元大聖女シャルロットは、転生してからスローライフを満喫するようです

Atelier Lotus

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21話 寝巻きパーティ

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 シャルロットには夢があった。それは、寝巻きパーティをすることである。

 寝巻きパーティ。

 それは心を許し合ったもの達が、夜に一緒の部屋で寝巻きを着る。そして色んな話に興じるパーティである。

 色んな話と言うのは多岐にわたる。

 例えば、

 噂話。

 愚痴。

 美容。

 趣味。

 そして、何より色事である。

 恋愛。

 そうなのである。

 寝巻きパーティと言えば、浮ついた話がつきものなのである。とシャルロットが前世に読んだロマンスに書いてあった。

 大聖女――ミュゲ・ジプソフィルの唯一の楽しみは、読者であった。読書の中でも、ロマンス小説を読むことが一番好きであった。
 
 遠方に行く際には、必ず何冊かのロマンス小説を持参していた。そのくらいロマンス小説が好きであった。

 ロマンス小説で寝巻きパーティのくだりを読んだ時に、ミュゲ・ジプソフィルは是非試してみたいと思った。しかしながら、それは叶わなかった。

 何故かならば、ミュゲ・ジプソフィルが九歳で聖女となって教会入りしてから、二十歳で大聖女となるまでの十一年間は、毎日が修行の日々であった。

 一応、教会入りしてからは教会の修道女達と一緒に寝ることはあった。しかし当時、魔王が世界を支配していたと言う時代背景的に、とてもではないけれど寝巻きパーティの如き遊びに興じることが出来なかった。

 そして、大聖女となってからは個室が与えられた故に、その夢は遂に潰えることとなった。

 もちろん教会内での恋愛は、性別関係なく御法度であった。無論、部屋に連れ込むなんてことはもってのほかであった。

 そもそも、ミュゲ・ジプソフィルがロマンス小説に異常に固執していたのは、それが理由である。

 恋愛が許されなかった故に、その反動的作用でロマンス小説という空想に逃げたのである。

 それは、自分を主人公に見立てたロマンス小説を書いてしまうほどに――

 ちなみにミュゲ・ジプソフィルがよく好んだロマンス小説のシナリオは、王道である。

 竜に攫われた王女を助ける勇者とか、

 騎士団長と王女の禁断の愛とか、

 王女と平民の許されざる恋とか、

 である。

 とりわけ、王女が主人公のタイプのロマンス小説が好きであった。

 とにかく、その寝巻きパーティの描写があったロマンス小説では、寝巻きパーティの最初の作法として枕投げという行事があった。

 なのでシャルロットは、リュンヌに枕投げをお互いに興じることを提案した。

 夜。

 シャルロットとリュンヌの部屋。

 シャルロットは、向かい合っているリュンヌに対して枕を優しく投げつけた。

 リュンヌは、それをキャッチする。そしてキャッチしたのちにシャルロットに投げ返した。

 ぽす、

 と生地が擦れる大人する。

 心地の良い音である。

 二人は枕投げを、何度か繰り返した。

 ぽす。

 ぽす。

 ぽす。

 シャルロットは、喜びのあまり震え上がった。

「私は今、とても感激しているよ!」

「え! なんで! どこに感激するところがあったの? 枕投げ合ってるだけなのに?」

「まあまあ、細かいことはいーの。そういうもんなの」

「は、はあ」

 きょとんとした顔のリュンヌ。

 シャルロットは一旦枕をその場に置き、自分のベッドから離れる。そしてリュンヌの方のベッドに行き、横に座った。
 
 シャルロットは、リュンヌのうさぎ耳を触る。

「この耳、可愛いよねー、ふわふわ。触っていい?」

「触っていいって言いながら、許可出す前に触ってるじゃないですか?」

「細かいことはいーの」

 シャルロットは、リュンヌのうさぎ耳を指で摘んで優しく擦った。
 
 リュンヌは声を上げる。

「ひゃっ! くすぐったい!」

「へぇー、くすぐったいんだ」

「おかえしします!」

 リュンヌはそう言うと、シャルロットをくすぐった。

「ははは! くすぐったい! やめてー!」

「やめませんよ!」

「じゃあ、私も本気でいくよ」

 シャルロットは、リュンヌの尻尾を触った。うさぎのようなまんまるな毛の尻尾である。

「これでどうだ!」

「あわわ! くすぐったいですー」 

「私の勝ちだね」

 そうシャルロットが勝利を宣言したところで、隣の部屋からドンっと音がなった。

 ソレイユとルークが泊まっているのとは、反対側の部屋。

 きっと、二人の声が煩かったからであろう。

 シャルロットとリュンヌは自重した。

 シャルロットは、小声でこう言った。

「ところでさ、リュンヌ。あなたって好きな人いる?」
 
「急にどうしたのですか?」

 慌てるリュンヌであった。そして、こう続けるのであった。

「別にいませんよ?」

 と。

 シャルロットは、追撃する。

「ほんとーに?」

「だからいませんから!」

「ふーん、で、本当は?」

「い、ま、せ、ん!」

「それで実のところは?」

「…………」

 リュンヌの根気が折れたようであった。

 リュンヌは、ゆっくり口を開いてこう言った。

「強いて言うなら、『栄光のつるぎ』の剣の、ガスパルさんかな?」

 と。

 栄光の剣。

 それは、冒険者ギルドの中でも金ランク達が集う冒険者チームである。看板パーティであり、冒険者ギルドの広告塔も担っている。

 パーティメンバーは、

 剣士レオン。

 魔法使いアデール。

 弓使いカミーユ。

 武道家ガスパル。

 である。
 
 シャルロットは、問う。

「ガスパル? あー、あのヒゲダルマ親父? センスないなぁ」

「センスないって酷いです! じゃあ、シャルロットどうなのですか?」

「え、私?」

 シャルロットは、たじろいだ。

「私は別にそんな人いないよ?」

「ふーん本当ですか? 言わないと聞き続けますよ?」

「えー、やだー」

 そう言いながら、シャルロットは満悦であった。

 なかなか、寝巻きパーティっぽくなってきた。

 ちなみに、シャルロットの気になる異性は、同じく『栄光の剣』の剣士レオンであった。

 栄光の剣のリードを務める人物である。

 端正で整った容姿と金ランクの剣技は、性別問わず大人気の冒険者であった。

「レオン様かな?」

「えー、レオンさんですか? やめといた方がいいよー」

「なんでよ?」

「レオンさんって、カッコいいけど女癖酷いって噂ですよ」

「でも噂でしょ?」

「まあ、そうですけど、火のないところに煙はたたないって言いますよ!」

「確かにねー」

 と、

 その時、部屋の扉が破られた。

 扉を破った主は、ルークであった。

「お姉様に好きな人なんて、僕は到底認められません!」

 ルークは、嘆願した。

 リュンヌは立ち上がる。

「女子の部屋に勝手に入っちゃいけません!」

 リュンヌはそう言うと、足を高く振り上げた。そしてそのままルークに向けて振り下ろした。

 踵落としである。

「うわぁ!」

 ルークは、すんでのところで交わす。

 その結果、リュンヌのか踵落としは床にめり込んだ。しかも、兎人族の力であるからそれは凄まじいものであった。

 ズドンと言う音と共に、床に大穴が空いた。

 下に宿の厨房が見える。

 床の破壊音を聞いた宿の大家が、部屋に入ってきた。

「煩い! お前達、今すぐここから出て行け!」

 シャルロット一行は、宿を追い出されてしまった。

 のちに宿から、小金貨五枚分の請求書がギルドから届いた。

 シャルロットの財布は、寒くなるのであった。
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