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EP 13
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再起の斧と、ギルドでの遭遇
「うーん……やっぱり、材料が足りないわね」
マイユは工房の在庫棚をひっくり返しながら、困ったように眉を下げた。
新型防具『複合積層装甲ベスト』の試作は順調だったが、肝心の衝撃吸収層に使う素材が底をついてしまったのだ。
「『レッドオーガ』のなめし革……これがないと、英一さんの防具のような柔軟性と強度が両立できないわ」
「レッドオーガ? あの赤い鬼みたいな魔物か。……なら、俺が倒して持ってくればいいんじゃないか?」
英一は手入れを終えたM24のボルトをカチャリと引いて提案した。
彼にとって、魔物は「素材ドロップ源」だ。
「そうね……でも、どうせ討伐するなら『冒険者ギルド』を通した方がお得よ」
「お得?」
「ええ。ギルドの依頼(クエスト)として受注すれば、討伐報酬金が貰える上に、剥ぎ取った素材もギルドが適正価格で買い取ってくれるの。一石二鳥よ!」
ドワーフらしいちゃっかりした計算に、英一は苦笑した。
「なるほど、クエスト報酬とドロップ品売却の二重取りってわけか。分かった、行こう」
二人は装備を整え、街の中心部にある冒険者ギルドへと向かった。
一方その頃、スタラントの下町にある長屋。
「あんた、しっかりね」
玄関先で、マナマが夫の背中をバシッと叩いた。
そこには、昨日のうらぶれた姿とは別人のようなラウスが立っていた。
古いが手入れの行き届いた革鎧を身にまとい、背中には身の丈ほどもある巨大な「両手斧」を背負っている。かつて戦士として鳴らした頃の装備だ。
「あぁ、任せとけ。……久々の現場だが、腕は鈍っちゃいねぇはずだ」
ラウスは斧の柄を握りしめ、自分に言い聞かせるように低く唸った。
「父ちゃん、カッコいい~!」
娘のムーナがキラキラした目で飛びついてくる。
「へへっ、そうか? ムーナのためにも、デッカイ獲物を狩ってくるからな」
「うん! 頑張って!」
ラウスは娘の頭を愛おしげに撫でた。
この笑顔を守るためなら、泥水すすってでも這い上がってみせる。
「本当なら私も一緒に行きたいけど、ムーナの面倒があるからねぇ」
マナマは残念そうに肩をすくめた。彼女もまた、かつてはラウスと共に戦場を駆けた戦士だったのだ。
「心配するな、母ちゃん。全てこの斧で魔物共を斬り捨ててやるさ。……行ってくる」
「行ってらっしゃい、あなた」
家族の声援を背中に受け、ラウスは力強く歩き出した。
目指すは冒険者ギルド。借金取りという「偽りの強さ」を捨て、本当の自分の力で家族を養うための、再出発の場所だ。
スタラント冒険者ギルド本部。
巨大な木造建築の扉を開けると、そこは熱気と喧騒に包まれていた。
依頼を探す冒険者たち、昼間から酒をあおる荒くれ者、報酬の交渉をする声。
「うわ、すげぇ人だな……」
英一はその空気に圧倒されつつ、マイユの後ろについてカウンターへ向かおうとした。
その時だった。
ギィィィ……。
重厚な扉が再び開き、ひときわ大きな影が入ってきた。
周囲の冒険者たちが、その威圧感に一瞬だけ静まり返る。
背中に巨大な両手斧を背負った、熊耳族の大男。
ラウスだ。
彼は真っ直ぐに受付へ向かおうとして――そこで、自分を見上げている二人組と目が合った。
「あ……」
時が止まったような沈黙。
見間違えるはずもない。迷彩服の男と、ドワーフの少女。
昨日、自分が脅し、そして逆にやり込められた相手だ。
「あ、貴方……ラウス、さん……?」
マイユが身構え、英一の後ろに半歩下がる。
英一の手が、反射的に背中のM24へと伸びかけた。
だが、彼の視界に表示されたUIが、意外な情報を告げていた。
(……黄色? いや、色が薄い。敵意がない?)
ラウスの頭上のマーカーは、昨日のような警戒色ではなく、限りなく透明に近い黄色(中立)だった。
ラウスは気まずそうに視線を泳がせ、しかし逃げることなく、太い眉を下げて口を開いた。
「マ……マミユ……」
その声には、昨日のようなドス黒い威圧感は微塵もなかった。あるのは、バツの悪さと、奇妙な誠実さだけ。
「……何の用だ? また借金の取り立てか?」
英一が静かに問う。
ラウスは首を横に振り、背中の斧を親指で示した。
「いや……仕事はクビになった。俺は今日から、一人の冒険者だ」
「冒険者……?」
マイユが目を丸くする。
ラウスは大きな体を縮こまらせるようにして、ボソリと付け加えた。
「昨日は……すまなかったな。それだけだ」
短く謝罪の言葉を口にすると、ラウスは逃げるように二人を避けて、受付カウンターの反対側へと歩いて行った。
「謝った……あのラウスさんが?」
「……どうやら、嘘じゃなさそうだな」
英一はミニマップ上で遠ざかるラウスの光点を見つめた。
ただのチンピラだと思っていた男の、意外な一面。そして背負った斧の使い込まれた傷跡。
それが何を意味するのか、英一にはまだ分からなかったが、予感はあった。
この男とは、そう遠くないうちにまた関わることになるだろう、と。
「行きましょう、英一さん。レッドオーガの依頼、早い者勝ちよ!」
「お、おう」
英一は気を取り直し、マイユと共に受付へと向かった。
運命の歯車が、ギルドの中で静かに噛み合い始めていた。
「うーん……やっぱり、材料が足りないわね」
マイユは工房の在庫棚をひっくり返しながら、困ったように眉を下げた。
新型防具『複合積層装甲ベスト』の試作は順調だったが、肝心の衝撃吸収層に使う素材が底をついてしまったのだ。
「『レッドオーガ』のなめし革……これがないと、英一さんの防具のような柔軟性と強度が両立できないわ」
「レッドオーガ? あの赤い鬼みたいな魔物か。……なら、俺が倒して持ってくればいいんじゃないか?」
英一は手入れを終えたM24のボルトをカチャリと引いて提案した。
彼にとって、魔物は「素材ドロップ源」だ。
「そうね……でも、どうせ討伐するなら『冒険者ギルド』を通した方がお得よ」
「お得?」
「ええ。ギルドの依頼(クエスト)として受注すれば、討伐報酬金が貰える上に、剥ぎ取った素材もギルドが適正価格で買い取ってくれるの。一石二鳥よ!」
ドワーフらしいちゃっかりした計算に、英一は苦笑した。
「なるほど、クエスト報酬とドロップ品売却の二重取りってわけか。分かった、行こう」
二人は装備を整え、街の中心部にある冒険者ギルドへと向かった。
一方その頃、スタラントの下町にある長屋。
「あんた、しっかりね」
玄関先で、マナマが夫の背中をバシッと叩いた。
そこには、昨日のうらぶれた姿とは別人のようなラウスが立っていた。
古いが手入れの行き届いた革鎧を身にまとい、背中には身の丈ほどもある巨大な「両手斧」を背負っている。かつて戦士として鳴らした頃の装備だ。
「あぁ、任せとけ。……久々の現場だが、腕は鈍っちゃいねぇはずだ」
ラウスは斧の柄を握りしめ、自分に言い聞かせるように低く唸った。
「父ちゃん、カッコいい~!」
娘のムーナがキラキラした目で飛びついてくる。
「へへっ、そうか? ムーナのためにも、デッカイ獲物を狩ってくるからな」
「うん! 頑張って!」
ラウスは娘の頭を愛おしげに撫でた。
この笑顔を守るためなら、泥水すすってでも這い上がってみせる。
「本当なら私も一緒に行きたいけど、ムーナの面倒があるからねぇ」
マナマは残念そうに肩をすくめた。彼女もまた、かつてはラウスと共に戦場を駆けた戦士だったのだ。
「心配するな、母ちゃん。全てこの斧で魔物共を斬り捨ててやるさ。……行ってくる」
「行ってらっしゃい、あなた」
家族の声援を背中に受け、ラウスは力強く歩き出した。
目指すは冒険者ギルド。借金取りという「偽りの強さ」を捨て、本当の自分の力で家族を養うための、再出発の場所だ。
スタラント冒険者ギルド本部。
巨大な木造建築の扉を開けると、そこは熱気と喧騒に包まれていた。
依頼を探す冒険者たち、昼間から酒をあおる荒くれ者、報酬の交渉をする声。
「うわ、すげぇ人だな……」
英一はその空気に圧倒されつつ、マイユの後ろについてカウンターへ向かおうとした。
その時だった。
ギィィィ……。
重厚な扉が再び開き、ひときわ大きな影が入ってきた。
周囲の冒険者たちが、その威圧感に一瞬だけ静まり返る。
背中に巨大な両手斧を背負った、熊耳族の大男。
ラウスだ。
彼は真っ直ぐに受付へ向かおうとして――そこで、自分を見上げている二人組と目が合った。
「あ……」
時が止まったような沈黙。
見間違えるはずもない。迷彩服の男と、ドワーフの少女。
昨日、自分が脅し、そして逆にやり込められた相手だ。
「あ、貴方……ラウス、さん……?」
マイユが身構え、英一の後ろに半歩下がる。
英一の手が、反射的に背中のM24へと伸びかけた。
だが、彼の視界に表示されたUIが、意外な情報を告げていた。
(……黄色? いや、色が薄い。敵意がない?)
ラウスの頭上のマーカーは、昨日のような警戒色ではなく、限りなく透明に近い黄色(中立)だった。
ラウスは気まずそうに視線を泳がせ、しかし逃げることなく、太い眉を下げて口を開いた。
「マ……マミユ……」
その声には、昨日のようなドス黒い威圧感は微塵もなかった。あるのは、バツの悪さと、奇妙な誠実さだけ。
「……何の用だ? また借金の取り立てか?」
英一が静かに問う。
ラウスは首を横に振り、背中の斧を親指で示した。
「いや……仕事はクビになった。俺は今日から、一人の冒険者だ」
「冒険者……?」
マイユが目を丸くする。
ラウスは大きな体を縮こまらせるようにして、ボソリと付け加えた。
「昨日は……すまなかったな。それだけだ」
短く謝罪の言葉を口にすると、ラウスは逃げるように二人を避けて、受付カウンターの反対側へと歩いて行った。
「謝った……あのラウスさんが?」
「……どうやら、嘘じゃなさそうだな」
英一はミニマップ上で遠ざかるラウスの光点を見つめた。
ただのチンピラだと思っていた男の、意外な一面。そして背負った斧の使い込まれた傷跡。
それが何を意味するのか、英一にはまだ分からなかったが、予感はあった。
この男とは、そう遠くないうちにまた関わることになるだろう、と。
「行きましょう、英一さん。レッドオーガの依頼、早い者勝ちよ!」
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