真!異世界転生×ユニークスキル 【ネット通販】で無双する!?

月神世一

文字の大きさ
28 / 48
1歳児の勇者

EP 9

しおりを挟む
商人の矜持と魔法のポーチ
玄関先での攻防。
オニヒメが、いつものように乳母車に「センチネル」をセットしようとした、その瞬間。
リアン(1歳)の脳内で緊急警報が鳴り響いた。
(まずい! 絶対にまずい! もしあの猫のおっさん(ニャングル)が、昨夜の「人形様」と、この「センチネル」が同一人物(?)だと気づいたら……!)
(最悪の場合、「この人形から金貨が出てきたんです!」なんて言われたら、俺のへそくり事情までバレる!)
リアンは決断した。
(……すまん、センチネル!)
「うぅ~……だぁっ!!」
リアンは、短い腕を精一杯振りかぶり、相棒であるセンチネルを、玄関の床へと豪快に投げ捨てた。
カコン、コロコロ……。
哀れな胡桃割り人形は、寂しげな音を立てて転がった。
「まぁ! リアンちゃん、どうしたの?」
マーサが目を丸くして駆け寄る。
「あんなに、この人形を気に入ってたのに。投げ捨てるなんて」
マーサが拾おうとするのを、リアンは全身で拒否した。
「だぁ! だぁ!!」(持ってくな! 置いてけ!)
オニヒメが、冷静にその様子を観察し、結論を下した。
「……今日はご機嫌斜めですね。もしかすると、人形の『顔』が今日は怖く見えるのかもしれません。子供にはよくあることです」
オニヒメはセンチネルを拾い上げると、下駄箱の上にそっと置いた。
「この人形とのお散歩は、別の機会にしましょう」
(……ふぅ。ナイスだ、オニヒメ)
リアンは内心で安堵の息をついた。これで最大の証拠品は隠滅できた。
ゴルド商会 ルナハン支店
店内に足を踏み入れると、そこは昨夜のゴブリン襲撃などなかったかのような活気に満ちていた。
「へい! いらっしゃい! ……おや?」
帳場(ちょうば)の奥から、パリッとした服を着た猫耳族の男が飛び出してきた。
「これはこれは、マーサ様じゃおまへんか! 毎度おおきに!」
ニャングルだ。昨夜の涙目の敗走者とは思えない、元気な商人の顔だ。
「こんにちは、ニャングルさん」
マーサが心配そうに声をかける。
「この度は……その、怖い思いをしたと伺って。お怪我はありませんか?」
「いやあ! たいした事おまへん! 商人やってたら、命のやり取りの一回や二回、スパイスみたいなもんでっせ! ガハハ!」
ニャングルは豪快に笑い飛ばしたが、その耳は少しピクピクと震えており、やはり強がりが含まれているようだった。
「ご無事で何よりです。……少ないですが、これは私達の気持ちです」
マーサが目配せすると、オニヒメが懐から「金貨の入った小袋」を取り出し、ニャングルに渡そうとした。
お見舞い金だ。
しかし。
金に目がないはずのニャングルの目が、鋭く光った。
「……あきまへん」
彼は、オニヒメの手を、扇子(せんす)でピシャリと制した。
「そ、そんな。止めて下さい。ワテは商人でっせ?」
ニャングルは、首から下げた金の算盤をジャラリと鳴らした。
「何の物も売らんと、金だけ受け取るなんて……そんなもん、商人としては『死に金』ですわ! 以ての外です!」
「でも……」
「そないな気ぃ遣わんといて下さい。その代わり! 何か店の物を買うて行って下さい! それが一番の励みになりまんねん!」
ニャングルは、ニカッと笑った。
(……カッコいいじゃねぇか、おっさん)
リアンは乳母車の中から、少しだけこの守銭奴(しゅせんど)を見直していた。
「そうね……。じゃあ、何かあるかしら」
マーサが店内を見回す。
すかさず、ニャングルが営業モードに入る。
「へい! ほな、この『小型魔法ポーチ』なんてどうでっか!?」
彼が取り出したのは、掌(てのひら)サイズのシンプルな革袋だった。
「見た目は小さいけど、なんと『ロックバイソン』が丸ごと3体は入りまっせ! 容量と品質は保証付き! 今なら勉強しまして、金貨5枚でっせ!」
(……ッ!)
リアンの目が釘付けになった。
(金貨5枚……約5万円か。安い! しかもロックバイソン3体分だと?)
リアンの「ネット通販」は、物を取り出すことはできても、「しまう」機能はない。
現在、センチネルや弓丸、そして増えていく武器や道具は、ベッドの下や屋根裏に物理的に隠しているだけだ。
(あの魔法ポーチがあれば……俺のマグナギア部隊を全て収納して、いつでも持ち運べる! 隠し場所にも困らない!)
リアンは、喉から手が出るほどそれが欲しかった。
(母ちゃん! 買ってくれ! それがあれば、俺の二重生活が完璧になる!)
しかし、現実は非情だった。
「うーん……。でも、魔法ポーチなら、冒険者時代のがあるし……」
マーサは申し訳なさそうに断った。
(ガーン……! そうだよね、元A級だもんね、持ってるよね……!)
「そうでっか! 残念!」
ニャングルは一瞬も落ち込まず、次の一手を繰り出す。
「ほな、この『トライバードの団子』なんかどうでっしゃろ! 今朝仕入れたばっかり! 新鮮で脂も乗ってて、激ウマでっせ!」
「あら」
これにはオニヒメが反応した。
「美味しそうですね。今晩のおかずに良いかもしれません」
「決まり! 毎度あり!」
結局、マーサたちはトライバードの肉団子を大量に買い込み、店を後にした。
帰り道、乳母車の中でリアンは揺られながら考えていた。
(……魔法ポーチ、金貨5枚か)
彼は、脳内のG残高(昨夜の白金貨のおかげで110万以上ある)を思い浮かべた。
(……買える。余裕で買える。だが、どうやってニャングルから買う? 赤ん坊が一人で店には行けないし……)
(いや、待てよ。ネット通販で『魔法ポーチ』は買えないのか?)
(……そうか。あれは『地球の商品』限定だ。魔法のアイテムは売ってない)
リアンは、遠ざかるゴルド商会を振り返った。
(いつか……必ず手に入れてやる。あの魔法ポーチを。そのためには、もっと稼いで、そして……自由に動けるようになるしかない)
新たな目標(物欲)を胸に、リアンは夕食のトライバード団子を楽しみに家路につくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...