の雨あられだった場所が、今は「強制的な祝福」の場へと変貌していたからだ。
「たんかたた~ん☆ たんたかたた~ん☆」
ルナ(3歳・ハイエルフ)が、口ずさむ『結婚行進曲』。
その無垢な歌声に合わせて、周囲の草花がリズムを刻むように揺れる。
だが、その光景はメルヘンではない。ホラーだ。
「し、新郎新婦は前へ……(なんで僕、こんな目に……。帰りたいよぉ……)」
神父役を強制された近所の少年(5歳)が、泣きそうな顔で進行を進める。
彼の背後では、蔦(つた)が「ちゃんとやれ」と言わんばかりに蠢いているのだ。
「へ?」
リアン(3歳・中身おっさん)は、状況が飲み込めず間の抜けた声を上げた。
「リアン君! 弓丸ちゃんを構えて!」
ルナの瞳がキラキラと輝く。
彼女の手には、泥と水で練り上げられた、目鼻も定かではない不気味な塊――『泥ゴーレム(花嫁衣裳風の葉っぱ付き)』が握られていた。
「……結婚式かよ」
リアンはげんなりした。
俺の最高傑作、カーボン複合素材と最新工学の結晶である『弓丸』を、あんな泥団子と並べるのか?
「リアン、ルナ……(の持っている人形)。病める時も、健やかなる時も……互いを愛し、敬いますか?」
神父役の少年が、震える声で誓いの言葉を読み上げる。
「はいっ☆」
ルナは即答。泥ゴーレムを元気よく掲げる。
そして、視線がリアンに集まる。
「……誓うわけないだろ。会って30分も経ってないのに」
リアンは冷静にツッコミを入れた。
おままごとには付き合ってやるが、世界観の設定崩壊と、弓丸の尊厳に関わることには妥協できない。
「だいたい、種族も素材も違う。住む世界が違いす――」
ジャキッ。
リアンの言葉が止まった。
周囲を取り囲む植え込みから、ひまわりのような花が一斉にこちらを向いたのだ。
その中心部には、種ではない。鋭利な棘(トゲ)が、ガトリング砲の如く装填されている。
植物たちの殺気(プレッシャー)が、肌を刺す。
『誓エ……誓エ……誓ワヌナラ、ハチノス……』という幻聴すら聞こえてきそうだ。
「…………」
リアンは背筋を伸ばし、満面の営業スマイルを浮かべた。
「はい! 誓います!!」
命あっての物種だ。プライドなど犬(ボアウルフ)に食わせておけ。
「で、では……誓いの口付けを……」
神父役の少年が、早く終わらせたい一心で先を促す。
「え?」
リアンが固まる。
ルナが、泥ゴーレムをヌッと突き出した。
水分をたっぷり含んだ、ドロドロの顔面(?)が迫ってくる。
「ま、まさか……。や、やめろ……!」
リアンは後ずさる。
弓丸は精密機械だ。関節部に泥が入れば駆動系に支障が出るし、センサーアイが汚れる。
何より、俺の相棒が汚れるのが許せない!
「待て! 話し合おう! 衛生的に良くない! それに――」
「誓いのチュー☆」
ルナは聞く耳を持たない。
「えいっ」と、泥ゴーレムを弓丸の顔面に押し付けた。
ブチュゥゥゥゥ……ッ!!
湿った、嫌な音が響いた。
スタイリッシュな黒い機体『弓丸』の顔面が、茶色い泥に飲み込まれる。
「…………あ」
リアンの時が止まった。
弓丸のセンサーアイから、泥水が涙のように垂れている。
「うわあああああ!! 泥だらけだあああ!!」
リアンの絶叫が公園に響き渡った。
「何すんだよおおお! メンテナンス大変なんだぞ!? 洗浄して乾燥させて注油して……ふざけんなぁぁぁ!!」
3歳児の癇癪に見せかけた、エンジニアの魂の叫び。
だが、ルナはキャッキャと手を叩いて喜んでいた。
「やったー☆ 無事に結ばれたね! 次は『新婚旅行編』だね☆」
ルナの背後で、植物たちが「次はジャングルクルーズだ」と言わんばかりに、公園の木々を変形させ始めている。
「するか馬鹿野郎おおおお!!」
リアンは限界だった。
これ以上付き合っていたら、弓丸どころか、俺の精神(と社会的地位)が崩壊する。
「お、俺は帰る! 離婚だ離婚!!」
「あ! 待ってぇ、旦那様ぁ~!」
リアンは泥だらけになった弓丸を抱きしめ、脱兎のごとく公園の出口へと駆け出した。
背後から迫る「歩く自然災害」と、無邪気な「ヤンデレエルフ」の愛の追跡を振り切るために。
3歳の誕生日。
リアンは「ユニークスキル」の検査を前に、「理不尽な女への耐性(ストレス)」というスキルを獲得したのだった。
さっきまで豆鉄砲の雨あられだった場所が、今は「強制的な祝福」の場へと変貌していたからだ。
「たんかたた~ん☆ たんたかたた~ん☆」
ルナ(3歳・ハイエルフ)が、口ずさむ『結婚行進曲』。
その無垢な歌声に合わせて、周囲の草花がリズムを刻むように揺れる。
だが、その光景はメルヘンではない。ホラーだ。
「し、新郎新婦は前へ……(なんで僕、こんな目に……。帰りたいよぉ……)」
神父役を強制された近所の少年(5歳)が、泣きそうな顔で進行を進める。
彼の背後では、蔦(つた)が「ちゃんとやれ」と言わんばかりに蠢いているのだ。
「へ?」
リアン(3歳・中身おっさん)は、状況が飲み込めず間の抜けた声を上げた。
「リアン君! 弓丸ちゃんを構えて!」
ルナの瞳がキラキラと輝く。
彼女の手には、泥と水で練り上げられた、目鼻も定かではない不気味な塊――『泥ゴーレム(花嫁衣裳風の葉っぱ付き)』が握られていた。
「……結婚式かよ」
リアンはげんなりした。
俺の最高傑作、カーボン複合素材と最新工学の結晶である『弓丸』を、あんな泥団子と並べるのか?
「リアン、ルナ……(の持っている人形)。病める時も、健やかなる時も……互いを愛し、敬いますか?」
神父役の少年が、震える声で誓いの言葉を読み上げる。
「はいっ☆」
ルナは即答。泥ゴーレムを元気よく掲げる。
そして、視線がリアンに集まる。
「……誓うわけないだろ。会って30分も経ってないのに」
リアンは冷静にツッコミを入れた。
おままごとには付き合ってやるが、世界観の設定崩壊と、弓丸の尊厳に関わることには妥協できない。
「だいたい、種族も素材も違う。住む世界が違いす――」
ジャキッ。
リアンの言葉が止まった。
周囲を取り囲む植え込みから、ひまわりのような花が一斉にこちらを向いたのだ。
その中心部には、種ではない。鋭利な棘(トゲ)が、ガトリング砲の如く装填されている。
植物たちの殺気(プレッシャー)が、肌を刺す。
『誓エ……誓エ……誓ワヌナラ、ハチノス……』という幻聴すら聞こえてきそうだ。
「…………」
リアンは背筋を伸ばし、満面の営業スマイルを浮かべた。
「はい! 誓います!!」
命あっての物種だ。プライドなど犬(ボアウルフ)に食わせておけ。
「で、では……誓いの口付けを……」
神父役の少年が、早く終わらせたい一心で先を促す。
「え?」
リアンが固まる。
ルナが、泥ゴーレムをヌッと突き出した。
水分をたっぷり含んだ、ドロドロの顔面(?)が迫ってくる。
「ま、まさか……。や、やめろ……!」
リアンは後ずさる。
弓丸は精密機械だ。関節部に泥が入れば駆動系に支障が出るし、センサーアイが汚れる。
何より、俺の相棒が汚れるのが許せない!
「待て! 話し合おう! 衛生的に良くない! それに――」
「誓いのチュー☆」
ルナは聞く耳を持たない。
「えいっ」と、泥ゴーレムを弓丸の顔面に押し付けた。
ブチュゥゥゥゥ……ッ!!
湿った、嫌な音が響いた。
スタイリッシュな黒い機体『弓丸』の顔面が、茶色い泥に飲み込まれる。
「…………あ」
リアンの時が止まった。
弓丸のセンサーアイから、泥水が涙のように垂れている。
「うわあああああ!! 泥だらけだあああ!!」
リアンの絶叫が公園に響き渡った。
「何すんだよおおお! メンテナンス大変なんだぞ!? 洗浄して乾燥させて注油して……ふざけんなぁぁぁ!!」
3歳児の癇癪に見せかけた、エンジニアの魂の叫び。
だが、ルナはキャッキャと手を叩いて喜んでいた。
「やったー☆ 無事に結ばれたね! 次は『新婚旅行編』だね☆」
ルナの背後で、植物たちが「次はジャングルクルーズだ」と言わんばかりに、公園の木々を変形させ始めている。
「するか馬鹿野郎おおおお!!」
リアンは限界だった。
これ以上付き合っていたら、弓丸どころか、俺の精神(と社会的地位)が崩壊する。
「お、俺は帰る! 離婚だ離婚!!」
「あ! 待ってぇ、旦那様ぁ~!」
リアンは泥だらけになった弓丸を抱きしめ、脱兎のごとく公園の出口へと駆け出した。
背後から迫る「歩く自然災害」と、無邪気な「ヤンデレエルフ」の愛の追跡を振り切るために。
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