スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します

月神世一

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第四章 新たな秩序

EP 36

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竜王の残り湯と、戦慄の晩餐会
【太郎国・王城裏庭】
晴れ渡った午後。
中庭の片隅に設置された、年季の入ったドラム缶風呂から、もうもうと湯気が立ち上っていた。
その中で気持ちよさそうに目を細めているのは、世界最強の竜王デュークである。
「う~む……」
ドラム缶の下では、薪がパチパチと音を立てて燃えている。
その火加減を調整しているのは、完璧なメイド、サクヤだ。
「湯加減は如何ですか? デューク様」
サクヤが薪をくべながら、涼やかな声で尋ねた。
「あぁ、中々良いぞ。いつもの魔力釜と違って、直火というのは芯まで温まるな」
デュークは手拭いを頭に乗せ、極楽気分だ。
「よろしかったです」
サクヤは懐中時計をチラリと確認した。
(……現在、摂氏42度で27分経過。竜鱗(ドラゴンスケール)から旨味成分が溶け出すまで、あと3分……)
サクヤの目は、入浴の世話をするメイドの目ではなく、スープの煮込み具合を見るシェフの目だった。
「しかし、サクヤよ。急に風呂を勧めてどうしたのだ?」
デュークが不思議そうに聞いた。
「いつもは『邪魔だからあっちに行って下さい』と言うではないか」
「いえいえ。デューク様には日頃からお世話になって居ますから、そのお礼です」
サクヤはニッコリと微笑んだ。嘘は言っていない。今日のお礼(食材としての貢献)は大きい。
「そうかぁ。我も愛されたものだな」
デュークは機嫌を良くした。
「よし、そろそろ上がろうかなぁ。十分温まったし」
ザバッと立ち上がろうとするデューク。
サクヤの目が光った。まだ早い。コクが足りない。
「そんな、まだまだですよぉ」
サクヤが制止する。
「お風呂はじっくり浸からないといけません事よ。あと少し、毛穴が開いてエキス……いえ、疲れが出るまで」
(……あと1分。今、最高の出汁(だし)が出ているところです)
「そうかぁ? うむ、サクヤは気が利くなぁ」
デュークは素直に座り直した。
サクヤは心の中でカウントダウンを開始した。
(5……4……黄金色に輝くスープ……3……香り立つ竜の脂……2……濃厚なコク……1……0! 完成!)
サクヤはパチンと時計を閉じた。
「さぁさ、デューク様! 上がり頃です! 風呂上がりの冷たい牛乳が、食堂で待っていますよ!」
「おぉ! 牛乳か! それは楽しみだなぁ!」
デュークはドラム缶からザバァと上がり、タオルを腰に巻くと、鼻歌混じりで去っていった。
残されたのは、ドラム缶に並々と張られたお湯。
いや、それはもはやただのお湯ではなかった。
竜王の強靭な肉体から滲み出た魔力とエキスが凝縮され、黄金色に輝く「極上の竜王スープ(残り湯)」であった。
サクヤはそれを柄杓ですくい、香りを確かめた。
「……完璧ですわ」
サクヤは妖艶に舌舐めずりをした。
「さてと……皆様、お腹を空かせている頃でしょう」
【太郎国・王城 食堂】
夕食の時間。
テーブルには豪華な料理が並んでいたが、今日の一品は、中央に置かれた大きなスープ鍋だった。
「さぁ、今日は極上のスープを作りましたの。召し上がれ」
サクヤが恭しく、一人ひとりの皿に黄金色の液体を注いでいく。
芳醇な香り。それはこれまでに嗅いだことのない、力強くも上品な香りだった。
「いただきます!」
太郎たちはスプーンを口に運んだ。
「ん……ッ!?」
太郎の目が大きく見開かれた。
「美味しい! なんだこれ、すっごく濃厚なのに後味スッキリで……こんなに美味しいスープは初めてだよ!」
「本当に美味しい!」
ライザも絶賛する。
「何かしら、この身体の芯から力が湧いてくるような滋味深い味わいは……高級な地鶏? いえ、それ以上の……」
「美味しいわぁ~♡」
サリーもうっとりとしている。
「魔力が回復していくのが分かりますわ。サクヤさん、隠し味は何ですの?」
「企業秘密です」
サクヤは口元に人差し指を当てた。
「何とも味わい深い味だ」
風呂上がりのデュークも、自身の出汁(残り湯)とは知らずに舌鼓を打っていた。
「むぅ、何だろうな。この、実家に帰ったような安心感というか……非常に馴染む味だ」
「美容にも良さそうな味ですね」
フレアが肌をさする。
「コラーゲンたっぷりって感じですわ」
「スプーンが止まらないわぁ」
創造神ルチアナも、酒のつまみとしてガブガブ飲んでいる。
「これ、下界の食材? 神界でもこんなスープ出ないわよ?」
「本当に初めて飲んだけど、美味しい」
魔女王ラスティアも完食し、おかわりを要求した。
食堂中が「美味しい、美味しい」という称賛の声で溢れる中。
ただ一人、狼王フェリルだけは様子がおかしかった。
「…………」
彼の鼻がヒクヒクと動く。
狼の鋭敏な嗅覚は、スープから漂う「根源的な匂い」を捉えていた。
(え……これは……まさか……)
フェリルは、隣でスープを飲み干して「プハァ」と満足げなデュークを見た。
そして、そのデュークから漂う残り香と、スープの香りを照らし合わせる。
一致率100%。
(デュークの……風呂の残り湯……!?)
フェリルの顔色が青ざめた。
いくら竜王のエキスが最高級食材並みの魔力を含んでいるとはいえ、それはオッサンの入浴後の濁り汁だ。
フェリルが震える手でスプーンを置くと、背後から冷気を感じた。
「何か?」
振り返ると、サクヤが立っていた。
笑顔だ。完璧な営業スマイルだ。
だが、その目は「言ったら次の出汁はお前だぞ」と語っていた。
「ひぃっ! な、何でも有りません!!」
フェリルは椅子から転げ落ち、そのままテーブルの下に潜り込んだ。
「ど、どうしたのフェリル? お腹痛いの?」
太郎が心配そうに覗き込む。
「い、いいから! 僕のことは気にしないで! 今日は断食なんだ! うぅぅ……」
テーブルの下で耳を塞いで震えるフェリル。
「変なの」
太郎は首を傾げ、最後の一滴までスープを飲み干した。
「やっぱりサクヤは最高の料理人だね! ごちそうさま!」
「いえいえ。お粗末さまでした」
サクヤは深々と頭を下げた。
空になった鍋を見つめ、彼女は次の献立を考える。
(フェリル様は嗅覚が鋭いのが難点ですね……。次は、香草をたっぷり使って臭みを消した『狼王のハーブ煮込み』でも作りましょうか)
タロウ家の食卓は、今日も平和で、残酷なほどに美味であった。
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