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第五章 月下の宴
EP 2
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卑劣なる挑発と、仕組まれた侵略
【マルシア王国・玉座の間】
「えぇい! 太郎王からの返事はまだか!?」
マルダ王の怒号が、冷たい石造りの広間に反響した。
彼は苛立ちを隠そうともせず、玉座の肘掛けを爪が割れるほど強く叩いた。
「ハッ! 派遣した特使からは、まだ『検討中』との報告しか……。太郎王は慎重な性格のようで……」
大臣が冷や汗を流しながら答える。
「検討中だと? 悠長な! その間にあの獣どもが力をつけたらどうするのだ!」
マルダ王は舌打ちをした。
太郎国が動かないのなら、無理やりにでも動かざるを得ない状況を作ればいい。
彼の瞳に、昏い悪意の炎が灯った。
「もうよい! 我等だけで、事を進める!」
「へ、陛下? しかし我が軍の正面戦力では……」
「馬鹿者! 正面からぶつかる必要などない!」
マルダ王はニヤリと笑った。
「大義は我等にあるのだ! ……あちらから『攻め込ませれば』よいのだよ」
マルダ王は地図上の国境線を指でなぞった。
「騎士団に伝えよ。闇に紛れて、レオンハートの領地を焼き払え。……ただし、深入りはするな。火を放ち、女子供を殺し、獣人の正規軍が来たら、すぐ様に逃げ出せ」
「そ、それは……ゲリラ戦でございますか?」
「そうだ。執拗に、陰湿にな。……奴らの怒りが頂点に達し、大軍を率いて我が国の国境を越えてくるまで挑発し続けろ」
マルダ王は高らかに笑った。
「獣の軍勢が国境を越えた瞬間、世界に触れ回るのだ! 『野蛮な獣人軍が、平和なマルシア国への本格侵攻を開始した!』とな!!」
【レオンハート国境付近・深夜】
平和な夜は、突然の悲鳴と炎によって引き裂かれた。
ヒュンッ……ドォォン!!
マルシア騎士団の精鋭部隊が、闇夜に乗じて国境付近の小さな集落に火矢の雨を降らせたのだ。
「逃げろ! 人間が来たぞ!」
「母ちゃん! 母ちゃん!」
燃え盛る家屋から、獣人の親子が逃げ惑う。
そこへ、闇に潜んだ騎士たちが襲いかかる。
「ヒャハハ! 汚い獣どもめ! 死ね!」
「耳を切り落とせ! 王への土産にする!」
抵抗できない非戦闘員を狙った、一方的な虐殺。
「貴様らぁぁぁ!!」
遠くから、大地を揺るがす咆哮が聞こえた。
陸将ラオン率いる、レオンハート正規軍の到着だ。
「チッ、化け物が来やがった! 引け! 引けぇぇ!」
騎士団長が合図を送る。
彼らはラオンたちと戦う素振りなど微塵も見せず、馬に鞭を打ち、蜘蛛の子を散らすようにマルシア領内へと逃げ帰っていく。
「待ちやがれ卑怯者!!」
ラオンが戦斧を投げつけるが、敵はすでに闇の中へ消えていた。
残されたのは、焼かれた家と、冷たくなった同胞の遺体だけ。
「おのれ……おのれぇぇぇ!!」
ラオンの慟哭が夜空に響いた。
【レオンハート国・王城】
早朝、緊急会議が開かれた。
ラオン、アヤネ、オルカの三将軍は、怒りで震えていた。
「レオ様! これで今月に入って五度目です!」
ラオンが机を叩き割った。
「奴らは戦う気などない! 嫌がらせのように村を焼き、我らが到着すると逃げる! ……このままでは、民を守りきれません!」
「正規軍を展開して、マルシア領内に攻め込み、拠点を叩くしかありません」
アヤネが血走った目で進言する。
「巣を焼き払わなければ、害虫はいなくなりません」
「ですが……」
マーシャが青ざめた顔でレオを見る。
「それをすれば、全面戦争になります。向こうの思う壺かも……」
「黙れ人間!」
オルカが叫んだ。
「お前は同胞が殺されても、まだそんな甘いことを言うのか!?」
「……」
レオは沈黙していた。
分かっている。これは罠だ。
こちらから国境を越えれば、向こうは「侵略された」と被害者を演じるだろう。
だが、このまま手をこまねいていれば、愛する民が削り取られていく。
レオは拳を握りしめ、決断を下した。
「……軍を動かす」
「レオ様!」
「ただし、標的は国境付近の軍事拠点のみだ。民間人には手出し無用。……ラオン、アヤネ、オルカ。正規軍を率いて、あの卑劣な騎士団を叩き潰せ」
レオの瞳には、王としての苦渋と、隠しきれない怒りが渦巻いていた。
「やられたらやり返す。……それが、この世界のルールだと言うのなら」
ついに、レオンハートの正規軍が動く。
それはマルダ王が待ち望んだ、「大義名分」の完成を意味していた。
【マルシア王国・玉座の間】
「えぇい! 太郎王からの返事はまだか!?」
マルダ王の怒号が、冷たい石造りの広間に反響した。
彼は苛立ちを隠そうともせず、玉座の肘掛けを爪が割れるほど強く叩いた。
「ハッ! 派遣した特使からは、まだ『検討中』との報告しか……。太郎王は慎重な性格のようで……」
大臣が冷や汗を流しながら答える。
「検討中だと? 悠長な! その間にあの獣どもが力をつけたらどうするのだ!」
マルダ王は舌打ちをした。
太郎国が動かないのなら、無理やりにでも動かざるを得ない状況を作ればいい。
彼の瞳に、昏い悪意の炎が灯った。
「もうよい! 我等だけで、事を進める!」
「へ、陛下? しかし我が軍の正面戦力では……」
「馬鹿者! 正面からぶつかる必要などない!」
マルダ王はニヤリと笑った。
「大義は我等にあるのだ! ……あちらから『攻め込ませれば』よいのだよ」
マルダ王は地図上の国境線を指でなぞった。
「騎士団に伝えよ。闇に紛れて、レオンハートの領地を焼き払え。……ただし、深入りはするな。火を放ち、女子供を殺し、獣人の正規軍が来たら、すぐ様に逃げ出せ」
「そ、それは……ゲリラ戦でございますか?」
「そうだ。執拗に、陰湿にな。……奴らの怒りが頂点に達し、大軍を率いて我が国の国境を越えてくるまで挑発し続けろ」
マルダ王は高らかに笑った。
「獣の軍勢が国境を越えた瞬間、世界に触れ回るのだ! 『野蛮な獣人軍が、平和なマルシア国への本格侵攻を開始した!』とな!!」
【レオンハート国境付近・深夜】
平和な夜は、突然の悲鳴と炎によって引き裂かれた。
ヒュンッ……ドォォン!!
マルシア騎士団の精鋭部隊が、闇夜に乗じて国境付近の小さな集落に火矢の雨を降らせたのだ。
「逃げろ! 人間が来たぞ!」
「母ちゃん! 母ちゃん!」
燃え盛る家屋から、獣人の親子が逃げ惑う。
そこへ、闇に潜んだ騎士たちが襲いかかる。
「ヒャハハ! 汚い獣どもめ! 死ね!」
「耳を切り落とせ! 王への土産にする!」
抵抗できない非戦闘員を狙った、一方的な虐殺。
「貴様らぁぁぁ!!」
遠くから、大地を揺るがす咆哮が聞こえた。
陸将ラオン率いる、レオンハート正規軍の到着だ。
「チッ、化け物が来やがった! 引け! 引けぇぇ!」
騎士団長が合図を送る。
彼らはラオンたちと戦う素振りなど微塵も見せず、馬に鞭を打ち、蜘蛛の子を散らすようにマルシア領内へと逃げ帰っていく。
「待ちやがれ卑怯者!!」
ラオンが戦斧を投げつけるが、敵はすでに闇の中へ消えていた。
残されたのは、焼かれた家と、冷たくなった同胞の遺体だけ。
「おのれ……おのれぇぇぇ!!」
ラオンの慟哭が夜空に響いた。
【レオンハート国・王城】
早朝、緊急会議が開かれた。
ラオン、アヤネ、オルカの三将軍は、怒りで震えていた。
「レオ様! これで今月に入って五度目です!」
ラオンが机を叩き割った。
「奴らは戦う気などない! 嫌がらせのように村を焼き、我らが到着すると逃げる! ……このままでは、民を守りきれません!」
「正規軍を展開して、マルシア領内に攻め込み、拠点を叩くしかありません」
アヤネが血走った目で進言する。
「巣を焼き払わなければ、害虫はいなくなりません」
「ですが……」
マーシャが青ざめた顔でレオを見る。
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「黙れ人間!」
オルカが叫んだ。
「お前は同胞が殺されても、まだそんな甘いことを言うのか!?」
「……」
レオは沈黙していた。
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こちらから国境を越えれば、向こうは「侵略された」と被害者を演じるだろう。
だが、このまま手をこまねいていれば、愛する民が削り取られていく。
レオは拳を握りしめ、決断を下した。
「……軍を動かす」
「レオ様!」
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