FPS世界ランク1位の凸スナ、ニートを辞めて異世界でエンジニアになる~工業高校の資格と現代兵器で、健気なドワーフ娘を救い天下を取る~

月神世一

文字の大きさ
18 / 45

EP 18

しおりを挟む
衝突事故と、可愛らしい爆弾
重苦しい沈黙の中、魔導馬車『ドリーム・ラビット』は森の旧道を走っていた。
助手席の英一は、膝の上で握りしめた拳を見つめ続けていた。
(な、何でこんな事に……。俺が悪かったのか? 敵を倒しただけなのに。効率よく、被害が出る前に……)
視界の端で、マイユのマーカーは依然として『黄色(中立)』のままだ。
その冷たい色が、英一の胸を締め付ける。FPSなら、チームキル(味方殺し)でもしない限りマーカーの色が変わることはない。だが、現実は違った。心の距離が、そのままシステムに反映されているのだ。
「……っ!?」
不意に、マイユがブレーキを踏んだ。
彼女の視線が、フロントガラス越しの前方一点に釘付けになる。
「あっ、ラウスさん!」
そこでは、一人の男が巨大な魔獣と対峙していた。
岩のような皮膚と角を持つ牛型魔獣『ロックバイソン』だ。
「負けねぇ……負けねぇぞ……!」
ラウスは肩で息をしながら、両手斧を構えていた。
全身泥だらけで、鎧には亀裂が入っている。ブランクがある彼にとって、Cランク相当のロックバイソンは荷が重すぎたのだ。
だが、退くわけにはいかない。
脳裏に浮かぶのは、妻のマナマと、娘のムーナの笑顔。
「俺は……母ちゃん達の為にもよぉ、お前を倒すんだよぉぉッ!」
ラウスは獣の咆哮を上げ、死に物狂いで突っ込んだ。
渾身の力を込めた一撃。
「オラァッ!!」
ガギィィィンッ!!
硬質な音が響いた。
斧の刃が、ロックバイソンの岩角に直撃する。しかし、鋼鉄の硬度を持つ角は砕けず、逆にラウスの斧が大きく弾かれた。
「あ……」
ラウスの体が泳ぐ。致命的な隙。
ロックバイソンは鼻息を荒くし、その巨大な角をラウスの腹部へと突き出す体勢に入った。
避けられない。死ぬ――。
「――させませんわッ!!」
隣で、マイユが叫んだ。
彼女はハンドルを大きく切り、アクセルをベタ踏みした。
「おい、マイユ!?」
英一が叫ぶ間もなく、鉄の塊となった魔導馬車が咆哮を上げる。
ドォォォォォォォンッ!!
「ブモォッ!?」
突進しようとしていたロックバイソンの横腹に、『ドリーム・ラビット』がミサイルのように激突した。
数トンの巨体が宙を舞い、地面を転がる。
同時に、馬車のボンネットがひしゃげ、凄まじい衝撃が二人を襲った。
「ぐうぅッ!」
「きゃあッ!」
エアバッグなどない。英一はダッシュボードに頭を打ちつけそうになり、必死に踏ん張った。
プシュゥゥ……と蒸気を上げる馬車から、マイユが転がり出るように降りた。
額から血が滲んでいるが、彼女はそれを拭いもせずに駆け出した。
「ラウスさん! 無事ですか!?」
「マ、マミユちゃん……?」
尻餅をついたままのラウスが、信じられないものを見る目で彼女を見上げた。
「どうして……? 俺は、お前を脅した男だぞ……? なのに、どうして……」
借金取りとして嫌がらせをし、工房を奪おうとした自分。
見捨てられて当然の悪党だ。それなのに、彼女は自分の愛車を壊してまで助けに入った。
マイユはラウスの手を取り、力強く言った。
「困っていたら助け合うのは当然ですわ! 過去のことは関係ありません!」
その言葉に、打算や迷いは一切なかった。
目の前にある命を拾う。ただそれだけの、純粋な善意。
「マ、マミユ……」
英一は、ひしゃげた助手席からその光景を見ていた。
彼女の行動は、合理的ではない。馬車は壊れ、自分たちも怪我をするリスクがあった。
だが、その非合理な行動の先にある、ラウスの震える瞳を見た時――英一は初めて理解した気がした。
これが、彼女の言う「命の重さ」なのかもしれない、と。
「す、すまねぇ……すまねぇ、マミユちゃん……!」
ラウスの目から、堰を切ったように涙が溢れた。
鬼のようだった借金取りの顔はどこにもない。そこには、ただ一人の弱い人間がいた。
「さぁ、泣いてる場合じゃありません!」
マイユはラウスを立たせると、ポーチを探った。
ロックバイソンが、土煙の中で起き上がりつつある。怒り狂い、蹄で地面を削っている。
「一緒に戦いましょう! ラウスさんは前衛をお願いします!」
「お、おう! 命に代えても守ってみせる!」
ラウスが斧を構え直す。
マイユは『魔法ポーチ』から、ピンク色に塗装された、ウサギの耳がついた球体を取り出した。
「ウサちゃんボンバー1号(試作型)、行きますわよ!」
「……可愛らしい爆弾だな」
英一はようやく痛む体を起こし、車から降りた。
マーカーの色はまだ黄色のままだ。だが、今、自分が何をすべきかは、UIを見なくても分かっていた。
「俺もやるぞ。……援護する」
英一はM24を構えた。
今度は「敵を倒す」ためではなく、「仲間を守る」ために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...