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EP 4
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メンテナンスは理髪師の技
「――反応が、遅いですね」
圧倒的な勝利。
騎士団を瞬殺した余韻も冷めやらぬ中、コックピットから出てきた俺の第一声は、不満タラタラの文句だった。
「入力から動作まで0.2秒のラグがあります。これじゃあ、FPSなら撃ち負けますよ。あと、右膝のサスペンションが硬い。油切れてませんか?」
俺が淡々と指摘すると、周囲にいた開発スタッフ(ドワーフたち)が「なっ……!?」と絶句した。
彼らにとっては、最新鋭の技術を結集した最高傑作を「不良品」扱いされたようなものだ。
顔を真っ赤にして怒り出すドワーフのおっちゃん。
「何を言うか若造! ワシらの設計は完璧じゃ! 貴様の操作が荒いから遅く感じるんじゃろ!」
「いえ、事実です。……運営さん、これ『機体設定(セッティング)』画面どこですか? 自分で調整します」
俺は太郎さんに問いかける。
ゲームにおいて、自分好みの感度(センシティビティ)調整は基本中の基本だ。
太郎さんはニヤリと笑った。
「設定画面か……いいだろう。なら、『実機』を見に行こうか」
「え、実機?」
◇
案内されたのは、さらに地下深くにある巨大な格納庫(ハンガー)だった。
プシューッ、と重厚なエアロックが開く。
そこに鎮座していたのは――。
「う、うわぁぁぁぁ!! すっげぇぇぇ!!」
俺は思わず少年のように叫んでいた。
全長20メートル。
鋼鉄の装甲に覆われた、さきほど俺が画面の中で操っていた『プロト・レンジャー』の機体。
それが、圧倒的な存在感でそこに立っていた。
(マジかよこの運営……! 没入感を高めるために、わざわざ**『1/1スケールの実物大模型』**まで作ったのか!?)
狂っている。最高の褒め言葉だ。
お台場のガンダムもびっくりなクオリティだ。
周囲には足場が組まれ、数多くの整備士NPC(ドワーフ)が動き回っている。
油の匂い。溶接の火花。環境音(SE)も完璧だ。
「どうだい? これが君の愛機だ」
「最高です……! まさか『ハードウェア・チューニング』まで実装してるとは!」
俺は興奮して足場を駆け上がり、機体の胸部ハッチへ向かった。
そこは装甲が開かれ、心臓部である『魔導メインコア』が剥き出しになっていた。
「……うわ、なんですかこれ」
中を覗き込んだ俺は、眉をひそめた。
コアからは、無数の『魔導ケーブル』――光ファイバーのような極細の糸が、びっしりと伸びて全身へ繋がっていた。
だが、その配線が酷い。
絡まり合い、余計な長さで束ねられ、まるで手入れされていないボサボサの長髪のようだ。
「これじゃあ伝達効率が落ちるわけだ。……おい爺さん、ここ弄ってもいいか?」
俺は近くにいたドワーフの棟梁(さっき怒鳴ってきた人)に声をかけた。
「あぁん? 素人が触るな! その『魔導神経』は髪の毛より細いんじゃ! 一本でも切ったら機体が動かなく……」
「ハサミ、借りるぞ」
俺は棟梁の腰袋から、魔導繊維用のカッター(ハサミ)を勝手に抜き取った。
手にした瞬間、指が馴染む。
理髪師として何万回と握ってきた感覚。
(ふむ……要するに、この『枝毛』みたいに劣化した魔力カスを取り除いて、流れを整えればいいんだな?)
俺の目には、複雑怪奇な配線が、ただの『整えるべき髪型』に見えていた。
俺は迷いなくハサミを入れた。
チョキッ。
「ひぃっ!? 切りおったァァァ!?」
「うるさい、動くな」
悲鳴を上げるドワーフたちを無視して、俺は『ゾーン』に入った。
チョキ、チョキ、チョキチョキチョキ……!
神速のシザーハンズ。
不要なバイパス回路をカット。
絡まった神経を櫛(コーム)で梳(と)くように解きほぐし、最短ルートで再接続。
熱を持って肥大化したケーブルは、カミソリ(剃刀)の要領で表面を薄く削ぎ落とし、冷却効率を上げる。
「あ、そこは梳(す)きすぎないで……ボリュームを残して……よし」
俺はブツブツと呟きながら、20メートルの巨人の『散髪』を行っていく。
最初は止めようとしていたドワーフたちが、次第に静まり返り、ポカンと口を開けて見上げていた。
「な、なんという指捌きじゃ……」
「あの複雑な『エーテル結合』を、目視だけで……?」
「おい見ろ! コアの輝きが変わっていくぞ!」
ドワーフたちの言う通り、ボサボサだった配線は美しく整えられ、コアは淀みのない青白い光を放ち始めていた。
ラストの仕上げ。
メイン動力パイプの接触不良を、指先の感覚だけでミクロン単位で調整する。
「……はい、カット終了。お疲れ様でした」
俺はハサミをクルクルと回して収め、タオルで汗を拭った。
完璧だ。
美しい。
これなら0.2秒のラグは完全に消滅するだろう。
「お、おい若造……いや、先生! 今のは一体何の技術じゃ!?」
棟梁が震える声で聞いてきた。
俺はキョトンとして答える。
「え? ただの『刈り上げ(ツーブロック)』の応用ですけど」
「「「ツーブロック……!?」」」
ドワーフたちは顔を見合わせ、謎の古代技術だと思ってメモを取り始めた。
◇
その後の再テストは、衝撃的なものだった。
機体の反応速度は3倍に向上。
俺が指を動かした瞬間に、20メートルの巨体がまるで人間のように滑らかに動く。
これなら、どんな敵が来ても負ける気がしない。
「素晴らしい……! これこそ私が求めていた機体だ!」
太郎さんがコックピット通信で大はしゃぎしている。
「ありがとう牛太君! 君のおかげで、この子は『最強』になった!」
「いえいえ。メンテナンスをサボるとすぐ髪(配線)が痛むんで、定期的に店(ここ)に来てくださいね」
俺は営業スマイルで答えた。
よし、これで運営からの評価も上がっただろう。
報酬アップ間違いなしだ。
そんな俺の呑気な思考を切り裂くように、突如として格納庫にけたたましい警報音が鳴り響いた。
赤いパトランプが明滅する。
『緊急警報! 緊急警報! システムに不正アクセスを検知!』
『第三者の信号が割り込んできます! これは……!』
モニターにノイズが走り、荒々しい男の声が響き渡った。
『おいコラァァァ!! タロウ!! 楽しそうなことやってんじゃねぇか!!』
画面に映し出されたのは、黄金の獅子――のようなアイコン。
俺は首を傾げた。
「……ん? レイドボスイベント発生か?」
乱入者、獣王レオ。
俺の『テストプレイ』は、ここから本当の『死闘』へと変わっていく。
「――反応が、遅いですね」
圧倒的な勝利。
騎士団を瞬殺した余韻も冷めやらぬ中、コックピットから出てきた俺の第一声は、不満タラタラの文句だった。
「入力から動作まで0.2秒のラグがあります。これじゃあ、FPSなら撃ち負けますよ。あと、右膝のサスペンションが硬い。油切れてませんか?」
俺が淡々と指摘すると、周囲にいた開発スタッフ(ドワーフたち)が「なっ……!?」と絶句した。
彼らにとっては、最新鋭の技術を結集した最高傑作を「不良品」扱いされたようなものだ。
顔を真っ赤にして怒り出すドワーフのおっちゃん。
「何を言うか若造! ワシらの設計は完璧じゃ! 貴様の操作が荒いから遅く感じるんじゃろ!」
「いえ、事実です。……運営さん、これ『機体設定(セッティング)』画面どこですか? 自分で調整します」
俺は太郎さんに問いかける。
ゲームにおいて、自分好みの感度(センシティビティ)調整は基本中の基本だ。
太郎さんはニヤリと笑った。
「設定画面か……いいだろう。なら、『実機』を見に行こうか」
「え、実機?」
◇
案内されたのは、さらに地下深くにある巨大な格納庫(ハンガー)だった。
プシューッ、と重厚なエアロックが開く。
そこに鎮座していたのは――。
「う、うわぁぁぁぁ!! すっげぇぇぇ!!」
俺は思わず少年のように叫んでいた。
全長20メートル。
鋼鉄の装甲に覆われた、さきほど俺が画面の中で操っていた『プロト・レンジャー』の機体。
それが、圧倒的な存在感でそこに立っていた。
(マジかよこの運営……! 没入感を高めるために、わざわざ**『1/1スケールの実物大模型』**まで作ったのか!?)
狂っている。最高の褒め言葉だ。
お台場のガンダムもびっくりなクオリティだ。
周囲には足場が組まれ、数多くの整備士NPC(ドワーフ)が動き回っている。
油の匂い。溶接の火花。環境音(SE)も完璧だ。
「どうだい? これが君の愛機だ」
「最高です……! まさか『ハードウェア・チューニング』まで実装してるとは!」
俺は興奮して足場を駆け上がり、機体の胸部ハッチへ向かった。
そこは装甲が開かれ、心臓部である『魔導メインコア』が剥き出しになっていた。
「……うわ、なんですかこれ」
中を覗き込んだ俺は、眉をひそめた。
コアからは、無数の『魔導ケーブル』――光ファイバーのような極細の糸が、びっしりと伸びて全身へ繋がっていた。
だが、その配線が酷い。
絡まり合い、余計な長さで束ねられ、まるで手入れされていないボサボサの長髪のようだ。
「これじゃあ伝達効率が落ちるわけだ。……おい爺さん、ここ弄ってもいいか?」
俺は近くにいたドワーフの棟梁(さっき怒鳴ってきた人)に声をかけた。
「あぁん? 素人が触るな! その『魔導神経』は髪の毛より細いんじゃ! 一本でも切ったら機体が動かなく……」
「ハサミ、借りるぞ」
俺は棟梁の腰袋から、魔導繊維用のカッター(ハサミ)を勝手に抜き取った。
手にした瞬間、指が馴染む。
理髪師として何万回と握ってきた感覚。
(ふむ……要するに、この『枝毛』みたいに劣化した魔力カスを取り除いて、流れを整えればいいんだな?)
俺の目には、複雑怪奇な配線が、ただの『整えるべき髪型』に見えていた。
俺は迷いなくハサミを入れた。
チョキッ。
「ひぃっ!? 切りおったァァァ!?」
「うるさい、動くな」
悲鳴を上げるドワーフたちを無視して、俺は『ゾーン』に入った。
チョキ、チョキ、チョキチョキチョキ……!
神速のシザーハンズ。
不要なバイパス回路をカット。
絡まった神経を櫛(コーム)で梳(と)くように解きほぐし、最短ルートで再接続。
熱を持って肥大化したケーブルは、カミソリ(剃刀)の要領で表面を薄く削ぎ落とし、冷却効率を上げる。
「あ、そこは梳(す)きすぎないで……ボリュームを残して……よし」
俺はブツブツと呟きながら、20メートルの巨人の『散髪』を行っていく。
最初は止めようとしていたドワーフたちが、次第に静まり返り、ポカンと口を開けて見上げていた。
「な、なんという指捌きじゃ……」
「あの複雑な『エーテル結合』を、目視だけで……?」
「おい見ろ! コアの輝きが変わっていくぞ!」
ドワーフたちの言う通り、ボサボサだった配線は美しく整えられ、コアは淀みのない青白い光を放ち始めていた。
ラストの仕上げ。
メイン動力パイプの接触不良を、指先の感覚だけでミクロン単位で調整する。
「……はい、カット終了。お疲れ様でした」
俺はハサミをクルクルと回して収め、タオルで汗を拭った。
完璧だ。
美しい。
これなら0.2秒のラグは完全に消滅するだろう。
「お、おい若造……いや、先生! 今のは一体何の技術じゃ!?」
棟梁が震える声で聞いてきた。
俺はキョトンとして答える。
「え? ただの『刈り上げ(ツーブロック)』の応用ですけど」
「「「ツーブロック……!?」」」
ドワーフたちは顔を見合わせ、謎の古代技術だと思ってメモを取り始めた。
◇
その後の再テストは、衝撃的なものだった。
機体の反応速度は3倍に向上。
俺が指を動かした瞬間に、20メートルの巨体がまるで人間のように滑らかに動く。
これなら、どんな敵が来ても負ける気がしない。
「素晴らしい……! これこそ私が求めていた機体だ!」
太郎さんがコックピット通信で大はしゃぎしている。
「ありがとう牛太君! 君のおかげで、この子は『最強』になった!」
「いえいえ。メンテナンスをサボるとすぐ髪(配線)が痛むんで、定期的に店(ここ)に来てくださいね」
俺は営業スマイルで答えた。
よし、これで運営からの評価も上がっただろう。
報酬アップ間違いなしだ。
そんな俺の呑気な思考を切り裂くように、突如として格納庫にけたたましい警報音が鳴り響いた。
赤いパトランプが明滅する。
『緊急警報! 緊急警報! システムに不正アクセスを検知!』
『第三者の信号が割り込んできます! これは……!』
モニターにノイズが走り、荒々しい男の声が響き渡った。
『おいコラァァァ!! タロウ!! 楽しそうなことやってんじゃねぇか!!』
画面に映し出されたのは、黄金の獅子――のようなアイコン。
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