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番外編:幼い日の記憶 〜二人の出会いの物語〜
3.救護所
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北地区の教会は、痛みに呻く声や泣き叫ぶ声が混ざって混乱していた。教会の前に並べられた毛布の上には、多くの者が横たわっている。中にはピクリとも動かない者もいて、いつも通う街とは思えない状況だった。
クリスティーナが呆然と立ち尽くしていると、北地区の孤児院の少年が駆け寄って来る。彼の腕には血で汚れた布の詰まった籠が抱えられていた。クリスティーナより幼い少年だが、この場で手伝っているのだろう。
「ティナ姉ちゃん! 来てくれたんだね。治癒魔法を使える人が足りないんだ。みんなを助けて!」
「う、うん」
クリスティーナは少年の言葉に頷いてみたものの、足の震えが止まらなかった。治癒魔法を使っている者は他にもいるようだが、それでもここにいる全員を治療するのは難しい。クリスティーナの判断によって、生き残る者が変わってくる可能性もある。
「姫様? なぜ、このようなところにいらっしゃるのですか?」
声をかけられて振り返ると、ドリコリン伯爵騎士団の隊長の一人が立っていた。腕にはぐったりとした騎士を抱きかかえている。
「私……治癒魔法を……。でも、誰を治療すれば良いのか分からなくて……」
「それなら、誰かを補助に付けましょう。まずはこの者をお願いできますか?」
隊長は、他の騎士が広げた毛布の上にゆっくりと意識のない騎士を寝かせた。血の失せた顔をしているが、息があるのでクリスティーナにも治療が可能だ。
「うん! 任せて」
「無理はなさらないでくださいね」
クリスティーナが治癒魔法をかけ始めると、隊長はそれだけ言って去っていった。
クリスティーナが出血が酷いところを重点的に治していると、騎士が薄っすらと目を開ける。
「……ここは?」
「北地区の教会です。安全は確保されてますので安心してください」
出血も止まり意識も戻ってクリスティーナはホッとする。それでも治療はここからが本番だ。治癒魔法をしっかりかけないと、その後の療養期間が長くなり患者に負担がかかる。
「姫様、そのあたりで大丈夫です」
クリスティーナが継続して治療をしようとすると、知らない男性に止められた。包帯や薬の入った鞄を持っており、服装から伯爵騎士団の救護班の者だと分かる。
「でも、ここで止めると……」
「お気持ちは分かりますが、次の者をお願いします。この者は私にお任せください」
そう言いながら、救護班の男性は傷口に薬を塗り始める。患者の騎士は痛そうにうめき声をあげているが、慣れているのか気にする様子もない。
より多くの命を繋ぎ止めることを優先する。そこに療養期間などは考慮されていない。クリスティーナは少数で行動する冒険者しか対応してこなかったので分かっていなかった。一度に多くの者を相手にする救護班の治療とはこういうものなのだろう。
「ティナ姉ちゃん、次はこっちの騎士様を治療して!」
クリスティーナがぼんやりしていると、先程の少年にグイグイと引っ張られた。慌てて立ち上がって、連れて行かれた先の新しい患者に対応する。
先程と同じように治癒魔法をかけていると、やがて患者が意識を取り戻した。
「……魔獣は?」
「ここに魔獣はいません。安心してください」
クリスティーナはそう言いながら、どこまで治療すべきか迷って辺りを見回す。そうすると、先程とは別の救護班の人が来て、途中で治癒魔法を止めてくれた。
「ティナ姉ちゃん、次はこっちの冒険者さんを治療して!」
クリスティーナは再び少年に誘導されて、別の患者の治療を始める。落ち着いて来てから気づいたが、少年に次の患者を指示してくれている人もいる。
救護班と少年の助けで、クリスティーナはいつもと同じように治癒魔法だけに集中することが出来た。先程会った伯爵騎士団の隊長が手配してくれたのだろう。クリスティーナは助けてくれた人たちに感謝しながら、魔力が尽きるまで黙々と治療を続けた。
クリスティーナが呆然と立ち尽くしていると、北地区の孤児院の少年が駆け寄って来る。彼の腕には血で汚れた布の詰まった籠が抱えられていた。クリスティーナより幼い少年だが、この場で手伝っているのだろう。
「ティナ姉ちゃん! 来てくれたんだね。治癒魔法を使える人が足りないんだ。みんなを助けて!」
「う、うん」
クリスティーナは少年の言葉に頷いてみたものの、足の震えが止まらなかった。治癒魔法を使っている者は他にもいるようだが、それでもここにいる全員を治療するのは難しい。クリスティーナの判断によって、生き残る者が変わってくる可能性もある。
「姫様? なぜ、このようなところにいらっしゃるのですか?」
声をかけられて振り返ると、ドリコリン伯爵騎士団の隊長の一人が立っていた。腕にはぐったりとした騎士を抱きかかえている。
「私……治癒魔法を……。でも、誰を治療すれば良いのか分からなくて……」
「それなら、誰かを補助に付けましょう。まずはこの者をお願いできますか?」
隊長は、他の騎士が広げた毛布の上にゆっくりと意識のない騎士を寝かせた。血の失せた顔をしているが、息があるのでクリスティーナにも治療が可能だ。
「うん! 任せて」
「無理はなさらないでくださいね」
クリスティーナが治癒魔法をかけ始めると、隊長はそれだけ言って去っていった。
クリスティーナが出血が酷いところを重点的に治していると、騎士が薄っすらと目を開ける。
「……ここは?」
「北地区の教会です。安全は確保されてますので安心してください」
出血も止まり意識も戻ってクリスティーナはホッとする。それでも治療はここからが本番だ。治癒魔法をしっかりかけないと、その後の療養期間が長くなり患者に負担がかかる。
「姫様、そのあたりで大丈夫です」
クリスティーナが継続して治療をしようとすると、知らない男性に止められた。包帯や薬の入った鞄を持っており、服装から伯爵騎士団の救護班の者だと分かる。
「でも、ここで止めると……」
「お気持ちは分かりますが、次の者をお願いします。この者は私にお任せください」
そう言いながら、救護班の男性は傷口に薬を塗り始める。患者の騎士は痛そうにうめき声をあげているが、慣れているのか気にする様子もない。
より多くの命を繋ぎ止めることを優先する。そこに療養期間などは考慮されていない。クリスティーナは少数で行動する冒険者しか対応してこなかったので分かっていなかった。一度に多くの者を相手にする救護班の治療とはこういうものなのだろう。
「ティナ姉ちゃん、次はこっちの騎士様を治療して!」
クリスティーナがぼんやりしていると、先程の少年にグイグイと引っ張られた。慌てて立ち上がって、連れて行かれた先の新しい患者に対応する。
先程と同じように治癒魔法をかけていると、やがて患者が意識を取り戻した。
「……魔獣は?」
「ここに魔獣はいません。安心してください」
クリスティーナはそう言いながら、どこまで治療すべきか迷って辺りを見回す。そうすると、先程とは別の救護班の人が来て、途中で治癒魔法を止めてくれた。
「ティナ姉ちゃん、次はこっちの冒険者さんを治療して!」
クリスティーナは再び少年に誘導されて、別の患者の治療を始める。落ち着いて来てから気づいたが、少年に次の患者を指示してくれている人もいる。
救護班と少年の助けで、クリスティーナはいつもと同じように治癒魔法だけに集中することが出来た。先程会った伯爵騎士団の隊長が手配してくれたのだろう。クリスティーナは助けてくれた人たちに感謝しながら、魔力が尽きるまで黙々と治療を続けた。
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