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EP 19
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紅蓮の悪夢、合体魔狼の咆哮
ルルカの森の奥深く。
風上から慎重に接近した太郎たちは、ついにターゲットを捕捉した。
木々の間の開けた場所に、5匹のウルフの群れがたむろしている。
「よし、行くぞ……」
太郎は深呼吸をして、木の陰から半身を乗り出した。
ゴブリン狩りで少しは自信がついた。狙いを定め、弦を引き絞る。
ヒュンッ!
放たれた矢は一直線に飛び、最も近くにいたウルフの後ろ足に突き刺さった。
「ギャンッ!?」
ウルフが悲鳴を上げ、群れ全体が即座に反応する。鋭い視線が一斉に太郎たちの方へ向いた。
「くっ、浅いか! 致命傷じゃない!」
ゴブリンの柔らかい皮膚とは違い、ウルフの強靭な筋肉と分厚い毛皮が矢の威力を削いでいた。
殺気立った群れが、牙を剥いて飛びかかってくる。
「構いませんよ! ここからは私の仕事です!」
ライザが叫ぶと同時に、太郎の前に飛び出した。
「ハァァァッ!!」
彼女は長剣を打ち鳴らし、あえて大きな音を立ててウルフたちの注意を引きつける。
「こっちです! 獣風情が、このライザの剣を味わいなさい!」
ウルフたちは挑発に乗り、一斉にライザへと殺到する。
5対1。普通なら絶望的な状況だが、ライザは踊るように剣を振るった。
「シッ! ハッ!」
一匹を蹴り飛ばし、飛びかかってきた別の個体を斬り伏せる。
凄まじい剣技だ。だが、それゆえに戦場は混沌としていた。
ウルフたちはライザを取り囲むように動き回り、ライザもまた高速で位置を変え続ける。
太郎は弓を構えたまま、引き絞った矢を放てずにいた。
「だ、だめだ……動きが速すぎるし、入り乱れすぎてる! これじゃあライザに矢が当たってしまうかも知れない!」
「私も! 魔法がライザに当たるわ!」
サリーも杖を構えたまま立ち尽くす。
範囲魔法はもちろん、単体魔法でさえ、あの乱戦の中でライザを避けて当てるのは至難の業だ。
前衛が優秀すぎてヘイト(敵意)を稼ぎすぎると、後衛が手出しできなくなる――パーティー連携の難しさを、二人は痛感していた。
「ふんッ!!」
ライザの気合一閃。
最後のウルフの首が飛び、地面に転がった。
数分もしないうちに、5匹のウルフは全て物言わぬ死骸となっていた。
「ふぅ……こんなものです」
ライザは剣についた血を振り払い、涼しい顔で振り返った。乱れた髪をかき上げる仕草が絵になる。
「凄い! やっぱり、ライザは強いわ!」
サリーが駆け寄って賞賛する。
「あ、あぁ……すごかったよ(結局、僕は最初の一発だけで、何の活躍も出来なかったな……)」
太郎が自分の無力さに少し落ち込みかけた、その時だった。
ボコッ……グチャッ……。
異様な音が響いた。
倒したはずのウルフの死体から、黒い煙のようなものが立ち上る。
「……何?」
ライザが眉をひそめて振り返る。
信じがたい光景だった。
首を斬り落とされたはずの一匹のウルフが、ゆらりと立ち上がったのだ。首の断面からは血ではなく、赤黒い触手のようなものが伸び、落ちた首を無理やり繋ぎ合わせている。
「な、何故? 確かに急所を……!」
さらに異変は続く。
立ち上がったウルフから伸びた触手が、周囲に転がる他の4匹の死体に突き刺さった。
ズズズズズ……!
「死体を……吸収してる!?」
太郎が叫ぶ。
他の死体はみるみるうちに干からび、その肉と血、そして魔力が、生き残った一匹へと流れ込んでいく。
バキバキと骨が膨張する音が響く。
灰色だった毛並みは、返り血を浴びたかのように鮮やかな紅蓮(ぐれん)色へと染まり、体躯は倍以上に膨れ上がった。
それはもはや、ただのウルフではない。
突然変異か、あるいは魔族の実験体か。
『――グォォォォォォォォン!!』
変貌した魔狼が咆哮する。
その衝撃波だけで、周囲の木々がざわめき、太郎たちの肌がビリビリと粟立った。
圧倒的な「死」の気配。EランクやDランクの枠を超えた、災害級のプレッシャー。
【 紅蓮の魔狼(クリムゾン・ウルフ) 】
「くっ! おのれ、死に損ないが……!」
ライザが即座に剣を構え直すが、その額には脂汗が滲んでいた。
彼女の本能が告げているのだ。さっきまでの雑魚とは次元が違う、と。
「来ます!!」
魔狼の後ろ足が地面を削る。
もはや金貨1枚の仕事ではない。命を賭けた死闘のゴングが、残酷にも鳴り響いた。
ルルカの森の奥深く。
風上から慎重に接近した太郎たちは、ついにターゲットを捕捉した。
木々の間の開けた場所に、5匹のウルフの群れがたむろしている。
「よし、行くぞ……」
太郎は深呼吸をして、木の陰から半身を乗り出した。
ゴブリン狩りで少しは自信がついた。狙いを定め、弦を引き絞る。
ヒュンッ!
放たれた矢は一直線に飛び、最も近くにいたウルフの後ろ足に突き刺さった。
「ギャンッ!?」
ウルフが悲鳴を上げ、群れ全体が即座に反応する。鋭い視線が一斉に太郎たちの方へ向いた。
「くっ、浅いか! 致命傷じゃない!」
ゴブリンの柔らかい皮膚とは違い、ウルフの強靭な筋肉と分厚い毛皮が矢の威力を削いでいた。
殺気立った群れが、牙を剥いて飛びかかってくる。
「構いませんよ! ここからは私の仕事です!」
ライザが叫ぶと同時に、太郎の前に飛び出した。
「ハァァァッ!!」
彼女は長剣を打ち鳴らし、あえて大きな音を立ててウルフたちの注意を引きつける。
「こっちです! 獣風情が、このライザの剣を味わいなさい!」
ウルフたちは挑発に乗り、一斉にライザへと殺到する。
5対1。普通なら絶望的な状況だが、ライザは踊るように剣を振るった。
「シッ! ハッ!」
一匹を蹴り飛ばし、飛びかかってきた別の個体を斬り伏せる。
凄まじい剣技だ。だが、それゆえに戦場は混沌としていた。
ウルフたちはライザを取り囲むように動き回り、ライザもまた高速で位置を変え続ける。
太郎は弓を構えたまま、引き絞った矢を放てずにいた。
「だ、だめだ……動きが速すぎるし、入り乱れすぎてる! これじゃあライザに矢が当たってしまうかも知れない!」
「私も! 魔法がライザに当たるわ!」
サリーも杖を構えたまま立ち尽くす。
範囲魔法はもちろん、単体魔法でさえ、あの乱戦の中でライザを避けて当てるのは至難の業だ。
前衛が優秀すぎてヘイト(敵意)を稼ぎすぎると、後衛が手出しできなくなる――パーティー連携の難しさを、二人は痛感していた。
「ふんッ!!」
ライザの気合一閃。
最後のウルフの首が飛び、地面に転がった。
数分もしないうちに、5匹のウルフは全て物言わぬ死骸となっていた。
「ふぅ……こんなものです」
ライザは剣についた血を振り払い、涼しい顔で振り返った。乱れた髪をかき上げる仕草が絵になる。
「凄い! やっぱり、ライザは強いわ!」
サリーが駆け寄って賞賛する。
「あ、あぁ……すごかったよ(結局、僕は最初の一発だけで、何の活躍も出来なかったな……)」
太郎が自分の無力さに少し落ち込みかけた、その時だった。
ボコッ……グチャッ……。
異様な音が響いた。
倒したはずのウルフの死体から、黒い煙のようなものが立ち上る。
「……何?」
ライザが眉をひそめて振り返る。
信じがたい光景だった。
首を斬り落とされたはずの一匹のウルフが、ゆらりと立ち上がったのだ。首の断面からは血ではなく、赤黒い触手のようなものが伸び、落ちた首を無理やり繋ぎ合わせている。
「な、何故? 確かに急所を……!」
さらに異変は続く。
立ち上がったウルフから伸びた触手が、周囲に転がる他の4匹の死体に突き刺さった。
ズズズズズ……!
「死体を……吸収してる!?」
太郎が叫ぶ。
他の死体はみるみるうちに干からび、その肉と血、そして魔力が、生き残った一匹へと流れ込んでいく。
バキバキと骨が膨張する音が響く。
灰色だった毛並みは、返り血を浴びたかのように鮮やかな紅蓮(ぐれん)色へと染まり、体躯は倍以上に膨れ上がった。
それはもはや、ただのウルフではない。
突然変異か、あるいは魔族の実験体か。
『――グォォォォォォォォン!!』
変貌した魔狼が咆哮する。
その衝撃波だけで、周囲の木々がざわめき、太郎たちの肌がビリビリと粟立った。
圧倒的な「死」の気配。EランクやDランクの枠を超えた、災害級のプレッシャー。
【 紅蓮の魔狼(クリムゾン・ウルフ) 】
「くっ! おのれ、死に損ないが……!」
ライザが即座に剣を構え直すが、その額には脂汗が滲んでいた。
彼女の本能が告げているのだ。さっきまでの雑魚とは次元が違う、と。
「来ます!!」
魔狼の後ろ足が地面を削る。
もはや金貨1枚の仕事ではない。命を賭けた死闘のゴングが、残酷にも鳴り響いた。
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