虚像のヘルパー

メカ

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二度ある事は、三度ある。

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病院を辞めた俺は、凡そ半年間の休息と共に
自宅近くの介護施設へと入職した。
しかし・・・既に狂った歯車は小さいながらもその影響を見せ始めていた。

というのも、当時の俺は精神的に我慢を強いられた結果
拒食の症状が出始め、酷い日にはコップ一杯の水で三日間を過ごす。という事もあった。
それでも、母親からは「甘えだ」と叱咤され、自身でもこの程度で体調を崩すほど
弱くはないはずだと言い聞かせながらも職場に向かっていた。

次に働く介護施設は、自宅から自転車でおよそ5分もかからない場所に位置している。
が、介護施設の近くには養鶏場があり更に周囲は田んぼである事から
施設に近付くに連れ、その臭気は強い物となる。
それに留まらず、施設の換気口からは、食事の匂いや汚物の匂いが混じり
養鶏場と合わせて、なんとも表現のし難いものであった。

だが、自転車で颯爽と抜けていく分、気にしないよう努めていたが
施設では、昼食を取る気にはなれなかった。

施設内部は、落ち着いた雰囲気であり外よりも格段と過ごしやすい。
術後のリハビリもかねて、週四日の六時間勤務をベースに働き始めた。
そして、余裕のある曜日に俺はヘルパーの資格を取る為、通信教育を受けていた。

「介護初任者研修者」
それが、最初に着手した資格だ。
介護の基本であり、基礎を学ぶ。
技術面だけでなく、担い手の心情や介護を受ける側の心情も学ぶ事が出来る。

この資格は、授業さえまともに出ていれば、誰にだって取れてしまう楽な資格だ。
だが、ここを通らずして上の資格を取る者とは、圧倒的な差を生む。
その事に改めて気付くのは、もっと先である。

半年後、無事に資格を得たと同時に
俺は、以前とは反対側の肺に穴が空き、再度入院・手術となった。

一年を開けず、二度も肺の手術をした為に
肺活量や体力は圧倒的に落ち込み、直ぐに職場復帰ともいかず
再び、仕事を辞めざるを得なかった。

ここで、とうとう堪えていた何かが決壊してしまった。
それ以降、俺の拒食は日増しに酷くなり、物を食べては嘔吐する。という悪循環を生んだ。
しかも最悪なのは
物を食べる→仕事の為出勤。と紐付いてしまい
外出する際にも嘔吐を繰り返す様になってしまったのである。
こうして、俺の引きこもり生活が始まったのである。

当時60㎏後半あった体重は、その後の約一年で10㎏以上痩せてしまった。

思えば、父の死から俺はまともに悲しんでいなかった。
遺影の前で泣く母を見て、俺まで引っ張られる訳にはいかないと
気を張っていた。

あの時から、俺は色々なものを置き去りにしてきたのかもしれない。
本来、その都度降りかかって来る虚しさや悲しみ、怒りや苦しみ。
その全てを、今は受けるべきではない。と突っぱねて・・・。

嘆く事も許されず、当たり散らす事も抑制してきた。
むしろ、母の嘆き、行き場のない苛立ち。その全ての捌け口として
一心に仁王立ちし続けた結果が、コレなのだ。
まるで・・・弁慶の最期だ。

もう疲れた・・・。
休みたい。何もしたくない。
生きて居たくもない・・・。

俺は、病室のベットの上で、廃人になり果てていた・・・。
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