【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

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18.一瞬の

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 どのくらい時間が経っただろう。ブルクハルトが地上に向けて氷の刃を放ち続けていると、魔導師からの警告音が鳴り響く。

【結界が張られ始めるぞ!】

 続いて竜人の一人が疲れ切って掠れた声で叫んだ。途中で非番だった者も戦闘に加わり、負傷して下がった者もいるので誰だか分からない。たぶん、上空を担当している者だろう。

【終わりが見えてきたな!】

【もうすこしだね!】

 歓声にはエッカルトの声も混ざっていて、ブルクハルトはその声で従兄いとこの無事を知る。ブルクハルトは勢いよく氷を放って近くの魔獣を蹴散らした。無理やり作り出した時間で顔を上げると、結界が再び作られていくのがこの眼で確認できる。

 ブルクハルトは余裕がなく再び魔獣に視線を戻したが、大規模討伐のときと同じように構築されていくのだろう。確か、始めは結界が破れないように殆どの魔獣を通過させながら人間の匂いを断つ。その後、魔獣たちが目標を見失ったのを確認して、いつもの結界にするのだ。

【ジュリアン、結界が張られている。もうひと踏ん張りだ】

「よか……った……」

 ジュリアンが消え入りそうな声で言って、直後にブルクハルトの背中が軽くなる。

【ジュリアン!?】

 ブルクハルトが慌てて探すと、ジュリアンがブルクハルトの尻尾の方から落ちていくのが見えた。ブルクハルトは焦りながら旋回してジュリアンに手を伸ばす。届くと思ったのに、無情にもブルクハルトの右手は空を切った。

【嘘だろ!?】

 疲れで自分の想定より手の動きが鈍い。ブルクハルトは自分で出せる最大限の速さで、落下していくジュリアンを追いかける。ジュリアンの匂いに誘われて、地上の魔獣たちが集まって来るのを感じた。

 最後は魔獣とどちらが先に触れるか争うような形になり、地上すれすれでブルクハルトが競り勝ってジュリアンをどうにか捕まえた。ブルクハルトの大きな手に握られて、ジュリアンが小さくうめき声を上げる。

【ジュリアン!?】

「ブルクハルト、何している!」
【早く浮上しろ! 囲まれてるよ!】

 エッカルトとガスパールが何か言っている。その声を掻き消すように、獲物ジュリアンを奪われて怒った魔獣が、ブルクハルトに襲いかかった。ブルクハルトは身体中に走った痛みで状況を理解する。必死にジュリアンを庇うように抱え込んだ。

「ブルクハルト、何とか飛び立て!」

 ガスパールの焦った声が聞こえる。気がついたときには、多くの魔獣に押しつぶされるように乗られて、地上に縫い付けられていた。

 エッカルトが炎で援護してくれているが、ジュリアンがいるのでブルクハルトの近くの魔獣には手を出せないようだ。新たに襲ってくる魔獣はいなくなったが、自力でどうにかしないといけない。

 ブルクハルトはジュリアンを右手で守りながら、左手で魔獣を引き剥がす。

「ブル……ク……ハル……ごめ……」

 ジュリアンの声が聞こえて、ブルクハルトは少し冷静さを取り戻した。返事をする余裕さえないが、ジュリアンが無事なら、なんとしても飛び立たなくてはならない。

 ブルクハルトは気を引き締め直して、氷の刃を加減しながら周囲に撒き散らす。繊細な制御をすれば、手の中のジュリアンに影響はない。

 ブルクハルトは、魔獣が退いたのを確認して何とか飛び立った。背中に魔獣が数匹しがみついているが、振り払う余裕はない。とにかく今は、ジュリアンを安全なところに降ろさなければ……

「エッカルト、なんとかしろ!」

【そんなこと言われても……】

 エッカルトとガスパールの声が聞こえる。ジュリアンを託したいが、背中の魔獣を先に始末しなければ、ガスパールを危険に巻き込みかねない。安全に近づいていけるほどの余力は、今のブルクハルトにはなかった。

【ブルクハルト! そのまま屋敷の方角に飛べ!】

【伯父上!】「父上!」

 聞こえてきたのは、王都にドリコリン伯爵を迎えに行ったはずのブルクハルトの父、ヴェロキラ辺境伯の声だった。

 ガスパールが嬉しそうな声を上げているので、ドリコリン伯爵も一緒だろう。それならば、ブルクハルトは指示通り飛ぶだけだ。

 屋敷に向かって飛ぶならば、つがいであるクリスティーナの気配をたどれば良い。どんなにぎりぎりの状態でも、大人の竜人なら本能が居場所を知っている。

【ティー……ナ】

 ブルクハルトがフラフラと飛んでいくと、途中で冷たくて心地よい風が吹き背中が軽くなった。辺境伯が魔獣を仕留めてくれたのだろう。小さい頃から憧れていた大きな青龍が、ブルクハルトの近くをすれ違って飛んでいく。

【ブルクハルト! 力尽きるならつがいに会ってからにしろ! 相棒を守りきれ!】

【はい……】

 辺境伯の声にブルクハルトはなんとか返事をする。

(ティーナに会う。ジュリアンを守る)

 ブルクハルトは心のなかで呪文のように唱えながら、最後の力を振り絞ってクリスティーナの待つ屋敷を目指した。
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