FPS世界ランク1位の凸スナ、ニートを辞めて異世界でエンジニアになる~工業高校の資格と現代兵器で、健気なドワーフ娘を救い天下を取る~

月神世一

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EP 23

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鍋の湯気と、信頼の青(ブルー)
ラウスの家のちゃぶ台には、湯気を立てる土鍋が置かれていた。
マナマ特製の鳥鍋だ。たっぷりの野菜と、ぶつ切りにされたトライバードの肉が、濃厚なスープの中でぐつぐつと煮込まれている。
「さぁ、冷めないうちに召し上がれ」
「いただきます……」
英一は小皿に取り分けられた鍋を啜った。
熱い。けれど、殴られた頬の痛みすら和らげるような、深い滋味が体に染み渡る。
英一は箸を動かしながら、ふと視界のUIに目を向けた。
ラウス、マナマ、マイユ。全員の頭上には、まだ『黄色(中立)』のマーカーが浮かんでいる。
(俺の最初に立てたマーカーの仮説……あれは違うんじゃないか?)
英一は咀嚼しながら思考を巡らせる。
当初、FPSの常識で『赤=敵』『青=味方』『黄色=中立』と定義していた。だが、それはあまりにも機械的すぎる。
(敵、中立、味方じゃなくて……もっと複雑な、『信頼度』なんじゃないか? 赤は信用ゼロの敵意。で、黄色は……『一方的な好意』や『様子見』の段階)
以前、マイユのマーカーが一度だけ青になったことがあった。あれは、ビジネスパートナーとして認められた瞬間だった。
だが、今日の戦闘で黄色に戻った。そして今、こんなに良くしてくれているのに、まだ黄色いまま。
(……青は、心が繋がりあった『相互信頼』だ)
「英一さん、これ美味しいですよ。お肉、いっぱい食べて体力をつけないと」
マイユが笑顔で、英一の皿に大きな肉をよそってくれた。
彼女はもう、英一を許し、受け入れている。なのにマーカーは黄色だ。
(信頼は一方通行じゃない。相手が俺を信じてくれても、俺が相手を『NPC』や『システム』として見ている限り……本当の信頼は成立しないんだ)
英一は、自分の心の壁に気づいた。
傷つくのが怖くて、システムというフィルター越しに彼らを見ていた自分。
(俺が歩まないと、向こうもこっちを見ない。信頼は生まれない)
「ありがとう、マミユ」
英一は、マーカー(UI)ではなく、マイユの瞳をしっかりと見て礼を言った。
「英一。……酒は飲めるか?」
不意に、ラウスが一升瓶のようなものをドンと置いた。
安酒だが、度数は高そうだ。
「えっ? い、いや、俺は飲んだ事なくて……(引きこもりだったし)」
「あんた! 怪我人に何勧めてるんだい!」
マナマがすかさずツッコミを入れる。
しかしラウスはニカッと笑って譲らない。
「いや、20歳は過ぎてるだろ!? 見た目は若いが、立派な成人だ。こういう夜は、景気付けが必要なんだよ」
「もう……しょうがない人だねぇ」
「英一さん、飲んでみる? 無理はしなくていいけど」
マイユが心配そうに覗き込む。
英一は少し迷ったが、決意を固めた。
これはただの酒じゃない。彼らと同じ土俵に立ち、心を開くための儀式(イニシエーション)だ。
「う、うん。……頂こうかな」
英一がグラスを差し出す。
ラウスが嬉しそうにトクトクと琥珀色の液体を注ぐ。続いてマナマ、マイユのグラスにも。
「よし、それじゃあ……今日の勝利と、俺たちの新しい出発に!」
「「乾杯!」」
カチン、と四つのグラスが重なり合った。
その澄んだ音が響いた、瞬間だった。
『ピロン♪』
英一の脳内に、ファンファーレのような美しいシステム音が鳴り響いた。
視界が一変する。
ラウスの、マナマの、そしてマイユの頭上にあった黄色い光が、一斉に深く、澄み渡るような『青色(ブルー)』へと変化したのだ。
それは、FPSの「味方ユニット」を示す青ではない。
雨上がりの空のような、揺るぎない絆の色。
(ああ……そうか。俺が心を開けば、世界はこんなにも鮮やかな色になるんだ)
「んぐっ……」
英一は酒を一気に流し込んだ。
喉が焼けるように熱い。むせそうになるのを堪える。
「……旨いな」
「だろ? 酒ってのはな、一人で飲むより、皆で飲むと旨いんだ。これが」
ラウスが豪快に笑い、自分の酒をあおる。
「当たり前さ。酒は楽しく飲まないとね」
マナマもクスクスと笑いながらグラスを傾ける。
「ふふ、本当に美味しい。お酒って、こんなに温かい味がするんですね」
マイユが頬をほんのり赤らめて微笑む。
その笑顔の上で輝く青いマーカーを見ながら、英一は体の奥底から湧き上がる熱を感じていた。
それはアルコールのせいだけではない。
今日、自分は初めて自分の意志で引き金を引いた。
自分の意志で謝った。
そして今、自分の意志で仲間と杯を交わした。
(俺は……今、少しだけ大人になった気がする)
窓の外には満月。
狭い長屋のちゃぶ台を囲む四人の影は、夜遅くまで楽しげに揺れていた。
ニートだった青年が、異世界で本当の「居場所」を見つけた夜だった。
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