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第二章 邪と天然と鬼の温泉地
EP 10
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温泉リゾート『アナステシア・スパ』開業
邪神騒動から数時間後。
カイト農場の地下から湧き出した黒い泥は、ルナの浄化魔法と、龍魔呂が作った「特製入浴剤(邪神の核)」の投入により、奇跡の変貌を遂げていた。
ザパァァァン……!
湯気を上げる広大な露天風呂。
お湯の色は、黒から白濁した乳白色へと変わり、ほのかに甘い硫黄の香りと、神聖なハーブの香りが漂っている。
「よーし! みんな、お待たせ!」
脱衣所で服を脱いだカイトが、タオル一枚で元気に飛び出してきた。
「カイト農場・大露天風呂、本日オープンだ!」
その掛け声を合図に、世界の支配者たちが次々と湯船になだれ込んだ。
†
「くぅ~っ! これだ! この熱さがたまらん!」
一番風呂を陣取ったのは、ねじり鉢巻を頭に乗せた竜神デュークだ。
彼は湯船に浮かべたお盆に徳利(とっくり)を乗せ、雪見酒ならぬ「泥見酒」をキメている。
「ふはは! 邪神の怨念が、良いスパイスになっておるわ!」
「神よ……これぞ至福……」
隣では竜王ドラグラスが、お湯に浸かってトロトロになっていた。日頃の胃痛が嘘のように消えていく。
ザバッ!
「ヒャッハー! 泳ぐぞオラァ!」
狼王フェンリルが犬かきで爆走し、それをポチ(始祖竜)がワニのように優雅に追いかける。
ケルベロスも三つの頭で気持ちよさそうに浸かり、オークたちが背中を流し合っている。
まさに、種族を超えた裸の付き合い。
そこへ、カイトも「失礼しまーす」と入水した。
「はぁ~……。生き返るなぁ」
カイトは肩まで浸かり、大きく息を吐いた。
お湯に含まれる「邪神エキス(美肌成分)」と「ルナの聖気」が、体の芯まで染み渡る。
「カイト殿、最高ですな。このお湯、成分分析したら1リットルで金貨10枚の値がつきますぞ」
眼鏡を曇らせた魔族宰相ルーベンスが、お湯をビーカーですくいながら興奮している。
彼は風呂に入ってまで仕事(計算)をしていた。
「まあまあルーベンスさん、風呂の中でまで数字の話はなしですよ」
カイトが笑ってビーカーを取り上げた時だった。
キャァァァッ!!
女湯(という名の仕切りが甘いエリア)から、黄色い悲鳴と共に水しぶきが上がった。
「ちょっとルナ! あんた何してんのよ!」
「あら? お湯が少なくなっていたので、足そうと思いまして……」
魔王ラスティアが怒鳴り、エルフのルナが杖を振っている。
「――『湧き出よ、清流(ハイドロ・ポンプ)』☆」
ドババババババッ!!!
ルナの魔法が暴発し、女湯から男湯へ向かって、津波のようなお湯が押し寄せてきた。
「ぶわっ!?」
カイトが波に飲まれる。
その波に乗って、タオル一枚の美女たちが男湯エリアへ流されてきた。
「きゃっ、カイト様!?」
濡れた肌を露わにした不死鳥フレアが、カイトの胸に飛び込んでくる。
「あ、あら……ごめんなさいカイト。……でも、背中流してあげましょうか?(流し目)」
「わ、私はハーブの入浴剤を追加しますっ! 不浄な視線は聖なる泡でガードです!」
ラスティアが色仕掛けをし、天使長ヴァルキュリアが真っ赤な顔で泡魔法を連射する。
大露天風呂は、一瞬にして混浴カオス状態と化した。
「わはは! みんな元気だなぁ!」
カイトは美女たちに囲まれても、あくまで「家族団らん」のようなノリで笑っている。
その様子を、少し離れた岩場で静かに見守る男がいた。
†
「……騒がしい連中だ」
鬼神龍魔呂は、岩に背中を預け、夜空を見上げていた。
手には冷えた牛乳瓶。
殺し合いに明け暮れた体には、この熱い湯が傷口に染みて心地よかった。
「龍魔呂さん、こっち来ないの?」
カイトが波をかき分けて近寄ってきた。
龍魔呂はフッと笑い、隣のスペースを空けた。
「……いや。ここは特等席だ」
カイトは龍魔呂の隣に並んで座った。
二人して、湯気越しに満月を見上げる。
「いい湯だね」
「ああ。……悪くない」
龍魔呂は、自分の手を見つめた。
数時間前、この手で邪神を刻んだ。かつては多くの命を奪った手だ。
だが今、この手は温かいお湯に包まれ、隣には友人がいる。
「カイト」
「ん?」
「……日本を、思い出すな」
龍魔呂がポツリと漏らした。
カイトは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「そうだね。仕事終わりの銭湯、コーヒー牛乳、夜風……。ここは、僕たちの新しい故郷なのかもしれないね」
龍魔呂は何も言わず、ただ深く頷いた。
故郷。
二度と戻れない場所だと思っていた。だが、この農場には、あの頃の懐かしさと、それ以上の温かさがある。
「……これからも、よろしく頼むぞ。オーナー」
「こちらこそ、マスター」
男二人は、牛乳瓶をカチンと合わせた。
甘い牛乳の味が、風呂上がりの体に染み渡る。
†
こうして、『アナステシア・スパ(温泉リゾート)』が開業した。
効能は「美肌」「万病治癒」「呪い解除(邪神成分配合)」。
入浴料は、カイトの野菜一つ。
世界中から冒険者や王侯貴族が「奇跡の湯」を求めて訪れることになるが、彼らは知らない。
そのお湯が、かつて世界を滅ぼしかけた邪神の成れの果てであり、番台に座っているのが鬼神であり、湯船で泳いでいるのが始祖竜であることを。
カイトの農場は、もはや国家を超えた「聖域」として、不動の地位を築きつつあった。
だが、物語はここで終わらない。
平和な温泉の湯気が晴れたその先に、次なる波乱の予感が漂っていた。
――農場の片隅。
異世界からの転移者が現れた場所に、「謎の黒い亀裂(ゲート)」が口を開けようとしていたのだ。
邪神騒動から数時間後。
カイト農場の地下から湧き出した黒い泥は、ルナの浄化魔法と、龍魔呂が作った「特製入浴剤(邪神の核)」の投入により、奇跡の変貌を遂げていた。
ザパァァァン……!
湯気を上げる広大な露天風呂。
お湯の色は、黒から白濁した乳白色へと変わり、ほのかに甘い硫黄の香りと、神聖なハーブの香りが漂っている。
「よーし! みんな、お待たせ!」
脱衣所で服を脱いだカイトが、タオル一枚で元気に飛び出してきた。
「カイト農場・大露天風呂、本日オープンだ!」
その掛け声を合図に、世界の支配者たちが次々と湯船になだれ込んだ。
†
「くぅ~っ! これだ! この熱さがたまらん!」
一番風呂を陣取ったのは、ねじり鉢巻を頭に乗せた竜神デュークだ。
彼は湯船に浮かべたお盆に徳利(とっくり)を乗せ、雪見酒ならぬ「泥見酒」をキメている。
「ふはは! 邪神の怨念が、良いスパイスになっておるわ!」
「神よ……これぞ至福……」
隣では竜王ドラグラスが、お湯に浸かってトロトロになっていた。日頃の胃痛が嘘のように消えていく。
ザバッ!
「ヒャッハー! 泳ぐぞオラァ!」
狼王フェンリルが犬かきで爆走し、それをポチ(始祖竜)がワニのように優雅に追いかける。
ケルベロスも三つの頭で気持ちよさそうに浸かり、オークたちが背中を流し合っている。
まさに、種族を超えた裸の付き合い。
そこへ、カイトも「失礼しまーす」と入水した。
「はぁ~……。生き返るなぁ」
カイトは肩まで浸かり、大きく息を吐いた。
お湯に含まれる「邪神エキス(美肌成分)」と「ルナの聖気」が、体の芯まで染み渡る。
「カイト殿、最高ですな。このお湯、成分分析したら1リットルで金貨10枚の値がつきますぞ」
眼鏡を曇らせた魔族宰相ルーベンスが、お湯をビーカーですくいながら興奮している。
彼は風呂に入ってまで仕事(計算)をしていた。
「まあまあルーベンスさん、風呂の中でまで数字の話はなしですよ」
カイトが笑ってビーカーを取り上げた時だった。
キャァァァッ!!
女湯(という名の仕切りが甘いエリア)から、黄色い悲鳴と共に水しぶきが上がった。
「ちょっとルナ! あんた何してんのよ!」
「あら? お湯が少なくなっていたので、足そうと思いまして……」
魔王ラスティアが怒鳴り、エルフのルナが杖を振っている。
「――『湧き出よ、清流(ハイドロ・ポンプ)』☆」
ドババババババッ!!!
ルナの魔法が暴発し、女湯から男湯へ向かって、津波のようなお湯が押し寄せてきた。
「ぶわっ!?」
カイトが波に飲まれる。
その波に乗って、タオル一枚の美女たちが男湯エリアへ流されてきた。
「きゃっ、カイト様!?」
濡れた肌を露わにした不死鳥フレアが、カイトの胸に飛び込んでくる。
「あ、あら……ごめんなさいカイト。……でも、背中流してあげましょうか?(流し目)」
「わ、私はハーブの入浴剤を追加しますっ! 不浄な視線は聖なる泡でガードです!」
ラスティアが色仕掛けをし、天使長ヴァルキュリアが真っ赤な顔で泡魔法を連射する。
大露天風呂は、一瞬にして混浴カオス状態と化した。
「わはは! みんな元気だなぁ!」
カイトは美女たちに囲まれても、あくまで「家族団らん」のようなノリで笑っている。
その様子を、少し離れた岩場で静かに見守る男がいた。
†
「……騒がしい連中だ」
鬼神龍魔呂は、岩に背中を預け、夜空を見上げていた。
手には冷えた牛乳瓶。
殺し合いに明け暮れた体には、この熱い湯が傷口に染みて心地よかった。
「龍魔呂さん、こっち来ないの?」
カイトが波をかき分けて近寄ってきた。
龍魔呂はフッと笑い、隣のスペースを空けた。
「……いや。ここは特等席だ」
カイトは龍魔呂の隣に並んで座った。
二人して、湯気越しに満月を見上げる。
「いい湯だね」
「ああ。……悪くない」
龍魔呂は、自分の手を見つめた。
数時間前、この手で邪神を刻んだ。かつては多くの命を奪った手だ。
だが今、この手は温かいお湯に包まれ、隣には友人がいる。
「カイト」
「ん?」
「……日本を、思い出すな」
龍魔呂がポツリと漏らした。
カイトは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「そうだね。仕事終わりの銭湯、コーヒー牛乳、夜風……。ここは、僕たちの新しい故郷なのかもしれないね」
龍魔呂は何も言わず、ただ深く頷いた。
故郷。
二度と戻れない場所だと思っていた。だが、この農場には、あの頃の懐かしさと、それ以上の温かさがある。
「……これからも、よろしく頼むぞ。オーナー」
「こちらこそ、マスター」
男二人は、牛乳瓶をカチンと合わせた。
甘い牛乳の味が、風呂上がりの体に染み渡る。
†
こうして、『アナステシア・スパ(温泉リゾート)』が開業した。
効能は「美肌」「万病治癒」「呪い解除(邪神成分配合)」。
入浴料は、カイトの野菜一つ。
世界中から冒険者や王侯貴族が「奇跡の湯」を求めて訪れることになるが、彼らは知らない。
そのお湯が、かつて世界を滅ぼしかけた邪神の成れの果てであり、番台に座っているのが鬼神であり、湯船で泳いでいるのが始祖竜であることを。
カイトの農場は、もはや国家を超えた「聖域」として、不動の地位を築きつつあった。
だが、物語はここで終わらない。
平和な温泉の湯気が晴れたその先に、次なる波乱の予感が漂っていた。
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