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城下

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「相変わらず、大きな城下町・・・。何度来ても目新しい物ばかりねぇ~。」

「姫様ぁ!」

「・・・げ、あれはお爺ちゃん(マルタン)の衛兵たち・・・。」

「ん?居たぞ。姫様ぁ!城にお戻り下さい!」

「い、嫌よ!城下町を自由に見て回る事も出来ないの!?」

「し、しかし!お戻りになられなければ我々がお叱りを受けてしまいますぅ!」

「勝手に叱られてなさ~い!!」

「姫様ぁぁ!」

「お爺ちゃんってば、自分たちの国なのにそんなに国民が信用出来ないの?困ったものね。」

路地に逃げ込んだ少女は、追って来た騎士たちが走り去っていくのを確認しつつ愚痴をこぼす。
この追いかけっこも彼女にとっては実の所、面白い遊びの一つになっていた。
城下の市民たちとは既に顔なじみになり、追いかけっこの最中
匿ってもらったり、近道を教えて貰ったりしながら、衛兵をひらりひらりと躱していった。

「お、ジュナ様。また逃げ出したんですかい?」

「しー、今ちょうど兵を撒いた所なの。」

「こりゃ、失礼。では家でお茶でもいかがですかな?」

「良いの?」

「勿論。姫様が来て下されば家のかみさんも大喜びですよ。」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて・・・。」

「よしきた。姫様、はぐれない様付いて来て下さいね。」

彼は八百屋のルオさん。
商人組合の会長を務める方で、恰幅の良い穏やかな人だ。

「おーい、アンナ。帰ったぞー。」

「おかえり、アンタ。・・・て、お姫様も一緒じゃないか!どうして言ってくれないのよ。」

「さっきそこで会ってなぁ。」

「そこで会ってなぁ。じゃありませんよ!どーしましょ。何のお構いも出来ずに・・・。」

「アンナさん。落ち着いて。ルオさんのお茶をいただきに来ただけなの。」

「そ、そうでしたの。アンタ。何ぼさっとしてるの。早く姫様をご案内して!」

「わ、分かってるよぉ。」

「姫様、ワタクシ急いでお茶菓子を用意しますので冴えない旦那ですがよろしくお願いしますわ。」

「もう、アンナさんったら。台風みたいに飛び出して行っちゃった。」

「すみませんねぇ。うちのはせっかちな嫁で・・・。」

「いえ、かえって懐かしさも感じますから嬉しい限りです。」

「あぁ、姫様にそう仰ってもらったら、うちのは卒倒しますよ。ははは。」

ルオさんのお宅で穏やかな午後を過ごした後、私は町の外に出た。
町中は衛兵が動き回り、ゆっくりする時間が取れない。
町を出て少し歩いた先に小高い丘とその丘を結ぶ林道がある。
その林道で涼し気なかぜを浴びながら丘でゆっくりするのが、最近の楽しみの一つだ。
今日は、木を背もたれに、読書をしようと朝から決めていた。
目を輝かせながら、私は林道を通り丘を目指すのであった。
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