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第五章 月下の宴
EP 1
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盟主の天秤と、テーブルの知恵
【太郎国・王城 玉座の間】
重厚な扉が開かれ、マルシア国からの特使が進み出た。
彼は豪奢な絨毯の上で大げさに平伏し、額を床に擦り付けていた。
「話を聞こうか」
玉座に座る太郎が、静かに促した。
その左右には、近衛としてライザとサリーが控え、鋭い視線を特使に浴びせている。
「ハハーッ! 偉大なる盟主・太郎様におかれましては、ご機嫌麗しく……」
「挨拶はいい。本題を」
「は、はい! 我が君、マルダ王からの頼みが有りまする!」
特使は顔を上げ、悲劇のヒロインのように声を張り上げた。
「マルシア国の領土に! 突如として、憎き獣人族が侵攻し、不当に占領! 一方的に平和な我が国に牙を向け、虐殺を行ったのでございます!」
「ふむ……自国の領地にか。それは難儀だね」
太郎は顎に手を当てた。表情は崩さない。
「ハハ! これは単なる領土争いではございませぬ! 野蛮な獣人による、我々人間に対する尊厳の侵害! 文明への侵攻で有ります!」
特使の言葉には熱がこもっていた。いや、こもりすぎていて、どこか芝居がかって聞こえた。
「ルチアナから聞いてるよ」
太郎が淡々と言った。
「この世界の北側では、人間と獣人は歪みあっていると。根深い歴史があるそうだね」
「左様でございます! 奴らは話の通じぬケダモノ! どうか……盟主太郎様のお力で、憎き獣人族を滅ぼして頂きたく!」
特使は涙ながらに懇願した。
「滅ぼす」、その言葉に太郎の眉がピクリと動いた。
「そうだな……」
太郎は天井を仰いだ。
「ここから北の大陸へ、軍を率いて海を渡るとなると……莫大な戦費がかかる。兵の食料、船の燃料、装備のメンテナンス……。正義のヒーローをするにも、金がかかるんだよ」
太郎はあえて、世知辛い現実的な話を振った。相手の覚悟と、背後にいるマルダ王の必死さを測るためだ。
特使は待ってましたとばかりに叫んだ。
「ハハーッ! その点はご安心を! 全ての戦費は我がマルシア国が負担致しまする! 金貨、宝石、何なりと!」
(……即答か。金に糸目はつけないほど、追い詰められているのか。それとも復讐心か)
太郎の中で警戒レベルが上がった。
「分かった。……だが、他国への軍事介入だ。これは僕だけの判断で、今すぐ決められる物ではない」
太郎は手を振った。
「慎重な精査が必要だ。特使殿は、しばし太郎国の迎賓館に滞在して待たれよ」
「は、ハハーッ! 吉報をお待ちしております!」
【太郎国・執務室】
特使が退室した後、太郎は執務室に戻り、ネクタイを少し緩めて革張りの椅子に沈み込んだ。
「……さて」
太郎は窓の外、城下町の平和な景色を眺めながら呟いた。
「国と国との領土争いを、『人間と獣人との存亡をかけた争い』にすり替えてきたな」
「左様ですな」
宰相マルスが、淹れたての茶を置きながら同意した。
「マルシア王の狙いは明らかです。太郎様を『人間の守護者』として祭り上げ、厄介な敵を排除させる気でしょう」
マルスは困惑した表情を浮かべた。
「しかし、これは盟主である太郎国の面子に関わる問題でもあります。もし本当に、獣人が一方的に人間を虐殺しているなら……静観すれば、他の人間国家からの信頼を失いかねません」
「ああ、分かってる」
太郎は茶を一口飲んだ。
「感情で戦争はしたくないんだが……。問題は、その相手だ」
太郎はデスクの上の地図――北の大陸の空白地帯を指差した。
「『百獣の王』と呼ばれる指導者……。彼が、ただの暴力を振るう野蛮なケダモノなのか、それとも……」
太郎は瞳を細めた。
「拳を振り上げるのではなく、テーブルに座って話し合う『知恵』と『理性』が有るのか。……コレが一番大切な事だ」
もし相手が、言葉の通じない怪物なら、太郎も剣を抜くしかない。
だが、もし相手が「国」を作れるほどの理性を持っているなら、戦わずして解決する道があるかもしれない。
「仰る通りでございます」
マルスが深く頷いた。
「では、どうされますか?」
「調査だ。特使の話だけじゃ片手落ちだ」
太郎は立ち上がった。
「僕たちの目で確かめよう。その『レオンハート』という国と、王の器をね」
太郎の決断により、最強の調査団が編成されようとしていた。
まだ見ぬ悲しき獣王・レオとの邂逅は、刻一刻と近づいていた。
【太郎国・王城 玉座の間】
重厚な扉が開かれ、マルシア国からの特使が進み出た。
彼は豪奢な絨毯の上で大げさに平伏し、額を床に擦り付けていた。
「話を聞こうか」
玉座に座る太郎が、静かに促した。
その左右には、近衛としてライザとサリーが控え、鋭い視線を特使に浴びせている。
「ハハーッ! 偉大なる盟主・太郎様におかれましては、ご機嫌麗しく……」
「挨拶はいい。本題を」
「は、はい! 我が君、マルダ王からの頼みが有りまする!」
特使は顔を上げ、悲劇のヒロインのように声を張り上げた。
「マルシア国の領土に! 突如として、憎き獣人族が侵攻し、不当に占領! 一方的に平和な我が国に牙を向け、虐殺を行ったのでございます!」
「ふむ……自国の領地にか。それは難儀だね」
太郎は顎に手を当てた。表情は崩さない。
「ハハ! これは単なる領土争いではございませぬ! 野蛮な獣人による、我々人間に対する尊厳の侵害! 文明への侵攻で有ります!」
特使の言葉には熱がこもっていた。いや、こもりすぎていて、どこか芝居がかって聞こえた。
「ルチアナから聞いてるよ」
太郎が淡々と言った。
「この世界の北側では、人間と獣人は歪みあっていると。根深い歴史があるそうだね」
「左様でございます! 奴らは話の通じぬケダモノ! どうか……盟主太郎様のお力で、憎き獣人族を滅ぼして頂きたく!」
特使は涙ながらに懇願した。
「滅ぼす」、その言葉に太郎の眉がピクリと動いた。
「そうだな……」
太郎は天井を仰いだ。
「ここから北の大陸へ、軍を率いて海を渡るとなると……莫大な戦費がかかる。兵の食料、船の燃料、装備のメンテナンス……。正義のヒーローをするにも、金がかかるんだよ」
太郎はあえて、世知辛い現実的な話を振った。相手の覚悟と、背後にいるマルダ王の必死さを測るためだ。
特使は待ってましたとばかりに叫んだ。
「ハハーッ! その点はご安心を! 全ての戦費は我がマルシア国が負担致しまする! 金貨、宝石、何なりと!」
(……即答か。金に糸目はつけないほど、追い詰められているのか。それとも復讐心か)
太郎の中で警戒レベルが上がった。
「分かった。……だが、他国への軍事介入だ。これは僕だけの判断で、今すぐ決められる物ではない」
太郎は手を振った。
「慎重な精査が必要だ。特使殿は、しばし太郎国の迎賓館に滞在して待たれよ」
「は、ハハーッ! 吉報をお待ちしております!」
【太郎国・執務室】
特使が退室した後、太郎は執務室に戻り、ネクタイを少し緩めて革張りの椅子に沈み込んだ。
「……さて」
太郎は窓の外、城下町の平和な景色を眺めながら呟いた。
「国と国との領土争いを、『人間と獣人との存亡をかけた争い』にすり替えてきたな」
「左様ですな」
宰相マルスが、淹れたての茶を置きながら同意した。
「マルシア王の狙いは明らかです。太郎様を『人間の守護者』として祭り上げ、厄介な敵を排除させる気でしょう」
マルスは困惑した表情を浮かべた。
「しかし、これは盟主である太郎国の面子に関わる問題でもあります。もし本当に、獣人が一方的に人間を虐殺しているなら……静観すれば、他の人間国家からの信頼を失いかねません」
「ああ、分かってる」
太郎は茶を一口飲んだ。
「感情で戦争はしたくないんだが……。問題は、その相手だ」
太郎はデスクの上の地図――北の大陸の空白地帯を指差した。
「『百獣の王』と呼ばれる指導者……。彼が、ただの暴力を振るう野蛮なケダモノなのか、それとも……」
太郎は瞳を細めた。
「拳を振り上げるのではなく、テーブルに座って話し合う『知恵』と『理性』が有るのか。……コレが一番大切な事だ」
もし相手が、言葉の通じない怪物なら、太郎も剣を抜くしかない。
だが、もし相手が「国」を作れるほどの理性を持っているなら、戦わずして解決する道があるかもしれない。
「仰る通りでございます」
マルスが深く頷いた。
「では、どうされますか?」
「調査だ。特使の話だけじゃ片手落ちだ」
太郎は立ち上がった。
「僕たちの目で確かめよう。その『レオンハート』という国と、王の器をね」
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