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EP 7
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エルフの守護者、襲来
「へい、おでん一丁」
「ありがとうございますぅ~! はい、どうぞ!」
すっかり日が落ちた城塞都市バルドの広場。
『鬼灯(ほおずき)』の屋台は、夜になっても盛況だった。
提灯の明かりの下、龍魔呂が黙々と料理を盛り、ルナが愛想を振りまきながら(たまに皿を割りそうになりながら)配膳をする。
チンピラ騒動も解決し、平和な商売が続く――はずだった。
ズズズズズ……。
不穏な地鳴りが、広場の石畳を震わせた。
客たちが手元の椀を抑えて顔を見合わせる。
「なんだ? 地震か?」
「いや、なんか近づいてくるぞ……!」
ドォォォォン!!
広場の入り口にあった石造りのアーチが、粉々に砕け散った。
舞い上がる土煙。
その向こうから現れたのは、全高三メートルを超える巨大な影だった。
下半身は馬のように逞しく、上半身は騎士の如き重厚なフォルム。
しかし、それは肉ではなく、鋼鉄のように硬化した「樹木」で構成されていた。
エルフの守護者、ポーン――その戦闘形態の一つ、『ナイト(騎士型)』である。
「うわぁぁぁ! 魔物だぁぁぁ!」
「逃げろぉぉぉ!」
客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
せっかくの稼ぎ時が台無しだ。
ポーンの頭部にある緑色の瞳(魔石)が、ギロリと屋台を捉えた。
そして、甲斐甲斐しく働くルナの姿を認識すると、その瞳が赤く明滅する。
『――姫君ヲ発見。強制労働ノ疑イアリ。対象、排除スル』
機械的な念話が周囲に響く。
ポーンにとって、高貴なエルフの姫が、薄汚い屋台で大根を運んでいる姿は「奴隷労働」以外の何物でもなかった。
「ああっ! ポーンちゃん! 違うの、私は楽しくて……!」
ルナが止めようと声を上げるが、遅い。
ポーンは右腕を変形させた。
蔦が絡み合い、巨大な円錐状の「騎兵槍(ランス)」が形成される。その先端には、圧縮された空気と魔力が渦巻いていた。
『誘拐犯、抹殺』
ズドンッ!!
ポーンが加速した。
ケンタウロス形状の脚力が生む突進力は、戦車すら跳ね飛ばす威力がある。
狙いはカウンターの中にいる龍魔呂、ただ一人。
「……チッ」
龍魔呂は、煮込み鍋に埃が入らないよう、瞬時に蓋をした。
そして、エプロン姿のまま、カウンターから身を乗り出す。
逃げない。
避けない。
龍魔呂は、迫りくる巨大な樹木の槍に対し、素手の「左手」をかざしただけだった。
ガギィィィィィィン!!
金属音が響き渡る。
ポーンの必殺の突撃が、龍魔呂の掌一枚で完全に停止していた。
赤黒い闘気が障壁となり、衝撃を殺しきったのだ。
「……営業妨害だ。帰れ」
龍魔呂の声は低い。
だが、ポーンは引かない。さらに魔力を上げ、槍の内部にある杭(パイルバンカー)を射出しようと機構を唸らせる。
『警告。抵抗スルナラバ、全力デ――』
「うるせぇよ」
龍魔呂は右手で、空間に浮かべた電子ボードを弾いた。
スキル『地球ショッピング』発動。
購入したのは、一発4円の『パチンコ玉(11ミリ鋼球)』だ。
龍魔呂の右手中指にはめられた指輪のスロットに、銀色の鋼球がカチリと填まる。
「木っ端微塵になりやがれ」
親指で中指を弾く構え。
赤黒い闘気が指先に一点集中し、バチバチと放電のような音を立てる。
奥義・指弾(シダン)。
パチンッ。
乾いた音がした瞬間。
ドォォォォォォン!!!!
ポーンの右腕――巨大な槍そのものが、根元から弾け飛んだ。
鋼鉄以上の硬度を誇る「黒鉄樹」の装甲が、たった一発の鋼球によって粉砕されたのだ。
衝撃波が広場の空気を揺らし、ポーンの巨大な体が後方へ吹き飛んで転がる。
「……なっ!?」
遠くで見ていたニャングルが目を剥いた。
魔法ではない。火薬でもない。
ただの指先の力だけで、攻城兵器級の怪物を吹き飛ばしたのだ。
煙を上げて倒れるポーン。
龍魔呂は第二弾を装填し、その眉間に狙いを定めた。
「次はないぞ。薪(まき)になりてぇか?」
殺気。
ポーンの本能(生存プログラム)が、目の前の男を「敵対不可能」と判断する。
そして同時に、別のアルゴリズムが書き換わった。
――圧倒的武力。
――姫君ヲ守護スルニ足ル、王ノ器。
ギギギ……。
ポーンは軋む体を起こすと、残った左腕を胸に当て、龍魔呂に向かって恭しく頭を下げた。
それは、主(キング)に対する騎士の礼だった。
『……強サ、確認。貴殿ヲ、姫君ノ「伴侶」ト認定シマス』
「あぁ?(なんて?)」
「きゃ~! ポーンちゃん、分かってくれたんですね~! そうです、この方が私の旦那様(予定)ですぅ!」
ルナが歓声を上げてポーンに抱きつく。
ポーンの緑色の瞳が、どこか優しげに明滅した。
龍魔呂は吐き捨てるように言った。
「……誰が旦那だ。いいからそのデカブツをどかせ。邪魔だ」
「は~い! ポーンちゃん、小さくなれますか~?」
ポーンが光に包まれると、巨大な騎士の姿から、人間の執事のようなスタイリッシュな姿へと変形した。
頭部にネギのような飾り羽を持つ、執事モードだ。
「お初にお目にかかります、マスター龍魔呂。私の名はネギオ。以後、お見知りおきを」
「……喋れるのかよ」
「はい。先程は失礼しました。てっきり姫様が、また詐欺に遭って売り飛ばされたのかと」
「また?」
「ええ。先月も石ころを金に変えて、危うく奴隷商に……」
ネギオと名乗ったポーンは、片眼鏡(モノクル)を光らせ、慇懃無礼に毒を吐いた。
「とりあえず、壊した広場の修繕費と、営業補償の計算をしましょうか。……私の試算では、姫様のへそくりでは足りませんが」
「ええぇ~!?」
ルナが悲鳴を上げる。
龍魔呂は、こめかみを揉みながら、また一つ角砂糖を口に放り込んだ。
(……厄介事が、また増えたな)
だが、この執事(ネギオ)の計算能力は、使えるかもしれない。
龍魔呂の目が、値踏みするように光った。
「へい、おでん一丁」
「ありがとうございますぅ~! はい、どうぞ!」
すっかり日が落ちた城塞都市バルドの広場。
『鬼灯(ほおずき)』の屋台は、夜になっても盛況だった。
提灯の明かりの下、龍魔呂が黙々と料理を盛り、ルナが愛想を振りまきながら(たまに皿を割りそうになりながら)配膳をする。
チンピラ騒動も解決し、平和な商売が続く――はずだった。
ズズズズズ……。
不穏な地鳴りが、広場の石畳を震わせた。
客たちが手元の椀を抑えて顔を見合わせる。
「なんだ? 地震か?」
「いや、なんか近づいてくるぞ……!」
ドォォォォン!!
広場の入り口にあった石造りのアーチが、粉々に砕け散った。
舞い上がる土煙。
その向こうから現れたのは、全高三メートルを超える巨大な影だった。
下半身は馬のように逞しく、上半身は騎士の如き重厚なフォルム。
しかし、それは肉ではなく、鋼鉄のように硬化した「樹木」で構成されていた。
エルフの守護者、ポーン――その戦闘形態の一つ、『ナイト(騎士型)』である。
「うわぁぁぁ! 魔物だぁぁぁ!」
「逃げろぉぉぉ!」
客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
せっかくの稼ぎ時が台無しだ。
ポーンの頭部にある緑色の瞳(魔石)が、ギロリと屋台を捉えた。
そして、甲斐甲斐しく働くルナの姿を認識すると、その瞳が赤く明滅する。
『――姫君ヲ発見。強制労働ノ疑イアリ。対象、排除スル』
機械的な念話が周囲に響く。
ポーンにとって、高貴なエルフの姫が、薄汚い屋台で大根を運んでいる姿は「奴隷労働」以外の何物でもなかった。
「ああっ! ポーンちゃん! 違うの、私は楽しくて……!」
ルナが止めようと声を上げるが、遅い。
ポーンは右腕を変形させた。
蔦が絡み合い、巨大な円錐状の「騎兵槍(ランス)」が形成される。その先端には、圧縮された空気と魔力が渦巻いていた。
『誘拐犯、抹殺』
ズドンッ!!
ポーンが加速した。
ケンタウロス形状の脚力が生む突進力は、戦車すら跳ね飛ばす威力がある。
狙いはカウンターの中にいる龍魔呂、ただ一人。
「……チッ」
龍魔呂は、煮込み鍋に埃が入らないよう、瞬時に蓋をした。
そして、エプロン姿のまま、カウンターから身を乗り出す。
逃げない。
避けない。
龍魔呂は、迫りくる巨大な樹木の槍に対し、素手の「左手」をかざしただけだった。
ガギィィィィィィン!!
金属音が響き渡る。
ポーンの必殺の突撃が、龍魔呂の掌一枚で完全に停止していた。
赤黒い闘気が障壁となり、衝撃を殺しきったのだ。
「……営業妨害だ。帰れ」
龍魔呂の声は低い。
だが、ポーンは引かない。さらに魔力を上げ、槍の内部にある杭(パイルバンカー)を射出しようと機構を唸らせる。
『警告。抵抗スルナラバ、全力デ――』
「うるせぇよ」
龍魔呂は右手で、空間に浮かべた電子ボードを弾いた。
スキル『地球ショッピング』発動。
購入したのは、一発4円の『パチンコ玉(11ミリ鋼球)』だ。
龍魔呂の右手中指にはめられた指輪のスロットに、銀色の鋼球がカチリと填まる。
「木っ端微塵になりやがれ」
親指で中指を弾く構え。
赤黒い闘気が指先に一点集中し、バチバチと放電のような音を立てる。
奥義・指弾(シダン)。
パチンッ。
乾いた音がした瞬間。
ドォォォォォォン!!!!
ポーンの右腕――巨大な槍そのものが、根元から弾け飛んだ。
鋼鉄以上の硬度を誇る「黒鉄樹」の装甲が、たった一発の鋼球によって粉砕されたのだ。
衝撃波が広場の空気を揺らし、ポーンの巨大な体が後方へ吹き飛んで転がる。
「……なっ!?」
遠くで見ていたニャングルが目を剥いた。
魔法ではない。火薬でもない。
ただの指先の力だけで、攻城兵器級の怪物を吹き飛ばしたのだ。
煙を上げて倒れるポーン。
龍魔呂は第二弾を装填し、その眉間に狙いを定めた。
「次はないぞ。薪(まき)になりてぇか?」
殺気。
ポーンの本能(生存プログラム)が、目の前の男を「敵対不可能」と判断する。
そして同時に、別のアルゴリズムが書き換わった。
――圧倒的武力。
――姫君ヲ守護スルニ足ル、王ノ器。
ギギギ……。
ポーンは軋む体を起こすと、残った左腕を胸に当て、龍魔呂に向かって恭しく頭を下げた。
それは、主(キング)に対する騎士の礼だった。
『……強サ、確認。貴殿ヲ、姫君ノ「伴侶」ト認定シマス』
「あぁ?(なんて?)」
「きゃ~! ポーンちゃん、分かってくれたんですね~! そうです、この方が私の旦那様(予定)ですぅ!」
ルナが歓声を上げてポーンに抱きつく。
ポーンの緑色の瞳が、どこか優しげに明滅した。
龍魔呂は吐き捨てるように言った。
「……誰が旦那だ。いいからそのデカブツをどかせ。邪魔だ」
「は~い! ポーンちゃん、小さくなれますか~?」
ポーンが光に包まれると、巨大な騎士の姿から、人間の執事のようなスタイリッシュな姿へと変形した。
頭部にネギのような飾り羽を持つ、執事モードだ。
「お初にお目にかかります、マスター龍魔呂。私の名はネギオ。以後、お見知りおきを」
「……喋れるのかよ」
「はい。先程は失礼しました。てっきり姫様が、また詐欺に遭って売り飛ばされたのかと」
「また?」
「ええ。先月も石ころを金に変えて、危うく奴隷商に……」
ネギオと名乗ったポーンは、片眼鏡(モノクル)を光らせ、慇懃無礼に毒を吐いた。
「とりあえず、壊した広場の修繕費と、営業補償の計算をしましょうか。……私の試算では、姫様のへそくりでは足りませんが」
「ええぇ~!?」
ルナが悲鳴を上げる。
龍魔呂は、こめかみを揉みながら、また一つ角砂糖を口に放り込んだ。
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