FPS世界ランク1位の凸スナ、ニートを辞めて異世界でエンジニアになる~工業高校の資格と現代兵器で、健気なドワーフ娘を救い天下を取る~

月神世一

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EP 18

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衝突事故と、可愛らしい爆弾
重苦しい沈黙の中、魔導馬車『ドリーム・ラビット』は森の旧道を走っていた。
助手席の英一は、膝の上で握りしめた拳を見つめ続けていた。
(な、何でこんな事に……。俺が悪かったのか? 敵を倒しただけなのに。効率よく、被害が出る前に……)
視界の端で、マイユのマーカーは依然として『黄色(中立)』のままだ。
その冷たい色が、英一の胸を締め付ける。FPSなら、チームキル(味方殺し)でもしない限りマーカーの色が変わることはない。だが、現実は違った。心の距離が、そのままシステムに反映されているのだ。
「……っ!?」
不意に、マイユがブレーキを踏んだ。
彼女の視線が、フロントガラス越しの前方一点に釘付けになる。
「あっ、ラウスさん!」
そこでは、一人の男が巨大な魔獣と対峙していた。
岩のような皮膚と角を持つ牛型魔獣『ロックバイソン』だ。
「負けねぇ……負けねぇぞ……!」
ラウスは肩で息をしながら、両手斧を構えていた。
全身泥だらけで、鎧には亀裂が入っている。ブランクがある彼にとって、Cランク相当のロックバイソンは荷が重すぎたのだ。
だが、退くわけにはいかない。
脳裏に浮かぶのは、妻のマナマと、娘のムーナの笑顔。
「俺は……母ちゃん達の為にもよぉ、お前を倒すんだよぉぉッ!」
ラウスは獣の咆哮を上げ、死に物狂いで突っ込んだ。
渾身の力を込めた一撃。
「オラァッ!!」
ガギィィィンッ!!
硬質な音が響いた。
斧の刃が、ロックバイソンの岩角に直撃する。しかし、鋼鉄の硬度を持つ角は砕けず、逆にラウスの斧が大きく弾かれた。
「あ……」
ラウスの体が泳ぐ。致命的な隙。
ロックバイソンは鼻息を荒くし、その巨大な角をラウスの腹部へと突き出す体勢に入った。
避けられない。死ぬ――。
「――させませんわッ!!」
隣で、マイユが叫んだ。
彼女はハンドルを大きく切り、アクセルをベタ踏みした。
「おい、マイユ!?」
英一が叫ぶ間もなく、鉄の塊となった魔導馬車が咆哮を上げる。
ドォォォォォォォンッ!!
「ブモォッ!?」
突進しようとしていたロックバイソンの横腹に、『ドリーム・ラビット』がミサイルのように激突した。
数トンの巨体が宙を舞い、地面を転がる。
同時に、馬車のボンネットがひしゃげ、凄まじい衝撃が二人を襲った。
「ぐうぅッ!」
「きゃあッ!」
エアバッグなどない。英一はダッシュボードに頭を打ちつけそうになり、必死に踏ん張った。
プシュゥゥ……と蒸気を上げる馬車から、マイユが転がり出るように降りた。
額から血が滲んでいるが、彼女はそれを拭いもせずに駆け出した。
「ラウスさん! 無事ですか!?」
「マ、マミユちゃん……?」
尻餅をついたままのラウスが、信じられないものを見る目で彼女を見上げた。
「どうして……? 俺は、お前を脅した男だぞ……? なのに、どうして……」
借金取りとして嫌がらせをし、工房を奪おうとした自分。
見捨てられて当然の悪党だ。それなのに、彼女は自分の愛車を壊してまで助けに入った。
マイユはラウスの手を取り、力強く言った。
「困っていたら助け合うのは当然ですわ! 過去のことは関係ありません!」
その言葉に、打算や迷いは一切なかった。
目の前にある命を拾う。ただそれだけの、純粋な善意。
「マ、マミユ……」
英一は、ひしゃげた助手席からその光景を見ていた。
彼女の行動は、合理的ではない。馬車は壊れ、自分たちも怪我をするリスクがあった。
だが、その非合理な行動の先にある、ラウスの震える瞳を見た時――英一は初めて理解した気がした。
これが、彼女の言う「命の重さ」なのかもしれない、と。
「す、すまねぇ……すまねぇ、マミユちゃん……!」
ラウスの目から、堰を切ったように涙が溢れた。
鬼のようだった借金取りの顔はどこにもない。そこには、ただ一人の弱い人間がいた。
「さぁ、泣いてる場合じゃありません!」
マイユはラウスを立たせると、ポーチを探った。
ロックバイソンが、土煙の中で起き上がりつつある。怒り狂い、蹄で地面を削っている。
「一緒に戦いましょう! ラウスさんは前衛をお願いします!」
「お、おう! 命に代えても守ってみせる!」
ラウスが斧を構え直す。
マイユは『魔法ポーチ』から、ピンク色に塗装された、ウサギの耳がついた球体を取り出した。
「ウサちゃんボンバー1号(試作型)、行きますわよ!」
「……可愛らしい爆弾だな」
英一はようやく痛む体を起こし、車から降りた。
マーカーの色はまだ黄色のままだ。だが、今、自分が何をすべきかは、UIを見なくても分かっていた。
「俺もやるぞ。……援護する」
英一はM24を構えた。
今度は「敵を倒す」ためではなく、「仲間を守る」ために。
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