異世界で【自動販売機】のスキルを貰ったので、外科医の知識と銃火器で無双しようとしたら、仲間が破壊神ばかりで借金生活が確定した件

月神世一

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EP 3

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『初めての祝杯、迫りくる破綻』
 森を抜け、平原を歩くこと数時間。
 優太たちの目の前に、石造りの堅牢な城壁が現れた。
 国境の要衝、城塞都市『オルト』。
 門番による検問は、元近衛騎士候補であるキャルルの顔パス(正確には、彼女が懐から出した身分証代わりのペンダント)と、イグニスの威圧感によってフリーパスで通過できた。
「わぁ……! ここが人間の街ですかぁ。人がいっぱいですぅ」
 ルナがキョロキョロと辺りを見回し、屋台の果物に吸い寄せられそうになるのを、優太が首根っこを掴んで引き戻す。
「勝手に動くな。迷子になるぞ」
「むぅ。優太さんは過保護ですねぇ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
 優太は溜息をつきつつ、街の活気に少しだけ安堵していた。
 石畳の道、煉瓦造りの建物、行き交う馬車。中世ヨーロッパ風の景色だが、すれ違う人々の中には犬や猫の耳を持つ獣人や、小柄なドワーフも混じっている。
 まごうことなき異世界だ。
「優太さん! 優太さん!」
 先頭を歩いていたキャルルが、くるりと振り返って満面の笑みを向けた。
 ウサギ耳が嬉しそうにピンと立っている。
「無事に街に着きましたね! 助けていただいた上に、ここまで送ってくださって……今日は私、奮発しちゃいます!」
「奮発?」
「はい! パーティ結成のお祝いです! この街で一番美味しい酒場に行きましょう! 私が奢りますから!」
 「奢ります」。
 その言葉は、所持金が日本円(紙くず)しかない優太にとって、天使の福音(ゴスペル)のように響いた。
「……いいのか? 俺たち、結構食べるぞ。特にそこのデカブツが」
「ガハハ! 任せろ! 俺様の胃袋は宇宙だ!」
「ふふっ、大丈夫ですよ。私、これでも元・近衛騎士候補ですから。お給金はよかったんです」
 キャルルがドンと胸を張る。
 その自信満々な態度に、優太の警戒心は解けた。
 そうか、彼女はエリートだったのだ。逃亡中とはいえ、多少の蓄えはあるのだろう。
「分かった。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「はい! 行きましょう!」
 優太は久しぶりに、心の底から安堵した。
 なんだ、異世界も捨てたもんじゃない。可愛いウサギ耳の美少女に飯を奢ってもらえるなんて、ラノベの主人公みたいじゃないか。
 ――その油断が、命取りだった。
 ***
 大衆酒場『踊るグリフォン亭』。
 冒険者や商人で賑わう店内は、肉の焼ける香ばしい匂いと、エールのアルコール臭で満ちていた。
 その一角にあるテーブル席で、食欲の嵐が吹き荒れていた。
「肉だ! 骨付き肉を持ってこい! あと樽のエールもだ!」
「はーい! こっちには果物の盛り合わせと、甘いパンケーキをお願いしますぅ!」
 イグニスとルナが、狂ったように注文を重ねていく。
 運ばれてきた料理は、右から左へとブラックホールのように彼らの胃袋へ消えていった。
「うめぇぇぇッ! 人間の飯、最高だァ!」
「んふふぅ、甘いですぅ、幸せですぅ……」
 イグニスは鳥の丸焼きを骨ごとバリバリと噛み砕き、ルナは口元を生クリームだらけにして微笑んでいる。
 優太もまた、ジョッキのエールを喉に流し込んでいた。
「くぅ……! 染みるな」
 冷えてはいなかったが、労働の後の一杯は格別だった。
 キャルルも上品にサラダをつつきながら、ニコニコと仲間たちの食べっぷりを見守っている。
「ふふ、皆さん健啖家ですね。見ていて気持ちがいいです」
「悪いなキャルル。こんなに食っちまって」
「いいえ、気にしないでください。命の恩人ですから」
 優太は思った。
 このパーティ、意外と悪くないかもしれない。
 イグニスは戦力になるし、ルナも(迷子にならなければ)魔法が使えるらしい。そして何より、キャルルという常識的で経済力のあるスポンサーがいる。
 これなら、日本に帰る方法を探す旅も、なんとかなるかもしれない。
 一時間後。
 テーブルの上には、山のような空き皿と、空の樽が転がっていた。
「げふぅ……食った食った」
「もう食べられませんぅ……」
 イグニスとルナが満足げに腹をさすっている。
 優太も満腹だ。さて、そろそろ宿の手配もしなければ。
「ごちそうさまでした。じゃあキャルル、会計を頼めるか?」
「はい、お任せください!」
 キャルルは爽やかに微笑み、自分の腰元に手を伸ばした。
 そこには、小銭入れを吊るすための紐があるはずだった。
 スカッ。
 キャルルの手が空を切る。
 彼女の笑顔が、ピタリと固まった。
「……あれ?」
 彼女は自分の服のあちこちをペタペタと触り始めた。
 胸元、袖の中、帯の隙間。
 しかし、どこを探しても、金属の音がしない。
「…………あ」
 キャルルの顔から、サァァァッと血の気が引いていく。
 その変化に気づいた優太の背中に、冷たい汗が伝った。
「おい、キャルル? どうした?」
「あ、あの……私……」
 キャルルは、震える声で言った。
「逃げる時に着替える余裕がなくて……パジャマ代わりの服で飛び出してきたので……」
「……ので?」
「お財布、城の自室に置いてきちゃいました……」
 シン、と。
 優太の周囲だけ、酒場の喧騒が消えた気がした。
「……え、一文無し?」
「テヘッ☆」
 キャルルが可愛らしく舌を出して誤魔化そうとした。
「『テヘッ』じゃないだろおおおおおお!!」
 優太は絶叫した。
 イグニスは爪楊枝で歯をシーシーしており、ルナはテーブルで居眠りを始めている。誰も頼りにならない。
「お会計、金貨三枚になりやす!」
 店員が、笑顔で伝票を置いていった。
 金貨三枚。日本円にして三万円。
 優太の財布には、福沢諭吉が三枚入っている。だが、ここではただの紙切れだ。
(終わった。食い逃げだ。異世界に来て初日に犯罪者か? それともイグニスを質に入れるか?)
 優太が冷や汗ダラダラで、どう言い訳をするか必死に脳を回転させていた、その時。
「あ、あれぇ~? おかしいわねぇ?」
 隣のテーブルから、切羽詰まった女性の声が聞こえてきた。
 見れば、豪奢なローブを纏った美女が、店員の前で青ざめて土下座の姿勢に入ろうとしていた。
「お、お財布がないの! 忘れてきちゃったみたいで……!」
 ――デジャヴ。
 優太は、自分たちと全く同じ状況に陥っている隣人を、死んだ魚のような目で見つめた。
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