スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します

月神世一

文字の大きさ
143 / 251
第三章 世界の秩序

EP 24

しおりを挟む
エルフの料理人が、鍋に込める魔法
城の朝は、今日も今日とて騒がしかった。
「旦那様ぁ! 今日の私のドレス、何点ですか!? 100点ですよね!?」
「太郎様、ネクタイが曲がっていますわ。私が直して差し上げます(と言いつつ抱きつく)」
「太郎様! 朝稽古のついでに、プロテイン入りの特製スムージーを作りました! 一気飲みしてください!」
フレア、サリー、ライザの三人が、太郎を取り囲んで愛の波状攻撃を仕掛けている。
その横で、竜王デュークと狼王フェリルが「目玉焼きには醤油かソースか」で取っ組み合いの喧嘩を始めていた。
「はぁ……いつもの風景だなぁ」
太郎は遠い目をしながら、嵐が過ぎ去るのを待っていた。
そんな喧騒をよそに、一人の影が静かに勝手口から抜け出した。
完璧超人メイド、サクヤである。
「皆様がお元気な間に、夕食の買い出しを済ませてしまいましょう」
彼女は買い物かごを手に、軽やかな足取りで城下町へと向かった。
城下町は活気に満ちていた。
サクヤは厳しい目利きで野菜や肉を選んでいく。彼女が歩くと、八百屋の親父も魚屋の店主も背筋を伸ばす。彼女は市場でも一目置かれる存在なのだ。
買い物をあらかた終えた帰り道。
路地裏から、すすり泣く声が聞こえた。
「うっ、うっ……」
サクヤが足を止めると、建物の陰で一人の少女が膝を抱えて泣いていた。服は薄汚れており、ひどく痩せている。
「お嬢さん。どうなさいましたの?」
サクヤが目線の高さを合わせてしゃがみ込み、優しく声をかける。
少女はビクッとして顔を上げたが、サクヤの慈愛に満ちた碧眼を見て、少しだけ安心したように口を開いた。
「えっと……お母さんが、病気で寝込んでて……。お仕事に行けないから、ご飯がなくて……お腹空いたよぉ……」
「まぁ……」
サクヤの表情が曇る。
この国は太郎の統治で豊かになったとはいえ、全ての家庭に手が届いているわけではない。
彼女は迷わず、少女の手を取った。
「大変でしたね。少し、お家にお邪魔してもよろしいかしら?」
少女に案内された家は、隙間風が吹く小さなあばら家だった。
部屋の奥のベッドには、痩せ細った母親が力なく横たわっていた。
「ゴホッ、ゴホッ……。す、すみません……何のお構いも出来ませんで……」
「いえ、お気になさらないで。私が勝手に押し掛けたのですから」
サクヤは母親に布団をかけ直すと、すぐに袖をまくった。
「キッチンをお借りしますね」
サクヤは買ってきたばかりの新鮮な野菜と牛乳、そして太郎から預かっている『100円ショップスキル』のアイテム(コンソメやバター)を取り出した。
「お嬢ちゃん。名前は?」
「……ミナ」
「良いお名前ですね。ミナちゃん、一緒にシチューを作ってみましょうか」
「うん!」
サクヤはミナに包丁を持たせ、手を添えながら野菜の切り方を教えた。
「そうです。猫の手にして、ゆっくりと……。野菜はね、優しく切ると美味しくなるんですよ」
「こう?」
「えぇ、とても上手ですわ」
鍋の中でバターと小麦粉を炒め、牛乳でのばしていく。
コトコトと煮込む音と共に、家の中に温かく甘い香りが満ちていく。
それは、凍えた心を溶かすような「幸せの匂い」だった。
鍋をかき混ぜながら、ミナがふと尋ねた。
「お姉ちゃんは、どうして料理人になったの? 魔法もすごく上手そうなのに」
サクヤは鍋の中を見つめながら、懐かしそうに目を細めた。
「……そうですね……」
彼女は静かに語り始めた。
「わたくしたちエルフは、元々、森の恵みに感謝し、あまり手を加えず、素材そのものの味をいただく……木の実や草をそのまま食べるような、質素な食事で満足する種族でした」
エルフにとって食事とは、生命維持のための摂取に過ぎなかった。
「でも、わたくしは若い頃に少しだけ、森を出て人間の街で暮らす機会があったのです。そこで見た光景に、衝撃を受けました」
硬い肉を煮込んで柔らかくし、苦い野菜を工夫して甘くする。
火を使い、調味料を使い、知恵を使う。
「そこで初めて、『料理』というものが持つ、素晴らしい力を知ったのですわ。ただの食材が、人の手によって、心を温める『魔法』に変わる瞬間を」
サクヤはミナを見て、優しく微笑んだ。
「丁寧に真心を込めた料理は、人を笑顔にします。疲れた体を癒やし、明日を生きる活力を与えてくれる。……だから、わたくしは剣を置くよりも、包丁を握ることを選んだのかもしれませんね」
「へぇ~……。料理って、すごいんだね」
ミナの目がキラキラと輝く。
「えぇ。さぁ、美味しくな~れ……」
出来上がったシチューは、白く輝いていた。
テーブルに並べると、湯気だけでお腹が鳴りそうだ。
「わぁ! いただきます!」
ミナが一口食べる。
「ん~っ!! 美味しい! すごく温かいよ!」
少女の顔に、花が咲いたような笑顔が戻った。
サクヤは、体を起こした母親の口にも、スプーンでシチューを運んだ。
「……っ……」
母親の目から涙がこぼれた。
「美味しいです……。体が、中からポカポカして……力が湧いてくるようです……。本当に、ありがとうございます……」
「いえいえ。たくさん食べて、早く元気になってくださいね」
鍋いっぱいのシチューと、残りの食材を置いて、サクヤは家を後にした。
「またね! ありがとう! お姉ちゃん!」
ミナが家の前でいつまでも手を振っていた。
その笑顔は、どんな宝石よりも輝いて見えた。
夕暮れ時。サクヤは城に戻った。
城内では、まだ花嫁バトルの余韻(という名の残骸)が残っていたが、不思議と騒がしさは感じなかった。
キッチンに入ると、つまみ食いを探していた太郎と鉢合わせた。
「あ、おかえりサクヤ。……あれ?」
太郎はサクヤの顔を覗き込んだ。
「何か良い事でもあったのかい? なんだか、すごく優しい顔をしてるというか……にっこりしてる」
普段の「完璧な微笑み」とは違う、もっと自然で、内側から発光するような柔らかい表情だった。
サクヤは自分の頬に手を当て、ふふっと笑った。
「いえ……ただ、料理の素晴らしさを、再確認できただけですわ」
彼女はエプロンの紐をキュッと締め直した。
その背中からは、いつにも増して気合と愛情オーラが立ち上っている。
「さて! ご飯を作りますね! 今日は……何時もより、もっともっと美味しく作れそうな気がします」
「おぉ! それは楽しみだ! 手伝うよ!」
「ふふ、お願いしますね、私の『戦友』さん」
その夜の夕食は、太郎たち全員が言葉を失うほど絶品だった。
一口食べるたびに心が洗われるようなその味に、喧嘩をしていたフレアやデュークたちも、いつしか穏やかな笑顔になり、静かで幸せな食卓を囲むのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...