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EP 19
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システム外の感情(エラー)、そして必殺の一撃
「それっ! 行きますわよ!」
マイユが腕を振り抜き、ピンク色の球体を投げつける。
ウサギの耳がついた可愛らしい外見とは裏腹に、それは着弾した瞬間、凶悪な爆炎を巻き上げた。
ドカァァァン!!
「ブモォッ!?」
ロックバイソンが爆風によろめく。岩の皮膚が焼け焦げ、動きが鈍る。
「ありがてぇ! マミユちゃん!」
その隙を見逃さず、ラウスが吼えた。
全身から赤い闘気(オーラ)を噴き出し、亀裂の入った両手斧を振り上げる。
「オラァッ!!」
ガゴォォンッ!!
斧がロックバイソンの肩口に突き刺さる。硬い皮膚を砕き、肉に食い込む。
だが、致命傷には至らない。
少し離れた場所で、英一はM24を構えることも忘れ、その光景に見入っていた。
(な、なんで……? マミユは、なんでラウスを助けるんだ?)
視界に映るラウスのマーカーは『黄色(中立)』。
かつて自分たちを脅し、敵対しかけた男だ。
マイユのマーカーだって、今は『黄色(警戒)』に変わっている。
(分からない……分からない。メリットがない。リスクしかない。ゲームなら、こんな非効率なプレイはありえない……)
英一の思考がループする。
彼の世界(FPS)では、敵か味方か、赤か青かが全てだった。色のつかない存在のために命を懸けるなんて、バグとしか思えない。
「グオォォォッ!!」
ロックバイソンが暴れ、ラウスを振り払う。
手負いの獣の瞳が、憎悪を込めて周囲を睨みつける。
そして、その視線が――最も小さく、最も厄介な攻撃をしてきた存在に固定された。
「――ッ!?」
マイユだ。
彼女が次の爆弾を取り出そうとした一瞬の隙。
ロックバイソンはラウスを無視し、爆発的な脚力でマイユへと突進を開始した。
「しまっ……きゃあああッ!!」
マイユが悲鳴を上げ、尻餅をつく。
巨大な角が、彼女の柔らかな体を串刺しにしようと迫る。
「マミユちゃん!!」
ラウスが叫び、手を伸ばすが、間に合わない。
(――青だから助ける? 黄色だから見捨てる? 赤だから撃つ?)
英一の脳内で、システムの声が響く。
今のマイユは『黄色』だ。俺を拒絶した。俺を軽蔑した。
システムに従えば、助ける義務はない。
(マ、マミユは黄色……だから、見捨てる……?)
スローモーションのように流れる時間の中で、死を覚悟して目を閉じるマイユの顔が見えた。
その顔は、初めて会った時に見せてくれた笑顔と重なる。
温かいスープをくれた。居場所をくれた。俺の手を握ってくれた。
――ふざけるな。
英一の中で、何かが砕け散る音がした。
「そんなのは嫌だ!!」
英一は叫んでいた。
理性も、効率も、FPSの定石も、全てかなぐり捨てて。
「俺はマミユだから助けるんだ! 赤とか黄色とか関係ねぇ!!」
思考より早く、体が動いた。
M24を放り捨て、腰のハンドガン『SIG P226』を抜き放つ。
照準などいらない。魂で撃つ。
ダンッ! ダンッ!!
乾いた銃声が二発。
吸い込まれるように飛んだ9mm弾は、ロックバイソンの強靭な後ろ脚、その関節の隙間を正確に撃ち抜いた。
「ブモォッ!?」
踏ん張りが利かなくなり、ロックバイソンの巨体がバランスを崩して盛大に転倒する。
マイユの目の前、わずか数センチのところで、凶悪な角が地面を削って止まった。
「え……英一、さん……?」
マイユが目を開け、呆然とこちらを見る。
英一は肩で息をしながら、銃口を構え続けていた。
「ラウス! 今だ! やれぇぇぇッ!!」
英一の怒号が、呆けていたラウスの戦士の魂に火をつけた。
「おうよぉぉぉッ!!」
ラウスが跳ぶ。
全身の筋肉が膨張し、溢れ出る闘気が両手斧に収束していく。
これぞ獣人族の真骨頂、闘気による身体・武器強化。
「必殺! 熊獣斬り(ベア・ファング)ッ!!」
閃光。
空気を切り裂く轟音と共に、白銀の刃がロックバイソンの首筋に吸い込まれた。
ズドォォォォン!!
岩よりも硬い首が、バターのように切断され、宙を舞う。
巨体が地響きを立てて崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ラウスは残心を示したまま、荒い息を吐いた。
静寂が戻る。
完全に、勝ったのだ。
「……やりましたわ!」
マイユが立ち上がり、ラウスに駆け寄った。
「ありがとう、ラウスさん! それに……」
マイユは振り返り、英一を見た。
英一はまだSIGを握りしめたまま、震えていた。
色の変わったマーカー。それでも、自分は撃った。それが正しかったのか、まだ分からない。
「ありがとう……英一さん」
マイユの声は、優しかった。
以前のような親愛に満ちた声だった。
「俺は……」
「助かりました。本当に」
「皆のお陰ですわ!」
マイユは満面の笑みで、ラウスの手を取った。
ラウスも照れくさそうに、大きな手で小さな手を握り返す。
「ああ……英一の旦那の射撃がなけりゃ、俺の斧も届かなかった。すげぇ腕前だ」
「そ、そんな……」
夕日の中、握手を交わすドワーフと獣人。そしてそれを見守る人間。
種族も、立場も、過去の因縁も超えた勝利。
英一は、二人の姿を見つめながら、ホルスターに銃を戻した。
(マミユ……君はなんて凄いんだ)
自分はシステムの色に縛られていた。
でも彼女は、最初から「その人自身」を見ていた。だからラウスを助け、そして自分も見捨てなかった。
その心の強さに、英一はただただ圧倒され、そして憧れた。
(俺も……いつか、色のない世界を見れるようになるのかな)
視界の隅で、マイユの頭上のマーカーが、再び温かな『青色』へと変わり始めていたことに、英一はまだ気づいていなかった。
「それっ! 行きますわよ!」
マイユが腕を振り抜き、ピンク色の球体を投げつける。
ウサギの耳がついた可愛らしい外見とは裏腹に、それは着弾した瞬間、凶悪な爆炎を巻き上げた。
ドカァァァン!!
「ブモォッ!?」
ロックバイソンが爆風によろめく。岩の皮膚が焼け焦げ、動きが鈍る。
「ありがてぇ! マミユちゃん!」
その隙を見逃さず、ラウスが吼えた。
全身から赤い闘気(オーラ)を噴き出し、亀裂の入った両手斧を振り上げる。
「オラァッ!!」
ガゴォォンッ!!
斧がロックバイソンの肩口に突き刺さる。硬い皮膚を砕き、肉に食い込む。
だが、致命傷には至らない。
少し離れた場所で、英一はM24を構えることも忘れ、その光景に見入っていた。
(な、なんで……? マミユは、なんでラウスを助けるんだ?)
視界に映るラウスのマーカーは『黄色(中立)』。
かつて自分たちを脅し、敵対しかけた男だ。
マイユのマーカーだって、今は『黄色(警戒)』に変わっている。
(分からない……分からない。メリットがない。リスクしかない。ゲームなら、こんな非効率なプレイはありえない……)
英一の思考がループする。
彼の世界(FPS)では、敵か味方か、赤か青かが全てだった。色のつかない存在のために命を懸けるなんて、バグとしか思えない。
「グオォォォッ!!」
ロックバイソンが暴れ、ラウスを振り払う。
手負いの獣の瞳が、憎悪を込めて周囲を睨みつける。
そして、その視線が――最も小さく、最も厄介な攻撃をしてきた存在に固定された。
「――ッ!?」
マイユだ。
彼女が次の爆弾を取り出そうとした一瞬の隙。
ロックバイソンはラウスを無視し、爆発的な脚力でマイユへと突進を開始した。
「しまっ……きゃあああッ!!」
マイユが悲鳴を上げ、尻餅をつく。
巨大な角が、彼女の柔らかな体を串刺しにしようと迫る。
「マミユちゃん!!」
ラウスが叫び、手を伸ばすが、間に合わない。
(――青だから助ける? 黄色だから見捨てる? 赤だから撃つ?)
英一の脳内で、システムの声が響く。
今のマイユは『黄色』だ。俺を拒絶した。俺を軽蔑した。
システムに従えば、助ける義務はない。
(マ、マミユは黄色……だから、見捨てる……?)
スローモーションのように流れる時間の中で、死を覚悟して目を閉じるマイユの顔が見えた。
その顔は、初めて会った時に見せてくれた笑顔と重なる。
温かいスープをくれた。居場所をくれた。俺の手を握ってくれた。
――ふざけるな。
英一の中で、何かが砕け散る音がした。
「そんなのは嫌だ!!」
英一は叫んでいた。
理性も、効率も、FPSの定石も、全てかなぐり捨てて。
「俺はマミユだから助けるんだ! 赤とか黄色とか関係ねぇ!!」
思考より早く、体が動いた。
M24を放り捨て、腰のハンドガン『SIG P226』を抜き放つ。
照準などいらない。魂で撃つ。
ダンッ! ダンッ!!
乾いた銃声が二発。
吸い込まれるように飛んだ9mm弾は、ロックバイソンの強靭な後ろ脚、その関節の隙間を正確に撃ち抜いた。
「ブモォッ!?」
踏ん張りが利かなくなり、ロックバイソンの巨体がバランスを崩して盛大に転倒する。
マイユの目の前、わずか数センチのところで、凶悪な角が地面を削って止まった。
「え……英一、さん……?」
マイユが目を開け、呆然とこちらを見る。
英一は肩で息をしながら、銃口を構え続けていた。
「ラウス! 今だ! やれぇぇぇッ!!」
英一の怒号が、呆けていたラウスの戦士の魂に火をつけた。
「おうよぉぉぉッ!!」
ラウスが跳ぶ。
全身の筋肉が膨張し、溢れ出る闘気が両手斧に収束していく。
これぞ獣人族の真骨頂、闘気による身体・武器強化。
「必殺! 熊獣斬り(ベア・ファング)ッ!!」
閃光。
空気を切り裂く轟音と共に、白銀の刃がロックバイソンの首筋に吸い込まれた。
ズドォォォォン!!
岩よりも硬い首が、バターのように切断され、宙を舞う。
巨体が地響きを立てて崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ラウスは残心を示したまま、荒い息を吐いた。
静寂が戻る。
完全に、勝ったのだ。
「……やりましたわ!」
マイユが立ち上がり、ラウスに駆け寄った。
「ありがとう、ラウスさん! それに……」
マイユは振り返り、英一を見た。
英一はまだSIGを握りしめたまま、震えていた。
色の変わったマーカー。それでも、自分は撃った。それが正しかったのか、まだ分からない。
「ありがとう……英一さん」
マイユの声は、優しかった。
以前のような親愛に満ちた声だった。
「俺は……」
「助かりました。本当に」
「皆のお陰ですわ!」
マイユは満面の笑みで、ラウスの手を取った。
ラウスも照れくさそうに、大きな手で小さな手を握り返す。
「ああ……英一の旦那の射撃がなけりゃ、俺の斧も届かなかった。すげぇ腕前だ」
「そ、そんな……」
夕日の中、握手を交わすドワーフと獣人。そしてそれを見守る人間。
種族も、立場も、過去の因縁も超えた勝利。
英一は、二人の姿を見つめながら、ホルスターに銃を戻した。
(マミユ……君はなんて凄いんだ)
自分はシステムの色に縛られていた。
でも彼女は、最初から「その人自身」を見ていた。だからラウスを助け、そして自分も見捨てなかった。
その心の強さに、英一はただただ圧倒され、そして憧れた。
(俺も……いつか、色のない世界を見れるようになるのかな)
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