虚像のヘルパー

メカ

文字の大きさ
4 / 17

初めての抵抗

しおりを挟む
父の急逝後
三日間の忌引開け
俺や、俺の家族を心配する声は多数あった。
だが、たった三日が命取り。
患者の顔ぶれは所々変わり、また一から情報を集めなければならない。
そうこうしている内に、再びもたつく。
呼び出しを食らっては文句の応酬。
変わらない日常が戻って来た。

「おう、和ちゃん。親父さんの事は残念だったなぁ・・・。」

「佐野さん。ありがとう。」

「まぁなんだ。男親ってのは背中で語る生き物だからよぉ。和ちゃんがどう見えてたかってのが
重要だわなぁ。」

この病棟に長い事入院している「佐野 大輔」さん。
彼は還暦を過ぎても尚、小さな会社ではあるが社長として働いていたという。
社長という役柄のせいか、人を値踏みする節があり
病棟では一番の厄介者として有名だった。
俺も最初は
「19歳だぁ!?そんな若造に世話なんか頼んだ覚えはねぇんだよ!さっさと出ていけ!」
という風に、邪険にされていたものだ。
だが、半年をかけて信頼を築き、今ではあだ名で呼んでくるほどの仲だ。

「親父さんも、息子が社会人になった事は嬉しかったと思うぞ。俺が言うんだ、間違いねぇよ。」

「だと良いんですがねぇ~。」

「そうだ、腰に湿布貼ってくれよ、昨日から痛めちゃってさぁ。」

「分かりました。その事は看護師さんには?」

「あぁ~、まだ言えてないのよ。」

「俺から伝えておきますよ。」

「そう?悪いねぇ。」

終始和やかに物事は進んでいるはずだった。

「飯島君、ちょっと。」

まただ。また病室の外からあの声がする。
俺は、外の上司に気付かれない様、舌打ちを無意識でしてしまった。
だが、直後しまったと思った。目の前には佐野さんが居たからである。

「和ちゃん、どうしたんだ?」

「何でもないです。すみません。」

佐野さんは、気を使って小声で話をしてきたが
俺は、何もないと答えるしか出来なかった。

「もうさ、何回目?この注意?いい加減にしてくれないかなぁ。」

「でも、佐野さんにだってやってほしい事くらいありますよ。自力じゃ難しい事の一つ二つ。僕らが手伝うのは
当たり前じゃないですか。」

俺は初めて抵抗した。
だが、それが火に油を注いだ。

「サボりを棚に上げて、仕事してたって?じゃあ何してたか言ってごらんよ。」

「昨日から腰を痛めていたそうで、湿布を張ってました。」

「それだけ?」

「・・・。」

「たったそれだけで何分掛かってるの?ねぇ?」

「・・・。」

「遊びじゃないんだからさぁ。真面目にやってよ!」

こうなったらもうダメだ。上司のおばさんは抵抗された事に腹を立てヒステリー気味に怒鳴り散らしてくる。

「ちょっと、何してるの?」

怒鳴り声を聞き、駆けつけてきた看護師の牧田。
彼女は、竹を割ったような性格で、はきはき物を言う。
彼女まで加わったら、もう立ち直れないだろう。そう覚悟した。

「聞いてくださいよ、牧田さん。この子いつも病室でサボってるんですよ。
それを注意してたら逆ギレしてきたんですよ。」

「へぇ・・・。」

「息子もそうだけど、最近の子って何考えてるか分かりませんね。」

「いや、でも私が分からないのは、貴女の方。」

「え・・・?」

牧田に指摘された上司はきょとんとしていた。
俺も、一瞬の出来事に絶句だ。

「知ってます?彼が親身に患者の愚痴とかも嫌がらずに聞いてるの。
彼、患者の中では人気なんですよ。そのせいで仕事が遅くなってしまうのは確かに
問題もありますけど、ただ機械的に仕事だけやってればいいなら、人間である必要はないですよ。
機械にやらせればいいんだから。」

「で、でも!」

「彼のお陰で、佐野さんも最近、素直に治療させてくれますし、ナースとしては助かってます。」

その一言で俺は察した、きっと佐野さんがナースコールで彼女を呼んだのだと。
そして、様子がおかしいから見てくれと頼んでくれたのであろう。

「・・・。」

「そんな事より、病棟まで聞こえてくるような大声で、怒鳴り散らしてる貴女の方がよっぽど深刻ですよ。
患者さんに聞こえたら変な誤解を招きます。辞めてください。」

「・・・申し訳ございません。」

初めて一矢報いることが出来た。
俺のやり方を認めてくれる人も、中には居た。
俺はそれが何より嬉しかった。

だが、これで引き下がる程、上司も愚かではない事を
俺は後から知る事となるのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...