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EP 20
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雪解けの鍋パーティー
ルナの極大魔法によって、東京の氷河期は一瞬で終わった。
街中の雪は溶け、道路は水浸しになったが、交通機関は奇跡的に復旧。
春太たちも、なんとか世田谷のアパートへ帰還することができた。
「はぁ……。生きて帰れた……」
アパートのリビング。
春太は、部屋の真ん中に置かれたコタツに下半身を突っ込み、溶けた雪のようにぐったりとしていた。
極寒の渋谷で死にかけた体には、コタツの熱源が染みる。
「ハルタ様、お待たせしました! お鍋ができましたよ!」
キッチンから、エプロン姿のルナが土鍋を運んできた。
蓋を開けると、湯気と共に食欲をそそる香りが広がる。
冷蔵庫の余り野菜と、安い豚肉を放り込んだだけの『闇鍋』――ではなく、ネギオの監修が入った『特製寄せ鍋』だ。
「さあ、冷えた体を温めてくださいな。今日は遭難デート、楽しかったですわね!」
「……うん。俺の人生で一番、走馬灯を見たデートだったよ」
春太は乾いた笑みを浮かべ、ポン酢の入った小皿を手に取った。
ルナが甲斐甲斐しく豆腐や白菜を取り分けてくれる。
「はい、あーん」
「あ、ありがとう……」
ハフハフと熱い豆腐を食べる。
美味い。
怪獣に追い回され、全裸になり、雪男に食われかけた一週間の疲れが、出汁と共に胃に落ちていく。
「それにしても、ハルタ様」
「ん?」
ルナが頬を桜色に染め、モジモジしながら上目遣いで見つめてきた。
「屋上でのあの言葉……嬉しかったです。『私なしでは生きていけない』だなんて」
「ぶっ!」
春太は豆腐を吹き出しそうになった。
あの時の叫びは『(助けてくれ! まだ)死にたくない!』だったはずだ。どこでどう変換されたのか。
「い、いや、あれはね、ちょっと言葉のあやというか……」
「まあ! 照れなくてもよろしいのに! 私もハルタ様のこと、だーい好きですから!」
ルナは満面の笑みで、コタツの中で春太の足に自分の足を絡ませてきた。
春太の心拍数が再び上昇する。
訂正しようとした言葉が、喉の奥に引っ込んだ。
(……まあ、いいか)
目の前には、世界一可愛いお姫様。
勘違いだとしても、彼女が笑っているなら、それでいい気がした。
借金はある。仕事もヤバい。でも、この温かい食卓があるなら、明日もなんとか生きていけそうだ。
「……チッ。春にはまだ遠いようですね」
そんな二人の様子を、ネギオが呆れたように見下ろしていた。
彼は鍋に追加のネギ(※自分の体の一部ではない、スーパーで買ったやつ)を投入しながら、やれやれと肩をすくめる。
「ですが、まあ……。悪くない結末(オチ)でしょう」
「ネギオも食べなよ。肥料じゃなくてさ」
「お断りします。私は光合成で十分……と言いたいところですが、姫様が作った出汁なら、味見程度はしてやってもいいですね」
ネギオもコタツの端に根を下ろす。
狭いアパートの、小さなコタツを囲む、人間とエルフと植物。
奇妙で、騒がしくて、温かい夜が更けていく。
「おかわりはいかがですか、ハルタ様?」
「うん、もらうよ。……明日は晴れるといいな」
「大丈夫ですわ! 私が晴れにしますから!」
「やめて! 自然の摂理に手を出さないで!」
春太のツッコミが響く。
方向音痴の姫様との共同生活は、まだまだ前途多難。
平穏な日常への道のりは、ルナの方向感覚と同じくらい、迷走しそうだった。
ルナの極大魔法によって、東京の氷河期は一瞬で終わった。
街中の雪は溶け、道路は水浸しになったが、交通機関は奇跡的に復旧。
春太たちも、なんとか世田谷のアパートへ帰還することができた。
「はぁ……。生きて帰れた……」
アパートのリビング。
春太は、部屋の真ん中に置かれたコタツに下半身を突っ込み、溶けた雪のようにぐったりとしていた。
極寒の渋谷で死にかけた体には、コタツの熱源が染みる。
「ハルタ様、お待たせしました! お鍋ができましたよ!」
キッチンから、エプロン姿のルナが土鍋を運んできた。
蓋を開けると、湯気と共に食欲をそそる香りが広がる。
冷蔵庫の余り野菜と、安い豚肉を放り込んだだけの『闇鍋』――ではなく、ネギオの監修が入った『特製寄せ鍋』だ。
「さあ、冷えた体を温めてくださいな。今日は遭難デート、楽しかったですわね!」
「……うん。俺の人生で一番、走馬灯を見たデートだったよ」
春太は乾いた笑みを浮かべ、ポン酢の入った小皿を手に取った。
ルナが甲斐甲斐しく豆腐や白菜を取り分けてくれる。
「はい、あーん」
「あ、ありがとう……」
ハフハフと熱い豆腐を食べる。
美味い。
怪獣に追い回され、全裸になり、雪男に食われかけた一週間の疲れが、出汁と共に胃に落ちていく。
「それにしても、ハルタ様」
「ん?」
ルナが頬を桜色に染め、モジモジしながら上目遣いで見つめてきた。
「屋上でのあの言葉……嬉しかったです。『私なしでは生きていけない』だなんて」
「ぶっ!」
春太は豆腐を吹き出しそうになった。
あの時の叫びは『(助けてくれ! まだ)死にたくない!』だったはずだ。どこでどう変換されたのか。
「い、いや、あれはね、ちょっと言葉のあやというか……」
「まあ! 照れなくてもよろしいのに! 私もハルタ様のこと、だーい好きですから!」
ルナは満面の笑みで、コタツの中で春太の足に自分の足を絡ませてきた。
春太の心拍数が再び上昇する。
訂正しようとした言葉が、喉の奥に引っ込んだ。
(……まあ、いいか)
目の前には、世界一可愛いお姫様。
勘違いだとしても、彼女が笑っているなら、それでいい気がした。
借金はある。仕事もヤバい。でも、この温かい食卓があるなら、明日もなんとか生きていけそうだ。
「……チッ。春にはまだ遠いようですね」
そんな二人の様子を、ネギオが呆れたように見下ろしていた。
彼は鍋に追加のネギ(※自分の体の一部ではない、スーパーで買ったやつ)を投入しながら、やれやれと肩をすくめる。
「ですが、まあ……。悪くない結末(オチ)でしょう」
「ネギオも食べなよ。肥料じゃなくてさ」
「お断りします。私は光合成で十分……と言いたいところですが、姫様が作った出汁なら、味見程度はしてやってもいいですね」
ネギオもコタツの端に根を下ろす。
狭いアパートの、小さなコタツを囲む、人間とエルフと植物。
奇妙で、騒がしくて、温かい夜が更けていく。
「おかわりはいかがですか、ハルタ様?」
「うん、もらうよ。……明日は晴れるといいな」
「大丈夫ですわ! 私が晴れにしますから!」
「やめて! 自然の摂理に手を出さないで!」
春太のツッコミが響く。
方向音痴の姫様との共同生活は、まだまだ前途多難。
平穏な日常への道のりは、ルナの方向感覚と同じくらい、迷走しそうだった。
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