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EP 6
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歪んだ「勝利」
1942年6月6日。柱島泊地。
「赤城」が、傷一つない姿で帰港した。
ミッドウェー海戦の「勝利」に、呉の軍港は沸き返っていた。
だが、南雲機動部隊の高級将校たちの顔は、一様に暗く、困惑していた。
連合艦隊司令部・作戦室。
山本五十六と宇垣纏(うがき まとむ)の前に、南雲忠一が、硬直した表情で立っていた。
「…報告は以上であります」
南雲は、かろうじて声を絞り出した。
「我が艦隊の損害、零戦2機(偵察時の自爆)。…敵空母3隻、轟沈。巡洋艦2隻、大破。敵航空機、推定150機以上、壊滅。…全て、我が艦隊の交戦以前に、です」
宇垣は、その報告書を読みながら、未だに信じられないという顔でゴクリと唾を飲んだ。
「南雲君。君は…『アマテラス』の戦闘を、目撃したのか?」
「…いいえ。我々はただ、水平線の彼方で、敵艦隊が『燃え尽きる』のを見ただけです。まるで…八岐大蛇(やまたのおろち)に焼き尽くされたかのように」
南雲は続けた。
「司令部(こちら)は、我々に『囮(おとり)』になれ、と仰った。一体、何のために! あの『御前艦隊』とやらは、何者なのですか! あれは、日本の兵器ではありませぬ!」
南雲の目には、得体の知れない力への「恐怖」が宿っていた。
山本五十六は、静かに立ち上がった。
「南雲君。君は『勝利』した。それで十分だ。詳細は、軍令部の管轄となる」
彼は、傍受した米軍の平文通信の電文をテーブルに置いた。
それは、米太平洋艦隊司令部が発信した、混乱を極める暗号文だった。
『…unknown bogey. speed mach 1.5. no visual... fleet destroyed by unseen weapon...(国籍不明機、速度マッハ1.5。視認不能…見えざる兵器により艦隊壊滅…)』
「『アマテラス』は、陛下の『切り札』だ。その存在は、今この瞬間より、連合艦隊の最高機密とする」
山本は、冷徹に言い渡した。
「南雲君。君の任務は、この『大勝利』を、陸軍と国民に喧伝(けんでん)することだ。…よいな」
「……はっ」
南雲は、それ以上何も言えず、敬礼し退室した。
宇垣が、興奮した面持ちで山本に詰め寄った。
「長官! これで米国は戦意を喪失します! いよいよ、ハワイ攻略、いや、本土上陸も…!」
「宇垣」
山本は、その狂熱を冷たく遮った。
「君は、まだ分からんか」
山本は、窓の外に浮かぶ、無傷の「赤城」を見た。
「我々は、『勝利』などしていない。ただ、『アマテラス』…いや、坂上1佐に『救われた』だけだ。我々海軍は、あのたった一日で、彼らがいなければ『負けていた』戦争に、無理やり『勝たされた』のだよ」
「長官…」
「坂上1佐からの入電だ」
山本は、菊池(きくち)が「大和」に設置していった、不可解な黒い箱(暗号化短波通信機)が打ち出した電文を広げた。
『ワレ、ミッドウェー作戦完了。燃料補給ノ要アリ。「ましゅう」ノ再精製能力、限界近シ。
ナオ、米本土ノ「戦意」ヲ完全ニ砕ク為、フェーズ2ニ移行ス。目標、パナマ運河―――』
「パナマ…だと!?」宇垣が叫んだ。「太平洋の反対側だぞ! 無茶だ!」
「彼らにとって、『距離』は問題ではないのだよ、宇垣君」
山本は、重い体を引きずるように、首相官邸へ向かう準備を始めた。
「我々の仕事は、ここからだ。陸軍(・・)を抑え、この『歪んだ勝利』を『本当の和平』に繋ぎ止める」
オペレーション・パナマ
ミッドウェー海戦から7日後。
日付変更線を遥かに越えた、東部太平洋。
赤道直下の灼熱の海域を、「出雲艦隊」は進んでいた。
補給艦「ましゅう」の甲板は、この世の物とは思えない化学工場の様相を呈していた。
「ダメです、副長! タービンの回転数が上がらない! 粗悪重油の粘度が高すぎます!」
「触媒の温度を上げろ! 菊池(きくち)班は、JP-5(航空燃料)の合成(シンセサイズ)を急がせろ! 三島(みしま)機(F-35B)の『往復分』をひねり出すんだ!」
菊池玲奈2佐は、防護服とマスクで顔を覆いながら、自らバルブを操作していた。
彼女のチームは、昭和の粗悪燃料を、令和のガスタービンエンジンとジェットエンジンで「燃やせる」レベルにまで「再精製」するという、神業的な作業を不眠不休で続けていた。
近江(おうみ)艦長の「ましゅう」は、もはや補給艦ではなく、洋上の「化学プライント」と化していた。
「いずも」CIC。
坂上は、痩せた頬でコーヒーキャンディを舐めていた。
「黒木(くろき)2佐。状況は」
潜水艦「たいげい」は、すでにパナマ運河のカリブ海側…大西洋側に到達していた。
リチウムイオン電池の無限とも思える潜航能力で、米軍の対潜網を無音ですり抜けたのだ。
『こちら「たいげい」。ガトゥン閘門(こうもん)に接近。周囲の監視は厳重。だが、この時代のソナーでは、当艦は『海流ノ雑音』ニ過ギナイ』
「目標の最終確認を」
『…閘門ロックゲート、全3基、健在。周辺に対空砲台、多数。…フフ、原始的なものだ』
坂上は、飛行隊ブリーフィング・ルームに回線を切り替えた。
「三島。燃料は、往復ギリギリだ。菊池の計算では、戦闘行動(ドッグファイト)は5分も保たん。確実に、一撃(ワンパス)で仕留めろ」
F-35Bのコックピットに座る三島健太は、機体に積み込まれた誘導爆弾(GBU-32)を見つめていた。
『司令。一つ、聞きたかった』
「何だ」
『あんたの故郷は広島だったな。…俺のじいさんも、シベリア帰りだ。…あんたがやりたいのは、歴史の修正か? それとも、ただの復讐か?』
坂上は、一瞬、目を閉じた。
「…両方だ。だが、今は任務に集中しろ。RAIJIN(雷神)」
『…最高だ。RAIYIN、発艦する』
太平洋上。
「いずも」のスキージャンプ台から、F-35Bが2機、夜陰に紛れて発艦した。
米軍の貧弱なレーダー網を遥かに超える、高度6万フィート(約1万8千メートル)の成層圏へ。
彼らは、音速の1.5倍で、中央アメリカ大陸を「飛び越えた」。
パナマ運河、ガトゥン閘門。
米軍守備隊は、異変に気づきもしなかった。
『こちら「たいげい」。レーザー照射、開始』
深海に潜む黒木が、潜望鏡から目標指示レーザーを、閘門の「基部」…最も脆弱な一点に照射する。
『RAIYIN-1、目標補足(ターゲット・ロック)。爆弾(ペイロード)、投下(リリース)』
成層圏から投下された誘導爆弾は、音もなく、レーザーに導かれて吸い込まれていった。
次の瞬間、パナマ運河の「心臓部」が、凄まじい爆発と共に吹き飛んだ。
閘門の巨大な鉄扉が歪み、アフロ湖の水が、濁流となってカリブ海へと流れ出した。
『RAIYIN-1よりCIC。目標、確実に破壊。菊池の計算通り、修復には…フッ、3年どころじゃ済まないでしょうな』
「RAIYIN-1、直ちに帰艦せよ。米軍のP-38(戦闘機)がスクランブルする前に離脱しろ」
『遅えよ。もう、メキシコ湾の上空だ』
第十章:本土への刃
パナマ運河破壊の報は、ミッドウェー壊滅の報と共に、ワシントンのホワイトハウスを震撼させた。
ルーズベルト大統領は、車椅子の上で、人生最大の危機に直面していた。
「…ドイツではない。日本でもない。一体、我々は『何』と戦っているのだ?」
その頃、「出雲艦隊」は、米本土・西海岸沖に接近していた。
彼らの補給は、限界だった。
「ましゅう」の再精製プラントは悲鳴を上げ、F-35Bの稼働機は、整備不良で8機にまで減少していた。
「司令。これ以上の作戦行動は危険です。一度、呉に戻り、体制を…」
菊池の進言を、坂上は冷たく遮った。
「ダメだ。今、日本に戻れば、我々は『勝利の英雄』として祭り上げられ、陸軍のプロパガンダに利用される。そして二度と、出港できなくなる」
坂上は、痩せこけた顔で戦術マップを指差した。
「核の芽は、今、摘む。B-29の翼も、今、折る」
「しかし、燃料が…!」
「片道でいい」
「!?」
CICの全員が、息を呑んだ。
「三島。ウィチタ(B-29工場)、シカゴ(大学)、ロスアラモス。…片道燃料で、三箇所を叩けるか」
『…司令。あんた、正気か。俺たちは自爆しろってのか? 祖父さんと同じことをさせる気か?』
三島の、初めて聞く動揺した声だった。
「違う」
坂上は、スクリーンに映るアメリカ西海岸の地図を指差した。
「不時着だ。メキシコの、バハ・カリフォルニア半島に不時着し、機体は爆破。パイロットは、黒木の『たいげい』が回収する」
それは、令和の最新鋭ステルス戦闘機を「使い捨てる」という、苦渋の決断だった。
「…やってやろうじゃねえか」
三島は、乾いた笑い声を上げた。
「『RAIYIN』最後の出撃だ。盛大に花火を上げてやる」
「いずも」の甲板から、最後の燃料を積んだF-35B、8機が飛び立った。
彼らの目的は、戦争を終わらせるための、未来を賭けた「自爆」ミッションだった。
一方、その頃。東京、首相官邸。
山本五十六は、ミッドウェーの大勝利と、パナマ運河破壊の「戦果」を背景に、東條英機首相と陸軍首脳部に対し、「対米和平交渉」を切り出していた。
「馬鹿も休み休みに言え、山本!」
陸軍大臣の東條が、テーブルを叩いて激昂した。
「今や、敵は恐慌状態! 我が軍は勝ち進んでおるのだ! ここで和平だと? 貴様、それでも帝国海軍の軍人か!」
「東條。現実を見ろ」
「現実とは、我が軍の大勝利のことだ! 『アマテラス』とかいう秘密兵器も、大したものではないか!」
1942年6月6日。柱島泊地。
「赤城」が、傷一つない姿で帰港した。
ミッドウェー海戦の「勝利」に、呉の軍港は沸き返っていた。
だが、南雲機動部隊の高級将校たちの顔は、一様に暗く、困惑していた。
連合艦隊司令部・作戦室。
山本五十六と宇垣纏(うがき まとむ)の前に、南雲忠一が、硬直した表情で立っていた。
「…報告は以上であります」
南雲は、かろうじて声を絞り出した。
「我が艦隊の損害、零戦2機(偵察時の自爆)。…敵空母3隻、轟沈。巡洋艦2隻、大破。敵航空機、推定150機以上、壊滅。…全て、我が艦隊の交戦以前に、です」
宇垣は、その報告書を読みながら、未だに信じられないという顔でゴクリと唾を飲んだ。
「南雲君。君は…『アマテラス』の戦闘を、目撃したのか?」
「…いいえ。我々はただ、水平線の彼方で、敵艦隊が『燃え尽きる』のを見ただけです。まるで…八岐大蛇(やまたのおろち)に焼き尽くされたかのように」
南雲は続けた。
「司令部(こちら)は、我々に『囮(おとり)』になれ、と仰った。一体、何のために! あの『御前艦隊』とやらは、何者なのですか! あれは、日本の兵器ではありませぬ!」
南雲の目には、得体の知れない力への「恐怖」が宿っていた。
山本五十六は、静かに立ち上がった。
「南雲君。君は『勝利』した。それで十分だ。詳細は、軍令部の管轄となる」
彼は、傍受した米軍の平文通信の電文をテーブルに置いた。
それは、米太平洋艦隊司令部が発信した、混乱を極める暗号文だった。
『…unknown bogey. speed mach 1.5. no visual... fleet destroyed by unseen weapon...(国籍不明機、速度マッハ1.5。視認不能…見えざる兵器により艦隊壊滅…)』
「『アマテラス』は、陛下の『切り札』だ。その存在は、今この瞬間より、連合艦隊の最高機密とする」
山本は、冷徹に言い渡した。
「南雲君。君の任務は、この『大勝利』を、陸軍と国民に喧伝(けんでん)することだ。…よいな」
「……はっ」
南雲は、それ以上何も言えず、敬礼し退室した。
宇垣が、興奮した面持ちで山本に詰め寄った。
「長官! これで米国は戦意を喪失します! いよいよ、ハワイ攻略、いや、本土上陸も…!」
「宇垣」
山本は、その狂熱を冷たく遮った。
「君は、まだ分からんか」
山本は、窓の外に浮かぶ、無傷の「赤城」を見た。
「我々は、『勝利』などしていない。ただ、『アマテラス』…いや、坂上1佐に『救われた』だけだ。我々海軍は、あのたった一日で、彼らがいなければ『負けていた』戦争に、無理やり『勝たされた』のだよ」
「長官…」
「坂上1佐からの入電だ」
山本は、菊池(きくち)が「大和」に設置していった、不可解な黒い箱(暗号化短波通信機)が打ち出した電文を広げた。
『ワレ、ミッドウェー作戦完了。燃料補給ノ要アリ。「ましゅう」ノ再精製能力、限界近シ。
ナオ、米本土ノ「戦意」ヲ完全ニ砕ク為、フェーズ2ニ移行ス。目標、パナマ運河―――』
「パナマ…だと!?」宇垣が叫んだ。「太平洋の反対側だぞ! 無茶だ!」
「彼らにとって、『距離』は問題ではないのだよ、宇垣君」
山本は、重い体を引きずるように、首相官邸へ向かう準備を始めた。
「我々の仕事は、ここからだ。陸軍(・・)を抑え、この『歪んだ勝利』を『本当の和平』に繋ぎ止める」
オペレーション・パナマ
ミッドウェー海戦から7日後。
日付変更線を遥かに越えた、東部太平洋。
赤道直下の灼熱の海域を、「出雲艦隊」は進んでいた。
補給艦「ましゅう」の甲板は、この世の物とは思えない化学工場の様相を呈していた。
「ダメです、副長! タービンの回転数が上がらない! 粗悪重油の粘度が高すぎます!」
「触媒の温度を上げろ! 菊池(きくち)班は、JP-5(航空燃料)の合成(シンセサイズ)を急がせろ! 三島(みしま)機(F-35B)の『往復分』をひねり出すんだ!」
菊池玲奈2佐は、防護服とマスクで顔を覆いながら、自らバルブを操作していた。
彼女のチームは、昭和の粗悪燃料を、令和のガスタービンエンジンとジェットエンジンで「燃やせる」レベルにまで「再精製」するという、神業的な作業を不眠不休で続けていた。
近江(おうみ)艦長の「ましゅう」は、もはや補給艦ではなく、洋上の「化学プライント」と化していた。
「いずも」CIC。
坂上は、痩せた頬でコーヒーキャンディを舐めていた。
「黒木(くろき)2佐。状況は」
潜水艦「たいげい」は、すでにパナマ運河のカリブ海側…大西洋側に到達していた。
リチウムイオン電池の無限とも思える潜航能力で、米軍の対潜網を無音ですり抜けたのだ。
『こちら「たいげい」。ガトゥン閘門(こうもん)に接近。周囲の監視は厳重。だが、この時代のソナーでは、当艦は『海流ノ雑音』ニ過ギナイ』
「目標の最終確認を」
『…閘門ロックゲート、全3基、健在。周辺に対空砲台、多数。…フフ、原始的なものだ』
坂上は、飛行隊ブリーフィング・ルームに回線を切り替えた。
「三島。燃料は、往復ギリギリだ。菊池の計算では、戦闘行動(ドッグファイト)は5分も保たん。確実に、一撃(ワンパス)で仕留めろ」
F-35Bのコックピットに座る三島健太は、機体に積み込まれた誘導爆弾(GBU-32)を見つめていた。
『司令。一つ、聞きたかった』
「何だ」
『あんたの故郷は広島だったな。…俺のじいさんも、シベリア帰りだ。…あんたがやりたいのは、歴史の修正か? それとも、ただの復讐か?』
坂上は、一瞬、目を閉じた。
「…両方だ。だが、今は任務に集中しろ。RAIJIN(雷神)」
『…最高だ。RAIYIN、発艦する』
太平洋上。
「いずも」のスキージャンプ台から、F-35Bが2機、夜陰に紛れて発艦した。
米軍の貧弱なレーダー網を遥かに超える、高度6万フィート(約1万8千メートル)の成層圏へ。
彼らは、音速の1.5倍で、中央アメリカ大陸を「飛び越えた」。
パナマ運河、ガトゥン閘門。
米軍守備隊は、異変に気づきもしなかった。
『こちら「たいげい」。レーザー照射、開始』
深海に潜む黒木が、潜望鏡から目標指示レーザーを、閘門の「基部」…最も脆弱な一点に照射する。
『RAIYIN-1、目標補足(ターゲット・ロック)。爆弾(ペイロード)、投下(リリース)』
成層圏から投下された誘導爆弾は、音もなく、レーザーに導かれて吸い込まれていった。
次の瞬間、パナマ運河の「心臓部」が、凄まじい爆発と共に吹き飛んだ。
閘門の巨大な鉄扉が歪み、アフロ湖の水が、濁流となってカリブ海へと流れ出した。
『RAIYIN-1よりCIC。目標、確実に破壊。菊池の計算通り、修復には…フッ、3年どころじゃ済まないでしょうな』
「RAIYIN-1、直ちに帰艦せよ。米軍のP-38(戦闘機)がスクランブルする前に離脱しろ」
『遅えよ。もう、メキシコ湾の上空だ』
第十章:本土への刃
パナマ運河破壊の報は、ミッドウェー壊滅の報と共に、ワシントンのホワイトハウスを震撼させた。
ルーズベルト大統領は、車椅子の上で、人生最大の危機に直面していた。
「…ドイツではない。日本でもない。一体、我々は『何』と戦っているのだ?」
その頃、「出雲艦隊」は、米本土・西海岸沖に接近していた。
彼らの補給は、限界だった。
「ましゅう」の再精製プラントは悲鳴を上げ、F-35Bの稼働機は、整備不良で8機にまで減少していた。
「司令。これ以上の作戦行動は危険です。一度、呉に戻り、体制を…」
菊池の進言を、坂上は冷たく遮った。
「ダメだ。今、日本に戻れば、我々は『勝利の英雄』として祭り上げられ、陸軍のプロパガンダに利用される。そして二度と、出港できなくなる」
坂上は、痩せこけた顔で戦術マップを指差した。
「核の芽は、今、摘む。B-29の翼も、今、折る」
「しかし、燃料が…!」
「片道でいい」
「!?」
CICの全員が、息を呑んだ。
「三島。ウィチタ(B-29工場)、シカゴ(大学)、ロスアラモス。…片道燃料で、三箇所を叩けるか」
『…司令。あんた、正気か。俺たちは自爆しろってのか? 祖父さんと同じことをさせる気か?』
三島の、初めて聞く動揺した声だった。
「違う」
坂上は、スクリーンに映るアメリカ西海岸の地図を指差した。
「不時着だ。メキシコの、バハ・カリフォルニア半島に不時着し、機体は爆破。パイロットは、黒木の『たいげい』が回収する」
それは、令和の最新鋭ステルス戦闘機を「使い捨てる」という、苦渋の決断だった。
「…やってやろうじゃねえか」
三島は、乾いた笑い声を上げた。
「『RAIYIN』最後の出撃だ。盛大に花火を上げてやる」
「いずも」の甲板から、最後の燃料を積んだF-35B、8機が飛び立った。
彼らの目的は、戦争を終わらせるための、未来を賭けた「自爆」ミッションだった。
一方、その頃。東京、首相官邸。
山本五十六は、ミッドウェーの大勝利と、パナマ運河破壊の「戦果」を背景に、東條英機首相と陸軍首脳部に対し、「対米和平交渉」を切り出していた。
「馬鹿も休み休みに言え、山本!」
陸軍大臣の東條が、テーブルを叩いて激昂した。
「今や、敵は恐慌状態! 我が軍は勝ち進んでおるのだ! ここで和平だと? 貴様、それでも帝国海軍の軍人か!」
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