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19.無事を祈る(ヒューゴ)
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同じ頃、ヴェロキラ辺境伯の屋敷では、ブルクハルトの弟ヒューゴが部屋の窓から結界の方角を見つめていた。
エッカルトからの最初の報告を受けたとき、ヒューゴは辺境伯と共に屋敷の執務室にいた。辺境伯は指示を終えるとすぐに王都へ飛び立ち、その後、戻ってきたのは飛んできた姿で確認している。
しかし、戦場に到着しているはずなのに状況報告が一切ない。それは戦況が緊迫しているということで……
「ヒューゴ、落ち着きなさい。ティナちゃんも座って待ちましょう」
「しかし、母上……」
辺境伯夫人が優雅にお茶を飲みながら、ヒューゴとその隣で不安そうに空を見ているクリスティーナに声をかけた。一番儚げに見える夫人だが修羅場になれている。領民たちの避難完了の報告を受けると、後々運ばれてくる怪我人への対応を指示し、お茶会を一人で再開してしまった。
三人がいるのは夫人お気に入りの見晴らしの良い三階の部屋だ。ヒューゴが緊急事態を知らせるまでは、クリスティーナと二人でお茶会を楽しんでいたらしい。
「……」
クリスティーナは返事もせずに治療魔法薬が見え隠れするカバンを握りしめている。『治療魔法薬』とは、人間にも使われる怪我の治療用の水薬だ。同じような効果の治癒魔法より弱いが、患部にかけたり飲ませたりする事で傷を治す。
衛生兵のような出で立ちだが、ドリコリン伯爵家から持ち込んでいたようだ。クリスティーナは、ヒューゴが状況を説明すると、ドレスからすぐに着替えてきた。前から、クリスティーナはブルクハルトを心配して大規模討伐のたびにこの姿で屋敷にやってくるし、治癒魔法が得意になったのも彼のためだろう。そう思うと、まだ番のいないヒューゴには羨ましくもある。
「ティナ義姉さん。みんなきっと無事でいますよ」
「……そうよね」
クリスティーナは竜人の秘密を何も知らないので、一般的な励まししか出来ずもどかしい。ヒューゴは、小さい頃から共に竜化して遊んでいたので、ブルクハルトの特別な強さを一番よく知っている。嫉妬すら沸かない強さの兄はヒューゴの憧れだ。それを伝えれば、クリスティーナもいくらか安心して待てるはずなのだ。
クリスティーナは、ブルクハルトが辺境伯騎士団で訓練していたときに事件が起きたと信じている。今頃、竜たちの後方の防衛線で歩兵として戦っていると思っているのだろう。
「……」
ヒューゴは続く言葉が見つからなくて、無言で空を見上げた。先程まで何もなかった空に、青い何かがふわふわと飛んでいるのが見える。
「えっ! なに?」
それは徐々に大きくなってきて、こちらに近づいていると分かった。ヒューゴが竜人の目を凝らして確かめると、立派な青い翼が見える。
「青龍? 飛び方がおかしい……」
ヒューゴの呟きに反応して、後方でガタリと音がする。振り返ると夫人がこちらに大股で歩いて来ていた。
「ヒューゴ、説明しなさい!」
「は、はい!」
夫人に掴みかかるように言われて、ヒューゴは慌てて外に視線を戻す。夫人が落ち着いて見えたのは、不安を隠していただけのようだ。クリスティーナは窓を開け放ってバルコニーから乗り出すように空を見ている。二人の様子から、人間の目には見えていないことに気づいた。
「青龍です。こちらに向かっているようですが、飛び方がおかしくて……。何か抱えている?」
青龍は右腕に何かを抱えるようにして飛んでいる。じーっと見ていると人のようだ。
「もしかして、ジュリアンさん?」
目を凝らすとジュリアンはぐったりしていて、あまり良い状況ではないと分かる。青龍にしては遅いがぐんぐん近づいてくるので、夫人たちにも見えているだろう。
夫人はすぐに使用人たちを呼んで指示を飛ばしはじめた。ヒューゴはやれる事が思いつかなくて、ただ、青龍をヒヤヒヤしながら見つめていた。
エッカルトからの最初の報告を受けたとき、ヒューゴは辺境伯と共に屋敷の執務室にいた。辺境伯は指示を終えるとすぐに王都へ飛び立ち、その後、戻ってきたのは飛んできた姿で確認している。
しかし、戦場に到着しているはずなのに状況報告が一切ない。それは戦況が緊迫しているということで……
「ヒューゴ、落ち着きなさい。ティナちゃんも座って待ちましょう」
「しかし、母上……」
辺境伯夫人が優雅にお茶を飲みながら、ヒューゴとその隣で不安そうに空を見ているクリスティーナに声をかけた。一番儚げに見える夫人だが修羅場になれている。領民たちの避難完了の報告を受けると、後々運ばれてくる怪我人への対応を指示し、お茶会を一人で再開してしまった。
三人がいるのは夫人お気に入りの見晴らしの良い三階の部屋だ。ヒューゴが緊急事態を知らせるまでは、クリスティーナと二人でお茶会を楽しんでいたらしい。
「……」
クリスティーナは返事もせずに治療魔法薬が見え隠れするカバンを握りしめている。『治療魔法薬』とは、人間にも使われる怪我の治療用の水薬だ。同じような効果の治癒魔法より弱いが、患部にかけたり飲ませたりする事で傷を治す。
衛生兵のような出で立ちだが、ドリコリン伯爵家から持ち込んでいたようだ。クリスティーナは、ヒューゴが状況を説明すると、ドレスからすぐに着替えてきた。前から、クリスティーナはブルクハルトを心配して大規模討伐のたびにこの姿で屋敷にやってくるし、治癒魔法が得意になったのも彼のためだろう。そう思うと、まだ番のいないヒューゴには羨ましくもある。
「ティナ義姉さん。みんなきっと無事でいますよ」
「……そうよね」
クリスティーナは竜人の秘密を何も知らないので、一般的な励まししか出来ずもどかしい。ヒューゴは、小さい頃から共に竜化して遊んでいたので、ブルクハルトの特別な強さを一番よく知っている。嫉妬すら沸かない強さの兄はヒューゴの憧れだ。それを伝えれば、クリスティーナもいくらか安心して待てるはずなのだ。
クリスティーナは、ブルクハルトが辺境伯騎士団で訓練していたときに事件が起きたと信じている。今頃、竜たちの後方の防衛線で歩兵として戦っていると思っているのだろう。
「……」
ヒューゴは続く言葉が見つからなくて、無言で空を見上げた。先程まで何もなかった空に、青い何かがふわふわと飛んでいるのが見える。
「えっ! なに?」
それは徐々に大きくなってきて、こちらに近づいていると分かった。ヒューゴが竜人の目を凝らして確かめると、立派な青い翼が見える。
「青龍? 飛び方がおかしい……」
ヒューゴの呟きに反応して、後方でガタリと音がする。振り返ると夫人がこちらに大股で歩いて来ていた。
「ヒューゴ、説明しなさい!」
「は、はい!」
夫人に掴みかかるように言われて、ヒューゴは慌てて外に視線を戻す。夫人が落ち着いて見えたのは、不安を隠していただけのようだ。クリスティーナは窓を開け放ってバルコニーから乗り出すように空を見ている。二人の様子から、人間の目には見えていないことに気づいた。
「青龍です。こちらに向かっているようですが、飛び方がおかしくて……。何か抱えている?」
青龍は右腕に何かを抱えるようにして飛んでいる。じーっと見ていると人のようだ。
「もしかして、ジュリアンさん?」
目を凝らすとジュリアンはぐったりしていて、あまり良い状況ではないと分かる。青龍にしては遅いがぐんぐん近づいてくるので、夫人たちにも見えているだろう。
夫人はすぐに使用人たちを呼んで指示を飛ばしはじめた。ヒューゴはやれる事が思いつかなくて、ただ、青龍をヒヤヒヤしながら見つめていた。
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