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EP 1
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天井から降ってきた理不尽と、ジャージ姿の女神様
コンビニの夜勤明け。深夜2時。
佐藤太郎(20歳・経済学部生)にとって、この時間は至福のひとときだった。
廃棄寸前でもらってきた白米と、冷蔵庫の余り野菜で作った「特製・野菜炒め」をちゃぶ台に並べる。アパートの壁は薄いが、この静寂と自炊の香りが、一日の疲れを癒やしてくれる。
「いただきまー……ん?」
箸を割ろうとしたその時だった。
ズゥゥゥン……と、重低音が響いてくる。
雷ではない。地震でもない。
(なんだ? トラックのアイドリング音……? 近いな……っていうか、上?)
音は急速に近づいてくる。頭上から。
いや、ありえない。ここは木造アパートの二階だ。屋根の上にトラックがいるはずがない。
バリバリバリッ! ドゴォォォォォン!!
「何だとぉぉ!?」
天井板が爆ぜ、巨大な鉄の塊が、太郎の視界を埋め尽くした。
ヘッドライトの光。そして、迫りくるタイヤ。
「う、嘘だろ……!」
グシャッ。
佐藤太郎の20年の人生は、天井を突き破ってきた4トントラックによって、あっけなく幕を閉じた。
「あ~、もしもし? 生きてますかー?」
頭の中に、間の抜けた声が響く。
「……あ、死んでるからここに居るんですよね。めんごめんご」
「う……ん……」
太郎が重いまぶたを開けると、そこは真っ白な空間だった。
足元には雲のようなモヤが広がり、目の前には一人の女性が胡座(あぐら)をかいて座っている。
輝くような金髪に、透き通るような白い肌。整った顔立ちは、まさしく「女神」と呼ぶにふさわしい。
……ただし、着ている服が、首元がヨレヨレになった芋ジャージでなければ。
「ここは……?」
「はい、ここは『審判の場』。私は女神ルチアナと申します」
ルチアナと名乗った女神は、ポテトチップスの袋に手を突っ込みながら、面倒くさそうに言った。
「残念ながら貴方は……そう、『猫を助けようとしてトラックに轢かれた』という尊い犠牲によって命を落としました」
太郎の脳裏に、最期の光景がフラッシュバックする。
自室。ちゃぶ台。野菜炒め。そして、天井から降ってきたタイヤ。
「はぁ? 猫なんて助けてねぇよ!?」
太郎は思わず立ち上がってツッコミを入れた。
「トラックに轢かれたんじゃない! アパートの天井を突き破って、上から降ってきたトラックに押し潰されたんだよ! どう考えても事故だろ!?」
「あー、はいはい。細かいことはいいじゃないですか」
ルチアナはポリポリとポテチを齧りながら、ヒラヒラと手を振った。
「とにかく、私は貴方のその……『善行』? に感動しました。よって、特別措置として異世界『アナステシア』に転生する機会を与えちゃいます」
「い、異世界転生って奴かよ……ってか、話が噛み合ってない! おい! 僕が死んだの、絶対にあんたらの手違いだろ!? 上からトラックが降ってくるなんて物理的におかしいだろ!」
「はいはい、転生おめでとうございまーす」
ルチアナは太郎の抗議を完全にスルーした。
彼女の背後に、ゲームのウィンドウのような半透明のボードが浮かび上がる。
「異世界転生するにあたって、『言語理解』のスキルと……あとこれ、**ユニークスキル『100円ショップ』**を授けます」
「……は?」
太郎は怒りを忘れて呆然とした。
「何だよ? 100円ショップって。もっとこう、『剣聖』とか『全属性魔法』とか、そういうチート能力じゃないのか?」
「はい。その名の通り、地球の100円ショップの商品を取り出せる優れ物です」
ルチアナはドヤ顔で説明を続ける。
「使用には『交換ポイント』が必要ですけど、まぁ利用すれば分かることです。これは使い方次第で、勇者や英雄になれる可能性を秘めているんですよ? 多分」
「『多分』って言ったぞ今! それだけ? 僕は喧嘩なんてした事ないんだぞ!? 魔法とか魔物がいる世界に、雑貨だけで放り出されるのかよ!」
「あー、もううるさいなぁ……」
ルチアナはため息をつくと、空になったポテチの袋をポイ捨てした(袋は光の粒子になって消えた)。
「わかりましたよ。可哀想だから(笑)、異世界転生特典として1000ポイント、ボーナスしときますよ、佐藤太郎さん」
その口元は、明らかに小馬鹿にしたように歪んでいた。
「では、良い異世界転生を~」
女神が指をパチンと鳴らす。
太郎の足元がいきなり抜け、真っ逆さまに落下する感覚が襲った。
「何を笑ってんだよ! ふざけんなよ、テメェェェ!!」
「はいはい、いってら~」
遠ざかる太郎の絶叫と、女神の気の抜けた声が交差する。
こうして、佐藤太郎の異世界アナステシアでの第二の人生は、理不尽と怒り、そして「100円ショップ」という謎の能力と共に幕を開けたのだった。
コンビニの夜勤明け。深夜2時。
佐藤太郎(20歳・経済学部生)にとって、この時間は至福のひとときだった。
廃棄寸前でもらってきた白米と、冷蔵庫の余り野菜で作った「特製・野菜炒め」をちゃぶ台に並べる。アパートの壁は薄いが、この静寂と自炊の香りが、一日の疲れを癒やしてくれる。
「いただきまー……ん?」
箸を割ろうとしたその時だった。
ズゥゥゥン……と、重低音が響いてくる。
雷ではない。地震でもない。
(なんだ? トラックのアイドリング音……? 近いな……っていうか、上?)
音は急速に近づいてくる。頭上から。
いや、ありえない。ここは木造アパートの二階だ。屋根の上にトラックがいるはずがない。
バリバリバリッ! ドゴォォォォォン!!
「何だとぉぉ!?」
天井板が爆ぜ、巨大な鉄の塊が、太郎の視界を埋め尽くした。
ヘッドライトの光。そして、迫りくるタイヤ。
「う、嘘だろ……!」
グシャッ。
佐藤太郎の20年の人生は、天井を突き破ってきた4トントラックによって、あっけなく幕を閉じた。
「あ~、もしもし? 生きてますかー?」
頭の中に、間の抜けた声が響く。
「……あ、死んでるからここに居るんですよね。めんごめんご」
「う……ん……」
太郎が重いまぶたを開けると、そこは真っ白な空間だった。
足元には雲のようなモヤが広がり、目の前には一人の女性が胡座(あぐら)をかいて座っている。
輝くような金髪に、透き通るような白い肌。整った顔立ちは、まさしく「女神」と呼ぶにふさわしい。
……ただし、着ている服が、首元がヨレヨレになった芋ジャージでなければ。
「ここは……?」
「はい、ここは『審判の場』。私は女神ルチアナと申します」
ルチアナと名乗った女神は、ポテトチップスの袋に手を突っ込みながら、面倒くさそうに言った。
「残念ながら貴方は……そう、『猫を助けようとしてトラックに轢かれた』という尊い犠牲によって命を落としました」
太郎の脳裏に、最期の光景がフラッシュバックする。
自室。ちゃぶ台。野菜炒め。そして、天井から降ってきたタイヤ。
「はぁ? 猫なんて助けてねぇよ!?」
太郎は思わず立ち上がってツッコミを入れた。
「トラックに轢かれたんじゃない! アパートの天井を突き破って、上から降ってきたトラックに押し潰されたんだよ! どう考えても事故だろ!?」
「あー、はいはい。細かいことはいいじゃないですか」
ルチアナはポリポリとポテチを齧りながら、ヒラヒラと手を振った。
「とにかく、私は貴方のその……『善行』? に感動しました。よって、特別措置として異世界『アナステシア』に転生する機会を与えちゃいます」
「い、異世界転生って奴かよ……ってか、話が噛み合ってない! おい! 僕が死んだの、絶対にあんたらの手違いだろ!? 上からトラックが降ってくるなんて物理的におかしいだろ!」
「はいはい、転生おめでとうございまーす」
ルチアナは太郎の抗議を完全にスルーした。
彼女の背後に、ゲームのウィンドウのような半透明のボードが浮かび上がる。
「異世界転生するにあたって、『言語理解』のスキルと……あとこれ、**ユニークスキル『100円ショップ』**を授けます」
「……は?」
太郎は怒りを忘れて呆然とした。
「何だよ? 100円ショップって。もっとこう、『剣聖』とか『全属性魔法』とか、そういうチート能力じゃないのか?」
「はい。その名の通り、地球の100円ショップの商品を取り出せる優れ物です」
ルチアナはドヤ顔で説明を続ける。
「使用には『交換ポイント』が必要ですけど、まぁ利用すれば分かることです。これは使い方次第で、勇者や英雄になれる可能性を秘めているんですよ? 多分」
「『多分』って言ったぞ今! それだけ? 僕は喧嘩なんてした事ないんだぞ!? 魔法とか魔物がいる世界に、雑貨だけで放り出されるのかよ!」
「あー、もううるさいなぁ……」
ルチアナはため息をつくと、空になったポテチの袋をポイ捨てした(袋は光の粒子になって消えた)。
「わかりましたよ。可哀想だから(笑)、異世界転生特典として1000ポイント、ボーナスしときますよ、佐藤太郎さん」
その口元は、明らかに小馬鹿にしたように歪んでいた。
「では、良い異世界転生を~」
女神が指をパチンと鳴らす。
太郎の足元がいきなり抜け、真っ逆さまに落下する感覚が襲った。
「何を笑ってんだよ! ふざけんなよ、テメェェェ!!」
「はいはい、いってら~」
遠ざかる太郎の絶叫と、女神の気の抜けた声が交差する。
こうして、佐藤太郎の異世界アナステシアでの第二の人生は、理不尽と怒り、そして「100円ショップ」という謎の能力と共に幕を開けたのだった。
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