23 / 46
EP 23
しおりを挟む
深夜の覚醒、100円ショップの真実
『銀の月亭』の一室。
深夜、窓から差し込む月明かりだけが部屋を照らしていた。
隣のベッドからは、サリーとライザの安らかな寝息が聞こえてくる。昼間の祝勝会で少し飲みすぎたのか、二人は泥のように眠っていた。
けれど、太郎は一人、暗闇の中で天井を見つめていた。
(……100円ショップって、何なんだ?)
昼間の光景がフラッシュバックする。
ライザが流した血。サリーの必死の形相。そして、何もできずに震えていた自分。
(画鋲で足止めしたり、レーザーポインターで目眩ましをしたり……そんな小手先の技しか出来ないのか? そんなんじゃ、次は守れない)
悔しさが込み上げ、太郎はベッドから音を立てずに起き上がった。
部屋の隅に立て掛けてある自分の武器――「短弓」を手に取る。
(弓……僕がこの世界で唯一、まともに扱える武器)
弦を指で弾く。ベン、と小さな音がした。
威力不足だ。ゴブリンなら倒せても、魔狼のような強靭な筋肉を持つ相手には通用しない。
(もっと……何かこう、でっかいダメージを出せれば……)
太郎は弓を握りしめ、思考を巡らせる。
単純な腕力ではない。魔法でもない。現代人の僕ができる、破壊的な一撃。
(デカイダメージ……火力……そう、火薬だ)
もしも爆発的な威力があれば、矢が刺さらなくても衝撃でダメージを与えられる。
だが、火薬なんてどうやって作る? 硫黄? 木炭? 硝石? 配合比率は?
(……分からない。僕は経済学部だ。化学なんて高校以来やってない)
諦めかけたその時、太郎は無意識にスキルウィンドウを開いていた。
見慣れた『食品』や『文具』のカテゴリ。
指をスライドさせていくと、今までスルーしていたカテゴリが目に止まった。
【 書籍・雑誌 】
(……書籍? 100円ショップに本なんてあったか? クロスワードパズルとか、簡単な実用書くらいじゃ……)
火薬の専門書なんてあるわけがない。そう思って閉じようとした時、ある記憶が蘇った。
地元の100円ショップには、併設された古本コーナーや、ワゴンセールの「中古本100円均一」があったことを。
(……いや!? 待てよ)
あの女神ルチアナは言った。
『これは勇者や英雄になれる可能性を秘めるんですよ? 使い方次第ですが』
(もしかして……!)
太郎の心臓が早鐘を打ち始める。
『100円ショップ』というスキル名は、単に「100円ショップで売られている新品」だけを指すんじゃない。
「100円(100ポイント)で購入可能なあらゆる物品」という概念が含まれているとしたら?
太郎は震える指で検索窓に文字を打ち込んだ。
『科学』『実験』『化学』。
検索結果が表示される。
【 (中古)図解でわかる!身近な科学実験:100P 】
【 (中古)高校化学の基礎が3時間でわかる本:100P 】
【 (中古)花火の仕組みと作り方(趣味の雑学シリーズ):100P 】
(あった……!!)
太郎は息を呑んだ。
中古本なら、100円で売っている。つまり、このスキルで呼び出せるのだ。
ここには、この世界にはない「現代の知識」が詰まっている。配合比率も、危険物の扱い方も!
(知識だけじゃない。材料はどうする?)
火薬そのものは売っていなくても、その原料となるものは?
園芸コーナーの肥料(硝酸カリウムの代用)、掃除コーナーの薬品、キャンプコーナーの燃料。
さらに、太郎の思考は加速する。
(それだけじゃない! 100円ショップの品を出せる……つまり、現代のダイソーやキャンドゥのような大型店にある、『100円以上の高額商品』も出せるってことか!?)
最近の100円ショップは、100円均一ではない。
300円のモバイルバッテリー、500円のキャンプ用コンロ、1000円の高品質な工具やワイヤレスイヤホン。
それらも「100円ショップの商品」だ。
太郎はウィンドウを操作し、『価格帯別』のフィルタを外した。
すると、今まで表示されていなかったアイテムがずらりと並んだ。
【 300円商品:アウトドア用・固形燃料(大容量) 】
【 500円商品:ステンレス製スキットル 】
【 1000円商品:精密作業用ルーターセット 】
(これだ……!)
太郎は口元を手で覆い、笑みがこぼれるのを抑えた。
100円ショップの真実。それは、安物を買うだけのスキルではない。
「現代知識(本)」と「高度な加工品(高額商品)」と「化学素材」を組み合わせ、この世界には存在しない兵器をクラフトする能力だったのだ。
「これなら……僕だけの必殺の武器ができる!」
太郎は月明かりの下、弓を見つめ直した。
ただの木の棒と弦が、全く別の凶器に見えてくる。
(見てろよ、ライザ、サリー。もう二度と、君たちを傷つけさせない)
太郎は静かに、しかし力強くウィンドウを操作し始めた。
手始めに、『花火の仕組みと作り方』と『アウトドア用燃料』を購入する。
部屋の片隅で、異世界の常識を覆す「爆弾魔(ボマー)」としての太郎が産声を上げた瞬間だった。
『銀の月亭』の一室。
深夜、窓から差し込む月明かりだけが部屋を照らしていた。
隣のベッドからは、サリーとライザの安らかな寝息が聞こえてくる。昼間の祝勝会で少し飲みすぎたのか、二人は泥のように眠っていた。
けれど、太郎は一人、暗闇の中で天井を見つめていた。
(……100円ショップって、何なんだ?)
昼間の光景がフラッシュバックする。
ライザが流した血。サリーの必死の形相。そして、何もできずに震えていた自分。
(画鋲で足止めしたり、レーザーポインターで目眩ましをしたり……そんな小手先の技しか出来ないのか? そんなんじゃ、次は守れない)
悔しさが込み上げ、太郎はベッドから音を立てずに起き上がった。
部屋の隅に立て掛けてある自分の武器――「短弓」を手に取る。
(弓……僕がこの世界で唯一、まともに扱える武器)
弦を指で弾く。ベン、と小さな音がした。
威力不足だ。ゴブリンなら倒せても、魔狼のような強靭な筋肉を持つ相手には通用しない。
(もっと……何かこう、でっかいダメージを出せれば……)
太郎は弓を握りしめ、思考を巡らせる。
単純な腕力ではない。魔法でもない。現代人の僕ができる、破壊的な一撃。
(デカイダメージ……火力……そう、火薬だ)
もしも爆発的な威力があれば、矢が刺さらなくても衝撃でダメージを与えられる。
だが、火薬なんてどうやって作る? 硫黄? 木炭? 硝石? 配合比率は?
(……分からない。僕は経済学部だ。化学なんて高校以来やってない)
諦めかけたその時、太郎は無意識にスキルウィンドウを開いていた。
見慣れた『食品』や『文具』のカテゴリ。
指をスライドさせていくと、今までスルーしていたカテゴリが目に止まった。
【 書籍・雑誌 】
(……書籍? 100円ショップに本なんてあったか? クロスワードパズルとか、簡単な実用書くらいじゃ……)
火薬の専門書なんてあるわけがない。そう思って閉じようとした時、ある記憶が蘇った。
地元の100円ショップには、併設された古本コーナーや、ワゴンセールの「中古本100円均一」があったことを。
(……いや!? 待てよ)
あの女神ルチアナは言った。
『これは勇者や英雄になれる可能性を秘めるんですよ? 使い方次第ですが』
(もしかして……!)
太郎の心臓が早鐘を打ち始める。
『100円ショップ』というスキル名は、単に「100円ショップで売られている新品」だけを指すんじゃない。
「100円(100ポイント)で購入可能なあらゆる物品」という概念が含まれているとしたら?
太郎は震える指で検索窓に文字を打ち込んだ。
『科学』『実験』『化学』。
検索結果が表示される。
【 (中古)図解でわかる!身近な科学実験:100P 】
【 (中古)高校化学の基礎が3時間でわかる本:100P 】
【 (中古)花火の仕組みと作り方(趣味の雑学シリーズ):100P 】
(あった……!!)
太郎は息を呑んだ。
中古本なら、100円で売っている。つまり、このスキルで呼び出せるのだ。
ここには、この世界にはない「現代の知識」が詰まっている。配合比率も、危険物の扱い方も!
(知識だけじゃない。材料はどうする?)
火薬そのものは売っていなくても、その原料となるものは?
園芸コーナーの肥料(硝酸カリウムの代用)、掃除コーナーの薬品、キャンプコーナーの燃料。
さらに、太郎の思考は加速する。
(それだけじゃない! 100円ショップの品を出せる……つまり、現代のダイソーやキャンドゥのような大型店にある、『100円以上の高額商品』も出せるってことか!?)
最近の100円ショップは、100円均一ではない。
300円のモバイルバッテリー、500円のキャンプ用コンロ、1000円の高品質な工具やワイヤレスイヤホン。
それらも「100円ショップの商品」だ。
太郎はウィンドウを操作し、『価格帯別』のフィルタを外した。
すると、今まで表示されていなかったアイテムがずらりと並んだ。
【 300円商品:アウトドア用・固形燃料(大容量) 】
【 500円商品:ステンレス製スキットル 】
【 1000円商品:精密作業用ルーターセット 】
(これだ……!)
太郎は口元を手で覆い、笑みがこぼれるのを抑えた。
100円ショップの真実。それは、安物を買うだけのスキルではない。
「現代知識(本)」と「高度な加工品(高額商品)」と「化学素材」を組み合わせ、この世界には存在しない兵器をクラフトする能力だったのだ。
「これなら……僕だけの必殺の武器ができる!」
太郎は月明かりの下、弓を見つめ直した。
ただの木の棒と弦が、全く別の凶器に見えてくる。
(見てろよ、ライザ、サリー。もう二度と、君たちを傷つけさせない)
太郎は静かに、しかし力強くウィンドウを操作し始めた。
手始めに、『花火の仕組みと作り方』と『アウトドア用燃料』を購入する。
部屋の片隅で、異世界の常識を覆す「爆弾魔(ボマー)」としての太郎が産声を上げた瞬間だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる