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Prologue
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魔王が打ち破られてから五十年の月日が経った。世界は平和になり人々の生活に活気が戻っていくのも時間の問題であった。
魔王討伐の功労者、大聖女――ミュゲ・ジプソフィルの齢は八十歳であった。その姿はかつての神々しい面影はなく、病める老婆の姿であった。
大聖女の力は絶大である。
あらゆる致命傷、大病をも癒す力がある。しかし運命に逆らえるわけではない。老ないわけではない。絶対に病まないと言うわけでもない。即ちミュゲは、自らの死が近いことを悟っていたのである。
病床。
病室には、ミュゲと一緒に魔王討伐の旅に同行したエルフの魔法使い――サンセリテが見舞いに来ていた。
「ミュゲ……大丈夫かい?」
「……大丈夫のように見えるかい? サンセリテよ」
「大聖女と謳われた君も、死んでしまうのか?」
「そりゃあ、私も神様でもないのだからいずれは死ぬさ。別に、長命のエルフであるあなたも変わらないさ」
「…………」
言葉をつぐんだサンセリテは、エルフである。見た目は人で言う二十代くらいの容姿をしていたが、実際の年齢は五百歳を超えていた。
ミュゲは、続けてこう言った。
「今まで私は、多くの人を見送って来た。一緒に冒険皆んなももう先に逝ってしまった。送る人があれば、いずれ送られる番になるのさ」
ミュゲは、大聖女としての役目を一生を通じて全うした。そもそもミュゲは、若くして聖女の力を開眼した。若干九歳の事である。
開眼した条件は、ミュゲの父親の大怪我であった。その時、一緒に父親と山で採取に行った。
ミュゲの父親は、猪に襲われそうになった彼女を庇って大怪我を負ってしまった。
その時にミュゲは、聖女の力を開眼した。
聖女の力を使って、父親を治したのである。
それからミュゲは、親元を離れて教会入り。修行の日々で二十歳になる頃には教皇から大聖女の称号を与えられたのである。
そして、今まで大聖女として務めを果たして来た。
ミュゲは、弱々しい声でサンセリテに頼む。
「サンセリテよ、一つお願いしたいことがあるのだが、いいかい?」
「なんだい。何でも言ってごらん?」
「私が死んだら、私の骨は両親と一緒のところに納めてくれ」
「分かった」
「あと、それから……」
ミュゲは、一度口を止めたが、意を決したようにこう言う。
「私が死んだら、私の手帳は全て捨ててくれ」
「手帳……あー」
サンセリテには、ミュゲが手帳を捨てたがる理由に心当たりがあった。
「本当に手帳、全て捨てていいのか?」
「ああ、捨ててくれ」
「せっかく書いたのにか?」
「だからこそだ」
そうなのである。
ミュゲは、若い頃によく手帳に書き物をしていた。サンセリテはその内容をよく知っていた。
ミュゲは、手帳にロマンス小説を執筆していたのである。
そう。
ミュゲは、ロマンス小説が好きであった。好きが高じて、小説を書くようになった。それもミュゲの境遇を考えれば仕方がない。
ミュゲは聖女になってから、恋愛は禁じられていたのである。また、普通の人が許されるような生活は極めて制限されていた。
教会入りして、神に仕える者になったものには、一生を自分以外の者の為に尽くさねばならない。
それが、自らが望んだ聖女の力でなくとも――
聖女となってからは、両親との面会すら一ヶ月に一度だけしか許されなかった。
そんな彼女に許される娯楽は、ロマンス小説しかなかったのである。
サンセリテは、頷く。
「分かった、言われた通り全て処分しておくよ」
サンセリテがそう言うと、ミュゲは安堵した。
「もし次の人生が許されるならば、もう少しゆっくりとした人生を歩みたいものだ。私は少し疲れてしまった」
「そうだね、今までお疲れだったね――ミュゲ」
しばらくして、疲れたのかミュゲは眠りについた。
それから一週間後、大聖女――ミュゲ・ジプソフィルは息を引き取った。
ミュゲの死は、故郷の王国――ナルシス王国のみならず諸外国にもすぐ知れ渡ることとなった。
大聖女の死は、人類にとっての悲劇だったのである。
魔王討伐の功労者、大聖女――ミュゲ・ジプソフィルの齢は八十歳であった。その姿はかつての神々しい面影はなく、病める老婆の姿であった。
大聖女の力は絶大である。
あらゆる致命傷、大病をも癒す力がある。しかし運命に逆らえるわけではない。老ないわけではない。絶対に病まないと言うわけでもない。即ちミュゲは、自らの死が近いことを悟っていたのである。
病床。
病室には、ミュゲと一緒に魔王討伐の旅に同行したエルフの魔法使い――サンセリテが見舞いに来ていた。
「ミュゲ……大丈夫かい?」
「……大丈夫のように見えるかい? サンセリテよ」
「大聖女と謳われた君も、死んでしまうのか?」
「そりゃあ、私も神様でもないのだからいずれは死ぬさ。別に、長命のエルフであるあなたも変わらないさ」
「…………」
言葉をつぐんだサンセリテは、エルフである。見た目は人で言う二十代くらいの容姿をしていたが、実際の年齢は五百歳を超えていた。
ミュゲは、続けてこう言った。
「今まで私は、多くの人を見送って来た。一緒に冒険皆んなももう先に逝ってしまった。送る人があれば、いずれ送られる番になるのさ」
ミュゲは、大聖女としての役目を一生を通じて全うした。そもそもミュゲは、若くして聖女の力を開眼した。若干九歳の事である。
開眼した条件は、ミュゲの父親の大怪我であった。その時、一緒に父親と山で採取に行った。
ミュゲの父親は、猪に襲われそうになった彼女を庇って大怪我を負ってしまった。
その時にミュゲは、聖女の力を開眼した。
聖女の力を使って、父親を治したのである。
それからミュゲは、親元を離れて教会入り。修行の日々で二十歳になる頃には教皇から大聖女の称号を与えられたのである。
そして、今まで大聖女として務めを果たして来た。
ミュゲは、弱々しい声でサンセリテに頼む。
「サンセリテよ、一つお願いしたいことがあるのだが、いいかい?」
「なんだい。何でも言ってごらん?」
「私が死んだら、私の骨は両親と一緒のところに納めてくれ」
「分かった」
「あと、それから……」
ミュゲは、一度口を止めたが、意を決したようにこう言う。
「私が死んだら、私の手帳は全て捨ててくれ」
「手帳……あー」
サンセリテには、ミュゲが手帳を捨てたがる理由に心当たりがあった。
「本当に手帳、全て捨てていいのか?」
「ああ、捨ててくれ」
「せっかく書いたのにか?」
「だからこそだ」
そうなのである。
ミュゲは、若い頃によく手帳に書き物をしていた。サンセリテはその内容をよく知っていた。
ミュゲは、手帳にロマンス小説を執筆していたのである。
そう。
ミュゲは、ロマンス小説が好きであった。好きが高じて、小説を書くようになった。それもミュゲの境遇を考えれば仕方がない。
ミュゲは聖女になってから、恋愛は禁じられていたのである。また、普通の人が許されるような生活は極めて制限されていた。
教会入りして、神に仕える者になったものには、一生を自分以外の者の為に尽くさねばならない。
それが、自らが望んだ聖女の力でなくとも――
聖女となってからは、両親との面会すら一ヶ月に一度だけしか許されなかった。
そんな彼女に許される娯楽は、ロマンス小説しかなかったのである。
サンセリテは、頷く。
「分かった、言われた通り全て処分しておくよ」
サンセリテがそう言うと、ミュゲは安堵した。
「もし次の人生が許されるならば、もう少しゆっくりとした人生を歩みたいものだ。私は少し疲れてしまった」
「そうだね、今までお疲れだったね――ミュゲ」
しばらくして、疲れたのかミュゲは眠りについた。
それから一週間後、大聖女――ミュゲ・ジプソフィルは息を引き取った。
ミュゲの死は、故郷の王国――ナルシス王国のみならず諸外国にもすぐ知れ渡ることとなった。
大聖女の死は、人類にとっての悲劇だったのである。
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