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1話 追放
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シャルロット・メシャントは、貴族令嬢である。
そうなのである。
メシャント家は伯爵家であり、代々優秀な魔法使いを排出して来た名家である。
しかし、シャルロットには魔法の才能が全くなかった。
シャルロットの両親は、それを快く思わなかった。
なぜかと言うと、シャルロットに五人の兄弟がいる。彼らは皆魔法に関して類稀なる才能を有していたからである。
故に、両親はシャルロットに厳しい条件を突きつけた。
それは、シャルロットが成人の十五歳になるまで、魔法に関する成果を何か一つでも得られなければ、即効破門するとのことであった。
しかし、シャルロットには秘密があった。
それは、自分には約百年前に亡くなった大聖女――ミュゲ・ジプソフィルとしての記憶があったと言うことである。
それだけではない。
シャルロットは、生前同様に聖女の力を使えると言うことである。
とは言え、シャルロットはそのことを両親には伝えていない。頭がおかしいと思われるからである。
そんなことよりも、シャルロットの両親は魔法の才能を重視する。
しかし、聖女の力は魔法とは相反する力。聖女の力は魔法の如き魔の力を浄化するのである。即ち退魔の力である。
それなるが故に、シャルロットは魔法を一切使えない。
どれだけ努力しても初歩の初歩の魔法である、ものを温めたり、そよ風を生み出す魔法も出来ない。
それは、特性上仕方がないのである。
魔法を使うことの出来る才能を持って産まれてくる人の割合が百人に一人程度ならば、聖女の力を持って産まれてくる人の割合は百年に一人程度である。
況んや大聖女の力を持って産まれてくる人の割合は、千年に一人と言われている。
とにかく、シャルロットは十五歳までに何か魔法に関する成果を成し得なければ、家を追い出されてしまう。
そして、今日がそのシャルロットが十五歳の誕生日なのであった。
シャルロットの十五歳の誕生日、離宮から本邸に召喚されていた。なぜシャルロットが離宮で暮らしているいるかと言うと、それは既に十歳の時には両親は魔法の使えないシャルロットを見限っていたからである。
シャルロットは、使用人に連れられて本邸にやって来た。
シャルロットは、本邸に入り両親のいる部屋へと足を運んだ。
両親は、椅子に深く腰掛けていた。
父――オンブラージュ・メシャント。
母――フロワド・メシャント。
である。
オンブラージュは、シャルロットに問う。
「それで、お前は何故ここに呼ばれたか分かっているな」
「はい父上、分かっております」
「それで、少しでも魔法は使えるようになったのか?」
「一つの魔法も、使えるようになりませんでした」
オンブラージュは、叱責する。
「この無能め! 何故お前は最低級魔法の灯の魔法すら使えぬのだ! お前はメシャント家の恥だ! 恥晒しだ!」
「申し訳ございません」
「謝れと言っているのではない! このクズめ! ゴミめ! 兄弟は皆優秀だというのに……カスの分際で成人まで家においやったことを感謝して欲しいものだ。そうは思わんかね? フロワドよ」
「そうね、あなた。シャルロット。あんたなんか産まなければよかったわ」
とフロワド。
母にそう言われて、流石のシャルロットも心が抉られた。
オンブラージュは、続けてこう言う。
「無能の処遇は分かっているな? シャルロット」
「分かっております」
「お前はメシャント家の恥だ。即日メシャント家から出ていけ。もちろん、今後メシャント家の家名を名乗るのも許さぬ」
オンブラージュはそう言うと、こうなることを予想してらあらかじめ用意していたのだろう――何やら皮袋をこちらに投げつけて来た。
ズンと鈍い音がする。
オンブラージュは、続けてこう言った。
「手切れ金のナルシス金貨十枚だ。これで何処へでも好きなところへ行けば良い、さっさと失せろ」
と。
シャルロットは、部屋を後にする。
本邸を出ようとしたところで、シャルロットを呼び止める声があった。
それはシャルロットの弟、そしてメシャント家の末の弟――ルーク・メシャントであった。
ルークは、シャルロットを呼び止める。
「お姉様!」
「どうしたのルーク?」
「ご無沙汰しております。なぜ、なぜお姉様が家を出なければならないのですか?」
「話、聞いてたの? それは、ルークも分かっているでしょ?」
シャルロットは、そう言ってルークの頭を撫でた。
ルーク。
シャルロットにとって、目に入れても痛くない二つ下の弟である。
ルークだけは、シャルロットを慕っていた。
その他の兄弟は、皆シャルロットの事を邪険にしているのである。
ルークは、シャルロットに飛びついた。
「僕はお姉様が本当は凄い事を知ってます! 不思議な力を使える事……だから、お父様に直談判してきます!」
「ありがとう。でも、その気持ちだけで嬉しいわ。それよりも、ルークも気をつけないと、あなたも巻き込まれて追い出されてしまうかもしれないわ」
「でも……」
「ルーク、私は大丈夫だわ」
そうなのである。
ただでさえ今の両親は機嫌が悪い。そんな状態でルークがシャルロットを庇ったらば、どうなるか分からない。とばっちりを受ける可能性は大である。
オンブラージュとフロワドは、そう言う人なのである。
さらに両親の機嫌を損ねたら、もしかしたらルークは離宮送りにされるかもしれない。
そのくらい、シャルロットの事を憎んでいるのである。
それはそのはず、オンブラージュとフロワドは非魔法使いを人間扱いしていない。最早猿扱いと言った感じで、それが自分の娘とは認めたくないのである。
確かに、ルークはシャルロットの魔法ではない特別な力を知っている。シャルロットがまだ本邸にいた時、ルークは庭で怪我をしたことがある。シャルロットはそれを治したことがあるのである。
しかしオンブラージュとフロワドは、そんなことを言っても信じないだろう。
むしろオンブラージュとフロワドは、教会嫌いである。故にそれに属する聖女も嫌いである。それは、ナルシス王国が魔法使いよりも聖女を敬い、珍重するからである。
優秀な魔法使いよりも、数が極めて少ない優れた聖職者を尊敬の対象としている。
それも、聖女の如き退魔の力を有しているものは、魔法が使えない。
オンブラージュとフロワドは、自分が人間扱いしていない魔法の使えない者が尊敬の対象になると言うのは許せないのである。
シャルロットは、ルークを強く抱きしめた。
「ありがとう、じゃあ、行ってくるね。さようなら」
「僕は、僕はずっと、何があってもお姉様をお慕いしております」
ルークは、涙を流してそう言った。
シャルロットは、後ろを振り向く事なく本邸を後にした。
そうなのである。
メシャント家は伯爵家であり、代々優秀な魔法使いを排出して来た名家である。
しかし、シャルロットには魔法の才能が全くなかった。
シャルロットの両親は、それを快く思わなかった。
なぜかと言うと、シャルロットに五人の兄弟がいる。彼らは皆魔法に関して類稀なる才能を有していたからである。
故に、両親はシャルロットに厳しい条件を突きつけた。
それは、シャルロットが成人の十五歳になるまで、魔法に関する成果を何か一つでも得られなければ、即効破門するとのことであった。
しかし、シャルロットには秘密があった。
それは、自分には約百年前に亡くなった大聖女――ミュゲ・ジプソフィルとしての記憶があったと言うことである。
それだけではない。
シャルロットは、生前同様に聖女の力を使えると言うことである。
とは言え、シャルロットはそのことを両親には伝えていない。頭がおかしいと思われるからである。
そんなことよりも、シャルロットの両親は魔法の才能を重視する。
しかし、聖女の力は魔法とは相反する力。聖女の力は魔法の如き魔の力を浄化するのである。即ち退魔の力である。
それなるが故に、シャルロットは魔法を一切使えない。
どれだけ努力しても初歩の初歩の魔法である、ものを温めたり、そよ風を生み出す魔法も出来ない。
それは、特性上仕方がないのである。
魔法を使うことの出来る才能を持って産まれてくる人の割合が百人に一人程度ならば、聖女の力を持って産まれてくる人の割合は百年に一人程度である。
況んや大聖女の力を持って産まれてくる人の割合は、千年に一人と言われている。
とにかく、シャルロットは十五歳までに何か魔法に関する成果を成し得なければ、家を追い出されてしまう。
そして、今日がそのシャルロットが十五歳の誕生日なのであった。
シャルロットの十五歳の誕生日、離宮から本邸に召喚されていた。なぜシャルロットが離宮で暮らしているいるかと言うと、それは既に十歳の時には両親は魔法の使えないシャルロットを見限っていたからである。
シャルロットは、使用人に連れられて本邸にやって来た。
シャルロットは、本邸に入り両親のいる部屋へと足を運んだ。
両親は、椅子に深く腰掛けていた。
父――オンブラージュ・メシャント。
母――フロワド・メシャント。
である。
オンブラージュは、シャルロットに問う。
「それで、お前は何故ここに呼ばれたか分かっているな」
「はい父上、分かっております」
「それで、少しでも魔法は使えるようになったのか?」
「一つの魔法も、使えるようになりませんでした」
オンブラージュは、叱責する。
「この無能め! 何故お前は最低級魔法の灯の魔法すら使えぬのだ! お前はメシャント家の恥だ! 恥晒しだ!」
「申し訳ございません」
「謝れと言っているのではない! このクズめ! ゴミめ! 兄弟は皆優秀だというのに……カスの分際で成人まで家においやったことを感謝して欲しいものだ。そうは思わんかね? フロワドよ」
「そうね、あなた。シャルロット。あんたなんか産まなければよかったわ」
とフロワド。
母にそう言われて、流石のシャルロットも心が抉られた。
オンブラージュは、続けてこう言う。
「無能の処遇は分かっているな? シャルロット」
「分かっております」
「お前はメシャント家の恥だ。即日メシャント家から出ていけ。もちろん、今後メシャント家の家名を名乗るのも許さぬ」
オンブラージュはそう言うと、こうなることを予想してらあらかじめ用意していたのだろう――何やら皮袋をこちらに投げつけて来た。
ズンと鈍い音がする。
オンブラージュは、続けてこう言った。
「手切れ金のナルシス金貨十枚だ。これで何処へでも好きなところへ行けば良い、さっさと失せろ」
と。
シャルロットは、部屋を後にする。
本邸を出ようとしたところで、シャルロットを呼び止める声があった。
それはシャルロットの弟、そしてメシャント家の末の弟――ルーク・メシャントであった。
ルークは、シャルロットを呼び止める。
「お姉様!」
「どうしたのルーク?」
「ご無沙汰しております。なぜ、なぜお姉様が家を出なければならないのですか?」
「話、聞いてたの? それは、ルークも分かっているでしょ?」
シャルロットは、そう言ってルークの頭を撫でた。
ルーク。
シャルロットにとって、目に入れても痛くない二つ下の弟である。
ルークだけは、シャルロットを慕っていた。
その他の兄弟は、皆シャルロットの事を邪険にしているのである。
ルークは、シャルロットに飛びついた。
「僕はお姉様が本当は凄い事を知ってます! 不思議な力を使える事……だから、お父様に直談判してきます!」
「ありがとう。でも、その気持ちだけで嬉しいわ。それよりも、ルークも気をつけないと、あなたも巻き込まれて追い出されてしまうかもしれないわ」
「でも……」
「ルーク、私は大丈夫だわ」
そうなのである。
ただでさえ今の両親は機嫌が悪い。そんな状態でルークがシャルロットを庇ったらば、どうなるか分からない。とばっちりを受ける可能性は大である。
オンブラージュとフロワドは、そう言う人なのである。
さらに両親の機嫌を損ねたら、もしかしたらルークは離宮送りにされるかもしれない。
そのくらい、シャルロットの事を憎んでいるのである。
それはそのはず、オンブラージュとフロワドは非魔法使いを人間扱いしていない。最早猿扱いと言った感じで、それが自分の娘とは認めたくないのである。
確かに、ルークはシャルロットの魔法ではない特別な力を知っている。シャルロットがまだ本邸にいた時、ルークは庭で怪我をしたことがある。シャルロットはそれを治したことがあるのである。
しかしオンブラージュとフロワドは、そんなことを言っても信じないだろう。
むしろオンブラージュとフロワドは、教会嫌いである。故にそれに属する聖女も嫌いである。それは、ナルシス王国が魔法使いよりも聖女を敬い、珍重するからである。
優秀な魔法使いよりも、数が極めて少ない優れた聖職者を尊敬の対象としている。
それも、聖女の如き退魔の力を有しているものは、魔法が使えない。
オンブラージュとフロワドは、自分が人間扱いしていない魔法の使えない者が尊敬の対象になると言うのは許せないのである。
シャルロットは、ルークを強く抱きしめた。
「ありがとう、じゃあ、行ってくるね。さようなら」
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シャルロットは、後ろを振り向く事なく本邸を後にした。
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