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EP 17
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命の重さと、退色した信頼
硝煙の匂いが充満する森の中。
英一は、M24を下げ、震えている少女の背中に声をかけた。
「ま、マミユ……?」
返事はない。
マイユは、頭部を吹き飛ばされたレッドオーガと、その周囲に転がる数体のオーガの死骸を呆然と見つめていた。
その小さな肩が、小刻みに震えている。
「……何故、オーガ達を討ったんですの?」
ようやく絞り出された声は、怒りと恐怖で掠れていた。
彼女が問うているのは、襲ってきたレッドオーガのことではない。その前に英一が「ついで」に掃除した、普通のオーガたちのことだ。
「え? ……だ、だって『敵』だから」
英一は困惑した。
何を当たり前のことを聞いているんだ? ミニマップに赤い点で表示されていた。赤は敵だ。敵は倒す。それがFPSの、いや、この能力を与えられた自分の正解のはずだ。
「敵だから……それだけの理由で?」
マイユが勢いよく振り返った。その瞳には涙が溜まっているが、英一を見る目は酷く冷ややかだった。
「何を言ってるんですの? 向こうはこちらに気づいてもいなかった。襲いかかってきてもいなかった! 無闇に殺して良い道理はありません事よ!?」
「そ、そんな……て、敵は敵じゃないか……倒せば経験値……いや、素材になるし、街の安全にも……」
英一はしどろもどろになりながら弁明しようとした。
だが、言葉を重ねれば重ねるほど、マイユの表情が強張っていくのが分かった。
「英一さん。……これは『遊び』じゃないんですよ?」
マイユの言葉が、英一の胸に突き刺さった。
「あのオーガ達にも、家族がいたかもしれない。知能だってある。生き物には命があって、生きているんです。それを……あんな、機械作業みたいに……」
「…………」
英一は言葉を失った。
遊びじゃない。そんなことは分かっているつもりだった。
だが、視界に表示される便利なUI、痛みを感じない戦闘、ボタン一つでリロードされる弾薬。それら全てが、英一から「命を奪う」という実感(リアリティ)を麻痺させていたのかもしれない。
彼にとっての「正義(ハイスコア)」は、彼女にとっての「虐殺」だった。
「……ここで話をしていても、仕方有りませんわ」
マイユは深く溜息をつくと、感情を押し殺した事務的な表情になった。
彼女は腰のポーチ――見た目以上の容量が入る『魔法ポーチ』を開き、慣れた手つきで、しかしどこか悲しげにオーガ達の死骸を収納していった。
職人として、素材を無駄にすることはできない。だが、その背中は拒絶の意思を示していた。
「帰りますわよ」
全ての回収を終えると、マイユはスタスタと『ドリーム・ラビット』の運転席へと向かった。
「あ、俺が運転するよ。危ないし……」
「いいえ」
マイユは冷たく遮った。
「魔導馬車は私が操縦します。……今の英一さんの運転に乗る気分にはなれません」
「っ……」
マイユは運転席に乗り込み、乱暴に魔導エンジンを起動させた。
助手席を示す視線には、以前のような親愛の色はない。
英一は無言で、助手席に身を沈めた。
ブォォォォン……。
車が走り出す。
行きのような高揚感も、会話もない。ただエンジンの振動と風切り音だけが響く、重苦しい沈黙。
英一はチラリと横目でマイユを見た。
ハンドルを握る彼女の頭上には、変わらず『黄色いマーカー』が浮かんでいる。
(な、何で怒られたんだ? ……いや、理由は言ってたけど……)
頭では理解しようとしていた。
でも、腑に落ちない。自分はこの世界のルール(FPSシステム)に従っただけだ。それなのに、なぜ軽蔑されなければならない?
(そ、それに……青が黄色に……)
『味方』から『中立・警戒』へ。
システムの判定は残酷で、そして正確だ。
彼女は今、隣に座っている英一を「仲間」として見ていない。「利害が一致しているだけの、得体の知れない他人」として見ている。
その事実が、どんな言葉よりも雄弁に英一の心を抉った。
森を抜けるまでの間、英一は膝の上で握りしめた拳を、一度も開くことができなかった。
硝煙の匂いが充満する森の中。
英一は、M24を下げ、震えている少女の背中に声をかけた。
「ま、マミユ……?」
返事はない。
マイユは、頭部を吹き飛ばされたレッドオーガと、その周囲に転がる数体のオーガの死骸を呆然と見つめていた。
その小さな肩が、小刻みに震えている。
「……何故、オーガ達を討ったんですの?」
ようやく絞り出された声は、怒りと恐怖で掠れていた。
彼女が問うているのは、襲ってきたレッドオーガのことではない。その前に英一が「ついで」に掃除した、普通のオーガたちのことだ。
「え? ……だ、だって『敵』だから」
英一は困惑した。
何を当たり前のことを聞いているんだ? ミニマップに赤い点で表示されていた。赤は敵だ。敵は倒す。それがFPSの、いや、この能力を与えられた自分の正解のはずだ。
「敵だから……それだけの理由で?」
マイユが勢いよく振り返った。その瞳には涙が溜まっているが、英一を見る目は酷く冷ややかだった。
「何を言ってるんですの? 向こうはこちらに気づいてもいなかった。襲いかかってきてもいなかった! 無闇に殺して良い道理はありません事よ!?」
「そ、そんな……て、敵は敵じゃないか……倒せば経験値……いや、素材になるし、街の安全にも……」
英一はしどろもどろになりながら弁明しようとした。
だが、言葉を重ねれば重ねるほど、マイユの表情が強張っていくのが分かった。
「英一さん。……これは『遊び』じゃないんですよ?」
マイユの言葉が、英一の胸に突き刺さった。
「あのオーガ達にも、家族がいたかもしれない。知能だってある。生き物には命があって、生きているんです。それを……あんな、機械作業みたいに……」
「…………」
英一は言葉を失った。
遊びじゃない。そんなことは分かっているつもりだった。
だが、視界に表示される便利なUI、痛みを感じない戦闘、ボタン一つでリロードされる弾薬。それら全てが、英一から「命を奪う」という実感(リアリティ)を麻痺させていたのかもしれない。
彼にとっての「正義(ハイスコア)」は、彼女にとっての「虐殺」だった。
「……ここで話をしていても、仕方有りませんわ」
マイユは深く溜息をつくと、感情を押し殺した事務的な表情になった。
彼女は腰のポーチ――見た目以上の容量が入る『魔法ポーチ』を開き、慣れた手つきで、しかしどこか悲しげにオーガ達の死骸を収納していった。
職人として、素材を無駄にすることはできない。だが、その背中は拒絶の意思を示していた。
「帰りますわよ」
全ての回収を終えると、マイユはスタスタと『ドリーム・ラビット』の運転席へと向かった。
「あ、俺が運転するよ。危ないし……」
「いいえ」
マイユは冷たく遮った。
「魔導馬車は私が操縦します。……今の英一さんの運転に乗る気分にはなれません」
「っ……」
マイユは運転席に乗り込み、乱暴に魔導エンジンを起動させた。
助手席を示す視線には、以前のような親愛の色はない。
英一は無言で、助手席に身を沈めた。
ブォォォォン……。
車が走り出す。
行きのような高揚感も、会話もない。ただエンジンの振動と風切り音だけが響く、重苦しい沈黙。
英一はチラリと横目でマイユを見た。
ハンドルを握る彼女の頭上には、変わらず『黄色いマーカー』が浮かんでいる。
(な、何で怒られたんだ? ……いや、理由は言ってたけど……)
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でも、腑に落ちない。自分はこの世界のルール(FPSシステム)に従っただけだ。それなのに、なぜ軽蔑されなければならない?
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