異世界で【自動販売機】のスキルを貰ったので、外科医の知識と銃火器で無双しようとしたら、仲間が破壊神ばかりで借金生活が確定した件

月神世一

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EP 11

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『再起への一手は、スパイスの香り』
​ 翌朝。
 宿屋の窓から差し込む朝日が、優太の顔を照らした。
 彼は重い体を起こし、サイドテーブルに置かれた革袋(財布)を手に取った。
 軽い。あまりにも軽い。
​「……金貨一枚と、銀貨四十枚」
​ それが、昨日の命がけの戦闘と、その後の宴会を経て残った全財産だ。
 日本円にして約一四万円。
 一人なら十分な額だ。だが、このパーティには底なしの胃袋を持つ竜人と、賠償金を量産するエルフがいる。このままでは三日で破産だ。
​「優太ァ……腹減ったぞォ……」
「優太さん、朝ごはんはパンケーキがいいですぅ」
​ 案の定、隣のベッドからゾンビのような呻き声が聞こえてくる。
 優太はこめかみを指で押さえた。
​(冒険者稼業はダメだ。リスクが高すぎる。弾代も馬鹿にならないし、何よりこいつらが暴れるたびに赤字になる)
​ ならば、どうするか。
 優太の視線が、部屋の隅に鎮座する赤い箱――【自動販売機】に向けられた。
​(戦って稼ぐんじゃない。この「現代の物資」を使って、もっと効率的に、安全に稼ぐ方法があるはずだ)
​ 優太は自販機のタッチパネルを操作し、商品ラインナップをスクロールしていく。
 ジュース、お菓子、パン……。
 その時、彼の指が止まった。
​ 『食品・調味料カテゴリ』。
 そこに表示された、赤い缶。
​ 【S&B 赤缶カレー粉(84g)】―― 500円。
 【味付塩こしょう】―― 200円。
​「……これだ」
​ 優太の口元が、商人の形に歪んだ。
 歴史の授業で習ったことがある。中世ヨーロッパにおいて、胡椒などのスパイスは「金」と同等の価値を持っていたと。
 この世界でも、食事といえば「塩茹で」か「ただ焼いただけ」が基本だ。香辛料は貴族の嗜好品で、庶民には手が届かない。
​ そこに、数十種類のスパイスが調合された「魔法の粉」を投入したらどうなるか?
​「勝てる……!」
​ 優太はガバッとベッドから飛び起きた。
​「おい、お前ら起きろ! 商売だ! 今日から俺たちは冒険者じゃない、露天商だ!」
​ ***
​ 一時間後。
 優太たちは市場の一角にレンタル屋台を構えていた。
 場所代と食材(大量の安い豚肉と串)で、残りの銀貨のほとんどが消えた。
 まさに背水の陣だ。
​「優太さん、本当にお料理売るんですかぁ? 私、毒見係なら自信ありますよぉ?」
「毒見はいらん。ルナは客引きだ。その顔面偏差値をフル活用して立ってろ。イグニスは火力担当。キャルルは接客と会計だ」
​ 優太は指示を飛ばしながら、調理を開始した。
 メニューは一つ。【特製スパイス串焼き】。
​ まず、自販機で購入した『味付塩こしょう』を、豚肉にたっぷりと振る。
 これだけでも、旨味成分(アミノ酸等)が含まれているため、現地の塩とは別次元の味になる。
 そして、仕上げに――。
​ パカッ。
​ 優太は赤い缶の蓋を開けた。
 瞬間、フワッ……と刺激的な香りが立ち上った。
 クミン、コリアンダー、ターメリック……複雑に絡み合った黄金比の香り。
​「な、なんだこの匂いは……!?」
​ 鼻の良いイグニスとキャルルが、ビクッ! と反応する。
​「鼻が……鼻が喜んでるぞ! なんだ、この食欲を直接殴ってくるような匂いは!」
「くしゃみが出そうですけど……すごくいい匂いです!」
​ 優太はニヤリと笑い、その粉末を肉にまぶし、炭火の網に乗せた。
 ジューッ!!
 脂が落ち、スパイスが焼ける香ばしい煙が、市場の通りへと流れていく。
​ それは、暴力的なまでの「飯テロ」だった。
​ ***
​「な、なんだ? すげぇいい匂いがするぞ?」
「腹が減る匂いだ……どっからだ?」
​ 道行く人々が次々と足を止める。
 市場の空気そのものを支配するような、強烈なカレーの香り。
 その発生源である優太の屋台の前には、あっという間に人だかりができていた。
​「へいらっしゃい! 東方の秘伝スパイスを使った串焼きだ! 一本、銅貨五枚(500円)!」
​ 少し強気な値段設定だが、優太には勝算があった。
​「一本くれ!」
「俺もだ!」
​ 最初の客――恰幅の良いドワーフの商人が、焼き立ての串にかぶりついた。
​「ハフッ、ハフッ……んぐっ」
​ ドワーフの動きが止まる。
 次の瞬間、彼の目が見開かれた。
​「――美味ァァァァァァァいッ!!」
​ ドワーフの絶叫が市場に響いた。
​「なんだこれ!? ただの塩味じゃねぇ! 口の中で何十種類もの香りが爆発しやがる! ピリッとする刺激が脂の甘みを引き立てて……酒だ! 誰かエールを持ってこい!!」
​ そのリアクションが、最高の宣伝になった。
​「そんなに美味いのか?」
「俺にもくれ!」
「私にも!」
​ 怒涛の注文ラッシュが始まった。
​「はいはい、並んでくださいね~! 美少女エルフの握手付きじゃないですけど、美味しいですよぉ~!」
「おいイグニス! 火が弱い! もっと焼け!」
「ガハハ! 任せろ! だが一本食わせろ!」
「つまみ食いしたら給料天引きだぞ!」
「お会計こちらです! あ、銅貨五枚ちょうどですね、ありがとうございます!」
​ 戦場のような忙しさだった。
 優太はひたすら塩コショウとカレー粉を振り、肉を焼く。
 500円の『赤缶』一つで、数百本の串が作れる。原価率は驚異的だ。これぞ現代知識チート、これぞ「スパイス貿易」の縮図。
​ 昼過ぎには、用意した肉がすべて完売した。
​「……う、売れた」
​ 優太は空になったトレイを見て、心地よい疲労感に包まれていた。
 手元の木箱には、山のような銅貨と、ちらほら混じる銀貨。
 ざっと計算して、金貨三枚分(30万円)の利益だ。たった半日で、昨日の命がけのゴブリン討伐と同じ額を稼ぎ出したのだ。
​「優太さん、凄いです! 大繁盛でしたね!」
「あぁ……これならいける。これなら、この世界でもやっていける!」
​ 優太が確かな手応えを感じていた、その時だった。
​「……素晴らしい香りですね」
​ ふと、人混みの向こうから、穏やかだが冷徹な声が聞こえた。
 優太が顔を上げると、そこに一人の男が立っていた。
 仕立ての良いスーツ。細い目。
 昨夜、宿の裏で優太たちの空き缶を拾っていた男だ。
​「はじめまして。私、『ゴルド商会』オルト支店長の、ベイルと申します」
​ 男――ベイルは、名刺代わりに一枚の銀貨を指先で弾いた。
​「その『黄金の粉』……我々と取引しませんか? もちろん、レシピごと」
​ 優太の背筋に、冷たいものが走った。
 それは、ジェネラル・ゴブリンと対峙した時とは違う、狡猾で粘着質な「敵」の気配だった。
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