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おまけ
『魔導師団長の息子』グザヴィエの独白
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僕は由緒正しき伯爵家の、当代の魔導師団長の長男として生まれた。ただ、我が家に生まれた者の殆どが自然に魔法が使える年齢になっても魔法を発現できず、それからは父や祖父母、弟たちにも空気のように扱われるようになってしまった。
後の結果から言えば、素質はあったわけなので、神殿でお金を払い魔法が使えるようになる契約を済ませれば良かっただけだった。普通の家系なら問題にすらならなかっただろう。残念ながらそうならなかったのは、我が家に引き継がれる魔法に対する高すぎる矜持のせいだ。
『旦那様、グザヴィエを神殿に連れて行って下さいませんか?』
『そんな恥さらしなことができるか』
母が父に進言してくれたが、その願いは叶わなかった。その後は母も会ったら申し訳なさそうに眉を下げるだけで積極的には関わって来なくなった。気弱な母にしては、頑張ってくれたほうだと思う。
しばらくして、弟たちが魔法を使えるようになり、僕の将来は確定した。いつか、この家を追い出される。それが分かっていたので、魔法を含めありとあらゆる事を必死で学んだ。剣術の才能のない僕にとって、知識が唯一の武器になると思ったからだ。
そんな僕を変えたのは、ある二人との運命の出会いのおかげだ。いや、僕が毎日図書館に通っていたことを考えれば、偶然ですらないのかもしれない。
ピンク色の髪の少女と赤茶色の髪の少年は、図書館の中に入ってきたときから目立っていた。図書館はお金を払えば誰でも利用できる。ただ、識字率が低いことを考えれば庶民の利用は少なく、明らかに貴族ではない所作の二人は申し訳ないが浮いていた。
皆が遠巻きにする中、僕は彼らが気になって静かにあとを追った。少年にすぐに追跡を気づかれてしまったことも、二人に興味を引かれた一因だろう。
二人がまっすぐ向かったのは魔力がないと入れない、魔導書が置かれた部屋だった。
『往生際が悪いわね。魔法が使えなくたって死にはしないんだから、サッサと調べちゃおうよ』
どうやら、二人は少年の魔力の有無を調べるために来たらしい。少女が少年に言った言葉は少年よりも僕に深く突き刺さった。
いつもなら、それでも勇気が出なかったかもしれない。でも、今なら周囲の者たちは二人と関わりたくないのか距離を取っている。後ろから入ろうとした僕が弾かれても気づく者はいないだろう。
少女が強張った顔で少年の手を握って扉に向かう。僕も二人に導かれるように扉を潜った。魔法の膜を通過した気配を感じたが部屋には呆気なく入れてしまう。こんなに簡単なことだったとは拍子抜けだ。
『やったー!』
少女の喜びの声に心の中で同調する。僕は心を落ち着かせるため、自宅にもある慣れ親しんだ本の山の中に入っていった。
そこからの行動は早かったと思う。あの二人は、お金を集める方法について話し合っていたが、僕は冷遇されているとはいえ伯爵子息だ。幸い生まれたときからの待遇ではないので、幼い日にもらったプレゼントなど高価な物を所持していた。それを同情的だった使用人の一人に売り払ってもらって作ったお金で、素性を隠して神殿で契約を済ませた。
家族への披露は一年後と決めた。もちろん、神殿に行った事実は一生言うつもりはない。図書館で時々見かけるあの二人の会話から得た言葉を参考に、冒険者として修行に励んだ。貴族は学園入学までは実践に出ないのが普通だが、平民は違うらしい。
『さすがは我が息子だ。この年齢まで魔法が使えなかったとは思えない』
家族の前で魔法を使ったときの弟たちの苦い顔は忘れられない。父親はコロッと態度を変え、弟たちより勤勉だった僕を優遇した。父を尊敬する日は来ないだろうが、僕は実利を取って和解したのだ。
それ以降も伯爵家の跡取りとして聞き分けの良い子を演じ続けた。耐えられたのは、冒険者という別の自分になり気持ちを発散させる場があったからだろう。
あの二人が貴族を警戒していなければ、話しかけて友達になっていたと思う。身分を隠して出入りする冒険者ギルドで会うことを期待していたが、王都では活動していないようで一度も会うことはなかった。
それから時は過ぎ……
あの二人と再会したのは、第二王子に同行して向かった隣国のある街だった。
『私は王太子殿下の密命を受けてここにいます。彼女を起こす前に、あなたに何があったか話して頂けますか? 悪いようにはいたしません』
少女を助けることは出来たが、同時に二人と友人になれる日は来ないと悟る。僕はどこまでも貴族だ。二人に恩義を感じながらも、勝ち筋が見えるまで動くことができなかった。
国に帰ってすぐに会議が開かれ、最終的に第二王子の婚約者は修道院に送られた。あの二人の邪魔をすることは二度とないだろう。
僕は学園卒業後も魔導師団には入らず王太子の側近を続けている。その仕事の一つには、勇者と聖女と呼ばれるようになったあの二人の願いでもある貧困層の救済も組み込まれていた。
災害龍を倒した勇者は、災害龍の素材を売ったお金だけで十分だと言って国からの報奨を受け取らなかった。代わりに願われた聖女の安全についても、公爵家の罪が露呈しただけで報奨とは呼べない。最終的に貧困対策の基金に充てられることになったのだ。
僕は王太子の執務室の窓から隣国へと続く空を見上げる。あの二人は隣国で元気に暮らしているだろうか?
僕には勇者や聖女のような特別な力はないけれど、貧困対策に真摯に向き合うことで誰かを救いたいと思う。
『グザヴィエの独白』 終
後の結果から言えば、素質はあったわけなので、神殿でお金を払い魔法が使えるようになる契約を済ませれば良かっただけだった。普通の家系なら問題にすらならなかっただろう。残念ながらそうならなかったのは、我が家に引き継がれる魔法に対する高すぎる矜持のせいだ。
『旦那様、グザヴィエを神殿に連れて行って下さいませんか?』
『そんな恥さらしなことができるか』
母が父に進言してくれたが、その願いは叶わなかった。その後は母も会ったら申し訳なさそうに眉を下げるだけで積極的には関わって来なくなった。気弱な母にしては、頑張ってくれたほうだと思う。
しばらくして、弟たちが魔法を使えるようになり、僕の将来は確定した。いつか、この家を追い出される。それが分かっていたので、魔法を含めありとあらゆる事を必死で学んだ。剣術の才能のない僕にとって、知識が唯一の武器になると思ったからだ。
そんな僕を変えたのは、ある二人との運命の出会いのおかげだ。いや、僕が毎日図書館に通っていたことを考えれば、偶然ですらないのかもしれない。
ピンク色の髪の少女と赤茶色の髪の少年は、図書館の中に入ってきたときから目立っていた。図書館はお金を払えば誰でも利用できる。ただ、識字率が低いことを考えれば庶民の利用は少なく、明らかに貴族ではない所作の二人は申し訳ないが浮いていた。
皆が遠巻きにする中、僕は彼らが気になって静かにあとを追った。少年にすぐに追跡を気づかれてしまったことも、二人に興味を引かれた一因だろう。
二人がまっすぐ向かったのは魔力がないと入れない、魔導書が置かれた部屋だった。
『往生際が悪いわね。魔法が使えなくたって死にはしないんだから、サッサと調べちゃおうよ』
どうやら、二人は少年の魔力の有無を調べるために来たらしい。少女が少年に言った言葉は少年よりも僕に深く突き刺さった。
いつもなら、それでも勇気が出なかったかもしれない。でも、今なら周囲の者たちは二人と関わりたくないのか距離を取っている。後ろから入ろうとした僕が弾かれても気づく者はいないだろう。
少女が強張った顔で少年の手を握って扉に向かう。僕も二人に導かれるように扉を潜った。魔法の膜を通過した気配を感じたが部屋には呆気なく入れてしまう。こんなに簡単なことだったとは拍子抜けだ。
『やったー!』
少女の喜びの声に心の中で同調する。僕は心を落ち着かせるため、自宅にもある慣れ親しんだ本の山の中に入っていった。
そこからの行動は早かったと思う。あの二人は、お金を集める方法について話し合っていたが、僕は冷遇されているとはいえ伯爵子息だ。幸い生まれたときからの待遇ではないので、幼い日にもらったプレゼントなど高価な物を所持していた。それを同情的だった使用人の一人に売り払ってもらって作ったお金で、素性を隠して神殿で契約を済ませた。
家族への披露は一年後と決めた。もちろん、神殿に行った事実は一生言うつもりはない。図書館で時々見かけるあの二人の会話から得た言葉を参考に、冒険者として修行に励んだ。貴族は学園入学までは実践に出ないのが普通だが、平民は違うらしい。
『さすがは我が息子だ。この年齢まで魔法が使えなかったとは思えない』
家族の前で魔法を使ったときの弟たちの苦い顔は忘れられない。父親はコロッと態度を変え、弟たちより勤勉だった僕を優遇した。父を尊敬する日は来ないだろうが、僕は実利を取って和解したのだ。
それ以降も伯爵家の跡取りとして聞き分けの良い子を演じ続けた。耐えられたのは、冒険者という別の自分になり気持ちを発散させる場があったからだろう。
あの二人が貴族を警戒していなければ、話しかけて友達になっていたと思う。身分を隠して出入りする冒険者ギルドで会うことを期待していたが、王都では活動していないようで一度も会うことはなかった。
それから時は過ぎ……
あの二人と再会したのは、第二王子に同行して向かった隣国のある街だった。
『私は王太子殿下の密命を受けてここにいます。彼女を起こす前に、あなたに何があったか話して頂けますか? 悪いようにはいたしません』
少女を助けることは出来たが、同時に二人と友人になれる日は来ないと悟る。僕はどこまでも貴族だ。二人に恩義を感じながらも、勝ち筋が見えるまで動くことができなかった。
国に帰ってすぐに会議が開かれ、最終的に第二王子の婚約者は修道院に送られた。あの二人の邪魔をすることは二度とないだろう。
僕は学園卒業後も魔導師団には入らず王太子の側近を続けている。その仕事の一つには、勇者と聖女と呼ばれるようになったあの二人の願いでもある貧困層の救済も組み込まれていた。
災害龍を倒した勇者は、災害龍の素材を売ったお金だけで十分だと言って国からの報奨を受け取らなかった。代わりに願われた聖女の安全についても、公爵家の罪が露呈しただけで報奨とは呼べない。最終的に貧困対策の基金に充てられることになったのだ。
僕は王太子の執務室の窓から隣国へと続く空を見上げる。あの二人は隣国で元気に暮らしているだろうか?
僕には勇者や聖女のような特別な力はないけれど、貧困対策に真摯に向き合うことで誰かを救いたいと思う。
『グザヴィエの独白』 終
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