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EP 53
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英雄、伯爵になる。そして執事の再就職
デルン王宮、謁見の間。
荘厳な空気の中、赤絨毯の上を歩いた太郎たちは、バゴール王の御前へと進み出た。
「おぉ、良く来てくれた! 勇者太郎殿!」
玉座のバゴール王が、破顔一笑で出迎えた。
前回、カレーを食べた時とは違い、今日は王としての威厳を漂わせている(カレーの記憶が強すぎて、太郎には食いしん坊に見えるが)。
「どうも、ご無沙汰してます」
太郎は軽く頭を下げた。本来なら不敬かもしれないが、救国の英雄ということで許されている。
『オッス! 王様!』
ピカリが太郎のフードから顔を出し、元気よく手を挙げた。
周囲の衛兵がギョッとするが、バゴール王は鷹揚に頷いた。
「うむ、精霊殿も元気そうで何よりだ。……さて、単刀直入に言おう」
王は居住まいを正した。
「そなたを呼んだのは他でも無い。ドラゴンやベヒーモスを倒し、S級冒険者となり、名実共にデルン王国、いやマンルシア大陸の『勇者』となったその功績についてだ」
「そんな……僕はただ、自分の街を守っただけで……」
「謙遜は美徳だが、過ぎれば嫌味になるぞ。現に、民の声は日に日に高まっておる。『その勇者太郎に対して、デルン王国は相応の地位も報酬も与えないとは、如何なる了見か!』とな。貴族達や民達から、突き上げが来ているのだよ」
「えぇ……そんな事が」
太郎は困惑した。自分たちは金貨を貰って満足していたが、世間的には「国の英雄」に対する扱いとしては軽すぎると見られているらしい。
「そこでだ」
バゴール王は重々しく宣言した。
「そなた、勇者太郎を**『公爵』**にする。王族に次ぐ最高位の爵位だ。これでうるさい連中は黙るだろう」
「こ、公爵ぅぅぅ!?」
太郎の声が裏返った。公爵といえば、広大な領地を持ち、国の政治にも深く関わる大貴族だ。
「そ、そんな無理です! 無理無理!」
太郎はブンブンと首を横に振った。
「僕は冒険がしたいんです! ダンジョンに潜ったり、新しい料理を作ったり、自由な生活がしたいんです! 貴族の堅苦しい生活なんて耐えられません!」
「太郎さんの気持ち、分かりますわ」
ライザが深く頷く。
「公爵ともなれば、社交界や派閥争いに巻き込まれます。太郎さんの良さが消えてしまいます」
「うんうん。公爵なんて、肩が凝りそう。毎日パーティーで愛想笑いなんて、太郎さんには似合わないわ」
サリーも否定的だ。
三人の猛反発に、バゴール王は額に汗を浮かべた。
「ぬぬ……貰ってもらわねば困るのだ! 国のメンツがある! 頼む!」
「嫌です!」
「……わ、分かった! ならば譲歩しよう!」
王は一つ咳払いをし、提案を変えた。
「で、では**『伯爵』**! 伯爵ならばどうだ!? 公爵よりも地位は下がるが、その分自由がきく!」
「伯爵……?」
「うむ。お主の住んでいる『アルクス』を領地として与える。元々アルクスは冒険者の街だ。細かい統治はギルドに任せれば良い」
「でも、領主としての仕事とか……」
「そこでだ! 有能なマルスを与える!」
王は控えていた執事マルスを指差した。
「マルスを王宮執事から解任し、太郎専属の家令(執事長)として仕えさせる! 領地の管理、書類仕事、面倒な政務は全てマルスに任せればよい! ……これならどうだ!?」
「えっ?」
太郎はマルスを見た。
マルスは直立不動のまま、しかしその瞳は「お願いします、受け入れてください! 私の子供と祖母のために!」と必死に訴えかけている。
有能なマルスが全部やってくれるなら、太郎は実質、名前だけの領主でいいということだ。
「う~ん……」
それでも悩む太郎に、バゴール王は最後の切り札を切った。
「頼む! そなたに褒美を与えぬとなると、『王家は英雄を冷遇している』と噂が立ち、民達が反乱を企てるかもしれんのだ! 国が荒れれば、そなたの愛するカレーの材料も流通しなくなるぞ!?」
「なっ……カレーの材料が!?」
それは困る。それに、マルスの「5人目の子供と温泉好きの祖母」の件もある。ここで断れば、マルスは路頭に迷うかもしれない。
(……僕が名前だけの伯爵になれば、国も丸く収まるし、マルスさんも再就職できるし、アルクスの街も潤う……のか?)
「……わ、分かりました! 分かりましたよ! なります! 伯爵に!」
「おぉ!!」
バゴール王は玉座から身を乗り出し、安堵の息を吐いた。
「感謝するぞ、太郎卿(きょう)! これで我が国も安泰だ!」
「ありがとうございます! 旦那様!」
マルスも感涙にむせび泣きながら頭を下げた。
こうして、異世界のコンビニ店員・佐藤太郎は、S級冒険者、ドラゴンスレイヤー、そして「アルクス伯爵」という肩書きまで手に入れることになったのだった。
デルン王宮、謁見の間。
荘厳な空気の中、赤絨毯の上を歩いた太郎たちは、バゴール王の御前へと進み出た。
「おぉ、良く来てくれた! 勇者太郎殿!」
玉座のバゴール王が、破顔一笑で出迎えた。
前回、カレーを食べた時とは違い、今日は王としての威厳を漂わせている(カレーの記憶が強すぎて、太郎には食いしん坊に見えるが)。
「どうも、ご無沙汰してます」
太郎は軽く頭を下げた。本来なら不敬かもしれないが、救国の英雄ということで許されている。
『オッス! 王様!』
ピカリが太郎のフードから顔を出し、元気よく手を挙げた。
周囲の衛兵がギョッとするが、バゴール王は鷹揚に頷いた。
「うむ、精霊殿も元気そうで何よりだ。……さて、単刀直入に言おう」
王は居住まいを正した。
「そなたを呼んだのは他でも無い。ドラゴンやベヒーモスを倒し、S級冒険者となり、名実共にデルン王国、いやマンルシア大陸の『勇者』となったその功績についてだ」
「そんな……僕はただ、自分の街を守っただけで……」
「謙遜は美徳だが、過ぎれば嫌味になるぞ。現に、民の声は日に日に高まっておる。『その勇者太郎に対して、デルン王国は相応の地位も報酬も与えないとは、如何なる了見か!』とな。貴族達や民達から、突き上げが来ているのだよ」
「えぇ……そんな事が」
太郎は困惑した。自分たちは金貨を貰って満足していたが、世間的には「国の英雄」に対する扱いとしては軽すぎると見られているらしい。
「そこでだ」
バゴール王は重々しく宣言した。
「そなた、勇者太郎を**『公爵』**にする。王族に次ぐ最高位の爵位だ。これでうるさい連中は黙るだろう」
「こ、公爵ぅぅぅ!?」
太郎の声が裏返った。公爵といえば、広大な領地を持ち、国の政治にも深く関わる大貴族だ。
「そ、そんな無理です! 無理無理!」
太郎はブンブンと首を横に振った。
「僕は冒険がしたいんです! ダンジョンに潜ったり、新しい料理を作ったり、自由な生活がしたいんです! 貴族の堅苦しい生活なんて耐えられません!」
「太郎さんの気持ち、分かりますわ」
ライザが深く頷く。
「公爵ともなれば、社交界や派閥争いに巻き込まれます。太郎さんの良さが消えてしまいます」
「うんうん。公爵なんて、肩が凝りそう。毎日パーティーで愛想笑いなんて、太郎さんには似合わないわ」
サリーも否定的だ。
三人の猛反発に、バゴール王は額に汗を浮かべた。
「ぬぬ……貰ってもらわねば困るのだ! 国のメンツがある! 頼む!」
「嫌です!」
「……わ、分かった! ならば譲歩しよう!」
王は一つ咳払いをし、提案を変えた。
「で、では**『伯爵』**! 伯爵ならばどうだ!? 公爵よりも地位は下がるが、その分自由がきく!」
「伯爵……?」
「うむ。お主の住んでいる『アルクス』を領地として与える。元々アルクスは冒険者の街だ。細かい統治はギルドに任せれば良い」
「でも、領主としての仕事とか……」
「そこでだ! 有能なマルスを与える!」
王は控えていた執事マルスを指差した。
「マルスを王宮執事から解任し、太郎専属の家令(執事長)として仕えさせる! 領地の管理、書類仕事、面倒な政務は全てマルスに任せればよい! ……これならどうだ!?」
「えっ?」
太郎はマルスを見た。
マルスは直立不動のまま、しかしその瞳は「お願いします、受け入れてください! 私の子供と祖母のために!」と必死に訴えかけている。
有能なマルスが全部やってくれるなら、太郎は実質、名前だけの領主でいいということだ。
「う~ん……」
それでも悩む太郎に、バゴール王は最後の切り札を切った。
「頼む! そなたに褒美を与えぬとなると、『王家は英雄を冷遇している』と噂が立ち、民達が反乱を企てるかもしれんのだ! 国が荒れれば、そなたの愛するカレーの材料も流通しなくなるぞ!?」
「なっ……カレーの材料が!?」
それは困る。それに、マルスの「5人目の子供と温泉好きの祖母」の件もある。ここで断れば、マルスは路頭に迷うかもしれない。
(……僕が名前だけの伯爵になれば、国も丸く収まるし、マルスさんも再就職できるし、アルクスの街も潤う……のか?)
「……わ、分かりました! 分かりましたよ! なります! 伯爵に!」
「おぉ!!」
バゴール王は玉座から身を乗り出し、安堵の息を吐いた。
「感謝するぞ、太郎卿(きょう)! これで我が国も安泰だ!」
「ありがとうございます! 旦那様!」
マルスも感涙にむせび泣きながら頭を下げた。
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