17 / 72
17.続く戦い
しおりを挟む
しばらく、上空の魔獣と戦っていると、徐々に眼下を走る魔獣が増えてきた。ブルクハルトは、それらを氷で弾き飛ばしながら前方に視線を移す。
ガスパールの掘った罠の一部が落ちた魔獣で塞がり、後続の魔獣が踏み潰しながら通過していた。今は機能している他の罠も時間の問題だろう。
【そろそろ、地上もまずそうだね。ブルクハルト、いける? 上空はしばらく頑張るよ】
エッカルトが地上に向けて炎を放つと、草原を焼いた煙で視界が奪われる可能性が高い。魔獣相手には不利に働くので、氷を使うブルクハルトの方が向いている。
【分かった。上空は任せて、俺は地上の攻撃に移る。ジュリアンは、エッカルトたちの攻撃をすり抜けた敵を頼む】
「うん、任せて」
ジュリアンが足に力を入れたのを確認して、ブルクハルトは高度を下げる。地上の魔獣めがけて氷の刃を線上に放ち、氷漬けされた魔獣の柵を作った。
後続の魔獣たちは勢いよく走っているので、止まれないまま、その柵に突っ込んでいく。
【殺傷能力は低いか……】
「いや、良い作戦だと思うよ」
【そうか。それなら、続けてみる】
ジュリアンが肯定してくれるので、ブルクハルトは安心する。竜化した状態での戦闘経験は乏しいので、考えつくことをやっていくしかない。
柵にぶつかった魔獣に対して、さらに後続が勢いよくぶつかっていくのが見える。そのおかげで、かなりの魔獣を戦闘不能にできているようだ。
【これならいけそうだな】
「うん、もう少し頑張ろう」
ブルクハルトはジュリアンの励ましに小さく手を上げて応える。動かなくなった魔獣の壁を乗り越えだした魔獣に、さらに氷の刃を放つことで対応していった。
……
倒しても倒しても、結界の外から魔獣が入り込んでくる。
ブルクハルトがうんざりし始めた頃、眼下の魔獣たちが突然まとめて横に吹き飛んだ。飛ばされた魔獣たちは倒れたまま動かなくなる。
【ブル坊、待たせたな】
ブルクハルトがチラリと攻撃が飛んできた方向を見ると、よく知る翠龍が三頭こちらに向かって飛んできていた。風魔法で援護してくれたのだろう。
【いい加減、その呼び方は止めてくださいよ。俺も竜騎士を選ぶような歳なんですよ】
ブルクハルトは、仲間の到着の嬉しさを隠して文句を言う。
【助けに来てやったのに釣れないな~】
一番大きな翠龍がブルクハルトを援護するように魔獣を倒しながらカラカラと笑う。辺境伯と幼馴染でもある分家のパトリック・ヴェロキラだ。
「ガス、状況は変わらねぇか?」
「ええ、見ての通りです」
パトリックに乗る竜騎士、ギヨームが大きな斧を振り回しながらガスパールに声をかける。親世代の二人だけあって、突然戦闘に加わっても動きに迷いがない。竜騎士は竜に乗るため細身の者が多いが、ギヨームは大男と呼ぶのが相応しい。同じく大男であるパトリックだからこそ成り立つ良い相棒だ。
「この顔ぶれならエッカルトとガスパールに指揮を任せたいが、構わねぇか?」
「はい。では、遠慮なく」
翠龍の竜騎士は全員ガスパールより先輩だが、異論がある者はいないようだ。赤龍と青龍が飛び抜けて強いというのもあるが、ガスパールの持つ知識や指揮官になる覚悟と、実戦で得てきた信頼のおかげだろう。
ガスパールは名門ドリコリン伯爵家の嫡男として、子供の頃から期待を一身に背負って竜騎士団長になるべく努力してきた。クリスティーナが自分の事のように自慢して、ブルクハルトを嫉妬させるので、知りたくなくてもよく知っている。
「それでは、ギヨームさんはブルクハルトたちと地上を、後の二組は私達と一緒に上空をお願いします。現状、連携は足枷になりかねないので、臨機応変にいきましょう。戦況が変われば、その都度指示します」
【妥当だな】
パトリックがそう言いながら、ブルクハルトの方に飛んでくる。
「そこのキラキラした男がブル坊の竜騎士か」
「ジュリアンと申します。よろしくお願いします」
「お、おぅ。よろしくな」
ジュリアンが魔獣と戦いながらも丁寧に返事をする。ギヨームは辺境の者には少ない返しに一瞬戸惑いを見せたが、すぐに調子を取り戻した。
「ブル坊たちは、そのまま続けてくれ。少し数を減らしてくる。行くぞ、パトリック!」
【了解!】
パトリックは短く言うと、躊躇なく前方の魔獣の群れに突っ込んでいく。ジュリアンは驚きの声を漏らしていたが、彼らのいつもの戦い方だ。ブルクハルトに見ている余裕はないが、パトリックの動きに合わせてギヨームが斧を振り回し魔獣を薙ぎ払っていることだろう。赤龍や青龍に比べて魔法が使える回数の限られる翠龍は、接近戦を主とする。
「すごい連携だね」
【憧れるよな】
パトリックたちのおかげで、ブルクハルトが一度に対峙する魔獣の数が減っている。疲れが出てきているブルクハルトには嬉しすぎる援護だ。空はまだ明るく、結界が再構築される日暮れまでは遠い。
【ジュリアン、大丈夫か?】
「僕はまだまだいけるよ。ブルクハルトはどう?」
【俺も問題ない】
ブルクハルトたちは、お互いに強がりだと分かりながら、指摘せずに目の前の魔獣をただ倒し続けた。
ガスパールの掘った罠の一部が落ちた魔獣で塞がり、後続の魔獣が踏み潰しながら通過していた。今は機能している他の罠も時間の問題だろう。
【そろそろ、地上もまずそうだね。ブルクハルト、いける? 上空はしばらく頑張るよ】
エッカルトが地上に向けて炎を放つと、草原を焼いた煙で視界が奪われる可能性が高い。魔獣相手には不利に働くので、氷を使うブルクハルトの方が向いている。
【分かった。上空は任せて、俺は地上の攻撃に移る。ジュリアンは、エッカルトたちの攻撃をすり抜けた敵を頼む】
「うん、任せて」
ジュリアンが足に力を入れたのを確認して、ブルクハルトは高度を下げる。地上の魔獣めがけて氷の刃を線上に放ち、氷漬けされた魔獣の柵を作った。
後続の魔獣たちは勢いよく走っているので、止まれないまま、その柵に突っ込んでいく。
【殺傷能力は低いか……】
「いや、良い作戦だと思うよ」
【そうか。それなら、続けてみる】
ジュリアンが肯定してくれるので、ブルクハルトは安心する。竜化した状態での戦闘経験は乏しいので、考えつくことをやっていくしかない。
柵にぶつかった魔獣に対して、さらに後続が勢いよくぶつかっていくのが見える。そのおかげで、かなりの魔獣を戦闘不能にできているようだ。
【これならいけそうだな】
「うん、もう少し頑張ろう」
ブルクハルトはジュリアンの励ましに小さく手を上げて応える。動かなくなった魔獣の壁を乗り越えだした魔獣に、さらに氷の刃を放つことで対応していった。
……
倒しても倒しても、結界の外から魔獣が入り込んでくる。
ブルクハルトがうんざりし始めた頃、眼下の魔獣たちが突然まとめて横に吹き飛んだ。飛ばされた魔獣たちは倒れたまま動かなくなる。
【ブル坊、待たせたな】
ブルクハルトがチラリと攻撃が飛んできた方向を見ると、よく知る翠龍が三頭こちらに向かって飛んできていた。風魔法で援護してくれたのだろう。
【いい加減、その呼び方は止めてくださいよ。俺も竜騎士を選ぶような歳なんですよ】
ブルクハルトは、仲間の到着の嬉しさを隠して文句を言う。
【助けに来てやったのに釣れないな~】
一番大きな翠龍がブルクハルトを援護するように魔獣を倒しながらカラカラと笑う。辺境伯と幼馴染でもある分家のパトリック・ヴェロキラだ。
「ガス、状況は変わらねぇか?」
「ええ、見ての通りです」
パトリックに乗る竜騎士、ギヨームが大きな斧を振り回しながらガスパールに声をかける。親世代の二人だけあって、突然戦闘に加わっても動きに迷いがない。竜騎士は竜に乗るため細身の者が多いが、ギヨームは大男と呼ぶのが相応しい。同じく大男であるパトリックだからこそ成り立つ良い相棒だ。
「この顔ぶれならエッカルトとガスパールに指揮を任せたいが、構わねぇか?」
「はい。では、遠慮なく」
翠龍の竜騎士は全員ガスパールより先輩だが、異論がある者はいないようだ。赤龍と青龍が飛び抜けて強いというのもあるが、ガスパールの持つ知識や指揮官になる覚悟と、実戦で得てきた信頼のおかげだろう。
ガスパールは名門ドリコリン伯爵家の嫡男として、子供の頃から期待を一身に背負って竜騎士団長になるべく努力してきた。クリスティーナが自分の事のように自慢して、ブルクハルトを嫉妬させるので、知りたくなくてもよく知っている。
「それでは、ギヨームさんはブルクハルトたちと地上を、後の二組は私達と一緒に上空をお願いします。現状、連携は足枷になりかねないので、臨機応変にいきましょう。戦況が変われば、その都度指示します」
【妥当だな】
パトリックがそう言いながら、ブルクハルトの方に飛んでくる。
「そこのキラキラした男がブル坊の竜騎士か」
「ジュリアンと申します。よろしくお願いします」
「お、おぅ。よろしくな」
ジュリアンが魔獣と戦いながらも丁寧に返事をする。ギヨームは辺境の者には少ない返しに一瞬戸惑いを見せたが、すぐに調子を取り戻した。
「ブル坊たちは、そのまま続けてくれ。少し数を減らしてくる。行くぞ、パトリック!」
【了解!】
パトリックは短く言うと、躊躇なく前方の魔獣の群れに突っ込んでいく。ジュリアンは驚きの声を漏らしていたが、彼らのいつもの戦い方だ。ブルクハルトに見ている余裕はないが、パトリックの動きに合わせてギヨームが斧を振り回し魔獣を薙ぎ払っていることだろう。赤龍や青龍に比べて魔法が使える回数の限られる翠龍は、接近戦を主とする。
「すごい連携だね」
【憧れるよな】
パトリックたちのおかげで、ブルクハルトが一度に対峙する魔獣の数が減っている。疲れが出てきているブルクハルトには嬉しすぎる援護だ。空はまだ明るく、結界が再構築される日暮れまでは遠い。
【ジュリアン、大丈夫か?】
「僕はまだまだいけるよ。ブルクハルトはどう?」
【俺も問題ない】
ブルクハルトたちは、お互いに強がりだと分かりながら、指摘せずに目の前の魔獣をただ倒し続けた。
12
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる