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番外編:幼い日の記憶 〜二人の出会いの物語〜
2.報せ
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クリスティーナが西地区にある教会に着くと、孤児院の子供たちが出迎えてくれる。教会には行くことを伝えていたので、子供たちも聞いたのだろう。
「ティナ姉ちゃん。いらっしゃい」
「模擬戦やるでしょ?」
「ティナ姉ちゃん、早く! 今日は絶対に負けないよ」
子供たちが古びた模擬剣を持って、クリスティーナの周りに集まってくる。ある程度の年齢になると外で働き始めるので、クリスティーナより小さい子が多い。
「食材を届けてからね」
「やったー!」
魔獣との戦いで親を亡くす子も多く、ドリコリン伯爵が労働者の待遇を改善しても、孤児院に入る子供が減ることはない。その子供たちも仕事を得るために剣を習うのだから、なんとも言えない想いはある。
「姫様、いつもありがとうございます」
クリスティーナが台所に向かっていると、子供たちの世話をしている女性が挨拶に来てくれる。ドリコリン伯爵領の孤児院は、夫を亡くした女性が子供とともに住み込みで働いていることが多い。この女性もその一人だ。
「なかなか来れなくてごめんね」
「そんなことはありませんよ。いつも助かっています」
金銭的な支援は公に行っているが、多くを渡すことは他との兼ね合いからも難しい。クリスティーナの僅かな食料支援でも助かるようだが、いつまで続けられるか分からないところが心苦しい。皆も分かっているからか浮いたお金で孤児院の修復などをしているようだ。
クリスティーナが中庭に向かうと、子供たちが寄ってくる。いつものことだが、近所の子も混ざっているようだ。
「まずは僕からね」
「どこからでもかかってきなさい!」
余裕の表情で言ったが、クリスティーナにとってもここでの模擬戦は良い訓練になっている。クリスティーナだってまだ10歳だ。治癒魔法のために魔法は温存するので、圧倒できるほどの差はない。
クリスティーナとしては野菜の皮むきを教えてもらって手伝うとか、読み書きを教えるとか令嬢らしい事をやりたい気持ちもある。それなのに、なぜかこちらの方が人気があるのだ。
「姫様! 助けてくれ!」
少年がクリスティーナに向かって踏み出そうとしたところで、悲痛な叫びが割って入る。声の方に振り返ると、青年が息を切らして走り込んできた。北地区の孤児院に暮らすマランだ。孤児院卒業間近の年齢で、この時間は本来なら働いているはずだ。
「どうしたの?」
「魔獣の暴走だ! 大人たちが街への侵入を防ごうとしているけど、怪我人が多くて……」
「魔獣災害……」
普段は森にいる魔獣が、突然集団で街を襲うことがある。理由は明らかになっておらず、数年に一度起こる災害という扱いだ。どうやら、今回は規模が大きく北地区の防壁を壊して町の中まで侵入してきたようだ。北地区の中でも被害の少ない教会前が救護場所になっているらしい。
「姫様がすぐにつかまって良かったよ」
クリスティーナがどこかの教会にいる可能性にかけて、孤児院の年長者たちが探しに来たようだ。
「冒険者紹介所からも探しに来るかもしれないわね。私は北地区に向かったと伝えてくれる?」
「うん、分かったよ」
模擬戦をするはずだった少年が、真剣な表情で頷く。ドリコリン伯爵領の住民は子供でも魔獣の恐ろしさをよく知っている。孤児院の子ならなおさらだ。
カンカン カンカン
ちょうど、魔獣の危険を知らせる鐘が鳴り始める。時間がかかった事を考えると、騎士団が苦戦していることが伺える。鐘に向かうことが難しい状況だったのだろう。
「孤児院から絶対に出ては駄目よ!」
クリスティーナはそれだけ言って、北地区に向かって走り出す。マランは治療に使える物を運ぶと言うので、その場で別れた。それぞれの教会には備蓄品が用意されているはずだ。
クリスティーナが走っていると、北地区から逃げて来た者たちとすれ違う。足を擦りむいて泣いている子供を見つけるが、クリスティーナは心の中で謝って目を背けた。顔見知りの冒険者が足を引き摺っているが、何もせずに近くをすり抜けるしかない。心苦しいが、今は魔力を少しでも温存しておきたい。
「姫様、重症者は北地区の教会だ!」
「ごめんなさい。行ってきます」
「俺たちのことは気にするな。教会にいる者を頼む!」
クリスティーナは無視してしまったのに、背中にかけられた言葉は優しい。冒険者たちもクリスティーナの心情を察してくれているのだろう。クリスティーナは涙を堪えて、教会の尖った屋根だけ見て走った。
「ティナ姉ちゃん。いらっしゃい」
「模擬戦やるでしょ?」
「ティナ姉ちゃん、早く! 今日は絶対に負けないよ」
子供たちが古びた模擬剣を持って、クリスティーナの周りに集まってくる。ある程度の年齢になると外で働き始めるので、クリスティーナより小さい子が多い。
「食材を届けてからね」
「やったー!」
魔獣との戦いで親を亡くす子も多く、ドリコリン伯爵が労働者の待遇を改善しても、孤児院に入る子供が減ることはない。その子供たちも仕事を得るために剣を習うのだから、なんとも言えない想いはある。
「姫様、いつもありがとうございます」
クリスティーナが台所に向かっていると、子供たちの世話をしている女性が挨拶に来てくれる。ドリコリン伯爵領の孤児院は、夫を亡くした女性が子供とともに住み込みで働いていることが多い。この女性もその一人だ。
「なかなか来れなくてごめんね」
「そんなことはありませんよ。いつも助かっています」
金銭的な支援は公に行っているが、多くを渡すことは他との兼ね合いからも難しい。クリスティーナの僅かな食料支援でも助かるようだが、いつまで続けられるか分からないところが心苦しい。皆も分かっているからか浮いたお金で孤児院の修復などをしているようだ。
クリスティーナが中庭に向かうと、子供たちが寄ってくる。いつものことだが、近所の子も混ざっているようだ。
「まずは僕からね」
「どこからでもかかってきなさい!」
余裕の表情で言ったが、クリスティーナにとってもここでの模擬戦は良い訓練になっている。クリスティーナだってまだ10歳だ。治癒魔法のために魔法は温存するので、圧倒できるほどの差はない。
クリスティーナとしては野菜の皮むきを教えてもらって手伝うとか、読み書きを教えるとか令嬢らしい事をやりたい気持ちもある。それなのに、なぜかこちらの方が人気があるのだ。
「姫様! 助けてくれ!」
少年がクリスティーナに向かって踏み出そうとしたところで、悲痛な叫びが割って入る。声の方に振り返ると、青年が息を切らして走り込んできた。北地区の孤児院に暮らすマランだ。孤児院卒業間近の年齢で、この時間は本来なら働いているはずだ。
「どうしたの?」
「魔獣の暴走だ! 大人たちが街への侵入を防ごうとしているけど、怪我人が多くて……」
「魔獣災害……」
普段は森にいる魔獣が、突然集団で街を襲うことがある。理由は明らかになっておらず、数年に一度起こる災害という扱いだ。どうやら、今回は規模が大きく北地区の防壁を壊して町の中まで侵入してきたようだ。北地区の中でも被害の少ない教会前が救護場所になっているらしい。
「姫様がすぐにつかまって良かったよ」
クリスティーナがどこかの教会にいる可能性にかけて、孤児院の年長者たちが探しに来たようだ。
「冒険者紹介所からも探しに来るかもしれないわね。私は北地区に向かったと伝えてくれる?」
「うん、分かったよ」
模擬戦をするはずだった少年が、真剣な表情で頷く。ドリコリン伯爵領の住民は子供でも魔獣の恐ろしさをよく知っている。孤児院の子ならなおさらだ。
カンカン カンカン
ちょうど、魔獣の危険を知らせる鐘が鳴り始める。時間がかかった事を考えると、騎士団が苦戦していることが伺える。鐘に向かうことが難しい状況だったのだろう。
「孤児院から絶対に出ては駄目よ!」
クリスティーナはそれだけ言って、北地区に向かって走り出す。マランは治療に使える物を運ぶと言うので、その場で別れた。それぞれの教会には備蓄品が用意されているはずだ。
クリスティーナが走っていると、北地区から逃げて来た者たちとすれ違う。足を擦りむいて泣いている子供を見つけるが、クリスティーナは心の中で謝って目を背けた。顔見知りの冒険者が足を引き摺っているが、何もせずに近くをすり抜けるしかない。心苦しいが、今は魔力を少しでも温存しておきたい。
「姫様、重症者は北地区の教会だ!」
「ごめんなさい。行ってきます」
「俺たちのことは気にするな。教会にいる者を頼む!」
クリスティーナは無視してしまったのに、背中にかけられた言葉は優しい。冒険者たちもクリスティーナの心情を察してくれているのだろう。クリスティーナは涙を堪えて、教会の尖った屋根だけ見て走った。
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