HP1の建築士、最強の『絶対安全圏』を創る~小石で即死する俺の為、魔王も勇者も過保護に領地防衛します~

月神世一

文字の大きさ
14 / 16

EP 14

しおりを挟む
地下1階はスーパー銭湯 ~火の精霊はサウナ熱波師~
​ キュルリンとの『天魔窟(アミューズメント・ダンジョン)』共同開発プロジェクトは、恐ろしいスピードで進行していた。
​「設計図(プラン)A、承認! 施工開始!」
「了解だよー! 【ダンジョンクリエイト】ッ!」
​ 地下1階。広大な空間が、キュルリンの魔法によって粘土細工のように変形していく。
 タクミが描いた『昭和レトロ風スーパー銭湯』の図面が、現実のものとなっていく様は圧巻だった。
​ 大理石の床、富士山のペンキ絵が描かれた壁、ジェットバス、電気風呂、そして寝湯。
 タロー国から仕入れた『プラスチック製の風呂桶(ケロリン風)』や『シャンプーハット』も完備されている。
​「すげぇ……。完璧な再現度だ。これなら日本の銭湯マニアも唸るぞ」
​ タクミは感動していた。
 現在のHPは【1.1】。湿度が保たれているおかげで、肌の乾燥ダメージもなく絶好調だ。
​「ねえねえタクミ! 次は『サウナ』だよね! ここが一番の目玉なんでしょ?」
​ キュルリンが空中でくるりと回りながら尋ねた。
 そう、今回の目玉は、昨今のサウナブームを取り入れた『本格フィンランド式サウナ』である。
​「ああ。だが問題がある。サウナストーンを熱するための『熱源』だ。薪ストーブじゃ火力が安定しないし、Dr.ギアの科学炉だと排気ガスの処理が面倒だ」
​ 密閉空間で一酸化炭素中毒になれば、HP1のタクミなど瞬殺される。
​「ふーん、熱源ねぇ……。あ、それならいい『人材』がいるよ!」
「人材?」
「うん! ボクの友達で、すっごく熱いヤツ! 呼んでくるね!」
​ キュルリンは指をパチンと鳴らした。
 次の瞬間、サウナ室の中央に魔法陣が出現し、轟音と共に『灼熱の柱』が立ち昇った。
​「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!! 俺の情熱(パッション)は5000度だぜぇぇぇ!!」
​ 現れたのは、全身が燃え盛る炎で構成されたトカゲのような精霊――Sランクモンスター『火の精霊王(イフリート・サラマンダー)』だった。
​「あ、あつゥゥゥゥッ!?」
​ タクミは悲鳴を上げて後退った。
 サウナ室のドアを開けていたせいで、熱波が直撃したのだ。
 HPバーが【1.1】から一気に【0.6】まで焼失した。
​「ば、馬鹿野郎! 5000度ってなんだ! ここは処刑室じゃないぞ!」
「ああん? なんだこの貧弱な人間は。俺様はキュルリンに頼まれて、最高の『熱波師(アウフグース・マスター)』になりに来たんだよ!」
​ サラマンダーは、手に持っていた(なぜか持参した)巨大なタオルをバサリと振った。
 そのタオルも燃えていた。
​「俺の名は熱血のサラン! さあ客よ、座れ! 俺の『魂のロウリュ』で整わせてやるぜ!」
「整う前に灰になるわ! 帰れ!」
​ タクミは全力で拒否したが、キュルリンは楽しそうに手を叩いた。
​「いいじゃんいいじゃん! タクミ、とりあえず『テスト入浴』してみてよ! 設計士の責任でしょ?」
「殺す気か!?」
​ だが、ここで引くわけにはいかない。
 この施設の管理者は俺だ。安全性を確認する義務がある。
 タクミはDr.ギアに特注した『超耐熱防護服(宇宙服みたいなやつ)』を着込み、決死の覚悟でサウナ室に入った。
​「……いいか、サラン。温度設定は90度だ。それ以上上げたらクビだぞ」
「ケッ、ぬるいぜ。だが、オーナーの命令なら仕方ねぇ……!」
​ サランが体の炎を抑え、室温を90度に調整した。
 防護服越しでも、じわりと汗が滲む。
 ここまではいい。問題はここからだ。
​「いくぜ! ロウリュタイム!」
​ サランが焼けた石にアロマ水を掛けた。
 ジュワァァァァァッ!
 蒸気が立ち昇る。心地よい柑橘系の香り。
 これならいけるか? と思った瞬間、サランが巨大なタオルを振りかぶった。
​「受け取れぇぇぇ! 俺の愛(ヒート・ウェイブ)ッ!!」
​ ブンッ!!
​ タオルが空気を切り裂いた。
 発生したのは『心地よい熱風』ではなく、『衝撃波を伴う爆風』だった。
​「ぐふぅッ!?」
​ タクミの体が宙を舞い、サウナ室の壁に叩きつけられた。
 防護服のアラートが鳴り響く。
 【警告:内部温度上昇。衝撃検知。生命維持限界まであと3秒】
​「あ、熱い……いや、痛い……!」
「どうだぁぁぁ! 整ったかぁぁぁ!?」
「整うかボケェッ!」
​ タクミは這いつくばって脱出した。HP残り【0.1】。
 瀕死である。
​「だ、駄目だ……。あいつはクビだ……。あんなの耐えられる奴、この世にいるわけが……」
​ その時だった。
 脱衣所の方から、楽しげな声が聞こえてきた。
​「あら、新しいお風呂ができたって聞いたけど」
「サウナもあるじゃない! 気が利くわね~!」
​ バスタオルを巻いた女神ルチアナと、魔王ラスティアだった。
 二人は瀕死のタクミを「あら、こんにちは」と跨いで通り過ぎ、サウナ室へと入っていった。
​「ちょ、待っ……中は危険……!」
​ 止める間もなかった。
 ドアが閉まり、中からサランの絶叫が聞こえる。
​『うぉぉぉ! お客様! 俺の最大火力を食らいやがれぇぇぇ!』
​ 数分後。
 プハァ、という満足げな溜息と共に、二人が出てきた。
 肌はツヤツヤ。湯上りのような血色の良さ。
​「い~い汗かいたわ~。あのトカゲ、なかなかいい腕してるじゃない」
「そうね。最初はちょっとぬるかったけど、煽ったら本気出してくれたわ。5000度の熱波、毛穴が開いて最高だったわよ」
​ ……5000度を浴びて「毛穴が開く」で済ませている。
 化け物だ。いや、神と魔王だった。
​ その後ろから、げっそりと痩せ細り、炎が消えかかったサランが出てきた。
​「……あ、ありえねぇ……。俺の全精力を注いだ熱波を……『涼しい風』扱いだと……?」
​ 精霊王のプライドが粉々に砕かれていた。
​「タクミさん、あの子採用してあげて。私、気に入ったわ」
「私もー。毎日通っちゃうかも」
​ ルチアナとラスティアは、脱衣所に設置された自販機(タロー国直輸入)で『フルーツ牛乳』を購入し、腰に手を当てて一気飲みした。
​「んんっ、ぷはーっ! 五臓六腑に染み渡るぅ~!」
​ その笑顔は、世界を滅ぼす魔王のものではなく、ただの風呂好きのOLのそれだった。
​ タクミは床に倒れたまま、天井を見上げた。
​「……採用だ。ただし、俺が入る時は温度を100分の1に下げさせる……」
​ こうして、地下1階『天魔の湯』がオープンした。
 サウナの主(ヌシ)として君臨する火の精霊王と、それを涼しい顔で楽しむ神々。
 一般人が入れば即死するそのサウナは、後に『地獄の釜茹で』として冒険者たちに恐れられることになるが、それはまた別の話である。
​ タクミはその後、ネギオの回復魔法とフルーツ牛乳でHPを全快させた。
 風呂上がりの牛乳がHP回復アイテムになることを発見したのが、今日の唯一の収穫だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~

月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」 ​ 猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。 彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。 ​チート能力? 攻撃魔法? いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。 ​「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」 ​ゴブリン相手に正座で茶を勧め、 戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、 牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。 ​そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……? ​「野暮な振る舞いは許しません」 ​これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...