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第四章 新たな秩序
EP 17
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王の激務と、世界の天秤
【太郎国・王城 謁見の間】
「……はい、承認。次」
バンッ!
「……はい、同盟締結。次」
バンッ!
「……はい、食料支援の要請ね。許可。次」
バンッ!
かつてないほど賑わうタロウ城。
しかし、玉座に座る太郎の目は死んでいた。
目の前には、長蛇の列。グランディス王国からの使者、ルーン聖教国の司教、バルド帝国の皇太子……世界中のVIPたちが、太郎のハンコ(決裁)を求めて並んでいるのだ。
「た、太郎様! こちらの書類にもサインを!」
「太郎王! 我が国へのバリスタ配備の件ですが!」
「陛下! 娘を側室に!」
「あぁもう……! ハンコを押すだけでも辛い……!」
太郎は悲鳴を上げながら、機械のように手を動かしていた。
腱鞘炎になりそうだ。いや、回復魔法があるから治るのだが、精神が磨り減っていく。
スローライフどころか、超ブラック企業の社畜王である。
【王城・作戦会議室】
夕刻。ようやく謁見の時間が終わり、太郎たちは重い足取りで会議室に集まっていた。
話題は、依然として沈黙を守る魔族国「ワイズ皇国」への対応についてだ。
「はぁ……。今日も疲れましたわ」
ライザが紅茶を淹れながら溜息をつく。
「しかし、悠長な事は言っていられません。今回は撃退しましたが、また魔族がいつ襲ってくるやも知れません」
「そうねぇ……」
サリーが杖をいじりながら、少し過激な提案をした。
「いっその事、こちらからワイズ皇国を攻めたらどうかしら? 太郎様の力と、私たちの魔法があれば、デスピア城ごと消し飛ばせますわよ?」
「それは軍事的に見て悪手ですわ、サリー」
ライザが首を横に振る。
「攻城戦において、攻める側は守る側の『3倍の兵力』が必要というのが定石。それに、海を越えた敵地へ深く侵攻すれば、伸び切った戦線の補給路(兵站)を維持するのは現実的じゃありません」
「むぅ……」
ヒブネが腕を組んで唸る。
「しかし、これでは我々は常に後手に回り、魔族達の気分次第で攻め込まれるのを待つだけです。防戦一方では、いつか綻びが生じます」
「何とかして、魔族を根絶やしにする手立てを考えねば……」
ライザが剣呑な眼差しで地図上の「ワイズ皇国」を睨みつけた時だった。
「待て」
それまで窓際で月を見ていた竜王デュークが、静かに口を開いた。
「この世界の『調停者』として言っておくが……魔族を滅ぼすのは止めた方が良いな」
会議室の空気が止まった。
「な、何故ですか?」
サリーが驚いて尋ねる。
「奴らは人間を家畜としか思っていないのですよ? 滅ぼさなければ、また悲劇が繰り返されます」
「どういう事なんだい? デューク」
太郎も真剣な表情で問いかけた。
デュークはゆっくりと振り返り、古の理(ことわり)を語り始めた。
「うむ。……この世界は、天秤なのだ」
「天秤?」
「人間、魔族、獣人、エルフ、ドワーフ、竜人、魚人……。種族は違えど、それぞれが『重り』となって世界の均衡を保っておる。どれか一方が勝ちすぎたり、あるいは絶滅したりすれば……世界のバランスが崩れる」
デュークの声が低く、重くなる。
「均衡が崩れた時、世界をリセットするために……邪神デュアダロスが復活するのだ」
「邪神……デュアダロス……?」
初めて聞く名に、ライザたちが息を呑む。
「えぇ。難しい所なんですの」
フレアが困ったように眉を下げて補足した。
「それは太古の昔、神々が定めた『安全装置』のようなもの。ある種族が増長しすぎないように、世界そのものを無に帰すためのシステムですわ」
「そんな……」
デュークは太郎を見た。
「まあ、主のデタラメな力を持ってすれば、デュアダロスなんぞ敵ではないだろう。ワンパンで沈むはずだ」
「じゃあ、いいんじゃない?」
「いいや、良くない。問題はデュアダロスの強さではない。『復活した時点で発動する現象』だ」
デュークは警告した。
「奴が目覚めれば、世界中のマナが枯渇し、大地は腐り、海は干上がる。……つまり、主がデュアダロスを倒したとしても、その後に残るのは『何も生み出さない荒廃した死の世界』だ」
「ッ……!」
「荒廃した世界で、主のみが生き残る事になる。そこには美味しい牛丼を作る牛もいなければ、小麦も育たない。笑顔の民もいない。……それでは、意味がなかろう?」
太郎はハッとした。
自分が守りたかったのは「勝利」ではなく、「皆と笑ってご飯を食べる日常」だ。
魔族を滅ぼして世界が死んでしまっては、本末転倒だ。
「で、では、どうすれば……」
ライザが頭を抱える。
「攻め滅ぼすこともできず、かと言って向こうは侵略を諦めない。……詰みですの?」
手詰まり感漂う部屋で、フェリルが不満そうにビーフジャーキーを噛みちぎった。
「全く……ルチアナ(女神)も、面倒くさい世界にしたもんだよねー。もっとシンプルにすればいいのに」
「全くだな」
太郎は天井を見上げた。
力で解決できない問題。それは彼にとって初めての壁だった。
「……滅ぼさずに、大人しくさせる。そんな方法が、あるのかな」
王としての新たな課題――「対話」か、「威圧」か、それとも「文化侵略」か。
ハンコ地獄の次は、外交地獄が太郎を待ち受けていた。
【太郎国・王城 謁見の間】
「……はい、承認。次」
バンッ!
「……はい、同盟締結。次」
バンッ!
「……はい、食料支援の要請ね。許可。次」
バンッ!
かつてないほど賑わうタロウ城。
しかし、玉座に座る太郎の目は死んでいた。
目の前には、長蛇の列。グランディス王国からの使者、ルーン聖教国の司教、バルド帝国の皇太子……世界中のVIPたちが、太郎のハンコ(決裁)を求めて並んでいるのだ。
「た、太郎様! こちらの書類にもサインを!」
「太郎王! 我が国へのバリスタ配備の件ですが!」
「陛下! 娘を側室に!」
「あぁもう……! ハンコを押すだけでも辛い……!」
太郎は悲鳴を上げながら、機械のように手を動かしていた。
腱鞘炎になりそうだ。いや、回復魔法があるから治るのだが、精神が磨り減っていく。
スローライフどころか、超ブラック企業の社畜王である。
【王城・作戦会議室】
夕刻。ようやく謁見の時間が終わり、太郎たちは重い足取りで会議室に集まっていた。
話題は、依然として沈黙を守る魔族国「ワイズ皇国」への対応についてだ。
「はぁ……。今日も疲れましたわ」
ライザが紅茶を淹れながら溜息をつく。
「しかし、悠長な事は言っていられません。今回は撃退しましたが、また魔族がいつ襲ってくるやも知れません」
「そうねぇ……」
サリーが杖をいじりながら、少し過激な提案をした。
「いっその事、こちらからワイズ皇国を攻めたらどうかしら? 太郎様の力と、私たちの魔法があれば、デスピア城ごと消し飛ばせますわよ?」
「それは軍事的に見て悪手ですわ、サリー」
ライザが首を横に振る。
「攻城戦において、攻める側は守る側の『3倍の兵力』が必要というのが定石。それに、海を越えた敵地へ深く侵攻すれば、伸び切った戦線の補給路(兵站)を維持するのは現実的じゃありません」
「むぅ……」
ヒブネが腕を組んで唸る。
「しかし、これでは我々は常に後手に回り、魔族達の気分次第で攻め込まれるのを待つだけです。防戦一方では、いつか綻びが生じます」
「何とかして、魔族を根絶やしにする手立てを考えねば……」
ライザが剣呑な眼差しで地図上の「ワイズ皇国」を睨みつけた時だった。
「待て」
それまで窓際で月を見ていた竜王デュークが、静かに口を開いた。
「この世界の『調停者』として言っておくが……魔族を滅ぼすのは止めた方が良いな」
会議室の空気が止まった。
「な、何故ですか?」
サリーが驚いて尋ねる。
「奴らは人間を家畜としか思っていないのですよ? 滅ぼさなければ、また悲劇が繰り返されます」
「どういう事なんだい? デューク」
太郎も真剣な表情で問いかけた。
デュークはゆっくりと振り返り、古の理(ことわり)を語り始めた。
「うむ。……この世界は、天秤なのだ」
「天秤?」
「人間、魔族、獣人、エルフ、ドワーフ、竜人、魚人……。種族は違えど、それぞれが『重り』となって世界の均衡を保っておる。どれか一方が勝ちすぎたり、あるいは絶滅したりすれば……世界のバランスが崩れる」
デュークの声が低く、重くなる。
「均衡が崩れた時、世界をリセットするために……邪神デュアダロスが復活するのだ」
「邪神……デュアダロス……?」
初めて聞く名に、ライザたちが息を呑む。
「えぇ。難しい所なんですの」
フレアが困ったように眉を下げて補足した。
「それは太古の昔、神々が定めた『安全装置』のようなもの。ある種族が増長しすぎないように、世界そのものを無に帰すためのシステムですわ」
「そんな……」
デュークは太郎を見た。
「まあ、主のデタラメな力を持ってすれば、デュアダロスなんぞ敵ではないだろう。ワンパンで沈むはずだ」
「じゃあ、いいんじゃない?」
「いいや、良くない。問題はデュアダロスの強さではない。『復活した時点で発動する現象』だ」
デュークは警告した。
「奴が目覚めれば、世界中のマナが枯渇し、大地は腐り、海は干上がる。……つまり、主がデュアダロスを倒したとしても、その後に残るのは『何も生み出さない荒廃した死の世界』だ」
「ッ……!」
「荒廃した世界で、主のみが生き残る事になる。そこには美味しい牛丼を作る牛もいなければ、小麦も育たない。笑顔の民もいない。……それでは、意味がなかろう?」
太郎はハッとした。
自分が守りたかったのは「勝利」ではなく、「皆と笑ってご飯を食べる日常」だ。
魔族を滅ぼして世界が死んでしまっては、本末転倒だ。
「で、では、どうすれば……」
ライザが頭を抱える。
「攻め滅ぼすこともできず、かと言って向こうは侵略を諦めない。……詰みですの?」
手詰まり感漂う部屋で、フェリルが不満そうにビーフジャーキーを噛みちぎった。
「全く……ルチアナ(女神)も、面倒くさい世界にしたもんだよねー。もっとシンプルにすればいいのに」
「全くだな」
太郎は天井を見上げた。
力で解決できない問題。それは彼にとって初めての壁だった。
「……滅ぼさずに、大人しくさせる。そんな方法が、あるのかな」
王としての新たな課題――「対話」か、「威圧」か、それとも「文化侵略」か。
ハンコ地獄の次は、外交地獄が太郎を待ち受けていた。
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『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
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