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20話 男子会
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ルークにとって、シャルロットは優しい姉であった。
逆に言えば、メシャント家は厳しい指導方針であった。
魔法絶対史上主義。
それが、メシャント家の家訓である。
メシャント家には六人の兄弟がいる。
長男――ホーク・メシャント。
次男――アルフレッド・メシャント。
長女――カタリナ・メシャント。
次女――ブリジット・メシャント。
三女――シャルロット・メシャント。
三男――ルーク・メシャント。
である。
なんと言うか、メシャント家は魔法に対する執着が異常な家であった。
故に、その指導も苛烈であった。
ルークは、兄弟の中では一番末っ子である。そうであるにも拘らず、シャルロット以外の兄弟に優しくされたことがなかった。
拷問に近かった。
死にかけたこともある。
毎日が魔法の修行であった。
魔法。
それは、主に魔素を地水火風の四大元素の魔力に変換したものを言う。
魔法的素質があっても、容易に習得出来るものではないこともちろんである。
まず、魔法を習得するには体内外にある魔素を知覚しなければならない。
感受しなければならない。
まず、それが初歩の段階である。
その初歩の段階がクリア出来てから、ようやく魔法の実践的トレーニングが始まるのである。
ちなみに、体内外の魔素を体感出来るようになるまで、普通はどのくらいの期間を要するかと言うと、どれだけ少なく見積もっても五年はかかる。
五年である。
三、四歳の物心がついた年齢の段階でトレーニングをしたとしても、初歩の段階を通過する時には既に八、九歳になっているのである。
その修行と言うのも、毎日坐禅を組み集中する。あるいは蝋燭の炎の揺らぎをずっと見続けると言った気が遠くなるものである。
正直言って、その段階で挫折する者も多い。
その上、そもそも修行者に魔法的素養がなければ、それ以降の鍛錬で向上するのが難しいから始末に負えない。
それまでの努力も無駄になってしまうから、後始末にも困る次第である。
しかしながら、メシャント家はその如き扱いが困難である魔法の名家であった。その証拠に、歴代多くの優秀な魔法使いを輩出してきていた。
メシャント家では魔法の修行をどのように行うかと言うと、それは常軌を逸したものがあった。
常識では考えられないものがあった。
と言うのは、そもそも自然界には魔素という肉眼ででは見えないエネルギーがガスのように漂っている。
その程度の魔素であれば人体に被害を及ぼすことはない。しかしながら、なんらかの原因で一部の場所に留まる事がある。それを魔素溜まりと言う。
魔素溜まりは、非常に生物にとって非常に危険である。
なぜかならば、汚染されたその魔素溜まり足を踏み入れた生物は、直ちに被曝した後に魔物化する可能性があるからである。
メシャント家は、魔法の修行の一環として物心がついた子供を、その魔素溜まりに放り込むのである。
それによって、速やかに魔素の感覚を身につけるのである。
一歩間違えれば、命を落とすか魔物化するのにである。
故に、メシャント家は多くの子をこさえるのであるが、そのような中で、ルークは過ごしてきた。
それは、シャルロットも同じであった。
ルークは、すぐに魔素の感覚を掴むことが出来た。
しかし、シャルロットは魔法的才能が全くなかった。それは、シャルロットは魔法使いの一族に生まれながら、その根源の魔族を浄化する体質を持って生まれてきたからである。
そんなことは、両親には関係ない。
両親は、何度も何度もシャルロットの魔法の素養が出現するまではと魔素溜まりに放り込んだのだある。
それは、シャルロットが離宮に移る十才まで続けられた。
魔素溜まりに突き落とされたシャルロットは、苦しかったであろう。
シャルロットは、聖女の力を持って生まれたからこそ、命を落とすことも魔物化することもなかった。けれども、大聖女――ミュゲ・ジプソフィルが九歳でやっと聖女の力を開眼したように、シャルロットが聖女の力に開眼するまでは、魔素の浄化もままならないはずであったはずである。
ルークは、シャルロットをずっと哀れに思っていた。
しかし、シャルロットはそんなルークの想いとは裏腹に、ルークを可愛がっていた。
そうなのである。
メシャント家の人間は、幼少期からそのような修行のせいか、精神的な余裕がない。
まるで魔物ような、本能的と言ったきらいもある。
そんな中で、シャルロットは他の家族とは違ったのである。
ルークが怪我をしたら、手当てしてくれた。これは、他の兄弟にはしてもらった事がなかった。
シャルロットが手当てした傷は、不思議と治りが早いのである。
今思い返してみれば、シャルロット聖女の力を有していたからこそ、そんな彼女と接していたからこそ、ルークは他の兄弟のように魔に魅入られなかったかもしれない。
とにかく、ルークはシャルロット守りたいと思った。
自分だけは、シャルロットの味方であろうと思った。
そう決意したにも関わらず、シャルロットに矛を向けた事を悔いていた。
己が命がかかっていたと雖も。
両親の命令だったと雖も。
そして、シャルロットに付いている男。ソレイユが気になった。
シャルロット曰く、ソレイユは孤児であると言う。
何故に孤児が、シャルロットについているのだろうか? そうルークは疑問に思った。
宿。
夜分。
部屋は、ルークとソレイユの二人部屋であった。
ルークは、ソレイユに宣言する。
「僕は君より歳上だから、僕に従ってもらうからな」
「俺の方が、先にここに泊まってたんだけどな」
「それはそれ、これはこれ」
「あっそ」
憎たらしい態度。
ルークは、ソレイユのそんな態度が気に入らなかった。
ルークは、続けてこう言った。
「君に、お姉様を守れるか?」
「急にどうしたんだよ?」
「僕は、お姉様をお守りするつもりだ」
「俺だって守るさ!」
ルークは、それに対してこう返した。
「どうやって?」
「それは……」
ソレイユは、答えられなかった。
それも仕方がなかった。ソレイユには自衛の手段を持ち合わせていなかった。
ルークは、問う。
「何も出来ないのに、どうやってお姉様を守んだ?」
「うるさいな! お前だって守れてなかったじゃないか! シャルロットを殺そうとしたくせに!」
「…………」
ルークは、図星を突かれてしまって黙っていた。
その時。
壁の向こう側から声がした。
向こうの部屋は、シャルロットとリュンヌの部屋であった。
ルークは、聞き耳を立てた。どうやら二人は恋愛の話をしているようだった。
「シャルロットに恋人なんて絶対認めない! こうしちゃいられない! ソレイユ行くぞ!」
「なんで俺までついていかないといけないんだよ!」
ルークとソレイユは、二人の部屋に向かった。
逆に言えば、メシャント家は厳しい指導方針であった。
魔法絶対史上主義。
それが、メシャント家の家訓である。
メシャント家には六人の兄弟がいる。
長男――ホーク・メシャント。
次男――アルフレッド・メシャント。
長女――カタリナ・メシャント。
次女――ブリジット・メシャント。
三女――シャルロット・メシャント。
三男――ルーク・メシャント。
である。
なんと言うか、メシャント家は魔法に対する執着が異常な家であった。
故に、その指導も苛烈であった。
ルークは、兄弟の中では一番末っ子である。そうであるにも拘らず、シャルロット以外の兄弟に優しくされたことがなかった。
拷問に近かった。
死にかけたこともある。
毎日が魔法の修行であった。
魔法。
それは、主に魔素を地水火風の四大元素の魔力に変換したものを言う。
魔法的素質があっても、容易に習得出来るものではないこともちろんである。
まず、魔法を習得するには体内外にある魔素を知覚しなければならない。
感受しなければならない。
まず、それが初歩の段階である。
その初歩の段階がクリア出来てから、ようやく魔法の実践的トレーニングが始まるのである。
ちなみに、体内外の魔素を体感出来るようになるまで、普通はどのくらいの期間を要するかと言うと、どれだけ少なく見積もっても五年はかかる。
五年である。
三、四歳の物心がついた年齢の段階でトレーニングをしたとしても、初歩の段階を通過する時には既に八、九歳になっているのである。
その修行と言うのも、毎日坐禅を組み集中する。あるいは蝋燭の炎の揺らぎをずっと見続けると言った気が遠くなるものである。
正直言って、その段階で挫折する者も多い。
その上、そもそも修行者に魔法的素養がなければ、それ以降の鍛錬で向上するのが難しいから始末に負えない。
それまでの努力も無駄になってしまうから、後始末にも困る次第である。
しかしながら、メシャント家はその如き扱いが困難である魔法の名家であった。その証拠に、歴代多くの優秀な魔法使いを輩出してきていた。
メシャント家では魔法の修行をどのように行うかと言うと、それは常軌を逸したものがあった。
常識では考えられないものがあった。
と言うのは、そもそも自然界には魔素という肉眼ででは見えないエネルギーがガスのように漂っている。
その程度の魔素であれば人体に被害を及ぼすことはない。しかしながら、なんらかの原因で一部の場所に留まる事がある。それを魔素溜まりと言う。
魔素溜まりは、非常に生物にとって非常に危険である。
なぜかならば、汚染されたその魔素溜まり足を踏み入れた生物は、直ちに被曝した後に魔物化する可能性があるからである。
メシャント家は、魔法の修行の一環として物心がついた子供を、その魔素溜まりに放り込むのである。
それによって、速やかに魔素の感覚を身につけるのである。
一歩間違えれば、命を落とすか魔物化するのにである。
故に、メシャント家は多くの子をこさえるのであるが、そのような中で、ルークは過ごしてきた。
それは、シャルロットも同じであった。
ルークは、すぐに魔素の感覚を掴むことが出来た。
しかし、シャルロットは魔法的才能が全くなかった。それは、シャルロットは魔法使いの一族に生まれながら、その根源の魔族を浄化する体質を持って生まれてきたからである。
そんなことは、両親には関係ない。
両親は、何度も何度もシャルロットの魔法の素養が出現するまではと魔素溜まりに放り込んだのだある。
それは、シャルロットが離宮に移る十才まで続けられた。
魔素溜まりに突き落とされたシャルロットは、苦しかったであろう。
シャルロットは、聖女の力を持って生まれたからこそ、命を落とすことも魔物化することもなかった。けれども、大聖女――ミュゲ・ジプソフィルが九歳でやっと聖女の力を開眼したように、シャルロットが聖女の力に開眼するまでは、魔素の浄化もままならないはずであったはずである。
ルークは、シャルロットをずっと哀れに思っていた。
しかし、シャルロットはそんなルークの想いとは裏腹に、ルークを可愛がっていた。
そうなのである。
メシャント家の人間は、幼少期からそのような修行のせいか、精神的な余裕がない。
まるで魔物ような、本能的と言ったきらいもある。
そんな中で、シャルロットは他の家族とは違ったのである。
ルークが怪我をしたら、手当てしてくれた。これは、他の兄弟にはしてもらった事がなかった。
シャルロットが手当てした傷は、不思議と治りが早いのである。
今思い返してみれば、シャルロット聖女の力を有していたからこそ、そんな彼女と接していたからこそ、ルークは他の兄弟のように魔に魅入られなかったかもしれない。
とにかく、ルークはシャルロット守りたいと思った。
自分だけは、シャルロットの味方であろうと思った。
そう決意したにも関わらず、シャルロットに矛を向けた事を悔いていた。
己が命がかかっていたと雖も。
両親の命令だったと雖も。
そして、シャルロットに付いている男。ソレイユが気になった。
シャルロット曰く、ソレイユは孤児であると言う。
何故に孤児が、シャルロットについているのだろうか? そうルークは疑問に思った。
宿。
夜分。
部屋は、ルークとソレイユの二人部屋であった。
ルークは、ソレイユに宣言する。
「僕は君より歳上だから、僕に従ってもらうからな」
「俺の方が、先にここに泊まってたんだけどな」
「それはそれ、これはこれ」
「あっそ」
憎たらしい態度。
ルークは、ソレイユのそんな態度が気に入らなかった。
ルークは、続けてこう言った。
「君に、お姉様を守れるか?」
「急にどうしたんだよ?」
「僕は、お姉様をお守りするつもりだ」
「俺だって守るさ!」
ルークは、それに対してこう返した。
「どうやって?」
「それは……」
ソレイユは、答えられなかった。
それも仕方がなかった。ソレイユには自衛の手段を持ち合わせていなかった。
ルークは、問う。
「何も出来ないのに、どうやってお姉様を守んだ?」
「うるさいな! お前だって守れてなかったじゃないか! シャルロットを殺そうとしたくせに!」
「…………」
ルークは、図星を突かれてしまって黙っていた。
その時。
壁の向こう側から声がした。
向こうの部屋は、シャルロットとリュンヌの部屋であった。
ルークは、聞き耳を立てた。どうやら二人は恋愛の話をしているようだった。
「シャルロットに恋人なんて絶対認めない! こうしちゃいられない! ソレイユ行くぞ!」
「なんで俺までついていかないといけないんだよ!」
ルークとソレイユは、二人の部屋に向かった。
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