虚像のヘルパー

メカ

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初めての抵抗

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父の急逝後
三日間の忌引開け
俺や、俺の家族を心配する声は多数あった。
だが、たった三日が命取り。
患者の顔ぶれは所々変わり、また一から情報を集めなければならない。
そうこうしている内に、再びもたつく。
呼び出しを食らっては文句の応酬。
変わらない日常が戻って来た。

「おう、和ちゃん。親父さんの事は残念だったなぁ・・・。」

「佐野さん。ありがとう。」

「まぁなんだ。男親ってのは背中で語る生き物だからよぉ。和ちゃんがどう見えてたかってのが
重要だわなぁ。」

この病棟に長い事入院している「佐野 大輔」さん。
彼は還暦を過ぎても尚、小さな会社ではあるが社長として働いていたという。
社長という役柄のせいか、人を値踏みする節があり
病棟では一番の厄介者として有名だった。
俺も最初は
「19歳だぁ!?そんな若造に世話なんか頼んだ覚えはねぇんだよ!さっさと出ていけ!」
という風に、邪険にされていたものだ。
だが、半年をかけて信頼を築き、今ではあだ名で呼んでくるほどの仲だ。

「親父さんも、息子が社会人になった事は嬉しかったと思うぞ。俺が言うんだ、間違いねぇよ。」

「だと良いんですがねぇ~。」

「そうだ、腰に湿布貼ってくれよ、昨日から痛めちゃってさぁ。」

「分かりました。その事は看護師さんには?」

「あぁ~、まだ言えてないのよ。」

「俺から伝えておきますよ。」

「そう?悪いねぇ。」

終始和やかに物事は進んでいるはずだった。

「飯島君、ちょっと。」

まただ。また病室の外からあの声がする。
俺は、外の上司に気付かれない様、舌打ちを無意識でしてしまった。
だが、直後しまったと思った。目の前には佐野さんが居たからである。

「和ちゃん、どうしたんだ?」

「何でもないです。すみません。」

佐野さんは、気を使って小声で話をしてきたが
俺は、何もないと答えるしか出来なかった。

「もうさ、何回目?この注意?いい加減にしてくれないかなぁ。」

「でも、佐野さんにだってやってほしい事くらいありますよ。自力じゃ難しい事の一つ二つ。僕らが手伝うのは
当たり前じゃないですか。」

俺は初めて抵抗した。
だが、それが火に油を注いだ。

「サボりを棚に上げて、仕事してたって?じゃあ何してたか言ってごらんよ。」

「昨日から腰を痛めていたそうで、湿布を張ってました。」

「それだけ?」

「・・・。」

「たったそれだけで何分掛かってるの?ねぇ?」

「・・・。」

「遊びじゃないんだからさぁ。真面目にやってよ!」

こうなったらもうダメだ。上司のおばさんは抵抗された事に腹を立てヒステリー気味に怒鳴り散らしてくる。

「ちょっと、何してるの?」

怒鳴り声を聞き、駆けつけてきた看護師の牧田。
彼女は、竹を割ったような性格で、はきはき物を言う。
彼女まで加わったら、もう立ち直れないだろう。そう覚悟した。

「聞いてくださいよ、牧田さん。この子いつも病室でサボってるんですよ。
それを注意してたら逆ギレしてきたんですよ。」

「へぇ・・・。」

「息子もそうだけど、最近の子って何考えてるか分かりませんね。」

「いや、でも私が分からないのは、貴女の方。」

「え・・・?」

牧田に指摘された上司はきょとんとしていた。
俺も、一瞬の出来事に絶句だ。

「知ってます?彼が親身に患者の愚痴とかも嫌がらずに聞いてるの。
彼、患者の中では人気なんですよ。そのせいで仕事が遅くなってしまうのは確かに
問題もありますけど、ただ機械的に仕事だけやってればいいなら、人間である必要はないですよ。
機械にやらせればいいんだから。」

「で、でも!」

「彼のお陰で、佐野さんも最近、素直に治療させてくれますし、ナースとしては助かってます。」

その一言で俺は察した、きっと佐野さんがナースコールで彼女を呼んだのだと。
そして、様子がおかしいから見てくれと頼んでくれたのであろう。

「・・・。」

「そんな事より、病棟まで聞こえてくるような大声で、怒鳴り散らしてる貴女の方がよっぽど深刻ですよ。
患者さんに聞こえたら変な誤解を招きます。辞めてください。」

「・・・申し訳ございません。」

初めて一矢報いることが出来た。
俺のやり方を認めてくれる人も、中には居た。
俺はそれが何より嬉しかった。

だが、これで引き下がる程、上司も愚かではない事を
俺は後から知る事となるのである。
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