元三つ星シェフ、最強の0歳児になる【ネット通販】で地球の物資を取り寄せ、夜な夜な胡桃割り人形を操って無双中〜元A級両親の英才教育が凄すぎて〜

月神世一

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第七章 6歳児の勇者

EP 5

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6歳の誕生日と涙の別れ
​時は流れ、季節は春。
リアン・シンフォニアは、6歳の誕生日を迎えた。
​例年なら、アークスとマーサ、そしてオニヒメによる盛大なパーティーが開かれる日だ。
ケーキがあり、プレゼントがあり、笑顔がある。
しかし、今年のシンフォニア家の空気は、どこか湿っぽかった。
​「……荷造りは、これで全部か」
​リアンの部屋。
彼は愛用の『魔法ポーチ』に、生活必需品を詰め込んでいた。
着替え、日用品、大量の保存食(お菓子含む)、そして趣味のマグナギア改造ツール一式。
​「準備万端ですね、リアン様」
​オニヒメが静かに声をかける。
彼女はリアンの専属メイドだが、学園の寮には帯同できない。身の回りの世話をしてくれる彼女とも、しばらくお別れだ。
​「あぁ。……明日には出発だ」
​リアンは部屋を見渡した。
快適な引きこもりライフを送るために改造しまくった、この城(マイルーム)。
明日からは、規則だらけの『ルナミス学園』の寮生活が始まる。
​「はぁ……。脱走したい」
「連れ戻されますよ」
「退学になりたい」
「勘当されますよ」
​オニヒメとの軽口も、明日からは聞けない。
リアンは少しだけ、胸の奥がチクリとするのを感じた。
​その時だった。
​「り~あ~ん~! あ~そ~ぼ~★」
​窓の外から、元気いっぱいの声が響いてきた。
エルフの少女、ルナだ。
彼女はいつものように、ふわふわと風に乗ってベランダに降り立った。
​「こんちこりぃ~ん! 今日はお誕生日だよね! おめでとぉ~!」
​ルナは満面の笑みで、花冠を差し出した。
​「これあげる! 森のお花で作ったの!」
​「……あぁ。ありがとな、ルナ」
​リアンは花冠を受け取った。
いつもなら、「こんなの金にならねぇ」と内心毒づくところだが、今日はその鮮やかな色が、妙に目に染みた。
​「ねぇねぇ! 今日は何して遊ぶ? 川に行く? それともマグナギアごっこ?」
​ルナはリアンの周りを飛び回り、無邪気に尋ねる。
彼女はまだ知らない。
リアンが明日、この街からいなくなることを。
​リアンは花冠を机に置き、深く息を吸った。
言わなければならない。
​「……ルナ。今日は遊べないんだ」
​「え~? なんでぇ? お誕生日なのに?」
​「明日から……俺は、遠くに行くからだ」
​「とおく?」
​ルナが首を傾げる。
​「帝都ルナミスにある『学校』に入るんだ。そこで勉強して、大人になるまで……ここには帰ってこれない」
​リアンは努めて淡々と告げた。
ルナはキョトンとしていたが、次第にその言葉の意味を理解し始めたようだ。
大きな瞳が揺れる。
​「……かえって、これない?」
​「あぁ。休みの日には帰ってくるけど、基本はずっと向こうだ」
​「……ルナも行く」
​ルナがリアンの袖を掴んだ。
​「ルナも一緒に行く! リアンと一緒がいい!」
​「無理だ。あれは『人間』の、しかも『貴族』のための学校だ。エルフの君は入れない」
​「やだ」
​ルナの声が低くなった。
周囲の空気が、ビリビリと震え始める。
​「やだ! やだやだやだ! 離れるのやだぁぁぁ!!」
​ゴゴゴゴゴ……ッ!!
​ルナの感情に呼応して、精霊たちが暴走を始めた。
部屋の中なのに突風が吹き荒れ、窓ガラスがガタガタと鳴り、観葉植物が急成長して天井を突き破ろうとする。
​「ちょ、ルナ! 落ち着け!」
​「うわぁぁぁぁん!! 嘘つき! ずっと一緒って言ったもん! マグナギアで遊ぶって言ったもん!!」
​ルナは大粒の涙を流して泣き叫んだ。
それはただの子供の癇癪ではない。
世界樹の加護を持つハイエルフの嘆きは、局地的な天変地異を引き起こす。
屋敷全体が地震のように揺れ始めた。
​「リアン様! このままでは屋敷が崩壊します!」
オニヒメが悲鳴を上げる。
​「くっ……!」
​リアンは暴風の中、泣き叫ぶルナに歩み寄った。
いつもなら、「うるさい」「迷惑だ」と突き放すところだ。
でも。
​(……俺だって、嫌なんだよ)
​リアンはルナの小さな体を、ぎゅっと抱きしめた。
​「……っ!?」
​ルナの泣き声が止まる。
暴風が、ふっと凪いだ。
​「ごめんな。俺だって……行きたくねぇよ」
​リアンはルナの背中をポンポンと叩いた。
​「知らない奴らばっかりの場所で、堅苦しい勉強なんてしたくない。……ルナと一緒に、ここで馬鹿みたいに遊んでる方が、ずっと楽しいに決まってる」
​「……リアン……?」
​「俺たちは『友達』だもんな。……離れるのは、俺だって寂しいよ」
​それは、打算も計算もない、リアン・シンフォニアの初めての本音だった。
転生してからずっと、利益と効率だけで生きてきた彼が、初めて「感情」で動いた瞬間だった。
​ルナはリアンの胸に顔を埋め、今度は静かに、シクシクと泣いた。
​「……ぐすっ……うぅ……」
「泣き止んだか? ……いい子だ」
​しばらくして。
ルナは顔を上げた。
その瞳は、涙で濡れていたが、先ほどまでの絶望の色は消えていた。
代わりに宿っていたのは、何かを強く決意したような――ある種、不穏なほどの輝きだった。
​「……わかった」
​ルナは袖で涙を拭い、鼻をすすった。
​「リアンは、いきたくないけど、いかなきゃダメなのね?」
「あぁ。皇帝陛下の命令だからな」
「……うん。わかった」
​ルナは一歩下がると、ニカっと笑った。
その笑顔は、どこか悪戯を思いついた時のそれに似ていた。
​「じゃあ、ルナがなんとかする!」
​「へ? 何とかって……」
​「リアン! またね! ぜったい、すぐに会えるからね!」
​言うが早いか、ルナは風の精霊を纏い、窓から飛び出した。
​「あ、おい! ルナ!?」
​「ばいばーい!」
​ルナの姿は、森の彼方――『エルフの里』の方角へと、弾丸のような速さで消えていった。
​「……行っちまった」
​リアンは呆然と空を見上げた。
別れを惜しむ感動的なシーンになるかと思いきや、最後は謎のハイテンションで去っていった。
​「『なんとかする』って……何をどうするつもりだ?」
​嫌な予感がする。
あの嵐のような少女が、ただ大人しく引き下がるわけがない。
​(まさか、学校を破壊しに行くわけじゃないよな……?)
​一抹の不安を抱えつつ、リアンは6歳の誕生日を終えた。
明日はいよいよ、旅立ちの日。
そして、その裏で――エルフの国を揺るがす「お祖母ちゃんへのおねだり大作戦」が始まろうとしていた。
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