​「何か寄越せ」と女神を壁ドンしたら、最強通販スキルと婚姻届を渡された。元処刑人の俺は、異世界で小料理屋を営みたい

月神世一

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第二章 神、魔王、竜王の飲み会

EP 9

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『地球ショッピング』の新機能
 その夜、小料理屋『鬼灯』のカウンターには、不穏なほどの期待感が満ちていた。
「ねぇ龍魔呂、さっき届いたあの巨大な銀色の箱……何なの?」
 女神ルチアナが、身を乗り出して尋ねる。
 厨房の奥に鎮座したのは、龍魔呂が『地球ショッピング』の売上ポイントを注ぎ込んで購入した、二つの魔導機器(家電)。
 『業務用全自動製氷機』と、『生ビールサーバー(2口タイプ)』である。
「……新兵器だ」
 龍魔呂は不敵に笑うと、サーバーのレバーに手を掛けた。
 セットされた19リットルのステンレス樽(キリン一番搾り)が、冷却管を通って適温に冷やされている。
「この世界のエール(酒)は、ぬるくて炭酸が抜けてるのがデフォだろ? だが、俺の故郷じゃ違う」
 龍魔呂は、キンキンに冷やしたガラスのジョッキを取り出した。
 レバーを手前に倒す。
 シュコーーーッ……!
 琥珀色の液体が勢いよく注がれ、グラスの内側に結露が走る。
 7分目まで注いだところで、レバーを奥に押し込む。
 今度はクリーミーな白い泡が、液面を蓋するように優しく乗せられた。
 黄金比、7対3。
「……飲んでみな」
 ドンッ。
 三人の美女の前に置かれたのは、霜が降りるほど冷えた『生ビール』。
 中世レベルの文明を持つこの世界において、氷魔法を使わずにここまでの「冷却」を実現することは不可能に近い。
「こ、こんなに冷たいの……? グラスから冷気が漂ってるわ」
 ルチアナが恐る恐るジョッキを手に取る。
 重い。そして冷たい。
 口をつけ、泡を割り、黄金の液体を流し込む。
 ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ……ッ!
 喉越し。
 それは、喉を駆け抜ける爽快な衝撃。
 キレのある苦味と、麦の旨味。そして何より、強烈な冷たさが脳天を突き抜ける。
「――っかぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
 ルチアナがオッサンのような声を上げてカウンターを叩いた。
「な、何これぇぇぇ!? キンキンに冷えてやがるぅぅ! 悪魔的だわぁぁ!」
「ちょ、私にも寄越しなさいよ!」
 竜王シルヴィアがジョッキを奪い取り、一気に煽る。
「んんっ!? 口の中が……痛い!? パチパチするわ!」
 炭酸(ガス)の刺激。
 この世界の発泡酒は微炭酸が主流のため、工業的に圧縮された強炭酸は未知の体験だ。
「この『シュワシュワ』……! 喉が焼けるような、でも心地いい刺激……! 癖になるわぁ♡ もっと! もっとシュワシュワさせてぇ!」
 シルヴィアは瞳孔を開き、中毒者のような顔でジョッキを空にした。
 最後に、魔王ラスティア。
「……興味深いわ。この白い泡……液体を守る蓋の役割を果たしつつ、口当たりをマイルドにしているのね」
 ブツブツ言いながら一口飲むと、彼女もまた目を見開いた。
「冷却魔術の術式が見当たらないのに、氷点下ギリギリまで冷やされている……。これが『科学』の力……? 悔しいけど、魔界のどのお酒よりも美味しいわ……!」
「おかわりぃぃぃ!」
「私も!」
「ジョッキじゃ足りないわ、樽ごと持ってきて!」
 狂乱の宴が始まった。
 龍魔呂はサーバーのレバーを操作し続けるマシーンと化した。
 注いでも注いでも、秒で空になる。
 最強の美女たちは「酒豪」というレベルを超え、「ザル」いや「枠のない窓」だった。
「……おい、ペース早すぎだ。在庫が尽きるぞ」
 龍魔呂の額に汗が滲む。
 『地球ショッピング』は便利だが、送料(次元関税)がかかる。
 ビール樽は重いため、送料も馬鹿にならない。このペースで飲まれたら、ニャングルが稼いできた金貨があっという間に溶ける。
「ネギオ! 原価計算はどうなってる!」
「報告しますマスター! 現在の消費ペースは分速1.5リットル! 客単価は高いですが、利益率が圧迫されています! このままでは『飲み倒れ』による赤字転落の危機です!」
 ネギオが電卓(高速モード)を叩きながら悲鳴を上げる。
 このままでは店が潰れる。
 だが、酒を止めればこのモンスターたちが暴れだすのは明白だ。
 龍魔呂は角砂糖を噛み砕き、決断した。
「……プラン変更だ」
 龍魔呂は厨房の奥から一枚の木の板を取り出し、筆で文字を書いた。
 そして、カウンターにドォォン!と掲げる。
【飲み放題(90分制) 金貨1枚】
※グラス交換制
※吐いたら倍額
※暴れたら即退店(物理)
「……これだ」
 飲み放題システム。
 それは、店側が時間を区切ることで回転率を管理し、客側も定額で安心して飲める(という錯覚を与える)魔法の契約。
 金貨1枚(1万円)は高いが、この世界の相場と彼女たちの飲む量を考えれば格安だ。
「飲み放題……? つまり、時間内ならどれだけ飲んでもいいのね!?」
「望むところよ! 私の肝臓と貴方の在庫、どっちが先に悲鳴を上げるか勝負よ!」
「90分……時間操作(リワインド)は……禁止よね? ちぇっ」
 三人は目を輝かせ、金貨を叩きつけた。
「契約成立だ。……死ぬ気で飲め」
          ◇
 戦場のようなカウンターの隅で、一人寂しそうにしている人物がいた。
 ルナである。
「むぅ……皆さんばっかりズルいですぅ。私もその『シュワシュワ』したいですぅ」
 彼女は未成年のため(エルフ年齢では20歳は子供)、酒は禁止されている。
 龍魔呂はサーバーの操作をしながら、冷蔵庫から一本の瓶を取り出した。
「ほらよ」
 ドン、とルナの前に置かれたのは、ガラス玉で蓋がされた奇妙な瓶。
 『ラムネ』だ。
「これは……?」
「子供用のシュワシュワだ。……開けられるか?」
 龍魔呂が挑発的に言うと、ルナは頬を膨らませた。
「馬鹿にしないでください! ハイエルフの知能を甘く見ないでくださいよ!」
 ルナは瓶を振り回し、蓋を噛み、杖で叩こうとした。
 開かない。
 ガラス玉が微動だにしない。
「うぅ……これ、封印魔法がかかってますぅ! ネギオ、解析して!」
「姫様、これは物理ギミックです。構造を理解してください」
 悪戦苦闘すること5分。
 ルナが涙目で龍魔呂を見上げた。
「……開けてください、旦那様」
「……チッ。手のかかるガキだ」
 龍魔呂は付属のプラスチックの栓を手に取り、瓶口にセットした。
「よく見てろ。力じゃねぇ、勢いだ」
 ポンッ!!
 小気味よい音と共に、ビー玉が瓶の中に落ちる。
 シュワァァ……と泡が立ち上る。
「わぁ……! 魔法みたいです!」
「飲んでみろ」
 ルナは瓶に口をつけ、一口飲んだ。
 甘いソーダの味と、炭酸の刺激。
「んんっ! パチパチしますぅ! 美味しいぃ~!」
 ルナが満面の笑みを浮かべる。
 龍魔呂は無意識に、その頭に手を伸ばし――ポンポン、と二回叩いた。
「……こぼすなよ」
 それだけ言って、すぐにサーバー操作に戻る。
 だが、ルナにとってはそれで十分だった。
「はひぃ……♡ やっぱり、私は特別扱いですぅ……」
 ルナはラムネの瓶を抱きしめ、酔っ払いたちに向かって勝利のピースサインを送った。
 なお、酔っ払いたちはビールの海に溺れていて気づいていなかった。
 こうして『鬼灯』の夜は、シュワシュワとした泡と共に更けていく。
 だが、明日は10話ごとの節目。
 そろそろ、締めの「反省会」が必要な時期だった。
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