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EP 21
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ギルドマスターの鉄拳と、罪の所在
ボロボロになった魔導馬車を裏に止め、英一たちは冒険者ギルドのカウンターへと戻ってきた。
全身泥だらけのラウス、疲労困憊のマイユ、そして沈痛な面持ちの英一。
「あらマミユちゃん、早かったのね。……えっ、ラウスさんも一緒なの!?」
受付嬢のスミルが目を丸くした。借金取りのラウスと、被害者のマイユがパーティを組んでいるなど、天変地異でも起きたのかという顔だ。
「はい! 色々ありまして……とりあえず、報告です」
「じゃあ、素材を出してくれるかしら?」
マイユは『魔法ポーチ』を逆さにし、ドサドサとカウンターの上に戦利品をぶちまけた。
巨大なレッドオーガの角と皮。そして――山のような通常のオーガたちの素材。
「こ、これは……凄いわ……」
スミルが絶句する。しかし、すぐに検品の手が止まった。
「え? レッドオーガ討伐依頼は出てたけど……この大量のオーガ達は? 討伐依頼には乗ってなかったわよ?」
「ご、ごめんなさい……レッドオーガ討伐に向かう途中で、襲われて……」
マイユが必死に弁明する。
だが、その時。
「――本当か?」
地響きのような低い声が割り込んだ。
ギルドマスター、ダグドだ。彼はカウンターに置かれたオーガの素材――その眉間に空いた、あまりにも正確すぎる風穴を指でなぞっていた。
「えっと……その……」
マイユが言葉に詰まる。
襲われた、というのは嘘ではない。だが、これだけの数を、これほど一方的に、傷一つ負わずに殲滅した痕跡は、「自衛」の範疇を超えている。
ダグドがゆっくりと顔を上げ、英一を睨みつけた。
『ピピッ!』
英一の視界が赤く染まる。
ダグドの頭上に表示されたマーカーは、鮮烈な『赤色(敵対)』。
Lvもステータスも桁違い。FPSで言えば「勝てないイベントボス」の威圧感だ。
「お前だろ、やったのは。……知ってる事を言え」
ダグドの眼光が英一を射抜く。
嘘は通じない。この男は、戦場の臭いを嗅ぎ分けるプロだ。
「えっと……俺が、殺した」
英一は震える喉で肯定した。
自分のやったことだ。効率のために、スコアのために、命をただの記号として処理した結果だ。
「英一さん! 違うの、本当に襲われたんです! 英一さんはアタシを守ろうとして……悪くありません!」
マイユが英一の前に立ちはだかる。
彼女のマーカーはまだ『黄色(警戒)』のままだ。英一の冷酷さを恐れているはずなのに、それでも彼女は彼を庇った。
「俺が全て悪いんだ! 俺がけしかけたんだ!」
ラウスも前に出る。
彼のマーカーも『黄色』。だが、その背中は英一を守ろうとしていた。
「いや、ラウスさんは違うでしょ。貴方の武器は斧よ。この傷跡は……」
スミルが冷静に突っ込む。どう見ても銃創(魔法による貫通痕)だ。
「チッ……往生際の悪い」
ダグドはラウスとマイユを無視し、英一だけを見据えた。
「このままでは、嘘の報告をしたとしてマミユを罰する事になるぞ? ギルド規約違反で除名、最悪は投獄だ。……良いのか? 坊主」
「――ッ!?」
英一の顔色が蒼白になる。
自分を助けてくれたマイユが、自分のせいで捕まる?
それだけは、絶対にダメだ。
「か、構いませんわ! 私が責任を……!」
「お、俺が悪いんです!!」
英一は叫んだ。マイユの言葉を遮り、一歩前に出る。
「俺が! 俺が勝手にやったんです! 彼女は止めたけど、俺が……ゲーム感覚で、殺しました!」
「……そうか」
次の瞬間。
ダグドの太い腕が伸び、英一の胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げた。
「ぐっ!?」
「ギルドはな……快楽で殺しをやられちゃ困るんだよ!!」
ドゴォッ!!
強烈な拳が、英一の頬に叩き込まれた。
視界が揺れ、火花が散る。HPバーが減るのではない。骨が軋み、肉が裂ける「痛み」が脳を焼く。
「がはっ……」
「命を奪う重さを知らねぇ奴に、力を振るう資格はねぇ。……ギルドの罰だ。街中で鞭打ち100回!」
ダグドが無慈悲に宣告する。
鞭打ち100回。ひ弱な英一の体では、死に至る刑罰だ。
「お、お願いします! 止めてください! アタシが悪いんです!」
マイユがダグドの足にすがりつく。
「叩くなら、俺にしろ! 俺の体なら100回くらい耐えられる!」
ラウスも土下座して叫ぶ。
英一は、殴られた頬を押さえながら、霞む視界でその光景を見ていた。
(なんで……なんで、俺なんかのために……)
自分が犯した過ち。その報いを受けるのは自分であるべきなのに。
二人の姿が、涙で滲んだ。
「……チッ」
ダグドは舌打ちをし、英一を下ろした。
「良い仲間を持ったな、糞ガキ」
ドガッ!!
二発目の拳が飛んできた。
今度は手加減なしの、しかし殺意のない一撃。英一は床に派手に転がった。
「うぐぅ……!」
「今の痛み、忘れんじゃねぇぞ」
ダグドは見下ろしながら言った。
「その拳の痛みと、お前を庇った仲間の必死な顔。……それを背負えるなら、二度と『遊び』で引き金を引くんじゃねぇ」
英一が顔を上げると、ダグドの顔から殺気が消えていた。
そして、視界のUIが変化する。
鮮血のような『赤色』だったマーカーが、穏やかな『黄色(中立・承認)』へと変わっていた。
「……はいっ……!」
英一は口の中の血の味を噛み締めながら、深く頭を下げた。
鞭打ち100回は、英一の性根を叩き直すためのブラフだったのだ。
「スミル、精算してやれ。……ラウス、お前も復帰手続きしとけよ」
「へ? あ、あぁ! ありがとうございます!」
ダグドは背を向けて奥へと去っていった。
厳しい洗礼。だがそれは、英一がこの世界で「冒険者」として生きていくための、本当のスタートラインだった。
ボロボロになった魔導馬車を裏に止め、英一たちは冒険者ギルドのカウンターへと戻ってきた。
全身泥だらけのラウス、疲労困憊のマイユ、そして沈痛な面持ちの英一。
「あらマミユちゃん、早かったのね。……えっ、ラウスさんも一緒なの!?」
受付嬢のスミルが目を丸くした。借金取りのラウスと、被害者のマイユがパーティを組んでいるなど、天変地異でも起きたのかという顔だ。
「はい! 色々ありまして……とりあえず、報告です」
「じゃあ、素材を出してくれるかしら?」
マイユは『魔法ポーチ』を逆さにし、ドサドサとカウンターの上に戦利品をぶちまけた。
巨大なレッドオーガの角と皮。そして――山のような通常のオーガたちの素材。
「こ、これは……凄いわ……」
スミルが絶句する。しかし、すぐに検品の手が止まった。
「え? レッドオーガ討伐依頼は出てたけど……この大量のオーガ達は? 討伐依頼には乗ってなかったわよ?」
「ご、ごめんなさい……レッドオーガ討伐に向かう途中で、襲われて……」
マイユが必死に弁明する。
だが、その時。
「――本当か?」
地響きのような低い声が割り込んだ。
ギルドマスター、ダグドだ。彼はカウンターに置かれたオーガの素材――その眉間に空いた、あまりにも正確すぎる風穴を指でなぞっていた。
「えっと……その……」
マイユが言葉に詰まる。
襲われた、というのは嘘ではない。だが、これだけの数を、これほど一方的に、傷一つ負わずに殲滅した痕跡は、「自衛」の範疇を超えている。
ダグドがゆっくりと顔を上げ、英一を睨みつけた。
『ピピッ!』
英一の視界が赤く染まる。
ダグドの頭上に表示されたマーカーは、鮮烈な『赤色(敵対)』。
Lvもステータスも桁違い。FPSで言えば「勝てないイベントボス」の威圧感だ。
「お前だろ、やったのは。……知ってる事を言え」
ダグドの眼光が英一を射抜く。
嘘は通じない。この男は、戦場の臭いを嗅ぎ分けるプロだ。
「えっと……俺が、殺した」
英一は震える喉で肯定した。
自分のやったことだ。効率のために、スコアのために、命をただの記号として処理した結果だ。
「英一さん! 違うの、本当に襲われたんです! 英一さんはアタシを守ろうとして……悪くありません!」
マイユが英一の前に立ちはだかる。
彼女のマーカーはまだ『黄色(警戒)』のままだ。英一の冷酷さを恐れているはずなのに、それでも彼女は彼を庇った。
「俺が全て悪いんだ! 俺がけしかけたんだ!」
ラウスも前に出る。
彼のマーカーも『黄色』。だが、その背中は英一を守ろうとしていた。
「いや、ラウスさんは違うでしょ。貴方の武器は斧よ。この傷跡は……」
スミルが冷静に突っ込む。どう見ても銃創(魔法による貫通痕)だ。
「チッ……往生際の悪い」
ダグドはラウスとマイユを無視し、英一だけを見据えた。
「このままでは、嘘の報告をしたとしてマミユを罰する事になるぞ? ギルド規約違反で除名、最悪は投獄だ。……良いのか? 坊主」
「――ッ!?」
英一の顔色が蒼白になる。
自分を助けてくれたマイユが、自分のせいで捕まる?
それだけは、絶対にダメだ。
「か、構いませんわ! 私が責任を……!」
「お、俺が悪いんです!!」
英一は叫んだ。マイユの言葉を遮り、一歩前に出る。
「俺が! 俺が勝手にやったんです! 彼女は止めたけど、俺が……ゲーム感覚で、殺しました!」
「……そうか」
次の瞬間。
ダグドの太い腕が伸び、英一の胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げた。
「ぐっ!?」
「ギルドはな……快楽で殺しをやられちゃ困るんだよ!!」
ドゴォッ!!
強烈な拳が、英一の頬に叩き込まれた。
視界が揺れ、火花が散る。HPバーが減るのではない。骨が軋み、肉が裂ける「痛み」が脳を焼く。
「がはっ……」
「命を奪う重さを知らねぇ奴に、力を振るう資格はねぇ。……ギルドの罰だ。街中で鞭打ち100回!」
ダグドが無慈悲に宣告する。
鞭打ち100回。ひ弱な英一の体では、死に至る刑罰だ。
「お、お願いします! 止めてください! アタシが悪いんです!」
マイユがダグドの足にすがりつく。
「叩くなら、俺にしろ! 俺の体なら100回くらい耐えられる!」
ラウスも土下座して叫ぶ。
英一は、殴られた頬を押さえながら、霞む視界でその光景を見ていた。
(なんで……なんで、俺なんかのために……)
自分が犯した過ち。その報いを受けるのは自分であるべきなのに。
二人の姿が、涙で滲んだ。
「……チッ」
ダグドは舌打ちをし、英一を下ろした。
「良い仲間を持ったな、糞ガキ」
ドガッ!!
二発目の拳が飛んできた。
今度は手加減なしの、しかし殺意のない一撃。英一は床に派手に転がった。
「うぐぅ……!」
「今の痛み、忘れんじゃねぇぞ」
ダグドは見下ろしながら言った。
「その拳の痛みと、お前を庇った仲間の必死な顔。……それを背負えるなら、二度と『遊び』で引き金を引くんじゃねぇ」
英一が顔を上げると、ダグドの顔から殺気が消えていた。
そして、視界のUIが変化する。
鮮血のような『赤色』だったマーカーが、穏やかな『黄色(中立・承認)』へと変わっていた。
「……はいっ……!」
英一は口の中の血の味を噛み締めながら、深く頭を下げた。
鞭打ち100回は、英一の性根を叩き直すためのブラフだったのだ。
「スミル、精算してやれ。……ラウス、お前も復帰手続きしとけよ」
「へ? あ、あぁ! ありがとうございます!」
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