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EP 5
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熊男の脅迫とエンジニアの覚悟
「美味しい……本当に美味しいよ、マイユさん」
「えへへ、おかわりもありますからね」
温かいスープと、少女の笑顔。
英一がアナステシア世界に来て初めて感じた安らぎの時間は、無慈悲な轟音によって破られた。
――ドンドンッ!! ドンッ!!
鉄製の重厚な扉が、乱暴に叩かれる。
マイユの肩がビクッと跳ね、笑顔が凍りついた。
「……来ちゃった」
「え?」
「英一さん、ちょっと隠れてて……いえ、座っていてください。すぐ追い返しますから」
マイユはエプロンで手を拭うと、努めて気丈な表情を作り、玄関へと向かった。
英一は心配になり、物陰から様子を窺う。
玄関に立っていたのは、見上げるような巨漢だった。
丸い耳に、剛毛に覆われた腕。獣人族の中でもパワーに定評のある『熊耳族』の男だ。粗末な革鎧を着崩し、腰には棍棒を下げている。
「おい、いつまで待たせるんだ? あぁ?」
野太い声が室内に響く。男の名はラウス。この界隈をシマにする高利貸しの用心棒だ。
「ラウスさん……何の御用ですか? 返済日はまだ先のはずですけど」
「はんっ、気が変わったんだよ」
ラウスは土足でズカズカと上がり込むと、テーブルの上のスープを見て鼻を鳴らした。
「優雅に飯食ってる場合か? 今日中に『金貨100枚』用意しろ。出来なきゃ、契約通りこの工房を売り渡してもらう」
「そ、そんな!? 契約ではあと1ヶ月の猶予があるはずです!」
マイユが抗議する。
金貨100枚。日本円にして約100万円。
大金だが、決して返せない額ではない。しかし、「今日中に」と言われて用意できる額でもなかった。
「うるせぇな。どうせ1ヶ月あったって、お前みたいな小娘一人じゃ用意できねぇんだよ」
「っ……!」
「だから親切で言ってやってんだ。今すぐここを明け渡せば、借金はチャラにしてやる。身ぐるみ剥がされてスラムに行きてぇか?」
ラウスが脅すように身体を前に乗り出す。熊耳族特有の威圧感に、マイユが後ずさる。
(……でかいな。喧嘩になったら勝てそうにない)
英一は心臓が早鐘を打つのを感じた。怖い。逃げ出したい。
だが、視界に表示されたUIが、彼に冷静さを与えていた。
(マーカーは……黄色。中立(ニュートラル)か)
『赤(敵対)』ではない。つまり、ラウスは今すぐ暴力を振るうつもりはないのだ。ここは法治国家の街中、いくら借金取りでも殺しまではしないという計算があるのだろう。
「攻撃してこない」とわかれば、英一の恐怖心は半分以下になる。
「……お断りします!」
マイユが声を張り上げた。小さな拳を震わせながら、大男を見上げている。
「この工房は、お父様が遺してくれた大事な場所なんです! 期日までは絶対に渡しません! ……帰ってください!」
「チッ……可愛げのねぇガキだ」
ラウスは舌打ちをすると、踵を返した。
「ま、いいさ。どうせ払えやしねぇ。1ヶ月後、泣きっ面を見るのを楽しみにしてるぜ」
――バタンッ!!
扉が乱暴に閉められる。
嵐が去った後の静寂の中で、マイユはその場へへたり込んだ。
「……はぁ、はぁ」
「マイユさん!」
英一が駆け寄る。
マイユは無理に笑おうとして、けれど目尻に涙を浮かべていた。
「全く……あ、英一さん。嫌な物を見せてしまいましたね」
「今の奴……借金って奴か?」
「はい……お父さんが亡くなった時の借金が残っていて。なんとか細々とやりくりしてたんですけど、最近は仕事も減っちゃって……」
マイユは膝の上で拳を握りしめた。
技術はある。設備もある。けれど、小娘一人では大きな仕事を受けられず、足元を見られて買い叩かれる。その悪循環だ。
「あと1ヶ月で金貨100枚……今の売上じゃ、とても……」
俯くマイユの背中は小さかった。
英一は、自分の胸に手を当てた。
このまま見過ごすこともできる。俺には関係ないことだ。
でも、彼女は行き倒れの俺を助けてくれた。温かいスープをくれた。
(逃げるのか? また、嫌なことから)
あの上司の顔が過ぎる。何も言い返せずにバックレた自分。
でも、今は違う。
「お、俺に出来ることが……無いか?」
英一の口から、言葉が零れていた。
「え?」
「これでも……その、メカ弄りは得意な方なんだ。前の世界じゃ、鉄を繋いだり(溶接)、機械を直したりしてた」
英一はマイユの肩に手を置いた。
「英一さん……でも、これはアタシの問題で……」
「まだ1ヶ月あるんだろ? 二人でやれば、なんとかなるさ」
根拠なんてない。
けれど、工業高校で叩き込まれた数々の資格と、このFPSのチート能力があれば、何かできる気がした。
「そんな……英一さんに迷惑が……」
「いや、こんな俺に優しくしてくれたんだ。ほっとけないよ」
英一は、不器用ながらも真っ直ぐにマイユを見た。
「俺を、雇ってくれないか? 借金返済の助っ人として」
マイユは大きく目を見開き、やがて瞳からポロポロと涙を溢れさせた。
「……ぐすっ……英一さん……ありがとう、ございます……!」
マイユは英一の胸に飛び込み、泣きじゃくった。
その温かさを感じながら、英一は強く決意した。
この工房を守る。そのために、俺の持てる全てのスキル(資格と銃)を使ってやると。
「よし……まずは、この散らかった工房を整理して、稼げる体勢を作るぞ」
「はいっ……!」
凸スナ兼エンジニアの英一と、ドワーフの少女職人マイユ。
借金返済に向けた、二人の共同生活が始まった。
「美味しい……本当に美味しいよ、マイユさん」
「えへへ、おかわりもありますからね」
温かいスープと、少女の笑顔。
英一がアナステシア世界に来て初めて感じた安らぎの時間は、無慈悲な轟音によって破られた。
――ドンドンッ!! ドンッ!!
鉄製の重厚な扉が、乱暴に叩かれる。
マイユの肩がビクッと跳ね、笑顔が凍りついた。
「……来ちゃった」
「え?」
「英一さん、ちょっと隠れてて……いえ、座っていてください。すぐ追い返しますから」
マイユはエプロンで手を拭うと、努めて気丈な表情を作り、玄関へと向かった。
英一は心配になり、物陰から様子を窺う。
玄関に立っていたのは、見上げるような巨漢だった。
丸い耳に、剛毛に覆われた腕。獣人族の中でもパワーに定評のある『熊耳族』の男だ。粗末な革鎧を着崩し、腰には棍棒を下げている。
「おい、いつまで待たせるんだ? あぁ?」
野太い声が室内に響く。男の名はラウス。この界隈をシマにする高利貸しの用心棒だ。
「ラウスさん……何の御用ですか? 返済日はまだ先のはずですけど」
「はんっ、気が変わったんだよ」
ラウスは土足でズカズカと上がり込むと、テーブルの上のスープを見て鼻を鳴らした。
「優雅に飯食ってる場合か? 今日中に『金貨100枚』用意しろ。出来なきゃ、契約通りこの工房を売り渡してもらう」
「そ、そんな!? 契約ではあと1ヶ月の猶予があるはずです!」
マイユが抗議する。
金貨100枚。日本円にして約100万円。
大金だが、決して返せない額ではない。しかし、「今日中に」と言われて用意できる額でもなかった。
「うるせぇな。どうせ1ヶ月あったって、お前みたいな小娘一人じゃ用意できねぇんだよ」
「っ……!」
「だから親切で言ってやってんだ。今すぐここを明け渡せば、借金はチャラにしてやる。身ぐるみ剥がされてスラムに行きてぇか?」
ラウスが脅すように身体を前に乗り出す。熊耳族特有の威圧感に、マイユが後ずさる。
(……でかいな。喧嘩になったら勝てそうにない)
英一は心臓が早鐘を打つのを感じた。怖い。逃げ出したい。
だが、視界に表示されたUIが、彼に冷静さを与えていた。
(マーカーは……黄色。中立(ニュートラル)か)
『赤(敵対)』ではない。つまり、ラウスは今すぐ暴力を振るうつもりはないのだ。ここは法治国家の街中、いくら借金取りでも殺しまではしないという計算があるのだろう。
「攻撃してこない」とわかれば、英一の恐怖心は半分以下になる。
「……お断りします!」
マイユが声を張り上げた。小さな拳を震わせながら、大男を見上げている。
「この工房は、お父様が遺してくれた大事な場所なんです! 期日までは絶対に渡しません! ……帰ってください!」
「チッ……可愛げのねぇガキだ」
ラウスは舌打ちをすると、踵を返した。
「ま、いいさ。どうせ払えやしねぇ。1ヶ月後、泣きっ面を見るのを楽しみにしてるぜ」
――バタンッ!!
扉が乱暴に閉められる。
嵐が去った後の静寂の中で、マイユはその場へへたり込んだ。
「……はぁ、はぁ」
「マイユさん!」
英一が駆け寄る。
マイユは無理に笑おうとして、けれど目尻に涙を浮かべていた。
「全く……あ、英一さん。嫌な物を見せてしまいましたね」
「今の奴……借金って奴か?」
「はい……お父さんが亡くなった時の借金が残っていて。なんとか細々とやりくりしてたんですけど、最近は仕事も減っちゃって……」
マイユは膝の上で拳を握りしめた。
技術はある。設備もある。けれど、小娘一人では大きな仕事を受けられず、足元を見られて買い叩かれる。その悪循環だ。
「あと1ヶ月で金貨100枚……今の売上じゃ、とても……」
俯くマイユの背中は小さかった。
英一は、自分の胸に手を当てた。
このまま見過ごすこともできる。俺には関係ないことだ。
でも、彼女は行き倒れの俺を助けてくれた。温かいスープをくれた。
(逃げるのか? また、嫌なことから)
あの上司の顔が過ぎる。何も言い返せずにバックレた自分。
でも、今は違う。
「お、俺に出来ることが……無いか?」
英一の口から、言葉が零れていた。
「え?」
「これでも……その、メカ弄りは得意な方なんだ。前の世界じゃ、鉄を繋いだり(溶接)、機械を直したりしてた」
英一はマイユの肩に手を置いた。
「英一さん……でも、これはアタシの問題で……」
「まだ1ヶ月あるんだろ? 二人でやれば、なんとかなるさ」
根拠なんてない。
けれど、工業高校で叩き込まれた数々の資格と、このFPSのチート能力があれば、何かできる気がした。
「そんな……英一さんに迷惑が……」
「いや、こんな俺に優しくしてくれたんだ。ほっとけないよ」
英一は、不器用ながらも真っ直ぐにマイユを見た。
「俺を、雇ってくれないか? 借金返済の助っ人として」
マイユは大きく目を見開き、やがて瞳からポロポロと涙を溢れさせた。
「……ぐすっ……英一さん……ありがとう、ございます……!」
マイユは英一の胸に飛び込み、泣きじゃくった。
その温かさを感じながら、英一は強く決意した。
この工房を守る。そのために、俺の持てる全てのスキル(資格と銃)を使ってやると。
「よし……まずは、この散らかった工房を整理して、稼げる体勢を作るぞ」
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