24 / 53
EP 24
しおりを挟む
赤鬼の革と、マイユ印のコンバット・スーツ
翌朝。
英一、マイユ、ラウスの三人は、清々しい顔で工房の作業エリアに立っていた。
作業台の上には、昨日命がけで手に入れた『レッドオーガの皮』と、工房秘蔵の『ドワーフ鋼』が所狭しと並べられている。
「えっと~、レッドオーガの素材も手に入れたし、ドワーフ鋼もある……。最高の条件が整いましたわ!」
マイユは真紅の革を撫でながら、うっとりとした表情を浮かべた。
レッドオーガの皮は、鋼鉄並みの強度を持ちながら、ゴムのような柔軟性を併せ持つ最高級素材だ。
「あぁ、そうだね。これなら、俺の防弾チョッキ以上の性能が出せるかもしれない」
英一も設計図(羊皮紙にボールペンで書いたもの)を見ながら頷く。
視界に映るマイユとラウスのマーカーは、鮮やかな『青色』。
背中を預けられる仲間がいる安心感が、英一の思考をよりクリエイティブにさせていた。
「じゃあ、世界初の『マイユ印(ブランド)・コンバット装備』作るわよ~!」
マイユがエプロンの紐をキリッと締め直し、ハンマーを高らかに掲げた。
「お、おう! 気合が入ってるな。……で、俺は何をすればいい?」
ラウスが困ったように頭をかいた。
元戦士で力自慢の彼だが、繊細な魔導具作成や鍛冶のスキルはない。手持ち無沙汰になりかけていた。
「ラウスさんには重要な任務があります!」
「重要な任務……?」
「ええ。出来上がったコンバットスーツの『品質チェック』ね。実際に着て動いてもらって、生の冒険者目線での感想が欲しいの!」
マイユがビシッと指差す。
「なるほど、テスターってわけか。俺の体なら少々締め付けがきつくても大丈夫だ。分かったぜ!」
ラウスは自分の大胸筋をドンと叩いて引き受けた。
作業が始まった。
工房に、魔導炉の轟音と、金槌の音が響き渡る。
「まずは『プレート』の作成だ。ドワーフ鋼に黒曜石の粉末を混ぜて、セラミックのような硬度を持たせる」
英一の指示に従い、マイユが魔力を込めてインゴットを叩く。
火花が散るたびに、不純物が抜け、漆黒の輝きを放つプレートが形成されていく。
「次は生地の縫製ね! レッドオーガの革を何層にも重ねて……」
マイユはミシンのような魔導縫製機を操り、分厚い革を縫い合わせていく。
英一が提案したのは、現代の軍用装備の基本である『MOLLE(モール)システム』の導入だ。
革の表面に、一定間隔で帯(ウェビング)を縫い付けることで、ポーチやナイフホルダーを自由な位置に取り付けられるようにする。
「すごい……この『帯』をつけるだけで、装備の拡張性が無限になりますわ! 剣士なら予備の剣を、魔法使いならポーションを、好きな場所に付けられるなんて!」
「だろ? これが『モジュラーシステム』だ」
英一の現代知識と、マイユのドワーフ技術が化学反応を起こしていく。
「英一さん、ここの留め具はどうします?」
「そこは『クイックリリース(緊急解除)』機能を付けたい。水に落ちたり怪我をした時に、紐一本で装備がパージできるように」
「了解! マジックテープの代わりに、吸着魔法を付与した革を使います!」
二人の会話は専門用語と魔導用語が飛び交い、横で見ているラウスにはチンプンカンプンだったが、凄いものが出来上がりつつあることだけは理解できた。
数時間後。
「……できた」
「完成……ですわ!」
作業台の上に、一着の鎧――いや、『コンバットスーツ』が鎮座していた。
ベースはレッドオーガの革による深紅のベスト。胸部と背部には漆黒のドワーフ鋼プレートが挿入されている。
表面には無数の帯が縫い付けられ、機能美に溢れていた。
従来の重厚な金属鎧とは一線を画す、軽快かつ強靭な「戦術装備」だ。
「さぁラウスさん! 出番ですよ!」
「おう、待ってました!」
ラウスが上着を脱ぎ、試作品に袖を通す。
熊耳族の巨体にもフィットするように、サイドのベルトでサイズ調整が可能だ。
「……こいつは」
ラウスが目を見開いた。
「軽い……! まるで普通の服を着てるみたいだ。なのに、急所はガッチリ守られてる安心感がある」
ラウスはシャドーボクシングのように拳を突き出し、体を捻った。
金属鎧特有のガチャガチャという音もしない。関節の動きも阻害されない。
「どうですか? 動きにくい所は?」
「全くねぇ! これなら、森の中でも音を立てずに動けるし、全力で斧を振っても疲れないぞ!」
ラウスの興奮した声に、英一とマイユは顔を見合わせてハイタッチをした。
「よし、第一段階クリアだな!」
「ええ! でもラウスさん、まだ終わりじゃありませんよ?」
マイユがニッコリと、しかし職人のドSな笑顔を浮かべた。
「次は『防御力テスト』です。……英一さん、お願いします」
「え、俺?」
「はい。そのシグ? で、ラウスさんを撃ってみてください」
「はぁ!?」
「なっ!?」
英一とラウスが同時に声を上げた。
「じょ、冗談だろマイユ!? 実弾だぞ!?」
「大丈夫です! 理論上は防げます! それに、実戦で使い物にならなきゃ意味がありませんもの!」
「い、いや、俺は信じてるけどよぉ!?」
ラウスが脂汗を流して後ずさる。
英一は苦笑しながら、SIG P226を構えた。
「……信じろ、ラウス。マイユの腕と、俺たちの設計を」
「え、撃つの!? ほんとに!?」
新生エイイチ&マイユ工房の品質管理は、命がけの厳しさだった。
翌朝。
英一、マイユ、ラウスの三人は、清々しい顔で工房の作業エリアに立っていた。
作業台の上には、昨日命がけで手に入れた『レッドオーガの皮』と、工房秘蔵の『ドワーフ鋼』が所狭しと並べられている。
「えっと~、レッドオーガの素材も手に入れたし、ドワーフ鋼もある……。最高の条件が整いましたわ!」
マイユは真紅の革を撫でながら、うっとりとした表情を浮かべた。
レッドオーガの皮は、鋼鉄並みの強度を持ちながら、ゴムのような柔軟性を併せ持つ最高級素材だ。
「あぁ、そうだね。これなら、俺の防弾チョッキ以上の性能が出せるかもしれない」
英一も設計図(羊皮紙にボールペンで書いたもの)を見ながら頷く。
視界に映るマイユとラウスのマーカーは、鮮やかな『青色』。
背中を預けられる仲間がいる安心感が、英一の思考をよりクリエイティブにさせていた。
「じゃあ、世界初の『マイユ印(ブランド)・コンバット装備』作るわよ~!」
マイユがエプロンの紐をキリッと締め直し、ハンマーを高らかに掲げた。
「お、おう! 気合が入ってるな。……で、俺は何をすればいい?」
ラウスが困ったように頭をかいた。
元戦士で力自慢の彼だが、繊細な魔導具作成や鍛冶のスキルはない。手持ち無沙汰になりかけていた。
「ラウスさんには重要な任務があります!」
「重要な任務……?」
「ええ。出来上がったコンバットスーツの『品質チェック』ね。実際に着て動いてもらって、生の冒険者目線での感想が欲しいの!」
マイユがビシッと指差す。
「なるほど、テスターってわけか。俺の体なら少々締め付けがきつくても大丈夫だ。分かったぜ!」
ラウスは自分の大胸筋をドンと叩いて引き受けた。
作業が始まった。
工房に、魔導炉の轟音と、金槌の音が響き渡る。
「まずは『プレート』の作成だ。ドワーフ鋼に黒曜石の粉末を混ぜて、セラミックのような硬度を持たせる」
英一の指示に従い、マイユが魔力を込めてインゴットを叩く。
火花が散るたびに、不純物が抜け、漆黒の輝きを放つプレートが形成されていく。
「次は生地の縫製ね! レッドオーガの革を何層にも重ねて……」
マイユはミシンのような魔導縫製機を操り、分厚い革を縫い合わせていく。
英一が提案したのは、現代の軍用装備の基本である『MOLLE(モール)システム』の導入だ。
革の表面に、一定間隔で帯(ウェビング)を縫い付けることで、ポーチやナイフホルダーを自由な位置に取り付けられるようにする。
「すごい……この『帯』をつけるだけで、装備の拡張性が無限になりますわ! 剣士なら予備の剣を、魔法使いならポーションを、好きな場所に付けられるなんて!」
「だろ? これが『モジュラーシステム』だ」
英一の現代知識と、マイユのドワーフ技術が化学反応を起こしていく。
「英一さん、ここの留め具はどうします?」
「そこは『クイックリリース(緊急解除)』機能を付けたい。水に落ちたり怪我をした時に、紐一本で装備がパージできるように」
「了解! マジックテープの代わりに、吸着魔法を付与した革を使います!」
二人の会話は専門用語と魔導用語が飛び交い、横で見ているラウスにはチンプンカンプンだったが、凄いものが出来上がりつつあることだけは理解できた。
数時間後。
「……できた」
「完成……ですわ!」
作業台の上に、一着の鎧――いや、『コンバットスーツ』が鎮座していた。
ベースはレッドオーガの革による深紅のベスト。胸部と背部には漆黒のドワーフ鋼プレートが挿入されている。
表面には無数の帯が縫い付けられ、機能美に溢れていた。
従来の重厚な金属鎧とは一線を画す、軽快かつ強靭な「戦術装備」だ。
「さぁラウスさん! 出番ですよ!」
「おう、待ってました!」
ラウスが上着を脱ぎ、試作品に袖を通す。
熊耳族の巨体にもフィットするように、サイドのベルトでサイズ調整が可能だ。
「……こいつは」
ラウスが目を見開いた。
「軽い……! まるで普通の服を着てるみたいだ。なのに、急所はガッチリ守られてる安心感がある」
ラウスはシャドーボクシングのように拳を突き出し、体を捻った。
金属鎧特有のガチャガチャという音もしない。関節の動きも阻害されない。
「どうですか? 動きにくい所は?」
「全くねぇ! これなら、森の中でも音を立てずに動けるし、全力で斧を振っても疲れないぞ!」
ラウスの興奮した声に、英一とマイユは顔を見合わせてハイタッチをした。
「よし、第一段階クリアだな!」
「ええ! でもラウスさん、まだ終わりじゃありませんよ?」
マイユがニッコリと、しかし職人のドSな笑顔を浮かべた。
「次は『防御力テスト』です。……英一さん、お願いします」
「え、俺?」
「はい。そのシグ? で、ラウスさんを撃ってみてください」
「はぁ!?」
「なっ!?」
英一とラウスが同時に声を上げた。
「じょ、冗談だろマイユ!? 実弾だぞ!?」
「大丈夫です! 理論上は防げます! それに、実戦で使い物にならなきゃ意味がありませんもの!」
「い、いや、俺は信じてるけどよぉ!?」
ラウスが脂汗を流して後ずさる。
英一は苦笑しながら、SIG P226を構えた。
「……信じろ、ラウス。マイユの腕と、俺たちの設計を」
「え、撃つの!? ほんとに!?」
新生エイイチ&マイユ工房の品質管理は、命がけの厳しさだった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる