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EP 51
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死を呼ぶ名刺と、新人執事の初仕事
人材ギルドのロビーの片隅。
そこだけ空気が凍りついたような一角で、マミユは勇気を振り絞って声をかけた。
「私はマミユと言います。こちらは共同経営者の英一さんに、護衛のラウスさん、技術顧問のメルセスさんですわ」
英一たちがぎこちなく会釈をする。
人狼の男は、優雅な動作でティーカップを置くと、立ち上がって深々と一礼した。
「私の名はセブリック。以後、お見知り置きを」
シュッ。
風を切る音がして、英一、ラウス、メルセスの目の前に白い紙片が差し出された。
あまりに洗練された手つき。
「……ッ!?」
ラウスだけが、受け取った瞬間にビクリと身を震わせた。
(なんだこの名刺……! 闘気(オーラ)の塊だ……! 指が切れそうなほど鋭い殺気を感じる……コイツ、間違いなく強ぇぇ!)
名刺には『セブリック / 税理士・執事検定一級』とだけ記されていた。シンプルだが、紙の端が刃物のように研ぎ澄まされている。
「執事に税理士……。素晴らしい経歴ね。それにこのインクの匂い、ただのインクじゃないわね」
メルセスが興味深そうに名刺を嗅ぐ。
「即戦力ですわ! 私達はスタラントで工房を営んで居ますの。是非、ウチの経理と管理をお願いしたくて!」
マミユが熱烈にアプローチする。
セブリックはモノクルの位置を直しながら、冷徹な瞳で問い返した。
「ほぉ……。では伺いますが、年商は如何ほどで? 雇用形態は正規雇用ですか? それとも業務委託? 主に何を商いに?」
矢継ぎ早に繰り出される質問。圧が凄い。
「や、やべぇコイツ……つぇぇ(事務的な意味で)」
英一がたじろぐ。これまで「どんぶり勘定」で生きてきたツケが回ってきた気分だ。
「えっと……最近に出来たばかりの工房でして……年商はまだ確定してないんですけど……」
マミユは冷や汗を拭いながら、切り札を出した。
「でも! 最近大型契約を結んで、特注の防具を作り、金貨10万枚規模の取引をしてますの!」
「金貨10万枚。……なるほど、スタートアップとしては悪くない数字だ」
セブリックの目が少しだけ和らいだ。
「ほぉ……。その『商材』、物を見てもよろしいかな?」
「はい!」
マミユは魔法ポーチから『コンバット・スーツ』を取り出した。
セブリックは白手袋をはめた手で、生地の縫製やプレートの配置を丹念に調べた。
「……機能美に優れ、拡張性も高い。ドワーフの技術と……未知の設計思想が融合している。……成る程、面白い品ですな」
「そうなんです! これが私達の主力商品です!」
合格ラインには達したようだ。セブリックは商品を返すと、核心を突いてきた。
「それで? 何故スタラントの方が、わざわざユミルスに?」
「えっと、実は……私達はとある『魔導馬車』を作って、その技術を商品化……いえ、『技術登録』したくて来たんです」
「技術登録?」
「はい。技術そのものを売るのではなく、使用する権利を貸し出し、対価を得る仕組みを作りたいんです」
マミユの説明を聞き、セブリックは初めて驚きの表情を見せた。
「何と……! 技術を登録して権利を守り、使用する度に金を得られるシステム……! 特許(パテント)の発想ですか。……面白い。極めて論理的で、長期的な利益が見込める考え方だ」
セブリックの尻尾が、パタパタと揺れた。
彼は「継続的な利益」や「システム構築」が大好物なのだ。
「どうか、私達の仲間になって頂けないでしょうか!」
マミユが頭を下げる。
セブリックは微笑みながら頷こうとしたが、ふと気になったことを尋ねた。
「ちなみに、その登録の手続きは順調で?」
「あ、はい! 先程、ゼニゲコギルドのオロチさんに登録の依頼をしてきまして……」
「ほう、あのオロチに」
「ええ。交渉料として、金貨8,000枚お支払いしてきました!」
ピタリ。
セブリックの尻尾の動きが止まった。
「……何ですと? 金貨……8,000枚?」
「え、ぇぇ……。確実に登録するには必要だと言われまして……仕方ありませんわ」
マミユが自信なさげに言う。
セブリックは天を仰ぎ、深く、深く溜息をついた。
(……何と愚かな。赤子の手を捻るよりも容易く毟り取られている。……か弱い雛たちか)
だが、その直後、彼の瞳に怪しい光が宿った。
(しかし……これほど無防備で、かつ「化ける」可能性を秘めた組織……。私の腕(計算)次第で、世界を牛耳る企業にもなり得る。……刺激的だ)
セブリックはマミユに向き直り、恭しく一礼した。
「よろしい。貴方達のお仲間になりましょう」
「本当ですか!? やったー!!」
マミユ達が歓声を上げる。
だが、セブリックは即座に表情を「執事」から「戦闘態勢の税理士」へと切り替えた。
「では早速、私の初仕事です。……ゼニゲコギルドに行きましょうか」
「え? な、何故?」
契約成立の祝杯をあげるのではなく、なぜ戻るのか。
セブリックは眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、氷のような笑顔で告げた。
「このような『不法取引(ボッタクリ)』を見逃せる程、私は紳士では無いのでね」
その手には、いつの間にか数枚の「名刺」が握られており、青白い闘気を帯びて鋭い音を立てていた。
「さぁ、行きますよ。払いすぎた経費(カネ)を……『還付』させに」
最強の監査役・セブリックがパーティに加わった瞬間、ユミルスの勢力図が大きく揺らぎ始めた。
ターゲットは、ゼニゲコ・タワーの主、オロチである。
人材ギルドのロビーの片隅。
そこだけ空気が凍りついたような一角で、マミユは勇気を振り絞って声をかけた。
「私はマミユと言います。こちらは共同経営者の英一さんに、護衛のラウスさん、技術顧問のメルセスさんですわ」
英一たちがぎこちなく会釈をする。
人狼の男は、優雅な動作でティーカップを置くと、立ち上がって深々と一礼した。
「私の名はセブリック。以後、お見知り置きを」
シュッ。
風を切る音がして、英一、ラウス、メルセスの目の前に白い紙片が差し出された。
あまりに洗練された手つき。
「……ッ!?」
ラウスだけが、受け取った瞬間にビクリと身を震わせた。
(なんだこの名刺……! 闘気(オーラ)の塊だ……! 指が切れそうなほど鋭い殺気を感じる……コイツ、間違いなく強ぇぇ!)
名刺には『セブリック / 税理士・執事検定一級』とだけ記されていた。シンプルだが、紙の端が刃物のように研ぎ澄まされている。
「執事に税理士……。素晴らしい経歴ね。それにこのインクの匂い、ただのインクじゃないわね」
メルセスが興味深そうに名刺を嗅ぐ。
「即戦力ですわ! 私達はスタラントで工房を営んで居ますの。是非、ウチの経理と管理をお願いしたくて!」
マミユが熱烈にアプローチする。
セブリックはモノクルの位置を直しながら、冷徹な瞳で問い返した。
「ほぉ……。では伺いますが、年商は如何ほどで? 雇用形態は正規雇用ですか? それとも業務委託? 主に何を商いに?」
矢継ぎ早に繰り出される質問。圧が凄い。
「や、やべぇコイツ……つぇぇ(事務的な意味で)」
英一がたじろぐ。これまで「どんぶり勘定」で生きてきたツケが回ってきた気分だ。
「えっと……最近に出来たばかりの工房でして……年商はまだ確定してないんですけど……」
マミユは冷や汗を拭いながら、切り札を出した。
「でも! 最近大型契約を結んで、特注の防具を作り、金貨10万枚規模の取引をしてますの!」
「金貨10万枚。……なるほど、スタートアップとしては悪くない数字だ」
セブリックの目が少しだけ和らいだ。
「ほぉ……。その『商材』、物を見てもよろしいかな?」
「はい!」
マミユは魔法ポーチから『コンバット・スーツ』を取り出した。
セブリックは白手袋をはめた手で、生地の縫製やプレートの配置を丹念に調べた。
「……機能美に優れ、拡張性も高い。ドワーフの技術と……未知の設計思想が融合している。……成る程、面白い品ですな」
「そうなんです! これが私達の主力商品です!」
合格ラインには達したようだ。セブリックは商品を返すと、核心を突いてきた。
「それで? 何故スタラントの方が、わざわざユミルスに?」
「えっと、実は……私達はとある『魔導馬車』を作って、その技術を商品化……いえ、『技術登録』したくて来たんです」
「技術登録?」
「はい。技術そのものを売るのではなく、使用する権利を貸し出し、対価を得る仕組みを作りたいんです」
マミユの説明を聞き、セブリックは初めて驚きの表情を見せた。
「何と……! 技術を登録して権利を守り、使用する度に金を得られるシステム……! 特許(パテント)の発想ですか。……面白い。極めて論理的で、長期的な利益が見込める考え方だ」
セブリックの尻尾が、パタパタと揺れた。
彼は「継続的な利益」や「システム構築」が大好物なのだ。
「どうか、私達の仲間になって頂けないでしょうか!」
マミユが頭を下げる。
セブリックは微笑みながら頷こうとしたが、ふと気になったことを尋ねた。
「ちなみに、その登録の手続きは順調で?」
「あ、はい! 先程、ゼニゲコギルドのオロチさんに登録の依頼をしてきまして……」
「ほう、あのオロチに」
「ええ。交渉料として、金貨8,000枚お支払いしてきました!」
ピタリ。
セブリックの尻尾の動きが止まった。
「……何ですと? 金貨……8,000枚?」
「え、ぇぇ……。確実に登録するには必要だと言われまして……仕方ありませんわ」
マミユが自信なさげに言う。
セブリックは天を仰ぎ、深く、深く溜息をついた。
(……何と愚かな。赤子の手を捻るよりも容易く毟り取られている。……か弱い雛たちか)
だが、その直後、彼の瞳に怪しい光が宿った。
(しかし……これほど無防備で、かつ「化ける」可能性を秘めた組織……。私の腕(計算)次第で、世界を牛耳る企業にもなり得る。……刺激的だ)
セブリックはマミユに向き直り、恭しく一礼した。
「よろしい。貴方達のお仲間になりましょう」
「本当ですか!? やったー!!」
マミユ達が歓声を上げる。
だが、セブリックは即座に表情を「執事」から「戦闘態勢の税理士」へと切り替えた。
「では早速、私の初仕事です。……ゼニゲコギルドに行きましょうか」
「え? な、何故?」
契約成立の祝杯をあげるのではなく、なぜ戻るのか。
セブリックは眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、氷のような笑顔で告げた。
「このような『不法取引(ボッタクリ)』を見逃せる程、私は紳士では無いのでね」
その手には、いつの間にか数枚の「名刺」が握られており、青白い闘気を帯びて鋭い音を立てていた。
「さぁ、行きますよ。払いすぎた経費(カネ)を……『還付』させに」
最強の監査役・セブリックがパーティに加わった瞬間、ユミルスの勢力図が大きく揺らぎ始めた。
ターゲットは、ゼニゲコ・タワーの主、オロチである。
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