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第二章 神、魔王、竜王の飲み会
EP 8
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二日酔いの朝と、ルナの朝食
チュンチュン……。
小鳥のさえずりが、城塞都市バルドの朝を告げる。
爽やかな朝日が、小料理屋『鬼灯』の隙間風だらけの引き戸から差し込んでいた。
だが、店内の光景は爽やかさとは程遠かった。
そこは、神話級の地獄絵図(カオス)と化していたからだ。
「んごぉ……むにゃ……」
床に敷かれた布団の上で、女神ルチアナが大の字になって寝ている。神々しいオーラは消え失せ、浴衣(龍魔呂のジャージ)がはだけて、へそが出ている。
その腹の上に、魔王ラスティアが枕代わりに乗っかっていた。眼鏡はズレ、よだれを垂らしながら寝言で数式を呟いている。
「……z = x^2 + y^2……マヨネーズ……むにゃ」
神と魔の融合。本来なら対消滅を起こして世界が吹き飛ぶ配置だが、二日酔いという共通の敵の前では休戦状態らしい。
そして、竜王シルヴィアは――。
「スー……スー……」
なぜか、天井の梁(はり)に尻尾だけでぶら下がり、逆さまになって熟睡していた。
コウモリか。あるいはドラゴンの習性か。重力が仕事を放棄している。
そんな惨状の中、厨房から軽快な包丁の音(リズム感ゼロ)が響いていた。
「ふふ~ん♪ 龍魔呂さんのために~♪」
エルフ王女、ルナである。
彼女だけはエルフ特有の早起きスキルで目覚め、勝手に厨房に立っていた。
身につけているのは、龍魔呂の予備の「黒エプロン」。サイズが大きすぎて、まるで彼シャツならぬ彼エプロン状態だ。
「日本の朝といえば『お味噌汁』ですよねぇ! 龍魔呂さんに『毎日味噌汁を作ってくれ』と言わせるための予行演習ですぅ!」
ルナは鼻歌交じりに、鍋をかき混ぜた。
鍋の中では、とんでもないものが煮込まれていた。
具材は、『世界樹の葉(生)』と『マンドラゴラの根(叫び声付き)』。
そこに、見よう見まねで入れた『地球の味噌』が溶け込んでいる。
ボコッ、ボコッ……。
紫色の泡が弾け、毒沼のような瘴気が立ち上る。
味噌の香ばしさと、未知の植物臭が混ざり合い、生物兵器級の悪臭を放ち始めていた。
「隠し味はぁ……私の愛情(魔力)注入ッ! えいっ♡」
ルナが杖を振ると、鍋の中身がカッと発光し、ドロドロのゲル状物質へと変貌した。
「できましたぁ! 名付けて『エルフ式・覚醒味噌スープ』!」
ルナがお玉ですくい上げようとした、その時。
ガシッ。
背後から伸びた手が、ルナの手首を掴んだ。
「ひゃっ!?」
「……朝からテロ活動か?」
寝癖のついた頭で、不機嫌オーラ全開の龍魔呂が立っていた。
彼は鍋の中身を一瞥し、眉間を指で揉んだ。
「なんだこの毒物は。ダンジョンに湧くスライムの方がまだ食えそうだぞ」
「ひ、ひどいですぅ! 龍魔呂さんのために早起きして作ったのにぃ! 栄養満点ですよ?」
「栄養がありすぎて死ぬんだよ。捨てろ」
龍魔呂は容赦なく鍋を取り上げると、ネギオを呼び出した。
「ネギオ。これを処理しろ。森の奥深くに埋めろ。絶対に水源には流すなよ」
「承知いたしました。……これは、土地が汚染されるレベルですね。厳重に封印します」
ネギオが危険物処理班のような手つきで鍋を回収していく。
ルナは「あぁ~! 私の愛妻料理がぁ~!」と泣き崩れた。
龍魔呂はため息をつき、ポケットから角砂糖を取り出して口へ放り込む。
ガリッ。
糖分が脳に行き渡り、ようやく意識が覚醒してくる。
そして、彼は足元に転がる「粗大ゴミ」たちを見下ろした。
「……おい。起きろ」
返事がない。ただの屍のようだ。
龍魔呂は無言で、ルチアナ(女神)の横っ腹を足のつま先で小突いた。
「うにゃ……あと500年……」
「今すぐ起きろ。掃除ができねぇだろ」
さらに、ラスティア(魔王)の眼鏡を指で弾く。
「んっ……エラー……再起動中……」
最後に、天井からぶら下がっているシルヴィア(竜王)に向かって、手近にあった布巾を投げつけた。
バシッ。
顔面に布巾が直撃する。
「……ッ!」
シルヴィアがビクリと反応し、天井から落下して華麗に着地……することなく、顔面から床に激突した。
ドサッ!
「い、いったぁ~……」
「開店準備だ。邪魔だからどけ」
龍魔呂が冷たく言い放つ。
すると、床に這いつくばったシルヴィアが、うっとりとした表情で顔を上げた。
「んんっ……♡ 朝から冷たいのね、龍魔呂。……その足で、もう少し踏んでくれてもいいのよ?」
ドM竜王、健在である。
龍魔呂は心底嫌そうな顔をした。
「……チッ。どいつもこいつも」
龍魔呂は彼女たちを無視して厨房に入り、また板に向かった。
トントントン……。
リズミカルな包丁の音が響き渡る。
数分後。
ゾンビのように起き上がった三人の美女たちの前に、湯気の立つお椀が置かれた。
「……飲め」
それは、透き通るような黄金色のスープ。
『地球ショッピング』で購入したインスタントではなく、龍魔呂が一から出汁をとった『かきたま汁』だ。
ふわふわの卵と、刻んだネギ、そして生姜が少し効かせてある。
「……いい匂い」
「胃に優しそう……」
三人は震える手でお椀を持ち上げ、スープを啜った。
「――はぁぁぁ……♡」
ため息が重なる。
二日酔いで荒れた胃壁に、優しい出汁の旨味が染み渡っていく。
生姜の効果で、身体がポカポカと温まる。
「生き返るわ……。これが神の飲み物ね……」
「分析不要……。ただただ、身体が求めている味だわ」
「美味しいぃ……。龍魔呂、結婚してぇ……」
三人の美女が、幸せそうに微笑む。
その横で、ルナだけが「ずるいですぅ! 私も飲みたいですぅ!」と地団駄を踏んでいた。
「お前はさっきの毒物の残り香でも嗅いでろ」
「そんな殺生なぁ~!」
結局、龍魔呂はルナの分も用意してやった(少し大盛りで)。
朝日の中で、最強の美女たちが汁物を啜る平和な時間。
龍魔呂は、その光景を見ながら、また一つ角砂糖を口にした。
(……まあ、悪くはねぇか)
だが、この平穏も長くは続かない。
今日は「アレ」が届く日だからだ。
龍魔呂はニヤリと笑い、電子ボードの配送状況を確認した。
『配送状況:配達中 まもなく到着します』
チュンチュン……。
小鳥のさえずりが、城塞都市バルドの朝を告げる。
爽やかな朝日が、小料理屋『鬼灯』の隙間風だらけの引き戸から差し込んでいた。
だが、店内の光景は爽やかさとは程遠かった。
そこは、神話級の地獄絵図(カオス)と化していたからだ。
「んごぉ……むにゃ……」
床に敷かれた布団の上で、女神ルチアナが大の字になって寝ている。神々しいオーラは消え失せ、浴衣(龍魔呂のジャージ)がはだけて、へそが出ている。
その腹の上に、魔王ラスティアが枕代わりに乗っかっていた。眼鏡はズレ、よだれを垂らしながら寝言で数式を呟いている。
「……z = x^2 + y^2……マヨネーズ……むにゃ」
神と魔の融合。本来なら対消滅を起こして世界が吹き飛ぶ配置だが、二日酔いという共通の敵の前では休戦状態らしい。
そして、竜王シルヴィアは――。
「スー……スー……」
なぜか、天井の梁(はり)に尻尾だけでぶら下がり、逆さまになって熟睡していた。
コウモリか。あるいはドラゴンの習性か。重力が仕事を放棄している。
そんな惨状の中、厨房から軽快な包丁の音(リズム感ゼロ)が響いていた。
「ふふ~ん♪ 龍魔呂さんのために~♪」
エルフ王女、ルナである。
彼女だけはエルフ特有の早起きスキルで目覚め、勝手に厨房に立っていた。
身につけているのは、龍魔呂の予備の「黒エプロン」。サイズが大きすぎて、まるで彼シャツならぬ彼エプロン状態だ。
「日本の朝といえば『お味噌汁』ですよねぇ! 龍魔呂さんに『毎日味噌汁を作ってくれ』と言わせるための予行演習ですぅ!」
ルナは鼻歌交じりに、鍋をかき混ぜた。
鍋の中では、とんでもないものが煮込まれていた。
具材は、『世界樹の葉(生)』と『マンドラゴラの根(叫び声付き)』。
そこに、見よう見まねで入れた『地球の味噌』が溶け込んでいる。
ボコッ、ボコッ……。
紫色の泡が弾け、毒沼のような瘴気が立ち上る。
味噌の香ばしさと、未知の植物臭が混ざり合い、生物兵器級の悪臭を放ち始めていた。
「隠し味はぁ……私の愛情(魔力)注入ッ! えいっ♡」
ルナが杖を振ると、鍋の中身がカッと発光し、ドロドロのゲル状物質へと変貌した。
「できましたぁ! 名付けて『エルフ式・覚醒味噌スープ』!」
ルナがお玉ですくい上げようとした、その時。
ガシッ。
背後から伸びた手が、ルナの手首を掴んだ。
「ひゃっ!?」
「……朝からテロ活動か?」
寝癖のついた頭で、不機嫌オーラ全開の龍魔呂が立っていた。
彼は鍋の中身を一瞥し、眉間を指で揉んだ。
「なんだこの毒物は。ダンジョンに湧くスライムの方がまだ食えそうだぞ」
「ひ、ひどいですぅ! 龍魔呂さんのために早起きして作ったのにぃ! 栄養満点ですよ?」
「栄養がありすぎて死ぬんだよ。捨てろ」
龍魔呂は容赦なく鍋を取り上げると、ネギオを呼び出した。
「ネギオ。これを処理しろ。森の奥深くに埋めろ。絶対に水源には流すなよ」
「承知いたしました。……これは、土地が汚染されるレベルですね。厳重に封印します」
ネギオが危険物処理班のような手つきで鍋を回収していく。
ルナは「あぁ~! 私の愛妻料理がぁ~!」と泣き崩れた。
龍魔呂はため息をつき、ポケットから角砂糖を取り出して口へ放り込む。
ガリッ。
糖分が脳に行き渡り、ようやく意識が覚醒してくる。
そして、彼は足元に転がる「粗大ゴミ」たちを見下ろした。
「……おい。起きろ」
返事がない。ただの屍のようだ。
龍魔呂は無言で、ルチアナ(女神)の横っ腹を足のつま先で小突いた。
「うにゃ……あと500年……」
「今すぐ起きろ。掃除ができねぇだろ」
さらに、ラスティア(魔王)の眼鏡を指で弾く。
「んっ……エラー……再起動中……」
最後に、天井からぶら下がっているシルヴィア(竜王)に向かって、手近にあった布巾を投げつけた。
バシッ。
顔面に布巾が直撃する。
「……ッ!」
シルヴィアがビクリと反応し、天井から落下して華麗に着地……することなく、顔面から床に激突した。
ドサッ!
「い、いったぁ~……」
「開店準備だ。邪魔だからどけ」
龍魔呂が冷たく言い放つ。
すると、床に這いつくばったシルヴィアが、うっとりとした表情で顔を上げた。
「んんっ……♡ 朝から冷たいのね、龍魔呂。……その足で、もう少し踏んでくれてもいいのよ?」
ドM竜王、健在である。
龍魔呂は心底嫌そうな顔をした。
「……チッ。どいつもこいつも」
龍魔呂は彼女たちを無視して厨房に入り、また板に向かった。
トントントン……。
リズミカルな包丁の音が響き渡る。
数分後。
ゾンビのように起き上がった三人の美女たちの前に、湯気の立つお椀が置かれた。
「……飲め」
それは、透き通るような黄金色のスープ。
『地球ショッピング』で購入したインスタントではなく、龍魔呂が一から出汁をとった『かきたま汁』だ。
ふわふわの卵と、刻んだネギ、そして生姜が少し効かせてある。
「……いい匂い」
「胃に優しそう……」
三人は震える手でお椀を持ち上げ、スープを啜った。
「――はぁぁぁ……♡」
ため息が重なる。
二日酔いで荒れた胃壁に、優しい出汁の旨味が染み渡っていく。
生姜の効果で、身体がポカポカと温まる。
「生き返るわ……。これが神の飲み物ね……」
「分析不要……。ただただ、身体が求めている味だわ」
「美味しいぃ……。龍魔呂、結婚してぇ……」
三人の美女が、幸せそうに微笑む。
その横で、ルナだけが「ずるいですぅ! 私も飲みたいですぅ!」と地団駄を踏んでいた。
「お前はさっきの毒物の残り香でも嗅いでろ」
「そんな殺生なぁ~!」
結局、龍魔呂はルナの分も用意してやった(少し大盛りで)。
朝日の中で、最強の美女たちが汁物を啜る平和な時間。
龍魔呂は、その光景を見ながら、また一つ角砂糖を口にした。
(……まあ、悪くはねぇか)
だが、この平穏も長くは続かない。
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