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EP 25
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完成、爆裂矢(バースト・アロー)
ゴルド商会を通じて希少素材「火花鉱」と「精霊石」を入手してから数日後。
太郎たちは再び、郊外にあるガンダフの工房を訪れた。
「おう、来たか」
工房の奥から現れたガンダフは、目の下に濃いクマを作っていたが、その瞳はギラギラと怪しく輝いていた。
「ほらよ。あんちゃんのお望み通り……いや、それ以上の『必殺の矢』だ」
ガンダフが作業台の布を捲ると、そこには漆黒に塗られた5本の矢が並んでいた。
通常の矢よりも一回り太く、先端には鏃(やじり)の代わりに、赤く脈打つ「精霊石」と、起爆装置となる「火花鉱」が複雑な機構で組み込まれている。
「これが……僕の矢か」
太郎は震える手で一本を手に取った。
ずしりと重い。だが、不快な重さではない。破壊の力が凝縮された重みだ。
「取り扱いには気をつけろよ。衝撃を与えれば即ドカンだ。安全装置(セーフティ)としてピンを刺してあるが、抜いたら最後、慎重に扱え」
「ありがとうございます、師匠!」
その足で、三人は人目のつかない街の郊外、廃棄された岩場へと向かった。
そこには、落雷で立ち枯れた巨大な古木が一本、ポツンと立っていた。テストの的としては申し分ない。
「早速、威力を試して見ましょうよ」
サリーがゴクリと唾を飲み込む。
「そうね! 私たちも少し離れて見守りましょう」
ライザの指示で、二人は太郎の後方へ下がる。
太郎は深呼吸をし、矢筒から慎重に「必殺の矢」を取り出した。
ガンダフに言われた通り、安全ピンを抜く。
(……頼むぞ)
短弓につがえる。
やはり重いが、ライザとの特訓で鍛えた今の太郎なら引ける。
弦を限界まで引き絞り、狙いをあの大木の幹――その一点に定める。
静まり返るサリー達。
風が止み、鳥の声が消えた。
太郎の集中力が極限まで高まる。
「行けッ!!」
太郎は弦を離した。
シュッ!!
重みのある矢は、放物線を描くことなく、一直線に空気を切り裂いて飛翔した。
そして――。
カッ!!
着弾の瞬間、世界が白く染まった。
ドゴォォォォォォンッッ!!!
鼓膜を破るような轟音と共に、数十メートル先で天地を貫く紅蓮の爆炎が咲き乱れた。
「精霊石」によって増幅された火薬のエネルギーが、「火花鉱」の着火によって一瞬で解き放たれたのだ。
「きゃぁっ!?」
「くっ……!」
遅れて押し寄せた爆風が、太郎たちの髪や服を激しく煽る。
地面が揺れ、土煙と硝煙の匂いが辺り一面を覆い尽くした。
やがて煙が晴れると……。
そこにあったはずの大木は、跡形もなく消滅していた。
地面には抉り取られたような巨大なクレーターだけが残り、黒く焦げた木片がパラパラと空から降ってくる。
「…………」
三人は言葉を失い、ポカンと口を開けてその惨状を見つめていた。
それはもはや、弓矢の威力ではない。
上位魔法使いが放つ「爆裂魔法」そのものだった。
「……す、凄い! 必殺だ! 本当に必殺の矢だわ!」
最初に我に返ったサリーが、興奮して叫んだ。
「これほど迄とは……。魔狼のブレス以上の破壊力です。これなら、ドラゴンの鱗さえ貫けるかもしれません」
ライザが冷や汗を流しながら呟く。騎士として、この兵器の戦略的価値(と危険性)を肌で感じているようだ。
「これが……僕の必殺の矢の威力……」
太郎は自分の手と弓を見つめた。
手が痺れている。
100円ショップの本で得た知識と、異世界の素材。その融合は、太郎という「持たざる者」を、一撃必殺の「砲台」へと変貌させたのだ。
「これなら……戦える。ライザも、サリーも、僕が守れる!」
太郎は拳を握りしめた。
その目には、もう以前のような怯えの色はなかった。
最強の矛を手に入れた佐藤太郎の、本当の快進撃がここから始まる。
ゴルド商会を通じて希少素材「火花鉱」と「精霊石」を入手してから数日後。
太郎たちは再び、郊外にあるガンダフの工房を訪れた。
「おう、来たか」
工房の奥から現れたガンダフは、目の下に濃いクマを作っていたが、その瞳はギラギラと怪しく輝いていた。
「ほらよ。あんちゃんのお望み通り……いや、それ以上の『必殺の矢』だ」
ガンダフが作業台の布を捲ると、そこには漆黒に塗られた5本の矢が並んでいた。
通常の矢よりも一回り太く、先端には鏃(やじり)の代わりに、赤く脈打つ「精霊石」と、起爆装置となる「火花鉱」が複雑な機構で組み込まれている。
「これが……僕の矢か」
太郎は震える手で一本を手に取った。
ずしりと重い。だが、不快な重さではない。破壊の力が凝縮された重みだ。
「取り扱いには気をつけろよ。衝撃を与えれば即ドカンだ。安全装置(セーフティ)としてピンを刺してあるが、抜いたら最後、慎重に扱え」
「ありがとうございます、師匠!」
その足で、三人は人目のつかない街の郊外、廃棄された岩場へと向かった。
そこには、落雷で立ち枯れた巨大な古木が一本、ポツンと立っていた。テストの的としては申し分ない。
「早速、威力を試して見ましょうよ」
サリーがゴクリと唾を飲み込む。
「そうね! 私たちも少し離れて見守りましょう」
ライザの指示で、二人は太郎の後方へ下がる。
太郎は深呼吸をし、矢筒から慎重に「必殺の矢」を取り出した。
ガンダフに言われた通り、安全ピンを抜く。
(……頼むぞ)
短弓につがえる。
やはり重いが、ライザとの特訓で鍛えた今の太郎なら引ける。
弦を限界まで引き絞り、狙いをあの大木の幹――その一点に定める。
静まり返るサリー達。
風が止み、鳥の声が消えた。
太郎の集中力が極限まで高まる。
「行けッ!!」
太郎は弦を離した。
シュッ!!
重みのある矢は、放物線を描くことなく、一直線に空気を切り裂いて飛翔した。
そして――。
カッ!!
着弾の瞬間、世界が白く染まった。
ドゴォォォォォォンッッ!!!
鼓膜を破るような轟音と共に、数十メートル先で天地を貫く紅蓮の爆炎が咲き乱れた。
「精霊石」によって増幅された火薬のエネルギーが、「火花鉱」の着火によって一瞬で解き放たれたのだ。
「きゃぁっ!?」
「くっ……!」
遅れて押し寄せた爆風が、太郎たちの髪や服を激しく煽る。
地面が揺れ、土煙と硝煙の匂いが辺り一面を覆い尽くした。
やがて煙が晴れると……。
そこにあったはずの大木は、跡形もなく消滅していた。
地面には抉り取られたような巨大なクレーターだけが残り、黒く焦げた木片がパラパラと空から降ってくる。
「…………」
三人は言葉を失い、ポカンと口を開けてその惨状を見つめていた。
それはもはや、弓矢の威力ではない。
上位魔法使いが放つ「爆裂魔法」そのものだった。
「……す、凄い! 必殺だ! 本当に必殺の矢だわ!」
最初に我に返ったサリーが、興奮して叫んだ。
「これほど迄とは……。魔狼のブレス以上の破壊力です。これなら、ドラゴンの鱗さえ貫けるかもしれません」
ライザが冷や汗を流しながら呟く。騎士として、この兵器の戦略的価値(と危険性)を肌で感じているようだ。
「これが……僕の必殺の矢の威力……」
太郎は自分の手と弓を見つめた。
手が痺れている。
100円ショップの本で得た知識と、異世界の素材。その融合は、太郎という「持たざる者」を、一撃必殺の「砲台」へと変貌させたのだ。
「これなら……戦える。ライザも、サリーも、僕が守れる!」
太郎は拳を握りしめた。
その目には、もう以前のような怯えの色はなかった。
最強の矛を手に入れた佐藤太郎の、本当の快進撃がここから始まる。
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