方向音痴の姫様を拾ったら、俺のクレジットカードで勝手に和牛を買われた件 〜植物執事が特攻服で内閣府へ迎えに来る、胃痛MAXの同居生活〜

月神世一

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第二章 春太マグロ漁船に乗せられる

EP 1

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左遷先はインド洋
「青田君。単刀直入に言おう」
 内閣府、地下最深部にある懲罰会議室。
 スポットライトだけが照らす暗闇の中で、対策室長は無慈悲に告げた。
「君には、しばらく日本を離れてもらう」
「えっ……クビ、ですか?」
 春太の声が震える。
 東京湾での全裸水泳、渋谷での氷河期パニック。
 公務員としての信用はすでにマイナスを突き抜け、借金も天文学的数字になっている。解雇は妥当だ。
「いや、クビではない。君には『研修』に行ってもらう」
「け、研修?」
「うむ。君の軟弱な精神と肉体を叩き直し、かつ発生した損害賠償を補填するための、特別プログラムだ」
 室長は、一枚のパンフレットを机に滑らせた。
 そこには、荒れ狂う海と、屈強な男たちの写真。そして、力強い筆文字でこう書かれていた。
 【男なら海に出ろ! 遠洋マグロ漁船『第十八根性丸』乗組員募集】
「……はい?」
「行き先はインド洋だ。半年ほどマグロを追いかけてきたまえ。給料はいいぞ、借金も返せる」
「マグロ漁船んんんん!?」
 春太の絶叫が地下室に木霊した。
 研修という名の強制労働。左遷という名の島流しである。
 数日後。
 とある漁港の岸壁に、春太は立っていた。
 潮の香りと、重油の匂い。
 目の前に停泊しているのは、錆だらけの巨大な漁船『根性丸』。船体からは、「一度乗ったら生きては帰れぬ」というオーラが漂っている。
「はは……さよなら、俺の公務員ライフ……」
 春太は小さなボストンバッグを握りしめ、涙を拭った。
 これからは、携帯の電波も届かない海の上で、男たちと汗と油にまみれる日々が始まるのだ。
 たった一人で。孤独に。
「まあ、せめてあの二人がいない分、静かには暮らせるか……」
 ルナとネギオには、「ちょっと長期出張に行ってくる」とだけ書き置きを残してきた。
 今頃、アパートでノンキにテレビでも見ているだろう。
「よし。行くか……」
 覚悟を決めてタラップを上がろうとした、その時だった。
「――ハルタ様ぁーっ!!」
 聞き覚えのある、鈴を転がすような声。
 春太の心臓がヒュッと止まった。
 恐る恐る振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
 港の入り口から、大量の高級トランクケース(植物製)を積み上げた台車を押して、ネギオが歩いてくる。
 そしてその上で優雅に日傘を差しているのは――。
「ルナちゃん!?」
 ルナだった。
 しかも、いつもの服ではない。
 麦わら帽子にサングラス、白のワンピースという、完全に**「地中海クルーズに行きます」**といったリゾートファッションである。
「ハルタ様! 遅いですわ! もう出航の時間ですよ!」
「な、なんで!? なんでここにいるの!?」
「書き置きを見ましたの! 『船の旅に出る』って! 水臭いですわ、私も連れて行ってくださるなんて!」
 ルナがタラップを駆け上がり、春太に抱きつく。
「クルーズ旅行なんて初めて! プールはあるかしら? ディナーはフルコースかしら?」
「違う! これはマグロ漁船! 海の上の刑務所みたいなもんだよ!?」
「マグロ? ああ、あのお寿司の王様ですね! 食べ放題付きプランなんて最高ですわ!」
 話が通じない。
 春太が助けを求めてネギオを見ると、彼は凶悪な形状の「銛(モリ)」を片手に、ニヤリと笑った。
「安心しろ、虫。政府には話をつけてある」
「つけたの!?」
「ええ。『姫様の護衛兼、漁獲量の画期的な向上(乱獲)のため』と提案したら、船長が泣いて喜んでいましたよ」
「お前、絶対マグロ根絶やしにする気だろ……」
 そこへ、船の中から鬼のような形相をした船長が出てきた。
「おう! 新入り! そっちの嬢ちゃんと緑の兄ちゃんは特別枠だが、テメェは別だ! 死ぬ気で働いてもらうぞ!!」
「ひいいっ! はい!」
 春太は直立不動で敬礼した。
 
 ボォォォォォォ……!!
 
 重厚な汽笛が鳴り響く。
 『第十八根性丸』は、春太の絶望と、ルナの勘違いを乗せて、インド洋へと出航した。
「行ってきます! 日本の皆様!」
 無邪気に手を振るルナの横で、春太は遠ざかる陸地を見つめ、静かに涙を流した。
「(……帰りたい)」
 地獄の遠洋漁業編、スタートである。
(第21話 完)
いよいよ海へと舞台を移しました。
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