​【マグナギア無双】チー牛の俺、牛丼食ってボドゲしてただけで、国王と女神に崇拝される~神速の指先で戦場を支配し、気づけば英雄でした~

月神世一

文字の大きさ
4 / 9

EP 3

しおりを挟む
神ゲーかと思ったら、AI(騎士団)が弱すぎてクソゲーだった件
「す、すげぇ……。ここがゲームスタジオですか?」
 翌日。
 オッサン(佐藤太郎さんと言うらしい)に連れられてやってきたのは、王都の地下深くに存在する巨大な施設だった。
 分厚い金属の扉。厳重な警備兵。そして並び立つドワーフの技術者たち。
 俺は思わず息を呑んだ。
(これがトリプルA級タイトルの開発現場か……! 情報漏洩対策ガチ勢すぎるだろ。警備員が本物の槍を持ってるぞ)
 俺のオタクフィルターを通すと、物々しい軍事施設も「開発費をかけた最先端スタジオ」に変換されてしまう。
 太郎さんがニヤリと笑う。
「ああ。我が『G.G.社』が社運を賭けたプロジェクトだからね。早速だが、これが君のコントローラーだ」
 案内されたのは、カプセル型のコックピットだった。
 全周囲モニターに、身体を固定するハプティクス(触覚フィードバック)スーツ。そして手元には、馴染みのある『マグナ・グローブ』のハイエンドモデル。
「うわぁ……没入感ヤバそう……。これ、PCスペックどうなってるんですか?」
「最新の魔導コアを百個連結してるよ(国家予算一年分だ)」
「へぇ~(富豪の道楽かよ)」
 俺はワクワクしながらシートに座り、グローブを装着した。
 シュゥン……と低い駆動音が響き、視界が暗転する。
 次の瞬間。
『システム・オールグリーン。同調率(シンクロ・レート)、計測不能(エラー)……いえ、120%で安定!』
『バカな、初回起動だぞ!?』
 ヘッドホンから開発スタッフ(ドワーフ)の慌ただしい声が聞こえる。
 演出が細かいな。こういう「選ばれし者」感を出してくるオープニング、嫌いじゃない。
『……聞こえるかい、牛太君』
 インカムから太郎さんの声。
『これから「チュートリアル」を始める。仮想敵(エネミー)を用意した。自由に料理してくれ』
「了解です。……お、グラフィック綺麗ですねぇ」
 モニターに映し出されたのは、荒涼とした演習場のフィールド。
 そして前方から、ズシン、ズシンと地響きを立てて現れたのは――三体の巨大な人型ロボットだった。
 白銀の装甲に、巨大な剣と盾。いかにも「ファンタジーRPGの騎士」といったデザインだ。
(ふむ……敵のデザインは王道だな。でも、ちょっとテクスチャが古臭いか?)
 俺は冷静に分析する。
 対して、向こうのロボットたちは殺気満々で剣を構えている。
『こちら「白銀の牙」隊長、ガレスだ! テストパイロットがどこの馬の骨か知らんが、戦場の厳しさを教えてやる! 総員、包囲して叩き潰せ!』
 敵のボイスチャットが聞こえた。
 ガレス? 有名声優だろうか。熱演だが、セリフがテンプレすぎる。
 俺はため息をついた。
「ま、チュートリアルだしな。サクッと終わらせて、本編に行きますか」
 俺は指を鳴らし、愛機――全高18メートルの試験機『プロト・レンジャー』を起動させた。
 ◇
(モニター室・視点)
「陛下! 無茶です! ガレス隊長は王国最強の『白銀の牙』筆頭ですよ!?」
「素人の子供一人に、正規軍の精鋭三機をぶつけるなんて……殺す気ですか!」
 モニター室では、将軍や騎士団長たちが青ざめていた。
 これはゲームではない。
 タロウ国が開発した、有人搭乗型巨大兵器『メガ・ギア』の実戦テストだ。
 対戦相手のガレス隊長たちは、歴戦の猛者。いくらシミュレーター上の遠隔操作とはいえ、精神的負荷(フィードバック)で廃人になりかねない。
 だが、佐藤太郎だけは、カップ麺をすすりながら不敵に笑っていた。
「見ていれば分かるさ。……ほら、始まった」
 画面の中で、ガレス隊長の機体が猛スピードで突撃した。
 騎士の誇りをかけた、必殺の唐竹割り。
 誰もが牛太の機体の粉砕を予期した、その時。
 ◇
(牛太・視点)
 右方向から斬撃。
 速い……か? いや、遅い。
 モーションが大きすぎる。
 『剣を振りかぶる』という予備動作(テレフォンパンチ)が丸見えだ。FPSなら「撃ってください」と言っているようなものだ。
(AIの難易度設定、イージーになってないか?)
 俺は欠伸を噛み殺しながら、右手の小指をわずかに動かした。
 機体が半歩、右にスライドする。
 ブンッ!
 豪快な空振り。敵の大剣が地面を叩く。
『なっ!? 避けた!?』
「硬直時間(ディレイ)が長いよ。隙だらけだ」
 俺は敵が剣を引き抜こうとしている隙に、スッと懐に入り込む。
 そして、理髪師が客の髭を剃るような繊細さで、敵の関節部分に指を這わせた。
 このゲームの物理エンジンがどれほどか、試させてもらおう。
 俺の機体の指が、敵の膝関節の「装甲の継ぎ目」に引っかかる。
 クッ、と手首を返す。
 テコの原理。
 バキィィン!!
『ぐあぁぁぁ!? ひ、膝がぁぁぁ!』
 敵の巨体が、ありえない方向にひしゃげて崩れ落ちた。
 俺はそのまま、倒れた敵の背中に乗り、バックパックからワイヤーアンカーを射出。
 残りの二体に向かって撃ち込む。
「え、これオートエイム(自動照準)入ってる? 判定ガバガバなんだけど」
 狙ったわけでもないのに、ワイヤーは正確に敵のメインカメラ(目)に吸い込まれた。
 視界を奪われた二体がパニックになり、同士討ちを始める。
『うわぁぁ! 前が見えん! こっちに来るな!』
『バカ野郎、俺だ! 味方だ!』
「……AIのルーチン、どうなってんだ? 連携も取れないのか」
 俺は呆れた。
 今のFPS界隈、Bot(CPU)だってもっとマシな動きをするぞ。
 これじゃあ「無双ゲー」としての爽快感すらない。ただの作業だ。
「フィニッシュムーブ、っと」
 俺は倒れているガレス隊長機の首元に、隠し武器のヒート・ナイフを突き立てた。
 ブシュゥゥン!
 強制排出(ログアウト)のエフェクトと共に、敵機のシグナルが消える。
 残りの二体も、ワイヤーでぐるぐる巻きにして転ばせ、機能停止させた。
 所要時間、わずか30秒。
 俺は誰もいない荒野で、ポツリと呟いた。
「あのー、運営さん。これ『ハードモード』に変えられませんか? ヌルすぎて練習にならないんですけど」
 ◇
(モニター室・視点)
 シーン……。
 司令室は、静まり返っていた。
 歴戦の騎士団長が、口をパクパクさせている。
 ドワーフの技術長が、計算機を落として呆然としている。
「……ありえん。ガレス隊のフォーメーションを、単騎で……しかも無傷で?」
「あの子、何をした? 関節技(サブミッション)? 巨大ロボットで柔術をやったのか?」
「最後、ワイヤーでカメラを潰しましたよ……あんな芸当、プログラムでも不可能です……」
 全員の視線が、カップ麺を啜り終えた国王に集まる。
 太郎は満足げに頷いた。
「言っただろう? 彼は『本物』だと。……さて、牛太君に伝えてやってくれ」
 太郎はマイクのスイッチを入れた。
『あー、すまん牛太君。ちょっと設定ミスで「ベリーイージー」になってたわ』
 モニターの向こうで、牛太が「やっぱそうですよね~w」と安堵したように笑う。
 その笑顔を見て、将軍たちは背筋を凍らせた。
 王国最強の騎士団を子供扱いしておいて、「設定ミス」で納得するその感覚。
(((この男……無自覚な化け物だ……!)))
 こうして、タロウ軍の極秘ファイルに、一人のとんでもないルーキーの名が刻まれた。
 コードネーム『チー牛』。
 後に大陸全土を震え上がらせる、伝説の司令官の誕生である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

処理中です...